公認心理師 2024-135

ソーシャル・スキルズ・トレーニング〈SST〉に関連する用語を選択する問題です。

これはSSTに関する理解があれば解きやすい問題でしたね。

問135 ソーシャル・スキルズ・トレーニング〈SST〉に関連する用語として、適切なものを2つ選べ。
① フロー
② モデリング
③ リハーサル
④ ジョイニング
⑤ パフォーマンス課題

選択肢の解説

② モデリング
③ リハーサル

SSTはアメリカの精神科医リバーマンによって考案され、当初は主に精神疾患のある人たちに適用されていたが、医療機関や療育施設などで、社会的コミュニケーションに課題を抱える発達障害の子どもや大人に対しても様々な形で適用されるようになりました。

SSTは、行動理論、社会的学習理論に基づく技法であり、①教示:目標とする行動を教える、②モデリング:その行動を実際に行って見せるなどして見本を示す、③リハーサル:目標とする行動を実際に行って練習する(ロールプレイ)、④フィードバック:目標の行動が適切にできているかどうかを伝え、できていれば賞賛し、できていなければ修正点を伝える、⑤般化:トレーニング場面で獲得したスキルを日常生活のどのような場面でも、誰に対しても活用できるよう促す、という5つのトレーニングが基本要素です。

なお、「ソーシャルスキル」の定義は研究者によって多様ですが、①仲間から受け入れられること、②人との関わりにおいて好ましい結果が得られ、好ましくない結果を回避できること、③社会的妥当性、の3つの観点から特徴づけられるとされています。

SSTの適用は多岐にわたり、社交不安障害などで人と関わる際の技能の訓練が望ましい場合や、統合失調症者に対する社会復帰を目的としたアプローチ、ADHDや学習障害、ASDの子どもたちの対人スキルの向上のための手段としてSSTが挙げられています。

上記の通り、モデリングとリハーサルはSSTに関連する用語であると言えますね。

よって、選択肢②および選択肢③は適切と判断できます。

① フロー

フロー(flow)とは、人間がそのときしていることに、完全に浸り、精力的に集中している感覚に特徴づけられ、完全にのめり込んでいて、その過程が活発さにおいて成功しているような活動における、精神的な状態を指します。

スポーツの世界では「ゾーン」と呼ばれている状態ですね。

提唱者はミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)で、彼は生きる価値を見出す研究をしており、その中で芸術家や音楽家、スポーツ選手らのインタビューを行いました。

そして彼ら、彼女らが創造的な活動や高い技術力を必要とされる仕事などに没頭しているとき、疲れをしらず、時間の過ぎるのも忘れて活動を続け、永続的な満足感を得られていることを見出し、彼はこの共通した創造的な心理状態に「フロー」と名付けました。

チクセントミハイは、フロー状態に入るための条件として、次のような7つを挙げています。

  1. 目標の明確さ(何をすべきか、どうやってすべきか理解している)
  2. どれくらいうまくいっているかを知ること(ただちにフィードバックが得られる)
  3. 挑戦と能力の釣り合いを保つこと(活動が易しすぎず、難しすぎない)
  4. 行為と意識の融合(自分はもっと大きな何かの一部であると感じる)
  5. 注意の散漫を避ける(活動に深く集中し探求する機会を持つ)
  6. 自己、時間、周囲の状況を忘れること(日頃の現実から離れたような、忘我を感じている)
  7. 自己目的的な経験としての創造性(活動に本質的な価値がある、だから活動が苦にならない)

なお、これらの条件については、書籍やその後の研究などによっていろいろありますので、その辺ご承知おきください。

以上のように、フローは「ソーシャル・スキルズ・トレーニング〈SST〉に関連する用語」ではないことがわかります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

④ ジョイニング

ジョイニングは構造的家族療法の治療法の一つです。

構造的家族療法はMinuchinが始めたシステム家族療法の一学派であり、他のシステム家族療法と同様に個人の症状や問題行動を家族システム全体が関わる問題と見なすが、特に家族システム(および更に上位システムを加えた全体)の構造の歪みから来ると見なす一連の理論と方法を備えた治療法です。

構造学派の理解については「公認心理師 2021-94」も見ておいてください。

構造学派では、大まかに「ジョイニング」と「構造の変換」を行っていきます(本問の解説では「構造の変換」は省きます)。

治療では、クライエント家族とセラピストの間に治療目標に向けて共同作業ができるような関係が肝要になります(治療システムの形成)。

そのためにセラピストが家族に専門家として受け容れられること、またはそのための作業を「ジョイニング」と呼び、以下のような形があります。

  1. 伴走:コミュニケーションの流れにセラピストがついていくこと。相槌をうつことや、話が促進されるように促すこと等を指します。
    「安全な会話」とは、解釈したり話の落としどころを聞き手が決めずに、「その会話が長続きするよう努める」ことによって生じます。
  2. 調節:セラピストの言葉遣いや行動などを家族の交流の中に適応させること。
  3. 模倣:セラピストが、家族の言語的非言語的側面を観察し、言葉遣い、比喩的な表現、感情の表現、仕草などを、意識的無意識的に模倣することを指します。。話し方やテンポを合わせるなどです。

家族のスタイルやコミュニケーションに適応すること、それによって同時にリーダーシップを獲得することが要点であり、ことに治療初期には重大です。

あまりに当然なので、むしろ治療法の上で強調されることの少ない過程をミニューチンは明確に位置付けました。

ジョイニングの中に模倣(モデリング)が含まれているので、その辺の混乱を狙って設けられた選択肢なのかもしれませんね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ パフォーマンス課題

教授=学習過程における評価において、「思考・判断」や「技能・表現」などの観点の評価については「パフォーマンス評価」が用いられます。

フィギュアスケートの技術点の採点に似ている方法で、演技を評価基準に沿って評価するように、行動に現れる能力を評価します。

パフォーマンス評価は、「パフォーマンス課題」と「ルーブリックによる評価(自由記述問題やパフォーマンス評価において用いられる評価指標(採点指針)のこと)」で構成されます。

従来のテスト法では、日常生活からかけ離れた「テスト用の問題」が作成されることが多く見られましたし、テストで好成績を獲得しても、授業で獲得した「知識」が活用できるかどうかは不明でした。

しかも、従来のテスト法では往々にして「知識量」を測定することはできても、学んだことの「深さ」や「熟練度」を測定することは困難だったので、そこで「子どもたちが学んだ知識を実際の世界でどの程度うまく活用できるのかをはかる」ために開発されたのがパフォーマンス評価です。

パフォーマンス課題とは、リアルな文脈(あるいはシミュレーションの文脈)において、知識やスキルを総合して使いこなすことを求める課題のことです。

知識・技能が実生活で生かされる場面や、その領域の専門家が知を探究する過程を追体験させる学習課題を指し、具体的には、レポートや新聞といった完成作品や、プレゼンテーションなどの実技・実演を評価する課題です。

すなわち、パフォーマンス課題とは、子どもたちが覚えたことを単に再生するだけでは取り組めないような課題であり、構造化されていない、型にはまっていない、または予測不可能な問題や挑戦の文脈で、学んだ知識やスキルを総合して活用することを求めるような複雑な課題を指します。

以上のように、パフォーマンス課題とは「ソーシャル・スキルズ・トレーニング〈SST〉に関連する用語」ではないことがわかります。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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