公認心理師 2022-95

動機づけ面接に関する問題です。

本当に最近は新しい知見に疎くなっていると感じることが多く、困ってしまいますね(動機づけ面接ではなくて、正答以外の選択肢についてのお話です)。

問95 動機づけ面接の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① クライエントに自身の抵抗への気づきを促す。
② クライエントのポジティブな面の承認は控える。
③ クライエントの問題についての例外探しをする。
④ ラディカル・アクセプタンスを基本的姿勢とする。
⑤ クライエントの変化に対する両価性に関わる問題を扱う。

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公認心理師 2020-116

解答のポイント

動機づけ面接の特徴を把握している。

選択肢の解説

① クライエントに自身の抵抗への気づきを促す。
⑤ クライエントの変化に対する両価性に関わる問題を扱う。

動機づけ面接は、アメリカのMillerとイギリスRollnickによって開発された対人援助理論で、変化に対するその人自身への動機づけとコミットメント(約束)を強めるための協働的な会話スタイルです。

アルコールに関する問題を抱えるクライエントへの面接技法を研究する中で、良い結果が得られたカウンセラーの面談スタイルを実証的に解析することで、アルコール依存症の治療法として開発され、体系化されたという経緯があります。

クライエントが語ってくれる会話を通して、カウンセラーの「正したい反射」を抑え、行動変容に伴う両価性である「変わりたい、一方で、変わりたくない」というクライエントの気持ちや状況を丁寧に引き出し、禁煙や飲酒など、標的とする行動や変化に関する発言を強化することで、クライエント自らが気づき行動に繋がる、というプロセスを支えます。

動機づけ面接の定義として「クライエント中心で、両価性を探り、解消することによって、クライエントの内側にある変化への動機を強める指示的な方法である」とされています。

そして、両価性の定義として、①物、人および行動に対して同時にあり相反する態度や感情(魅了するものとうんざりするもの)、②継続的な変動(真逆な方向のゆらぎ)、③どの方法を選択するかについてはっきりしない、とされています。

こうした両価性は、人が行動を変えていく過程において通常、経験するものであり、一人で解決することが困難であることも多く、この両価性が解消されない場合、多くの人はそのこと自体を考えられなくなります。

両価的な状態にある人を、ある一方向に説得すると「個人の自由を侵害された」と感じます。

そうなると、自分の自由を守ろうという抵抗が生じ、相手の説得と逆の行動(問題行動)に惹かれ、その行動を行う頻度が増える結果になってしまいます。

両価的な状態にある人に、こちらの価値観や考えを基本とした「正したい反射」を全面に押し出して説得したり、議論したり、命令したりすると、その人の行動変容は促進されるどころか、逆方向に振れるということですね。

ですから、動機づけ面接では、抵抗をうまくかわしながら本人にとって良い方向に変化できるように力を添えることを目指します。

クライエントの「できない」「やれない」という言葉に対して「しかし」や「けれども」という言葉を使わずにいったん同意して、聞き返していきながら、抵抗の方向を変えていくというやり方を重視します。

クライエントが変化する方向に向かうよう対象者の意図に言及するようにします。

例えば、クライエントが「自分は一生懸命やっている。人とうまくやれれば、もっと自分の生活がよくなるのに…」と述べれば、カウンセラーは「あなたは変わろうと一生懸命取り組んでいるのですね。あなたにとって人とうまくやることはとても大切なのですね」というように、努力したが無駄だったとクライエントが変化への動機づけを失いかけているような場面で、さらに継続して努力してみようという方向に聞き返していくわけです。

このようにクライエントの意図に触れつつも、クライエントの変化への抵抗をかわしながら、クライエントが変化する方向に向かうように聞き返していくようにしていくわけです。

すなわち、動機づけ面接では、抵抗への気づきを促すのではなく、それをうまくかわしながら対応していくことになるわけですね。

以上のように、動機づけ面接においては、クライエントの変化に対する両価性(変わりたいけど変わりたくない等)に関わる問題を扱うことが前提となっています。

そして、抵抗については気づきを促すのではなく、うまくかわしながら対応していくということですね。

よって、選択肢①は不適切と判断でき、選択肢⑤が適切と判断できます。

② クライエントのポジティブな面の承認は控える。

動機づけ面接法には、初回面接から有益であり、また支援過程全体を通して使用される4つの具体的な方法があります。

この4つの方法を織り合わせることにより、動機づけ面接という織物が出来上がっていきます。

4つの方法はクライエント中心療法に由来していますが、動機づけ面接では、クライエントが自分の両価性を探索し、変化への動機を明確にすることを援助するという特別な目的があります。

この4つの方法は、略語でOARS(Open question:開かれた質問、Affirming:是認、Reflecting:振り返り・反映、Summarizing:要約)と表されます。

