公認心理師 2023-126

子どもの心理療法を行う際の親との関わりに関する問題です。

どこまで親にアプローチできる状況なのか不明なので、状況設定があやふやな問題だったなと感じます。

問126 子どもの心理療法を行う際の対応として、最も適切なものを1つ選べ。
① 親子の相互作用の問題については、積極的な質問や助言は控える。
② 親が心理療法についての疑問を表明する場合、それを抵抗と捉え転移の解釈を行う。
③ 子どもに関する情報を得ることに徹し、親自身が抱えている問題は話題として避ける。
④ 初回に親と子どもが同時に来談した場合は、親と子の同席の場面で、支援を求める理由を共有する。

解答のポイント

子どもの心理療法に際しての親との関わりについて理解している。

選択肢の解説

① 親子の相互作用の問題については、積極的な質問や助言は控える。
③ 子どもに関する情報を得ることに徹し、親自身が抱えている問題は話題として避ける。

これらは「子どもの問題に、親の心理的課題などがどの程度影響するのか」というテーマに関するお話ですね。

「子ども」の年齢にもよってかなり変わってくるところではありますが、思春期に入る前の段階で言えば、親子は精神的にかなりリンクしていると言ってよいでしょう。

反抗期では、親とは異なる人格をもつ人間として相対することになるわけですが、言い換えれば、それ以前の年齢になってくると親の人格と子の人格にはかなりの相互性があるわけです。

わかりやすいところで言えば、そうした相互性のある時期には親が何かしらの習い事を勧めても、あまり文句を言わずにやることも多いですが、思春期(特に反抗期と呼ばれているような心理的状態になった子ども)になってくるとかなりの反発が生じます。

それは「自分と親は異なる人間である」という強い内的な突き上げによるものですから、発達的な観点から言えば健康なものであり、また、それ以前の年齢で文句も言わずにやるのも、親子の相互性という発達の視点から見れば変なことではないわけです(だから、この辺のこともわからずに主体性がーとか言い出すのはダメ)。

こうした「親子の相互性」がある時期を念頭に置き、ここで挙げた選択肢を見ていきましょう。

まず選択肢③の「子どもに関する情報を得ることに徹し、親自身が抱えている問題は話題として避ける」ですが、当然のことながら親が抱えている問題が子どもに影響することもあり得るので、それを話題にしないこと、そうした情報をもたずに子どもの問題を見ていくということは、重要な情報を欠いたままテストを解いているようなものなのでよろしくありません。

単純なところで言えば、夫婦の不和、養父母との関係、仕事の問題や時間の取れなさ、疲れなどによって、子どもは多くの人が思っている以上に大きな影響を受けています。

厄介なのが「親が問題の渦中にあるとき」にはほとんどの子どもは問題を起こさず、むしろ大人しく過ごしていることが多く、親の問題が収束して落ち着いてきたころに「もうそろそろ、私の問題も見ることできるよね?」と言わんばかりに問題を表面化させるという点です(もちろん、子どもは無自覚ですね)。

こうした状況においては、親の問題と子どもの不適応にタイムラグが生じることになるので、時間的近接の観点から「親の問題と子どもの不適応が関連している」ということに気づきにくくなります。

ですから、カウンセラーがこうした関連性を指摘し、親が子どもの尽力(いろいろ我慢することで親を支えてきた)に気づき、そこを場合によっては話題にして労うことで改善が生じる事例もあります。

このような例はよくあるものの一つですが、親の問題が子どもに大きな影響を与えうるという傍証であると言えますし、それが「親子の相互性」が強い時期であればなおさらです。

ですから、子どもの心理療法を行うにあたっては、親の個人的な問題等も把握しておくことが有効になります。

そうなってくると、当然、選択肢①の「親子の相互作用の問題については、積極的な質問や助言は控える」というのはよろしくない対応であると言えます。

親の関わりや親自身の問題によって子どもの問題が維持されている場合、いくら適切なカウンセリングを行ったとしても、「家庭で問題を生んで、カウンセリングで納めようとしている」という形になってしまい、結局のところ改善しづらい状況が維持してしまいます。

ですから、親子の相互作用について話題にし、場合によっては家庭内での子どもとの関わり等についても話題にしていくことが重要になってきます。

かつて「子どものカウンセラーは親とは話さない」という考えもありましたが、個人的には親子の相互性や親の問題が子どもに与える影響を考えると、これは間違った考え方であり、子どもの反応から親の問題が見えるようであれば、それを積極的に話題にしていくことが子どもの改善の近道であると思います。

