公認心理師 2024-20

内観療法における集中内観に関する問題です。

過去問をやっておけば解きやすい内容だったと言えますね。

問20 内観療法における集中内観について、最も適切なものを1つ選べ。
① 日中は軽作業に取り組む。
② 日常生活の中で集中して取り組む。
③ 日々、他のクライエントたちとの対話を通して、記憶をより鮮明にする。
④ 過去から現在までの対人関係を、一定期間に区切りながら、思い出していく。
⑤ 自分自身が「してもらったこと」、「して返したこと」及び「して返したいこと」という3つのテーマが設定されている。

選択肢の解説

② 日常生活の中で集中して取り組む。
③ 日々、他のクライエントたちとの対話を通して、記憶をより鮮明にする。
④ 過去から現在までの対人関係を、一定期間に区切りながら、思い出していく。
⑤ 自分自身が「してもらったこと」、「して返したこと」及び「して返したいこと」という3つのテーマが設定されている。

内観療法は、浄土真宗の精神修養法をもとに、吉本伊信が1960年代後半に考案した日本独自の心理療法を指します。

内観療法では、自分の身の回りの人々に対して、自分が何をしたか、どういう態度を取ったかを、以下の3つのテーマに沿って、できるだけ具体的な経験や情景を思い出しながら調べていきます。

  1. してもらったこと
  2. して返したこと
  3. 迷惑をかけたこと

これらを「内観3項目」として、具体的に想起してカウンセラーに報告させるのが主な手法です。

内観療法では無理のない限り、まず初めに母親(もしくは母親代わりの養育者)に対する自分を、内観のテーマに沿って小学校3年生まで調べ、その後は3年~5年刻みで現在(または別れたとき)まで調べます。

母親は私たちの人格形成に大きな影響を与えている場合が多く、また、内観のテーマである「お世話になったこと」「迷惑をかけたこと」が多いのが普通で、内観しやすいためです。

母親に対する内観が終われば、父親に対して同様に調べ、それが済めば母親に対して再度内観を行いますが、1度目より鮮明に過去の情景が浮かび上がり、感動が深くなることが多いとされています。

その後、既婚者は配偶者に対する内観を行い、子どもがあれば子どもに対して内観を行ったり、未婚者は祖父母や兄弟姉妹や友人に対して内観を行うこともあります。

こうした自己省察やカウンセラーとの関わりを通して、行為への責任感を獲得し、人格形成が促されたり、生活へのプラスの影響が見られます。

医療としての適用は、アルコール依存や薬物依存、神経症、心身症、不登校、摂食障害など、広範囲な精神的・行動的問題の回復を促すとされており、統合失調症の一部にも適用されています(医療者側が勧めるというよりも、一部の患者がもってくるイメージが私は強いです)。

内観の方法には「集中内観」「日常内観」などがあり、集中内観が基本とされています。

集中内観では、ほとんどの場合、内観研修所などに1週間宿泊して行われます。

内観についての説明を受けたのち、静かな個室や広い部屋の隅に屏風を立てて空間を区切り、楽な姿勢で座ります。

そこで1日約15時間、1~2時間おきに指導者による面接を挟みながら集中して行います。

この1週間はテレビや新聞といった外的な刺激からは離れ、日常的な会話も厳禁とされます。

一方で、集中内観での気づきが日常で見えなくなることもあるため、日常的に内観を行うことが重要とされます(日常内観)。

やり方は集中内観と同じですが、内観を習慣化していくよう無理なく続けていくことが重要です。

日常内観には指導者がいないことが継続を難しくさせるため、内観経験者の定期的な集まりなどが活用されることも多いようです。

上記を踏まえると、選択肢⑤の内容は、「してもらったこと」「して返したこと」「して返したいこと」ではなく、「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」が正しい内容であると言えますね。

選択肢③の「日々、他のクライエントたちとの対話を通して、記憶をより鮮明にする」については、実際とは逆の内容になっており、集中内観では指導者(カウンセラー)との関わり以外は一切禁止されています。

