家族療法については幅広いのですが、各学派について簡単に解説していきます。
技法も多いのですが、それは軽く触れる程度にしておきます。
第1世代の家族療法
家族療法の起こりの特徴として、同時多発的に各地で家族を対象としたアプローチが提唱されたことにあります。
ここでは、各地で示された学派について簡単に解説していきます。
コミュニケーション学派
1950年代に入り多領域から家族への注目を促す研究が示されるようになりました。
グレゴリー・ベイトソンは、Jackson・Haley・Weaklandと共に統合失調症を家族コミュニケーションから説明したダブルバインド理論を提出しました。
ここからベイトソンが抜け、ジャクソンを中心に家族療法を行うようになり、この集まりを「MRI(Mental Research Institute)グループ」(コミュニケーション学派)と呼びます。
Mental Research Instituteグループは、コミュニケーション学派のアプローチ、短期療法を最初に始めた機関です。
ベイトソンの統合失調症者コミュニケーションの研究がMRIの起こりと言えます。
フロム=ライヒマンの影響を受けたジャクソンが「家族ホメオスタシス」に関する講演を行い、そこでジャクソンとベイトソンが出会い、この両者が協力して「統合失調症の二重拘束仮説」を示しました。
その後、1959年にジャクソンがMRIを開設しています。
コミュニケーション学派の特徴は、システム理論、コミュニケーション理論、特殊な面接構造になります。
それぞれを簡単に解説していきます。
1.システム理論
システムは、生物学者von Bertalanfyの「一般システム理論」によって広まった概念です。
フォン・ベルタランフィの一般システム理論の特徴は以下の通りとなります。
- ある要素は、更にある特徴によって小さく分けられるサブシステムより成り立っており、システムはより大きい階層システムのサブシステムである。
- システムは部分の集まりではなく、部分があるパターンによって組み合わせれてできた統合体であり、その独自性は境界によって維持されている。
- システムは、もの、エネルギー、情報をシステムの外の環境と交換するかしないかによって、開放システム・閉鎖システムに分けられる。
- 多くの場合、システム内の活動は未知であり、インプットとアウトプットのみが知覚できる。
- 生きた生物体は、本質的に開放システムであり、環境との間に無限に、もの、ことを交換し合うシステムである。
- 開放システムの世界では、原因と結果が直接的に結びつくような直線的因果律は成り立たず、すべてがすべての原因であって結果であるという、円環的因果律が成立する。
すなわち、システムの特徴は、全体性(全体は部分の総和ではない)、自己制御性(ホメオスタシスのように、逸脱を小さくしようとするネガティブ・フィードバック機構)、変換性(環境の変化に合わせて自身を変化させる働き。自己制御性と合わせて、大小の変化を含みシステム全体の安定を保つ)と言えます。
家族療法では、この考え方を援用して家族システムを捉えています。
家族システムとは、家族を1つのまとまりのある有機体として捉えた見方です。
これは有機的に結び合ったいくつかのサブシステムから成っており、夫婦・母子・父子・きょうだいがそれぞれサブシステムを構成しています。
日本の場合、親子サブシステム(特に母子)が強く、相対的に夫婦サブシステムが弱いと考えられていますね。
また、家族システム論では「家族の問題は皆が互いに影響力を及ぼしあった結果で、いわば家族内人間関係全体が原因」と考えます。
つまり「家族療法では、原因と結果がまわりまわって出てきたもの」(円環的因果律)として捉え、何らかの問題行動や症状を示した特定の個人(これを家族療法では IP (identified patient:患者とみなされた人))の問題を、家族という脈絡の中で見ていきます。
特定の個人には責任はなく、家族システムの全体の人間関係のゆがみに由来すると捉えるわけです。
2.コミュニケーション理論
コミュニケーション学派という呼称は5つの公理によります。
- 人はコミュニケーションせずにはいられない:
言語・非言語、症状を問わず、すべてがコミュニケーションと考える。
