悲嘆についてはブループリントの「人体の構造と機能及び疾病」「心理に関する支援(相談、助言、指導その他の援助)」「発達」の3領域にわたって記載があります。
(悲嘆とかグリーフなどの用語で)
うつ病との鑑別も問題になりやすそうなので、その辺も含めてまとめていきます。
【悲嘆とは】
愛する家族や親しい友を亡くした後に体験する複雑な情緒的状態を「グリーフ(悲嘆)」と呼びます。
そして、遺された家族が体験し、 故人のいない世界に適応していく悲嘆のプロセスを「グリーフワーク(GRIEFWORK)」といいます。
グリーフには、ある程度段階・フェーズ・課題があるとし、それらの経過をまとめた研究者は以下の通りです。
✔ ウィリアム・ウォーデン:1992年のグリーフカウンセリングが有名
✔ テレーズ・ランドー:「6つのR」と呼ばれるプロセスを提案。
✔ ロバート・ニーメヤー:順不同で、期限なく行われる課題を提案。
【ウォーデンの理論】
全ての理論をまとめるのは煩雑ですが、重要(だと思っている)ウォーデンの理論をまとめます。
タスクⅠ:喪失の現実を容認する。
- 死が現実であり、故人はもう戻らないと認識するタスク
- 喪失の認識は理性と感情の双方でされなければいけない
- 死の容認は難しく、死が予見されていた場合でも死を認めるのが難しい場合がある。
- 故人を探し求めたり、故人がまだ生きているかのように振る舞う、故人との関係を過小に評価するなどの表現が見受けれられることがあるが、最終的に故人の不在を認識する必要がある葬儀や命日の行事などは死の容認を助ける。
タスクⅡ:グリーフの苦痛を経験する。
- 痛みの強さやどう経験されるかは人それぞれ。
- 近しい者が亡くなった時に痛みを全く経験しないのは不可能。
- 酒や薬、故人を理想化する、引っ越しする、故人を思い出すことを避ける新しい(恋愛)関係を早々に作るなどで痛みを押さえつけようとすることがあるが、いくら上手に押さえつけても痛みの回避は心身の病などとして帰って来たり、別の喪失の時にぶり返す。
タスクⅢ:新しい環境に適応する。
- 故人の役割や関係性によって適応しなければならない内容が違う。
- 故人の役割を認識するとともに二次的喪失の内容に気が付く。
- 故人の役割を代行できるまでには時間がかかり、辛抱強さも必要とされる。
- 人生に対して多少コントロール感が多少戻ってくる。
タスクⅣ:気持ちの中で故人を位置付けし直し、日常生活を続ける。
- 多くの人にとって一番難しいタスクである
- 故人は忘れられたり、記憶をかき消してしまったわけではなく、遺された者の一部となったのである。
- 人生に喜びを再び感じ始める
- 故人を「あきらめた」のではなく故人に見合った場所(遺族が生き続けるという事を可能にする場所)を感情の中に見つける
- 過去のアタッチメントに執着しているとこのタスクを完結するのは難しい。喪失があまりに辛いので、もう人を愛さない、と決心する事もある。
- 遺族は昔通りではありえないし、今後も昔通りになることはあり得ない。
【うつ病診断基準との鑑別】
まずは診断基準について押さえておきましょう。
✔以下の症状のうち5つ以上が同じ2週間の間に存在すること。
✔この内少なくとも1つは「1.抑うつ気分」か「2.興味または喜びの喪失」であること。
- その人自身の言葉か、他者の観察によって示される抑うつ気分。
- ほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退。
- 食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加(例:1ヵ月で体重の5%以上の変化)。またはほとんど毎日の食欲の減退または増加。
- ほとんど毎日の不眠または過眠。
- ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではない)。
- ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退。
- ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感。
- 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる。
- 死についての反復思考。反復的な自殺念慮・自殺企図、自殺するための明確な計画。
◎悲嘆との比較
- 重大な悲嘆反応は、上記の「1.抑うつ気分」を示すことが多い。
- 悲嘆は「空虚感・喪失感」が中核なのに対し、うつ病では「抑うつ気分・興味関心の喪失」が中核である。
- 悲嘆の思考では「個人についての考えや思い出への没頭」が多いが、うつ病では「自己批判的・悲観的な反復想起」が中心になりやすい。
- 悲嘆では故人のエピソードなどと結びつきながら心理反応が生じるが、うつ病では特定の考えや出来事と結びついている割合は低い。エピソードによっては、悲嘆の反応として肯定的なもの、笑いとなるものも想起されやすい(ドラマとかで、故人との思い出を想起して笑い、その直後に悲しそうな顔をする場面がありますね)。