サリヴァンが重視していた仲間関係およびその着想に基づくグループに関する問題です。
サリヴァンに関して「関与しながらの観察」以外の出題は初めてになりますね。
とは言え、日本においては有名な概念(サリヴァンは中井久夫先生の功績により素晴らしい訳書が読めるし、グループに関しては日本の研究が基盤)だと思うのでしっかりと解いておきたいところです。
問14 H.S.Sullivanの着想に基づく前青年期における互いの同質性を特徴とする仲間関係として、適切なものを1つ選べ。
① ピア・グループ
② チャム・グループ
③ ギャング・グループ
④ セルフヘルプ・グループ
⑤ エンカウンター・グループ
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なし
解答のポイント
保坂・岡村の発展段階論を把握している。
選択肢の解説
① ピア・グループ
② チャム・グループ
③ ギャング・グループ
まずはこれら3つについてまとめて把握しておくことが重要です。
これらは保坂亨と岡村達也によって提唱された、全3段階の児童期から青年期にかけての友人関係の発達段階に関する概念で、以下のような段階に分かれます。
まず第一段階は「ギャング・グループ」になります。
仲間以外を排除する外面的な同一行動による一体感(凝集性)と大人からの逃避傾向をもち、同性(男児で顕著)および同年齢で構成される仲間集団を指します。
小学校高学年のころ、青年期の発達課題である親からの第2の個体化のための仲間関係を必要とし始める時期に現われる徒党集団です。
彼らは同一行動による一体感を重んじ、集団の承認が家庭(親)の承認より重要になってきます。
親や教師から離れて自立的に行動することによって、青年期において親友を形成する基盤となり、将来の社会生活に必要な知識や技能、態度が形成されていくとされています。
第二段階は「チャム・グループ」になります。
内面的な互いの類似性の確認による一体感(凝集性)を特徴とする、中学生、特に女子で顕著に見られる排他的な関係を指します。
このグループでは、興味、趣味やクラブ活動などで結ばれ、境遇、生活感情などを含めて、互いの共通点・類似性を言葉で確かめ合うのが基本となっています。
このような時期に、自分の行った行為が、他者や社会に少なからず影響を与えたという自己効力感を持つことは、アイデンティティの形成に重要とされています。
なお、この「チャム・グループ」は、ハリー・スタック・サリヴァンの言う「チャム:chum」に対応するものになっています。
ちなみに、サリヴァンは抗精神病薬が無かった時代に、統合失調症をカウンセリングと環境調整だけで治療を成功させてきた人物です(弟子が同じような治療結果を残したことから、サリヴァンの治療法は再現性があると見られる)。
10歳前後の頃、子どもたちは「社会」を経験し始め、それは大人社会と同じような人間関係があります。
それまでは同級生が単に「友達」だと思っていたけれど(事実、親も同級生のことを「おともだち」と呼ぶことが多いですよね)、その中に関係の濃淡・違いが出てきて同級生の中に小グループが生じ、小グループの中でも上下関係ができたり、嘘や意地悪、イジメも出やすい時期になってきます(こうした子ども社会が大人と同様の形になって、いじめが出現してくる流れについて中井久夫先生は「いじめの政治学」で描き出しました)。
一方、この時期には同性間で「親友」ができ、親友には集団・グループの中や普通の友達関係では話せないことでも話せ、仲間関係で傷つくことがあっても親友が慰めてくれます。
この頃の親友関係は、中学生以降の親友関係とは違って自意識が少ないので、二人の心が溶け合って一緒になっている感じであり、相手の喜びや悲しみはそのまま自分の体感として伝わってくるような感じです(この親友関係は、英語では「チャムシップ(chumship)」と呼ばれ、英語の一般用法でのチャムもしくはチャムシップは親密な交友関係一般を指します)。
そのような親友ができることにより、子どもは家庭以外で初めて親密な人間関係を作ることができるわけですが、サリヴァンはこうした9~12歳頃の「前思春期」の同性間の親友関係に注目して人生で一番大事なチャムシップとして強調しました。
サリヴァンは、統合失調症の急性期において「緊張病」の状態に接するとき、意識的に「(話しかけても返事ができない緊張病の患者を)相手に語りかけることと(患者の前でサリヴァンが)独り言をすることを交互に行い、患者がこちらの語りに耳を傾けるようになったら語りかけモードだけにしてみる」という接近をしました。
また、サリヴァンが管理していた病棟では、統合失調症の患者さんの看護者には同性の看護者で、できる限り同じメンバーが配置され、その中には自らが統合失調症を患ったことのある看護者がいましたが、そういう人こそが看護者に適任だとされました。
サリヴァンの狙いとして、こうした接近法により9~12歳頃の親友関係(チャムシップ)を統合失調症の患者に再体験させるということが挙げられます。
統合失調症の急性期には「他人に自分の体を操られている」「自分が手を動かすと世界が崩壊する」といった病的な体験があり、これは自他境界が曖昧になる混乱の体験と言えます。
こうした自他境界の曖昧さはチャムシップの親友関係においても見られ、親友関係にある2人が話している途中でどちらが言い出したことだったかお互いにわからない話になるような状態がありますが、そういう状態の時こそが最高に親密な関係になっていると見られます。