- コミュニケーションには内容と関係の2つのレベルがある:
内容は主に言語(バカ)で、関係は主に非言語(バカ♡)で伝達される。
- 関係の性質はコミュニケーションの句読点によって規定される:
どこに原因・結果を求めるかで変わってくる。
- コミュニケーションにはデジタルとアナログのモードがある:
②とほぼ同様。
- コミュニケーションは「相称的」または「相補的」になる:
相称的とはアメリカ-ソ連の宇宙開発合戦のように互いに高まるもの、相補的とは支配者-奴隷のように逆の方向にエスカレートするもの。
3.特殊な面接構造
コミュニケーション学派では「三種の神器」が有名です。
それは、ワンウェイミラー、インターホン、VTRです。
行き詰まりを感じたときに、隣の部屋にいるチームのメンバーにアドバイスを受けるのが一般的でした。
ちなみに、これがクライエントに聞こえたことで、リフレクティングプロセスが生まれました(オープン・ダイアローグの中心的概念)。
精神力動的家族療法
ニューヨークではAckermanによる「精神力動的家族療法」が提出されました。
アッカーマンは、精神疾患・不適応の悩みを抱えた個人のクライエントを対象にする「精神分析」を、家族システムの異常による問題を抱えた家族を対象にした「家族療法」へと転換した人物であり、家族療法の歴史の始点に立つ人物でもあります。
ジャクソンと協力して「Family Process(1961)」 を創刊し、アッカーマンの死後には、家族療法家をトレーニングして育成・指導するための「アッカーマン家族療法研究所」が創設されています。
多世代派
ワシントン国立精神衛生研究所のBowenによる「多世代派」が提出されています。
(望遠鏡(ボーエン)で遠くまで見通している(多世代)ようなイメージ)
もともと統合失調症の家族研究をしたボーエンが、家族療法を体系化したものです。
ボーエンの理論には、8つの基本概念があります。
- 三角関係化:
2人で構成される感情システムが不安定で、第3者を引き込むことで安定を構成する。妻が夫の悪口を子どもに言う、など。
- 核家族の感情過程:
夫婦間で緊張がある時、家族システムの安定のため以下の方法を採る。
①感情遊離 ②夫婦衝突 ③配偶者の不適応 ④子の損傷
- 家族投影過程:
両親の自己分化レベルが子どもたちにも伝えられる過程。多くの場合、長子になる。
- 分化の尺度:
感情システム・知性システムの分化尺度(0~100で示される)。
低分化なほどストレスの影響を受けやすい。
- 多世代伝達過程:
家族投影過程の拡大版で、子から孫へ、孫からひ孫へと多世代に伝達。
伝達の過程で分化度は、子<親となる(シゾでは8~10世代とした)。
- 感情的切断:
子が親との感情的結びつきを切り、親の感情的融合から身を守ること。
- 同胞での位置:
同胞の位置が、その個人の分化度に重要な影響を与える。
実際の位置のみでなく、機能的位置も重要。
- 社会的感情過程:
こうした家族システム理論が、社会システムにも該当する。
上記の前提となっているボーエンの特徴は、自己の分化(知性システムと感情システムの分化・融合)が、分化した人間関係・融合した人間関係を生み、融合状態が世代間で伝達されて症状を形成するという点にあります。
そのため、個別化と自立性の促進を治療目標としています。
融合状態が症状を形成するわけだが、それをパターン化したものが8つの基本概念でもあるわけです。
構造派
フィラデルフィア児童相談所長のMinuchinによる「構造派」です。
ミニューチンがスラム街などの貧困家庭のセラピーに従事したという事から、非言語的・実効的なアプローチを特色とし、拒食症に対するアプローチとして非常に評価が高いです。
システムを構造として捉える点が特徴的で、家族構造の捉え方として、境界線・提携・権力の三つに注目しています。
- 境界線:固い境界・明瞭な境界・曖昧な境界という3つの境界がある。
- 提携:上記の提携には敵対関係を含む二者間の「連合」と、敵対関係を含まない「同盟」がある。
- 権力:特に親ではなく子どもが権力を握っている場合を問題にした。
こうした家族構造に対し、ミニューチンの治療においては、家族の構造の再構築を促すような介入を行います。
