公認心理師 2021-137

クライエントの問題を先行事象・標的行動・結果事象という捉え方に基づいて考えていく問題です。

「先行事象・標的行動・結果事象」からどういう理論が思い浮かぶか、がまずは大切ですね。

問137 30歳の男性A、会社員。喫煙をやめたいが、なかなかやめられないため、会社の健康管理室を訪れ、公認心理師Bに相談した。Bは、Aが自らの行動を観察した結果を踏まえ、Aの喫煙行動を標的行動とし、標的行動の先行事象と結果事象について検討した。先行事象が、「喫煙所の横を通ったら、同僚がタバコを吸っている」であるとき、結果事象として、最も適切なものを1つ選べ。
① 喫煙所に入る。
② タバコを吸う。
③ 同僚と話をする。
④ 自動販売機で飲み物を買う。
⑤ コンビニエンス・ストアでタバコを買う。

解答のポイント

三項強化随伴性の考え方に基づいて考えられる。

必要な知識・選択肢の解説

オペラント反応が生起した後、ある特定の刺激が出現・消失することで、オペラント反応の将来の生起頻度が増加することは「強化」と呼ばれます(ラットがレバーを押す(=オペラント反応)、エサが出る、オペラント反応が増える、という感じですね)。

この強化の原理においては、オペラント反応の後に、後続事象としての環境状況の変化(刺激の出現や消失)が随伴しており、この随伴関係を「強化随伴性」と呼びます(上記の例で、ラットがレバーを押す頻度が増えたなら、それは強化随伴性がもたらしたというわけです)。

強化随伴性は、オペラント反応とその後続事象の関係を規定していたが、オペラント反応に先行する事象との関係も重要です。

オペラント反応に先行して提示される刺激で、オペラント反応が自発される手がかりを与えるようになった刺激は「弁別刺激」と呼ばれます。

先行事象である弁別刺激と、オペラント反応の生起、そして後続事象である強化子の出現・消失は時系列的に随伴関係にあり、これら3つの関係を「三項強化随伴性」と呼び、これによってオペラント反応は増加・維持されることになります。

三項強化随伴性の概念図

オペラント条件づけの研究において、この三項強化随伴性は、最も基本的な分析の枠組みであり、三項強化随伴性を明らかにすることを、先行事象(Antecedent)‐オペラント行動(Behavior)‐後続事象(Consequence)の頭文字を取って「ABC分析」とも呼びます。

特に、応用行動分析では、対象となる行動と前後の環境事象である弁別刺激や強化子との機能的な関係を明らかにすることを「機能分析」と呼び、何が問題行動の弁別刺激や強化子として機能しているのかを環境事象を実験的に操作して明らかにしていきます。

本問の用語に置き換えると、先行事象はそのままですが、「標的行動」は上記の「オペラント行動」であり、「結果事象」は上記の「後続事象」になるわけですね。

そして、三項強化随伴性の考え方に従えば、標的行動(オペラント行動)に続く事象(結果事象:後続事象)が、当人にとって「いい感じ」ならばその標的行動(オペラント行動)が増加するということになるわけです。

本問では、先行事象および標的行動が既に示されていますから、これらを当てはめる形で最も適切な選択肢を考えていきましょう。

① 喫煙所に入る。
② タバコを吸う。
③ 同僚と話をする。
④ 自動販売機で飲み物を買う。
⑤ コンビニエンス・ストアでタバコを買う。

上記の三項強化随伴性の知識を踏まえて、本問の状況を見ていきましょう。

本問では、先行事象が「喫煙所の横を通ったら、同僚がタバコを吸っている」であり、標的行動が「喫煙行動」であると明示されていますね。

すなわち以下のような図で表される状況なわけです。

この時点で、選択肢①の「喫煙所に入る」や、選択肢②の「タバコを吸う」はあり得ないことがわかります。

既にクライエントAは喫煙行動をしているわけですから、選択肢②の「タバコを吸う」では標的行動と結果事象が同じであるということになり、意味が分かりません。

おそらく「結果事象=結果として起こること」と思い込んでしまって、本事例の主訴である「喫煙をやめたいが、なかなかやめられない」から「タバコを吸う」を選んでしまう人がいると考えて設定されたのかもしれません。

また、常識的に考えて、Aの喫煙行動(標的行動)は喫煙所内でしていると考えるのが自然ですから、時間軸的に「喫煙所に入る」が喫煙行動の後に来ることはあり得ません。

さて、三項強化随伴性の考え方に基づけば、本問で問われている「結果事象」は「Aの喫煙行動を増加・維持させている強化子になっている事象」であると言い換えることが出来るはずです。

その前提に立つと、選択肢④の「自動販売機で飲み物を買う」というのは、一般的に考えて「喫煙行動を増加・維持させる事象」とは言えないことがわかります。

むしろ、禁煙している人が口寂しくて何かを口にするということはよく聞きますから、禁煙している人がその行動を維持させるための行動という印象がありますね。

同じく選択肢⑤の「コンビニエンス・ストアでタバコを買う」についても、ツッコミどころが多い選択肢ですね。

「タバコを買う」ということが強化子となって「喫煙行動」を強化しているという捉え方だと一見つながりがあるように見えますが、そうなると先行事象である「喫煙所の横を通ったら、同僚がタバコを吸っている」という状況との関連が全くなくなってしまいます。