以上より、選択肢①および選択肢③は不適切と判断できます。

② 親が心理療法についての疑問を表明する場合、それを抵抗と捉え転移の解釈を行う。

まずここでは「転移」について簡単に述べておきましょう。

転移とは大雑把に言えば「過去の持ち越し」です。

過去の重要な人物との間で展開・表出されるはずだった情緒体験が、別の対象に向けてなされることであり、これによってクライエントが対人関係上のトラブルを生じさせていることがあります。

ですから、カウンセリングでカウンセラーに向けて転移感情が向けられたときには、これの出どころについて解釈を行い、クライエントが過去を生々しく生き直すことによってこの転移現象が収まっていくことを狙います。

例えば、親に対して「大切にしてほしい」という思いを抱いていたが抑え込んでいた場合(抑圧していた場合など)、この思いがその後の対人関係やカウンセリング場面でも表出し、過剰に他者に関係性を求めるようなパターンが出てきてしまうわけです。

通常の対人関係場面であれば、それが奇妙な言動として扱われ、遠ざけられるなどが起こり、本人の不適応を生み出しますが、こうした感情がカウンセラーに向けられたときには、その不自然さを指摘したり、どうしてそこまで他者に求めるのかなどの疑問を向けるなどの様々な手法(転移解釈の技法は多様ですし、この引き出しが多い方がカウンセラーとしては得をすることが多いですね)を用いつつ、その「大切にしてほしい」という思いが、実は親に対して抱えていたものであることを「強く実感する」ことで納まっていくというイメージです。

本選択肢で示されている「親が心理療法についての疑問を表明する」という行動が、こうした転移感情によってなされることは確かにあり得て、それが心理療法を受けることへの拒否感となって表出していれば「抵抗」と表現されます。

ちなみに、「抵抗」も精神分析学の用語で、「心理療法への抵抗感」のことを示すことではなく、「意識化することで心理的圧迫感のある事柄が、意識に上がってくるのを回避しようとする」ことであり、そこと関連して起こる事柄(何かに対する拒否反応)なども「抵抗」と称されることが多いです(こちらは「抵抗による拒否反応」と表現した方が正確な気がします)。

すなわち、「子どもが心理療法を受けること」もしくは「子どもが心理療法で受けることによって生じる変化」について、親側に何かしらの「抵抗」が生じるために心理療法への疑問を示しているのであれば、これは精神分析的に言う「抵抗」となるわけです。

例えば、心理療法を受けた子どもが抑え込んでいた感情を親にぶつけてくるようになったが、自分の親に感情を表現してこなかった親からすると、こうした自らの子どもから感情を向けられることが苦しくなるなどの場合です(自分が抑え込んでいたのに、子どもがそれを向けてくると罰したくなるなど)。

そこで「子どもが心理療法を受けることに意味はあるんですか?」といった形で疑問を呈するのであれば、それは転移による抵抗と見なすことができますし、場合によっては解釈することによってその改善を目指すこともあり得るでしょう(親が抑え込んでいた思いを受け取ることができれば、子どもの問題も改善する公算が高いから)。

こうした「転移感情に端を発した抵抗」ということは確かにあり得ることなんですが、「心理療法に対して疑問を表明すること」すべてが抵抗と見なすのは誤りです。

親が子どものカウンセラーに対して、どのようなことをされるのか、どういった効果があるのか、何を目標にカウンセリングをしているのか、ただ遊ばせているだけではないのか、といった思いを抱くことはよくあることですが、これをすべて転移と見なすのではなく、きちんと説明をすることが重要になります。

上記のような心配は大切な子どもを預ける親にとって当然のものであり、これに対して、カウンセラーとしてきちんと説明責任を果たしておくことが重要になります。

実は、この「ちゃんと説明する」という当たり前の対応が、転移による抵抗を見極める重要な手順でもあります。

すなわち、「ちゃんと説明する」ことをしており、多くの親が納得するような対応を取っているにも関わらず、それでも親が不満・不信を向けてくるのであれば、それは「説明の仕方」という現実的な対応で払拭されない「何か」の存在が想定されるわけです。

この「何か」の一つに転移感情があり得ることになります。

つまりは、「心理療法に対して疑問を表明すること」が起こったときには、まず「カウンセラーの説明不足の可能性を考えて対応する」ことが大切になり、そしてそうした説明を尽くしてもなぜか納まらない「何か」の存在が想定されるならば、そこに転移感情が潜んでいる可能性も検討していくことになります。