上記のそれぞれで家族の問題が示されており、例えば、遊離家族という概念が「境界線」概念の中で用いられます。
家族成員の誰と誰が、どのシステム内でどのようにふるまうかを規定する「隠れたルール」によって境界は設定されます。
境界や境界が規定するサブシステムは、時とともに変化し、外的な状況によっても影響を受けて変化します。
境界の特徴としては、固いか柔らかいか、曖昧か閉鎖的、あるいは開放的かなどの分類がなされています。
サブシステムの間の境界が明瞭な家族は、いわゆる正常に機能している家族と理解される。
健康な家族では境界線は明瞭でも、両サブシステムの間のコミュニケーションは断絶せず、十分に維持されていることが前提とされます。
境界の曖昧な家族はあらゆる問題に関して、すべての成員が引き込まれてしまい混乱が生じがちであり、このような状態を「もつれ家族」と呼びます。
逆に境界が極度に固い場合には、遊離家族とよばれ、家族は互いを支えあうことをしないとされています。
祖父母とその息子家族がまったく関わり合いがない状態などですね。
アプローチとしては、家族システムにセラピストが溶け込む過程(ジョイニング)を重視し、サブシステムの境界に働きかけ構造変革を促すなどがあります。
他にも、トラッキング(セラピストが家族に今まで通りにコミュニケーションや行動を続けるように支持し、家族にそのような交流の流れに逆らわず従っていくこと)、アコモデーション(セラピストが家族メンバーと友好な関係で面接が進められるよう、家族のもつ神話や文化にあわせて順応する過程をいう)、マイム(セラピストが家族の言語、非言語的行動を取り入れてジョイニングを促進すること)なども有名ですね。
母子の共生的サブシステムを解体して、新たに両親のあいだに連合関係(両親連合)をつくりあげることが、治療的に有効だと主張した学派です。
ミラノ派
ミラノ派は主に以下の3期に分けることができます。
第1期:Selvini Palazzoliたちの仕事
精神科医チキン、アッカーマンのもとで学んだボスコロ、MRIの研修を受けたプラタと4人で勉強しつつ、ミラノ派を立ち上げました。
初期ミラノ派の中心概念は「家族ゲーム」であり、これは統合失調症者がいる家族が示す永続的でパターン化された相互作用を指します。
このパターンの特徴として「優位に立とうとする」「あらゆるメッセージが無効化される」「矛盾し混乱した逆説的メッセージ」というのがあり、これが繰り返されることで「関係自体を否定する行動」=統合失調症的になるとしました。
あらゆるメッセージが無効化されることで、現在の家族パターンが維持される=家族ホメオスタシスの考え方が示されています。
逆説的メッセージの行き交うホメオスタティックシステムに対し、「対抗逆説」つまり「肯定的意味づけ」によって変化を狙っていきます。
第2期:セラピストのどういった関わりが、介入を効果的にするのか?
ミラノ派は忠実にベイトソンに沿っているので、ベイトソンの視点を取り入れた「より介入が効果的になる関わり方」を提出しています。
ボスコロとチキンは特に以下を重視した立場です。
- 仮説化:面接内での情報を組織化し、同時に仮説に基づいて情報探索ができること。
- 円環性:関係についての質問に対する家族の反応をもとに調査を勧める能力を指す。家族の反応から仮説を修正し、次の質問をする能力。
- 中立性:セラピストは判定をするのではなく、情報収集とフィードバックの促進をすべきとし、その原則として中立性を求めた。
第3期:ミラノ派が2つに分かれる
パラツォーリとプラタは研究に打ち込み、統合失調症と拒食症の家族研究を続けました。
これに対し、ボスコロとチキンはトレーニングに打ち込みました。
世界中を回ってWSを行い、世界中から訓練生を受け容れます。
構成主義等の影響を受け、セラピストと家族を一つの治療システムとみなす立場に変化し、治療チームの在り方として、家族の状況によって柔軟に変化させていく必要性が強調されるようになっていきました。
その後の家族療法に変化をもたらした概念
1980年代を境に家族療法は大きく変化していきます。
主に以下の3点が変化をもたらした概念です。
1.セカンドオーダー・サイバネティクス
ファーストオーダーとは、セラピストはシステムから独立して、情報を集めることができることを指します。