一般に強化は時間的に近接しているほど強固に作用するとされていますから、あまり状況と関係がなかったり事象間の時間の開きが大きいと、間に他の要因が存在することになりそれらの影響も考えねばなりませんから、選択肢⑤の内容は合理的とは言えませんね。

キチンと三項強化随伴性の考え方に沿って考える、すなわち先行事象→標的行動→結果事象の流れで捉えるという点から、選択肢⑤は不適切ということになります(単純に、タバコを買う→喫煙行動という2つの事象だけで考えて良いというものではないということですね)。

さて、最後の選択肢③「同僚と話をする」ですが、これが結果事象に入ることによって「喫煙所の横を通ったら、同僚がタバコを吸っていて(先行事象)」「Aも喫煙所でタバコを吸って(標的行動)」「そこで同僚と話をしている(結果事象)」という一連の流れが見えてきます。

時間軸的にも近接しており、「同僚と話をする」という事象がAの喫煙行動を強化している可能性を立てることが出来ますね。

そこで強化が起こることで、「喫煙所で同僚がタバコを吸っている」という状況を目にすると、また喫煙所に入ってしまうということが生じる可能性が出てくるわけです(喫煙所に入ったらタバコを吸いながら話すことになりますしね)。

そしてポイントなのが、本事例ではクライエントは「喫煙をやめたいが、なかなかやめられない」という主訴を持っているわけですから、カウンセリングにおいては「同僚と話をするということが、喫煙行動の強化子になっている可能性」を話し合っていくことになります。

同僚と話をするということでAにどういった感情や認知が生じるのかを考えていっていいかもしれませんし、「同僚と話をする」ということが重要なのであれば、喫煙を挟まない形での同僚とのコミュニケーションを考えてみるのも良いでしょう。

また、仮説を確かめるために「同僚がいる喫煙所」と「誰もいない喫煙所」での感じ方の違いから、より精緻にクライエントに起こっていることを見ていくのもアリでしょう。

こういった実際の支援の方法についても考えていけると良いでしょうね。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。

また、選択肢③が結果事象として適切と判断できます。

タバコはわずか500年前ほどに発見された新奇物質であるにも関わらず、ほぼ全ての文化でたしなまれています。

現代はかなりタバコに対する意識も変わってきましたが、かつてはタバコは一時的で簡単な対人関係の円滑化に使用されてきた傾向があります。

タバコの周囲への害は、部屋の密閉性が急速に増大した、いわゆる先進国において、ここ30年~40年以内に発生したと考えられます。

クライエントとの間でタバコを辞める話をする場合は、「やめたときに起こる身体の反応」を伝えて備えてもらうようにします。

私は何事にもそういう伝え方をする(つまり、これから起こるだろうことを伝え、クライエントにも備えてもらう。また、起こった方がよいこと(表面的に良いことではなく、全体の流れとして必要なこと)を伝えてその可能性を高める:自己実現性予言)のですが、それは私自身がそうやって自らを支えてきたという経緯があるという事情が大きいでしょうし、誰にでも効果があるというわけではないのですが、やはり見通しが立っていた方が安定する人が多いですね。

タバコとお別れすると、2日目の夜に苦痛のピークがやってきて、一週間経てば止めた期間が惜しくなって、後戻りを防ぐ力になります。

なお、タバコとの別れはたいていの場合、切羽詰まってということではないので、「やめてやるぞ!」と意気込んで始めるのもちょっと違います(意気込んで始めたことは1か月程度で息切れします)。

この後は少しずつ楽になりますが「治に居て乱を忘れず」という心構えで、日々過ごすことが大切です。

周囲にはタバコとの別れを言わない方が賢明で、必ず「ほれほれ」と勧めてくる輩が湧いてきます(言わなければ、ほとんどの人は他者の禁煙などに気づかないものです)。

ちなみに、私はタバコを生まれてこのかた吸ったことがないので、上記の流れについては中井先生の「煙草との別れ、酒との別れ」を読んでかいつまんだものです。

ちなみに、こちらの論文(エッセイ?)には、依存症の基本的なことも述べてあるように感じています。

私が印象に残っている一節は以下の通り。

「私は、時々、煙草を吸ってしまった夢を見た。それは決まって何か困りごとが起こっている時であった。夢の中の私には、ああ、せっかく止めていたのにまた吸ってしまったという落胆とともにどこかほっとする安堵感があった。煙草との別れを続けるのに必要な緊張がほどけた安堵感であろう。これに限らず一般に、倫理的禁止を持続する心理的エネルギーがいるのである。煙草を吸う夢を見なくなったのは十年後である。心理的依存の解消には十年かかるということであろう」

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