ですからこのように「心理療法に対して疑問を表明すること」イコール「転移である」と見なすのは、カウンセラー側の問題と言わざるを得ません(極端な場合、カウンセラーの逆転移と言われる場合もあるくらいでしょう)。

このように「心理療法に対して疑問を表明すること」に限らず、人が示す様々な感情は現実に即したもの~転移によって生じるものまで様々であり、その弁別は困難である場合が多いです。

カウンセリングでは、日々の関わりの中でこうしたグラデーションを都度見立てつつ、対応していくのが望ましいので、本選択肢の内容はこうしたカウンセリング上の手順を省いていることになり不適切と言えます。

ちなみに、本選択肢および選択肢①や選択肢③でも言えることですが、本問の「子どもの心理療法を行う際」という状況設定を踏まえたときに、親にどの程度アプローチするかはかなり状況に寄るような気がしています。

ですが、これらの選択肢は当然のように「親にもアプローチする」ということを前提にしているので、これがそもそもまずいのではという思いがしないでもありませんし、これが挙げた選択肢が不適切と判断する理由となっても不思議ではないなと思うくらいです。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

④ 初回に親と子どもが同時に来談した場合は、親と子の同席の場面で、支援を求める理由を共有する。

まずは「親と子の同席の場面で、支援を求める理由を共有する」という場面設定を行う意義について説明しておきましょう。

要するに「なぜ来談したのか」「何が目的なのか」について、親子に問うということになるわけですが、こうした問いを「親子同席という状況で行うこと」にどういう価値があるのか。

まずは「子どもがどう言って連れてこられたのか」を見ることができます。

親がきちんと子どもの不適応や心理的課題について話題にし、その改善のためにカウンセリングという状況が重要であると、子どもに説明を行っているのか否かを見ることができるわけです。

ここから測れるのは、①親が子どもの問題に向き合う力があるか否か、親が子どもの不穏感情をやり取りする力があるか否か、②親が子どものことを人格のある存在と見なしているか否か、などになります。

子どもに起こっている心配なことをやり取りすることは、親にとっても心理的負担のかかる作業であり、これをできるだけの自我を親が持ち合わせているか否かを考えることになります。

また、親が子どもを自分の一部と思い込んでいるのであれば、ロクな説明もせずにつれてくるということもあり得るわけです。

親子同席の状況で「なぜ来談したのか」「何が目的なのか」を問うことで、こうした親子関係の様相を見立てることが可能になるわけですね。

また、来談目的について子どもがどう捉えているかも重要です。

例えば、親がちゃんと説明しているにも関わらず「言われたから来た」という場合は、子ども自身が自分の問題について認めたくない、受け容れたくない、それ故に話したくないという展開が予想されます。

他にも、子どもが親の言い分に対して何かしらの反発が可能か否か、反発ができていなくても、それが年齢相応のものであるか否かなどを見立てることができます。

つまりは、こうした「親と子の同席の場面で、支援を求める理由を共有する」というアプローチによって、親子関係の様相、そのコミュニケーションパターンなどを見立てることが可能になるというわけですね。

そういった理由から基本的には「親と子の同席の場面で、支援を求める理由を共有する」のは適切なものであると言えますし、本問の正答としてこちらが選択されることになります。

ただし、これは常に「正しい」というわけではないことも知っておく必要があります。

例えば、親が不登校の子どもを連れてきて「子どもに学校に行く理由を伝えて納得させてほしい」と語る場合があり(言わばこれが「支援を求める理由」ですよね)、こうした言葉を聞いている子どもがいるという状況はあまり良いとは言えません。

ですから、申し込みの時点で何かしらこうした不穏な気配を感じるのであれば、別々に面接を設定して対応するということも考えておくことにあります。

他にも、支援の理由を聞くと、親が子どもの問題をダーッと並び立てるということも起こりやすいですし、常に親子同席で物事を進めることが良いとは限らないことは知っておく必要があります。

もちろん、こうした親子関係が展開されて、それに介入することで改善を目指すという手法があることは百も承知ですが、「アプローチによる改善」と「子どもがその場で受けるダメージ」の比較を行っておくことも重要になりますね。

私の印象では、そうした親子のコミュニケーションに直接介入できるような場は限られており、また、かつてよりそうしたアプローチについて拒否反応を示す親が多くなっているような気がしています。

このように、色々な視点がありつつも、とりあえずは「親と子の同席の場面で、支援を求める理由を共有する」というアプローチは有効であることが多いと言えるでしょう。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

1件のコメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です