また、選択肢②の内容は、集中内観ではなく日常内観に関する内容になっていますから、こちらも本問の趣旨(内観療法における集中内観)とは外れています。

選択肢④の内容は、集中内観のものであると言えます。

以上より、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢④は適切と判断できます。

① 日中は軽作業に取り組む。

こちらは森田療法に関する内容であると考えられます。

森田療法は、精神科医の森田正馬(1874-1938)により、20世紀初頭に考案された、もとは森田神経質を対象とした日本独自の心理療法です。

森田神経質とは、自己内省的・完全主義的な傾向に加え、よりよく生きたいという生の欲望を有する、生得的・先天的な素質としてのヒポコンドリー性基調(神経質で心気的な素質)に、環境要因が加わり、心身の感覚や情緒的反応に注意が集まる傾向です。

そして注意が集まるほど、心身の感覚や情緒的反応が強く感じられ、悪循環(これを精神交互作用と呼びます)が起こり、この状態を「森田神経質」と呼び、森田療法の主な治療対象とされました。

森田療法では、ヒポコンドリー性基調(神経質者が生来的に持っている傾向素質のこと)をもつ者が、何らかの誘因によって、それまで外界に向けられていた注意を自己の身体的あるいは精神的変化に向きを変えるようになり、注意が集中すると感覚はますます鋭敏になり、それと共に意識は狭窄して、注意がその方に固着する…という感覚と注意が交互に作用しあうことを「精神交互作用」と呼び、症状を発展固定させて、森田神経質という病的な状態に至ると考えます。

こうした神経質傾向(ヒポコンドリー性基調)から発生するプラス方向の建設的な精神的エネルギーを森田は「生の欲望」と読んであり、これは①病気になりたくない、死にたくない、生きたい、②より良く生きたい、人に軽蔑されたくない、人に認められない、③知りたい、勉強したい、④偉くなりたい、幸福になりたい、⑤向上発展したい、などであるとされています。

これが何らかのきっかけで、それまで外界に向かって建設的な働きをしていた精神的エネルギーが、向きを変えて自分自身の心身の変化に浪費され出すことあり、そのときの非建設的な精神的エネルギーを「死の恐怖」と呼ばれています。

森田療法では、自己に向けられた「死の恐怖」を、外界に向けられた「生の欲望」に方向転換する操作に他ならないのです。

森田療法と言えば入院治療で示される以下の手順が有名ですね。

  1. 絶対臥褥期:
    4日から1週間、患者を個室に隔離し、食事、排便以外はとにかく何もせずに徹底的に横になっていることを命ぜられる。
    この目的は臥褥中の精神状態を診断の補助とするだけでなく、安静によって心身の疲労を調整する。また患者は、横になっていると浮かんでくる様々な考えや感情に対して、なるべくそのままにして、あるがままに受け入れることが求められる。
  2. 軽作業期:
    1~2週間、隔離は持続し、対人的な交流は禁じられるが、臥褥は7~8時間に制限され、それ以外の時間は起床する。昼間は必ず戸外に出て空気と日光に触れるが、無意味に散歩する、体操をするなど、気分を紛らわすことなどはやらない。
  3. 作業期:
    1週間程度で、庭造り、大工仕事、手芸など、やや重い作業を行うが、対人交流は禁止される。
  4. 社会復帰期:
    1~2週間の生活訓練が行われ、必要に応じて外出もする。複雑な実生活をすることになるため、時には病院から学校や職場に通うこともあり、退院準備期間でもある。

上記の通り、森田療法では選択肢①の「日中は軽作業に取り組む」ということが入ってきます。

内観療法と森田療法は、共に日本発祥の心理療法であるが故に、この2つを混同させた問題は公認心理師だけでなく臨床心理士試験でも出題されやすい内容になっています。

間違えないように、両者の違いをしっかりと把握しておきましょう。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

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