フォーカシングの重要概念に関する問題です。
フォーカシングに関する基本的な理解があれば解けますが、同時に他選択肢の概念も説明できると完璧ですね。
問20 E.T.Gendlinによって開発されたフォーカシングの概念で、日常生活の中で感じている複雑で曖昧ではあるが、何らかの意味を含んだ身体感覚として、適切なものを1つ選べ。
① サルコペニア
② ヒポコンドリー
③ フェルトセンス
④ アレキシサイミア
⑤ ソマティックマーカー
解答のポイント
選択肢で示されている各概念を把握している。
選択肢の解説
③ フェルトセンス
フォーカシングは、ユージン・ジェンドリンにより明らかにされた心理療法の過程を指します。
ロジャーズのウィスコンシンプロジェクト(CCTによる統合失調症者への治療研究)での体験が礎となっています(ジェンドリンはロジャーズの弟子)。
ジェンドリンはカウンセリングの成功要因を探る研究を行い、当初は精神分析的な視点による仮説として「過去の重要な体験を話す人ほど予後が良いだろう」と考えていました。
ですが、実際には「話す内容」による予後の好悪に有意差はなく、むしろ重要だったのは「話し方」であることが示されました。
すなわち、クライエントが自分の心の実感に触れながら話しているかどうかが重要であることを見いだしたのです。
このように、ロジャーズはセラピストの条件を、ジェンドリンはクライエントの条件を明らかにしたということになりますね。
ここでの発想がジェンドリンのオリジナルだと思うのですが、そこでジェンドリンが考えたのは「クライエントに心の実感に触れるための方法を教えれば、カウンセリングで良くなる可能性が高まるに違いない」ということでした。
そこでジェンドリンは、心の実感に触れるための方法をクライエントに教えるための理論として体験過程理論を構築し、具体的な技法としてフォーカシングを提唱しました。
つまり「フォーカシングは技術であり、誰でも身につけることが可能である」という考え方があるのです。
心の実感に触れる技術としてフォーカシングがあるわけですが、これには以下の6つのステップがあるとされています。
- クリアリング・ア・スペース:空間を作る
- フェルトセンス:何かよくわからないけど、意味がありそうな感じ
- ハンドル:名前をさずける
- 共鳴:フェルトセンスと共鳴させ、ぴったりかどうか確かめる
- 問いかける:からだにきいてみる
- 受けとる:何が浮かんできても受け容れる
ジェンドリンは、人間には体験があり、その中にも「まだ概念化はできないもののはっきりと感じられる体験過程」が存在すると考えます。
これをジェンドリンは「感じられた意味」とか「照合体」と呼んでいますが、こちらが後に「フェルトセンス」と呼ばれることになります。
この著書では、身体的な感覚を重視し、フェルトセンスを「まだ概念化はできないがはっきりと感じられる「身体の感じ」」としています。
この著書で初めて「フェルトセンス」という表現が使われるようになったのですが、身体感覚的な意味としてsenseという表現を使っているわけですね。
「問題や状況についての、まだはっきりしない意味を含む、「からだ」で体験される感じ」に注目し、それを象徴化することが心理療法における変化の中核的プロセスであると考えたわけです。
ジェンドリンは、師であるロジャーズのCCTの効果を高めるためにフォーカシングの技法を開発したわけですが、ロジャーズ自身はもともと特定の技法を用いることから遠ざかっていたので、ジェンドリンはロジャーズから独立した道を歩み、独自の体験過程療法を提案しました。
現在、このジェンドリンのフォーカシング技法の背景にある理論まで含んだものを「体験過程療法」や「フォーカシング指向心理療法」と呼んだりします。
以上より、選択肢③が適切と判断できます。
① サルコペニア
こちらについては「e-ヘルスネット」に解説がありましたね。
サルコぺニアとは、高齢になるに伴い、筋肉の量が減少していく老化現象のことを指します。
25~30歳頃から進行が始まり生涯を通して進行し、筋線維数と筋横断面積の減少が同時に進んでいきます。
主に不活動が原因と考えられていますが、そのメカニズムはまだ完全には判明していません。
サルコペニアは、広背筋・腹筋・膝伸筋群・臀筋群などの抗重力筋において多く見られるため、立ち上がりや歩行がだんだんと億劫になり、放置すると歩行困難にもなってしまうことから、老人の活動能力の低下の大きな原因となっています。
筋力・筋肉量の向上のためのトレーニングによって進行の程度を抑えることが可能なので、歳を重ねる毎に意識的に運動強度が大きい運動(レジスタンス運動)を行うことが大切です。