そのように考えると、統合失調症の急性期の状態もチャムシップの心の状態も共通して「自他境界が曖昧になっている」と言え、不穏な急性期状態においてチャムシップの健全な「自他の心が一体化」を体験することで(健全な退行現象と言えますね)病からの回復を助けるとされています。
サリヴァンの言葉で言えば、乳児期より後において、イメージと言語が併存しており、多種多様な体験が互いに論理的に結びついておらず、他者との合意による確認(consensual validation)がなされない体験ということになりますね。
いずれにせよ、「チャム・グループ」がサリヴァンの着想に基づく前青年期における互いの同質性を特徴とする仲間関係を指すことがわかりますね。
第三段階は「ピア・グループ」になります。
青年期以降の内面的にも外面的にも、互いに自立した個人として異質性を認め合い、排他的ではない親密な関係を指します。
高校生以上において、チャム・グループとしての関係に加えて、互いの価値観や理想、将来の生き方などを語り合う関係が生じてくるグループになり、互いの共通点や類似点だけでなく異質性をぶつけ合うことにより、他との違いを明らかにしつつ自分の中のものを築き上げていくことが目標になってきます。
そして、異質性を認め合い、違いを乗り越えたところで、自立した個人として共にいることができるようになるとされています。
幼児~児童期の子どもの価値観は、親のそれを反映していることが多く、思春期になると親の価値観と仲間の価値観との間で絶えず揺さぶられることになりますが、そうした体験を経て最終的に青年期には独自の価値観を獲得していくとされています。
このようにギャング→チャム→ピアというのは、仲間関係の発達を指したものであり、そうした仲間関係は個人の発達にも大きく影響を与えることがわかります。
以上より、選択肢①および選択肢③は不適切と判断でき、選択肢②が適切と判断できます。
④ セルフヘルプ・グループ
セルフヘルプ・グループは、同じ問題やニーズを持つ人々が、相互援助を通じて各自の問題解決を図る集団を指し、自助グループとも称されます。
当事者同士による問題の捉え方や対処について情報交換が行われるため、社会相互学習によるモデリングが生じやすいのが特徴でもあります。
また、相互に援助しあうことによって、被援助者側に社会的支援をもたらすだけでなく、援助者側には問題に対する理解の促進や認知の再構成、他者の役に立てるといった自尊感情の回復などの利益がもたらされるとするヘルパーセラピー原則という考え方があります。
疾病や障害、依存症、精神障害、犯罪被害や遺族など、様々な生きづらさ、共通の問題を感じる人に活用されるグループ形態と言えます。
セルフヘルプ・グループについては、「ギャング・グループ」「チャム・グループ」「ピア・グループ」などとのつながりはなく(研究者の中につなげて論じている人がいるのかもしれないけど、私は知らない)、サリヴァンのアプローチとの深い関連性も見られません。
現時点では「グループ」という表記があるので、選択肢全体の共通性を持たせるために採用された選択肢なのかな、と考えています。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。
⑤ エンカウンター・グループ
エンカウンター・グループと表現される場合、大きく3つの意味を考える必要があります。
- 人間回復運動:1960年代後半からアメリカを中心に盛んになった動向全体を指す。
- 集中的グループ体験:Tグループ、サイコドラマ、感受性訓練、ゲシュタルトグループなど、理論と技法は様々であるが、数時間から数週間にわたる集中ないし宿泊を伴うグループ体験を総称した意味で用いられる。欧米では1と2を合わせて表現することが多い。
- ベーシック・エンカウンター・グループ:日本においては集中的グループ体験の一形態であり(その意味では2と同じ枠組みになり得る)、ロジャーズの理論と実践に基づくグループを指している。
このうち本選択肢の「エンカウンター・グループ」と称する場合、上記の3を指すと考えてよいでしょう。
ロジャーズらは、1946年以降、カウンセラーの訓練に集中的グループ体験が有効であることに気づき、ワークショップでそれを用いてきました。
1960年ごろからNTLのTグループの流れと交流が行われるようになり、やがてロジャーズはベーシック・エンカウンター・グループという名称を好んで使うようになっています。
ロジャーズによれば「経験の過程を通して、個人の成長、個人間コミュニケーションおよび対人関係の発展と改善」を意図した集中的グループ体験が、エンカウンターグループということになります。
さて、なぜ「エンカウンター・グループ」という選択肢が本問に入ってきたのかを考えることが大切です。
それは、先に解説を行った「ギャング・グループ」「チャム・グループ」「ピア・グループ」という保坂・岡村の発展段階論(1992:キャンパスエンカウンター・グループの意義とその実践上の試案)は、大学生のエンカウンター・グループ体験から生み出されたという経緯があるからです。
ですから、単に「グループ」という言葉が入っているから本選択肢が採用されたわけではないと理解しておくことが重要ですね。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。