従来の家族療法がこの立場に近いと言えますね。
これに対してセカンドオーダーとは、観察者(治療者)と家族システムは独立ではありえないとし、治療者を含んだ治療場面での会話が重要視されます。
以降の家族療法はこの知見を重視するようになっています。
2.構成主義と社会構成主義
構成主義では、現実は私たち自身が相互的に「構成」したことを強調しています。
社会構成主義においては、現実は「発見される」のではなく、会話を通して「合意される」ものであると考えます。
これらに共通しているのは、唯一絶対の「現実」を否定していることです。
すなわちこれらの立場においては、セラピー場面自体を現実を創り出す場と捉えることになり、家族の状態像を把握・介入という視点から関わり自体が治療的であるとする考え方に変化しました。
3.理論の比較や批判
円環的因果律や相補性などの概念は、DV事例などで男性の責任と女性の弱さを誤魔化す概念だと批判されました。
また、家族療法がジェンダー、文化的差異を無視しているという批判も示されています。
1980年代以降の家族療法
上記の概念を踏まえて、いくつかの学派が示されました。
ここでは、解決志向アプローチ、ナラティブ・モデル、リフレクティング・プロセス、協働的言語システム・アプローチについて解説していきます。
解決志向アプローチ
ShazerやBergによって提唱されてきた短期療法のアプローチの一つ。
ミルウォーキー派などと称されることも多いです。
解決はセラピストとクライエントで構成されると捉え、問題に焦点を当てることと解決することは別としています。
具体的な方法論として…
- 「問題が起きなかったとき(例外)」や「どうなればよくなったと言えるか」についてクライエントと話し合っていく。
- 奇跡が起きて全部解決したらどうなっているか(ミラクル・クエスチョン)
- クライエントのリソースや努力は、コンプリメント(
- ジョイニングのために、または介入の提案をする直前にクライエントの長所に焦点を当てた話題を呈示すること)される。
…などが挙げられます。
ナラティブ・モデル
書き換え療法とも呼ばれ、Whiteなどによって発展しました。
以下のような視点を持ちます。
- ストーリーはそれを持つ人々の行為や考え方の選択肢を制限する。
- クライエントの「ドミナント・ストーリー」を「オルタナティブ・ストーリー」に書き換えることが重要とした。
- ストーリーはクライエントとその周囲の人々との相互作用によって生まれ、維持され、書き換えられると考える。
また、会話を重視し、クライエントとセラピストが平等で意味を構成する(=社会構成主義)という形を取ります。
書き換えのための技法として、問題の「外在化」や、「ユニークな結果」を同定(セラピスト側のみにとって価値があった情報が、クライエントにとっても「なるほど!」となる働きかけ)などがあります。
リフレクティング・プロセス
Andersenを中心としたグループによって発展しました。
面接途中で証明を切り替え、セラピストとクライエントが観察する形で、治療チーム内の話し合いを見て、再びそれを踏まえて話し合う、という形式を採るのが特徴です。
多様な記述や説明をオープンに話し合う(対話する)ことで、新たな「差異」を示し、こう着したシステムの変化を促します。
平等な立場で話し合い、そこで生じた差異によって「自ら変化を起こす可能性を増やす」という考え方で、変化は結果であって目的ではありません。
協働的言語システム・アプローチ
GoolishianやAndersonによって提唱されたアプローチ。
人間のシステムを、言葉と意味によって成り立つシステムと捉える点が最大の特徴です。
サイバネティクスは意味生成を扱えないと批判し、言語活動を通じて「現実」や「意味」が作られ、対話による意味生成を重視します。
話し合うことを巡って「問題システム」が決定され、対話を続ける中で語り直され、話されてないことが話されて、意味が変化すると考えます。
セラピストの役割として、対話を促し多様な考えを受け容れる素地を作る、「無知の姿勢」を維持すること(偏見を持たないのではなく、偏見で判断しない)、クライエントと「共同探索」していくこと、などが挙げられます。
【2018追加-13①、2018追加-86】