頻繁につまづいたり立ち上がるときに手をつくようになると症状がかなり進んでいると考えられ、積極的にトレーニングを行うことがその後の生活の質的な安定に大いに役立ちます。
特につまづきは、当人や周囲が注意力不足のせいだと思い込んでいることが多いため、筋力の低下が原因と気付かない場合があり、注意が必要です。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。
② ヒポコンドリー
こちらは森田療法の概念…と思いきや、実はそれ以前から存在する概念です(森田療法では「ヒポコンドリー性基調」と表現することが多いですね)。
ヒポコンドリーは心身の些細な不調に著しくとらわれ、これに必要以上にこだわって、重大な疾患の兆候ではないかと恐れ、しかもその心配を他者に執拗に訴え続ける状態で、心気症、心気神経症とも呼ばれます。
ローマ時代から存在する概念で、DSM-ⅢやDSM-Ⅳ-TRでは心気症という名称で診断基準が定められていましたが、DSM-5では心気症という診断名は廃止され、病気不安症に置き換えられました。
森田療法でもほぼ同じようなニュアンスで使用されており、「いたずらに病苦を気にする精神的基調」と表現されていますね。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
④ アレキシサイミア
従来、神経症理論で心身症の病状を説明しようとする傾向が強かったのですが、このような方法論では実際の臨床にそぐわない点が多く、心身症患者の心理構造や病態理解には独自の理論的な展開が必要と考えられるようになりました。
そんな中で、心身症の人格特徴としてアレキシサイミア(alexithymia)という概念が取り上げられました。
これはSifneosによって提唱された概念で、a=lack・lexis=word・thymos=mood or emotionというギリシャ語に由来し、「感情を読み取り言語化しにくい」という意味で、日本語では「失感情症」や「失感情言語化症」などと訳されています。
自分の感情(情動)への気づきや、その感情の言語化の障害、また内省の乏しさといった点に特徴があると言われています。
アレキシサイミアでは、自分の情動の認知が制限されていて、言葉で表現するのも抑えられているので、身体化に感情のはけ口を求める結果、心身症になると想定されています。
環境への適応は、神経症では不適応になるのに対し失感情症ではむしろ過剰に適応し、外見上は問題なさそうに見えるという特徴もあります。
アレキシサイミアの大脳生理学的な発生機転としては、脳の知性の座としての新皮質と、情動や本能の座としての辺縁系との間に機能的な乖離があるためとの説があります。
上記は、何かの書籍(たぶん前田重治先生の著書だった気が…)で見つけたアレキシサイミアと神経症・精神病との異同に関する表です。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。
⑤ ソマティックマーカー
こちらは感情理論の一つである「ソマティックマーカー説」で用いられている概念になります。
ソマティックマーカー説とは、アメリカの神経科学者Damasio(1994)により提唱された、身体信号が脳にフィードバックされて意思決定に影響するという説です。
ダマジオは、この意思決定に影響する身体からの信号を「ソマティックマーカー」と呼びました。
内臓感覚や生理的覚醒などの身体信号(情動的な身体反応)は、体性感覚皮質、島(とう)、前部帯状皮質などの脳部位で受け取られ、内受容感覚を形成します。
これが「良い」「悪い」という評価とともに腹内側前頭前皮質で表象された結果、ある対象に「近づく」「避ける」などの意思決定を導くと主張しています。
特に不確実で複雑な状況において、熟慮的・合理的な思考による意思決定が難しい時、身体信号は速やかな意思決定を可能にすることで適応に貢献するとされています。
このように、ソマティック・マーカー仮説とは「ある経験に対する快不快の感覚を記憶し、それを感情に表出させることで意思決定を効率化させている」と考えるものです。
つまり、自分が体験した過去の同じような状況下における快不快の「身体感覚」を呼び起こし、そのときの「感情」を表出させることで、優先順位をつけ、選択肢を限定させて、その中から意思決定をすることで効率化を図っていくのです(何かをするときの選択肢は膨大にあるので、その際の意思決定の効率化ということですね)。
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。