公認心理師 2024-54

ナラティブ・セラピーにおけるセラピストのコミュニケーションの特徴を選択する問題です。

過去問で何度かナラティブについては出題されているので、まとめて見直してポイントをさらっておきましょう。

問54 ナラティブ・セラピーにおけるセラピストのコミュニケーションの特徴として、適切なものを2つ選べ。
① クライエントへの質問を控える。
② クライエントの問題の外在化を図る。
③ 「無知の姿勢」でクライエントに向き合う。
④ 社会的通説で用いられる言語表現を意識して用いる。
⑤ クライエントのドミナント・ストーリーの構築を促進する。

選択肢の解説

① クライエントへの質問を控える。
② クライエントの問題の外在化を図る。
③ 「無知の姿勢」でクライエントに向き合う。
④ 社会的通説で用いられる言語表現を意識して用いる。
⑤ クライエントのドミナント・ストーリーの構築を促進する。

ナラティブ・セラピーは、人々に内在化され抑圧的に働く、社会的な知としての物語(ナラティブ)の影響から離れて、自分の経験を十分に表す物語を紡ぎ直すことを目指し、White&Epston(1990)が開発した支援法です。

ナラティヴ・セラピーの特徴として、当事者が語る問題とされているものは、個人の中にあるものではなく、社会や文化の状況のなかで作られてきた問題であるという社会構成主義の考え方(現実や真実はただ一つであるとするのではなく、よって立つ所により現実や真実の見方が変わる、現実や真実は語りやコミュニケーションによって構成されるという考え方)を基盤にしており、当事者自身が語る物語(ナラティブ:narrative)そのものを大事にします。

クライエントは、カウンセラーと協働作業を通じて問題とされた物語をクライエントにとって好ましい物語へと語り直しが行われる援助技法です。

ナラティヴセラピーでは、カウンセラーはクライエントの人生について何の知識も持っていない、クライエントから教えてもらうという「無知の姿勢」で話を聴くことが前提になります。

クライエントに敬意を払う姿勢が対等な関係をつくることに近づくことができるとされていますし、その際にカウンセラーは、対等な関係で会話ができるように配慮することが大事です。

そのような関係の会話のなかで、クライエントが問題とすることに、クライエント自身が新しい意味や見方が生み出されるようにカウンセラーは面接の場をつくっていきます。

カウンセラーとクライエントが平等で公平と感じられる関係性の時の方が、より新しい意味や見方を生み出すことができるという考えがあるわけですね。

ナラティブ・セラピーでは、ドミナントストーリーという、悩んでいる人が思い込んでいる物語、 多くは自分に対して否定的なものであり、悩んでいる人はその物語に支配されて(ドミナント)、変えることができないと信じ込んでいるストーリーから離れ、オルタナティブ・ストーリー(代わりの物語)の構築を目指していきます。

問題には複数の物語があるにも関わらず、社会の中では「支配的な物語(ドミナント・ストーリー)」があり、それに基づいた言い回しに溢れています。

この言い回しは、その人の人格を要約してしまう傾向にあり、その「ひとくくりにする描写」が蔓延することで、クライエントはそれを人から言われるだけに留まらず、自分自身に対する描写として用いるようになってしまいます。

このような流れから、クライエントは問題を「内在化」するとナラティブ・セラピーでは捉えます。

ナラティヴ・セラピーでは、人を問題とすること自体が問題であると考え、問題を持っているクライエントは、その問題に困らされているとみます。

そこでナラティブ・セラピーでは、自分の一部となってしまっている問題をその人から切り離し(問題の外在化)、その問題自体をしっかり見つめていくことができるようにしていきます。

こうした問題の外在化とは「人々にとって耐えがたい問題を、客観化または人格化するように人々を励ます、治療における一つのアプローチ。この過程において、問題は分離した単位となり、問題と見なされていた人や人間関係の外側に位置することになる。問題は、人々や人間関係の比較的固定された特徴と同様に生来のものと考えられているが、その固有性から解き放たれ、限定された意味を失っていく」という技法であると要約できます。

外在化の技法を使い、例えば、問題に名前をつけたりして、クライエント自身も名付けられた問題に苦しんでいるという物語にすることによって、クライエントと一緒に問題に取り組めるように会話を進めていくわけです。

ナラティヴセラピーでは、クライエントへの質問方法が大事になります。そのため、影響相対化質問法(relative influence questioning)という質問技法を用いています。

その技法には以下のような二つの質問方法があります。

  1. 外在化された問題が起きていない場合や気にならないような例外があれば、その出来事を見つけるような質問を行う。
  2. 外在化された問題が、どうして現在もクライエントを困らせているのかを考えるような質問を行う。

これらの質問を行うことで、問題に支配されていない良い時の状態(ユニークアウトカム)を見つけていきます。

こうした技法を用いつつ、ドミナント・ストーリーから、問題に支配されていないユニークな結果や問題と対立したり、葛藤したりした物語ではなく、そのような影響をうけていない物語や、これまでの物語に代わる物語(オルタナティヴ・ストーリー)をクライエントとの会話を通じて一緒に見出していきます。

ここまでの説明から、選択肢①の「クライエントへの質問を控える」は正しくなく、むしろ特徴的な質問をすることがナラティブ・セラピーの特徴とされていますね(こちらのサイトなどが詳しいですね)。

また、選択肢③の「「無知の姿勢」でクライエントに向き合う」こと、選択肢②の「クライエントの問題の外在化を図る」ということがナラティブ・セラピーの特徴であることは、上記で示した通りですね。

更に、選択肢④の「社会的通説で用いられる言語表現を意識して用いる」とありますが、こちらはドミナント・ストーリーの特徴であり、むしろ重要なのは、オルタナティブ・ストーリーの構築を目指すことですから、こうした言語表現を用いることは控えるものですし、選択肢⑤の「クライエントのドミナント・ストーリーの構築を促進する」も誤った内容であることがわかりますね。

以上より、選択肢①、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢②および選択肢③が適切と判断できます。

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