ケースフォーミュレーションに関する問題です。
私にとっては「見立て」に関して当たり前のことを述べているに過ぎない概念ですから、横文字で言われてもあまりピンときません。
問132 ケース・フォーミュレーションについて、適切なものを2つ選べ。
① クライエントの意見は反映されない。
② 個々のクライエントによって異なる。
③ 精神力動的心理療法では用いられない。
④ クライエントの問題に関する仮説である。
⑤ 支援のプロセスの中で修正せずに用いられる。
解答のポイント
ケースフォーミュレーションの概要を把握している。
選択肢の解説
ケースフォーミュレーションとは、事例定式化のことで、病気の診断のみではなく、生物・心理・社会モデルのような多元的な視点からクライエントの問題を把握し、その問題が、①いつ生じたのか、②問題はどのように変化していっているのか、③なぜ現在も続いているのかを明らかにする手段であり、これに基づいて治療プランが決定されます。
様々な種類はありますが、なかでもNezuらは、個々のクライエントが抱える問題の形成・維持を発達変数(生育歴、発達要因、過去の学習経験など)、先行変数(先行する事象など)、有機体変数(思考、感情、身体反応など)、反応変数(行動など)、結果変数(強化子など)によって明らかにすることを提案しています。
臨床に携わる実践家や研究者のコアスキルと考えられており、質の高い、多角的な問題理解が可能となります。
「公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法」に「臨床過程におけるケース・フォーミュレーション(以下、CF)の活用」が示されていました。
- アセスメントによって問題に関連するデータを収集する。
- 得られたデータを分析し、介入のターゲットとなる具体的問題を同定する。
- その問題を維持させている悪循環に関する仮説としてCFを生成する。
- クライエント(患者や関係者)にCFを提示し、問題理解について説明(心理教育)する。
- クライエントからCFに関する意見をもらい、CFを修正する。
- CFの修正作業を通してクライエントとの間で問題理解を共有し、問題解決に向けての協働関係を深める。
- 共有したCFを作業仮説として介入方針を定める。
- 介入方針をクライエントに説明(心理教育)し、合意を得る。
- 介入方針に関する合意を得る過程でクライエントの動機づけを高める。
- 介入した結果、効果が見られない場合にはCFを修正する。
- 修正されたCFに基づき介入方法を変更して介入を進める。
- 介入効果が見られたならば、CFに基づき再発防止のための留意点を確認し終結とする。
こうしたケースフォーミュレーションの特徴を踏まえて、各選択肢の解説に入っていきましょう。
① クライエントの意見は反映されない。
⑤ 支援のプロセスの中で修正せずに用いられる。
これらの選択肢については「公認心理師 2018-18」の中で既に出題されている内容です。
ケースフォーミュレーションでは、上記で言えば「5.クライエントからCFに関する意見をもらい、CFを修正する」および「6.CFの修正作業を通してクライエントとの間で問題理解を共有し、問題解決に向けての協働関係を深める」という手続きを重視しますから、クライエントと心理職との協働作業の過程であるとも言えます。
そして「10.介入した結果、効果が見られない場合にはCFを修正する」とあるように、アプローチの結果を踏まえて、必要な修正を加えていくことになります。
このことは別に「ケースフォーミュレーションだから」というわけではなく、臨床実践全般で言えることでもあろうと思います。
以上より、ケースフォーミュレーション(というか臨床実践全般)において、クライエントの意見は反映されつつ進み、そして、そうしたクライエントの意見やあるアプローチの結果によって仮説の修正作業を行っていくものであると言えます。
よって、選択肢①および選択肢⑤は不適切と判断できます。
② 個々のクライエントによって異なる。
④ クライエントの問題に関する仮説である。
ケース・フォーミュレーションの考え方で強調されるのは「個別化」と「仮説の生成・検証」です。
先述の通り、ケースフォーミュレーションは、クライエントの問題が、①いつ生じたのか、②問題はどのように変化していっているのか、③なぜ現在も続いているのかを明らかにする手段であり、これはクライエントの問題に対して仮説を生成し検証していくということになります。
仮説の生成・検証では、問題に関する組み立て、その仮説の妥当性(つまり、クライエントの問題や状態の改善がみられるかを検証すること)を援助の過程で確かめながら進める仮説検証を重視します。
仮にケースフォーミュレーションに基づいた介入を行った結果、問題状況に改善がみられない場合、即座に更なるケースフォーミュレーションを行い、より適切な仮説に作り直す必要があります。
援助のプロセスを通じて、クライエントの変化を観察したり測定したり、常に仮説の正しさを検証しつつ援助が進められます。
また、個別化とは、クライエント一人ひとりの問題や状態を個別に捉えることを指します。
ケースフォーミュレーションで生成されるアプローチは、オーダーメイドの介入計画であり、個々のケースの情報を丹念に収集するアセスメントが重要となります。
先述の通り、個々のクライエントが抱える問題の形成・維持は、発達変数(生育歴、発達要因、過去の学習経験など)、先行変数(先行する事象など)、有機体変数(思考、感情、身体反応など)、反応変数(行動など)、結果変数(強化子など)などのように様々です。
当然、ケースフォーミュレーションの在り様や導き出される仮説等はクライエントによって異なると考えるのが妥当ですね。
以上のように、ケースフォーミュレーションは個々のクライエントによって異なり、そのクライエントごとに仮説を生成・検証していくことになります。
よって、選択肢②および選択肢④が適切と判断できます。
③ 精神力動的心理療法では用いられない。
ケースフォーミュレーションは、あらゆる心理療法のアプローチにおいて行われ得るものです。
上記は結構前に読んだ本ですが、タイトルからも精神力動的心理療法でもケースフォーミュレーションが行われることが読み取れますね。
本書は「診断面接で得た膨大な情報を、セラピストがクライエント一人ひとりの心理的問題の複雑さや微妙さを無視することなく、まさにその人だけに当てはまる全体的な精神力動的フォーミュレーションを紡ぎ出してゆけるよう、8つの構成概念を示して詳細かつ具体的に解説」したものと紹介されています。
上記の書籍においては、精神力動的ケースフォーミュレーションでは、心理療法を症状緩和だけでなく、「症状緩和、洞察、主体性、アイデンティティ、セルフエスティーム、感情を認め取り扱うこと、自我の強さと自己凝集性、愛すること・働くこと・成熟した依存、喜びと平穏」の各領域の発達をも含む概念であると仮定しています。
また、精神力動的ケースフォーミュレーションでは、「個別化」と「仮説の生成・検証」という過程の中で力動的な捉え方がふんだんに使われることになるでしょう。
すなわち、客観的に観察可能なものだけでなく、精神力動的心理療法の中で培われた力動的な概念がケースフォーミュレーションの中で用いられるわけですね。
もともとケースフォーミュレーションという捉え方が認知行動療法畑で用いられることが多かったため、本選択肢のような内容が設けられたのだと思います。
ですが、冒頭でも述べた通り、ケースフォーミュレーションの内容を見てみればわかる通り、一つの学派や理論に基づいている概念ではなく、臨床実践全般で行われていることだとわかるはずですね。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。