動機づけ面接では、これら4つを通して、チェインジ・トーク(変化についての話)を引き出していきます。

4つの方法については「公認心理師 2020-116」を参照してもらうとして、ここでは本選択肢と関連があると言える「是認」について述べていきます。

カウンセラーがクライエントの持っている強みや努力、資源に注目できること、そして、そのことについて敬意を表した発言が是認で、カウンセラーが心から感じる気持ちで是認することが大切です。

発言だけではなく、クライエントの発話を強化する態度(表情や頷き、相槌など)も是認に含まれます。

カウンセリングの過程で、クライエントを直接的に認めて肯定し、支持することは治療関係を深めやすく、クライエントが心を開いて自己を探索するように促す一つの方法です。

一般に、クライエントを褒める形や、その価値を認めて理解を示す形で行われることが多いです。

具体的には以下のような言葉かけになります。

  • 「今まで、いろいろな苦労をされているから、苦しい時の対応の知恵はたくさん持っていますね」
  • 「それは良い考えですね」
  • 「あなたは本当に勇気があって、意志が強い方のようですね」

ポイントなのが、是認は「賞賛」や「褒める」ということではないということですね。

すなわち「クライエントの強み、善意、努力を認め伝えていくという態度」のことを指すわけですね。

このことから、本選択肢の「クライエントのポジティブな面の承認は控える」というのは、この是認の考え方と逆になっていますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ クライエントの問題についての例外探しをする。

例外探しの質問は、解決志向アプローチの技法になります。

解決志向アプローチでは、うまくいっていない状況の中にも、すでに起こっている断片的な解決や例外的に存在している解決はきっとあると考えます。

例外探しは、問題の中にある例外を糸口にして、既に存在している解決を発展させ、積み上げて広げていくことです。

問題がなかった時や、問題があっても今よりいい状態だったときの具体的状況を尋ね、そこで見付かった「例外」を、既に起こっている解決の一部と考え、そこから更に、解決を広げていくことを目指すわけですね。

このように、クライエントの問題についての例外探しをするのは動機づけ面接の説明にはなっていません。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ ラディカル・アクセプタンスを基本的姿勢とする。

ラディカル・アクセプタンスとは「諦める技術」「受け入れる技術」と呼ばれているものであり、マインドフルネスと関連の深い考え方のようです。

「ようです」と述べているのは、私がラディカル・アクセプタンスについて全く知らず、近くの図書館でマインドフルネスの書籍を見ても出てこなかったため、ネット上の情報で述べているからです。

こちらの書籍がまさに「ラディカル・アクセプタンス」に関する内容のようですが、近くの図書館にはありませんでした…。

こちらの書籍の内容紹介が「逆境を受け入れることで現れる力がある。トラウマを乗り越える「心理学×マインドフルネス」の注目メソッド」とあります。

ACTにおける、「問題・苦悩・ネガティブな感情」は生きている以上あって当たり前であり、それらを解決・管理・対処することを手放し受け入れる(アクセプタンス)という考え方と連動するものであり、それを特にトラウマ支援に活用しているというものかもしれません。

「諦め=明らめ」と考えて、現状を受け入れて、その上で自分の生きる道を考えていくという捉え方は倉光先生の以下の書籍で示されています(他の書籍にもあるけど)。

本質的には、こうした姿勢のことを指すのだろうと思っています。

さて、ネット上の情報だけで解説を作るのは好きではありませんが、手元・近くに資料がない以上、仕方ありません。

ラディカル・アクセプタンスを鍛える方法として以下が示されています。

  1. マインドフルネス:呼吸に集中する迷走のように、いま目の前にあることに集中する。過去に起こった体験と自分の感情に対して良い悪いの判断をせず、そのまま受け入れられるようにこだわらない態度を育てる。
  2. 苦悩耐性:過去の体験やネガティブな感情を受け入れられれば、それに固執せず前に進むことができる。こうしたものを受け入れるために、楽しい活動に従事する、親切にする、問題を棚上げする、思考を逸らすなどの体制が大切です。こうした行動によって、しがみついていた考えやネガティブな感情を手放し、前に進むための活動に移していきます。
  3. 感情コントロール:感情が不安定になると目の前の現実から目を背けるために、目の前の何かにしがみつくことになります。それによって諦めきれなくなる前に、自分の感情が不安定になっていることに気づくことが重要になります。今の自分の感情を知り、体に良い活動を増やすことでネガティブな感情をコントロールしやすくします。
  4. 対人スキル:人間関係を強化することで、ラディカル・アクセプタンスを高めていくことができます。自分のことを大切にし、自分に対して優しくすることが第一です。そうすることで自尊心を高め、対人スキルも高めることができます。対人スキルの高まりにより、執着していたものを手放しやすくします。

こうした技術を用いて、問題や苦悩を受け入れていく(アクセプタンス)していくということが基本的な姿勢ということでした。

ここまで述べた通り、ラディカル・アクセプタンスはマインドフルネスを基盤としたものであるとわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

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