公認心理師 2021-38

ポジティブ心理学のPERMAに関する問題です。

「知っているか否か」という問題ですが、知らないときでも英語に翻訳して足掻く根性が大切です。

問38 M.E.Seligmanが提唱するPERMAのそれぞれの頭文字の意味として、誤っているものを1つ選べ。
① Pはポジティブな感情を表す。
② Eは力を獲得することを表す。
③ Rは他者との良い関係を表す。
④ Mは生きる意味を表す。
⑤ Aは達成を表す。

解答のポイント

セリグマンの業績を把握している。

PERMAの各意味をポジティブ心理学の流れで理解している。

選択肢の解説

① Pはポジティブな感情を表す。
③ Rは他者との良い関係を表す。
④ Mは生きる意味を表す。
⑤ Aは達成を表す。

セリグマンと聞いて思い出してほしいのは、何よりも「学習性無力感」の研究です。

こちらはセリグマンが行った初期の研究で、回避や対処が不可能な嫌悪事象を反復して経験することで(実験では、逃げられない状況で電気ショックを繰り返し与えられた)、その後の解決可能な課題に関する学習が阻害される(電気ショックの回避が可能な状況になっても回避しなくなる)現象を指します。

これは無力感(その状況に対処できるという制御可能性を失うこと)を学習したと見なされ、同様の現象はヒトにも生じることが確認されており、抑うつなどの原因の一つとされています。

古代の拷問で、穴を掘って埋めるだけというのがありますが、これは学習性無力感を招いて、相当参ってしまうようですね。

こうした研究業績もあり、アメリカ心理学会の会長を務めていたセリグマンは、心理学はもともと人の弱さや損なわれた部分(病理など)のみを扱うものではなかったにも関わらず、過去半世紀ほどの心理学研究の多くがそれらに焦点を当てたものであったと指摘し、これからは人の強さや美徳にも目を向けるべきであり、実際にその動きは既に始まっていると主張しました。

これがいわゆる「ポジティブ心理学(人々や集団及び機関の繁栄、又は最適な機能に貢献する条件およびプロセスについての心理学的な研究を行う領域)」の始まりとされており、積極的に人のポジティビティに焦点を当てることによって、従来の病理モデルに偏りがちであった心理学を、よりバランスの取れた学問領域にしようとする学術的なムーブメントと言えます。

ポジティブ心理学で取り上げられることが多いテーマを述べると、幸福感、フロー体験、ポジティブ感情、自尊感情、情動知能、創造性、マインドフルネス、楽観性、希望、自己効力感、自己決定感、好奇心、勇気、親密性、共感性、アタッチメント、道徳性、レジリエンス、スピリチュアリティなどがあります。

PTSD関連では、サバイバーや彼らのもつレジリエンスに注目するような動きもありましたね。

さて、本問もPERMAですが、セリグマンが述べたウェルビーイングの構成要素です。

ウェルビーイング(well-being)とは、人生や生活全般についての肯定的な感情や認知評価で、WHOによればウェルビーイングは、単に疾病や障害がないことではなく、身体的、精神的、社会的に良好な状態を指しています。

セリグマンは、フラリッシュ(flourish)もしくはフラリッシング(flourishing)という用語を使ってウェルビーイングの多面的モデルを提起しました(flourishやflourishingは持続的幸福感などと訳される)。

彼は、人間が持続的に心理的に繁栄していく状態をflourishと呼び、このような状態は5個の領域が関係していると考え、以下の5つの頭文字を取ってPERMAモデルと呼びます。

  • Positive emotion:ポジティブ感情。嬉しい、面白い、楽しい、感動、感激、感謝、希望など。
  • Engagement:物事への積極的な関わり。フロー状態を生み出す活動への従事。没頭、没入、夢中、熱中など。
  • Relationship:関係性、他者とのよい関係。援助を受けること、援助を与えること。
  • Meaning:人生の意味や意義の自覚。自分は何のために生きているのか、自分ともっと大きな存在との関係。利他的行動や宗教など。
  • Accomplishment:達成感(必ずしも社会的成功は伴わなくてもよい)。

PERMAという各構成要素の根底にあるのが「強み(徳性)」ですが、これらはポジティブ心理学では主要な研究対象なっていますね。

PERMA全要素の測定値を向上させるため補助力や促進力とされているのが「レジリエンス」ですね(こちらは復元力とか逆境に対処する力、とされていますが、どうも研究者によって微妙に定義や捉え方が違っているように感じます)。

上記より、選択肢①「Pはポジティブな感情を表す」、選択肢③「Rは他者との良い関係を表す」、選択肢④「Mは生きる意味を表す」、選択肢⑤「Aは達成を表す」は正しい内容であることがわかりますね。

よって、選択肢①、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は正しいと判断でき、除外することになります。

② Eは力を獲得することを表す。

こちらは上記の通り、PERMAには含まれていません。

「力を獲得すること」は、ポジティブ心理学でもテーマとなりやすいコンピテンス(有能感:個人に備わっている状況への潜在的かつ現実的な適応能力)が想起できるかもしれません。

また、Eを当てたことから「エンパワメント」を想起させたかったのかもしれないです(エンパワメントについては「公認心理師 2020-91」で解説済みです)。

選択肢②のEはEngagementであり、物事への積極的な関わりを示しています。

以上より、選択肢②は誤りと判断でき、こちらを選択することになります。

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