公認心理師 2018-40

アウトリーチ(訪問支援)で行う家族へのケアにおいて、特に初期に活用できる概念を選択する設問です。
選択肢の内容が多領域にわたっており、各概念がどのような場面で用いられるかについて理解している必要があります。
難易度が高いという印象は受けませんが、実践的な内容かなと思われます。

解答のポイント

各概念について把握していること。
各概念がどのような場面で活用されているかを理解していること。

選択肢の解説

『①ジョイニング』

こちらは家族療法で用いられる技法で、主にミニューチンをはじめとした構造的家族療法学派において活用されていました。
ジョイニングは「参加」「仲間入り」という意味で、セラピストが家族の文化に溶け込んでいくための技法とされています。

ジョイニングは大きく以下の3つに分かれます。

  1. 伴走:コミュニケーションの流れにセラピストがついていくこと。相槌をうつことや、話が促進されるように促すこと等を指します。
    「安全な会話」とは、解釈したり話の落としどころを聞き手が決めずに、「その会話が長続きするよう努める」ことによって生じます。
  2. 調節:セラピストの言葉遣いや行動などを家族の交流の中に適応させること。
  3. 模倣:セラピストが、家族の言語的非言語的側面を観察し、言葉遣い、比喩的な表現、感情の表現、仕草などを、意識的無意識的に模倣することを指します。。話し方やテンポを合わせるなどです。
以上より、アウトリーチによる家族のケアを行う上で、ジョイニングは初期に家族の仲間入りを果たすという点から有用性の高い概念と言えます。
よって、選択肢①が適切と判断できます。

『②レジリエンス』

ラターが提唱した概念で、元々は物理学用語で「跳ね返り・弾力性」という意味です。
心理学では、人間の内に有している回復力とされ、関連する概念として「サバイバー」などがあります
困難な状況下でも、ある程度安定して生活できる力があると考えられており、それがレジリエンスという捉え方です。
様々な方面から研究が行われていますが、研究者によって微妙に定義が異なるなど、統一された説明がなされていないという印象があります。
やや抽象的な概念であり、設問で問われているようなアウトリーチ、家族へのケア、初期対応という条件に合致するとは言えません
よって、選択肢②は不適切と判断できます。

『③リフレーミング』

選択肢①と同様に家族療法の概念ですので、その意味で①と③で迷ってほしいところです。
セラピストの介入で変化を引き起こすことに焦点を絞った戦略的アプローチで積極的に活用されています。
家族メンバーの行動や、家族に起きた出来事、関係性などの「事実」は変えずに、その文脈や意味づけを変化させる方法です。
この技法を使う立場として気をつけねばならないのが、Aという考え方をBという考え方に「変える」ことが目的ではないということです。
Aという元々の考え方も否定せず、同時にBやCといった別の考えも視野に入るようにするための技法をリフレーミングと言います。
下坂幸三先生は「洞察とは視野が広がることを指す」とおっしゃっておられますが、それは上記のような意味だと思われます。
リフレーミングは家族へのアプローチとして有用ですが、「考え方、捉え方に変化を促す」という側面があるため、アウトリーチの家族ケア、特に初期の対応としては揺さぶりが強いように思えます。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。

『④マインドフルネス』

第3世代の行動療法とされており、仏教や禅などの東洋文化の流れを取り込んだもので、技法というよりも思想という印象は個人的には強いです。
定義は以下のようにまとめられます。

  1. 一瞬一瞬の体験に意図的に注意を向け続けること。
  2. いまの瞬間の体験に対して心を開き、好奇心を持って、アクセプト(そのままにしておく)こと。
  3. 結果的に思考や感情に対して脱中心化した視点を獲得し、主観的で一過性という「心」の性質を見極めること。
上記のいずれか、もしくは複数がマインドフルネスの定義として用いられることが多いです。

アクセプタンスという概念も、第3世代の行動療法のキーワードですが、今ここの体験に積極的に判断せずに受け取るということであり、森田療法との共通点が感じられます。
東洋的思想を汲んでいると言えますね。

マインドフルネスは単発的な技法というよりも、より日常的に自身の体験への態度という意味合いが強いように思えます。
自己治療的な側面もあるのではないかと感じます。

これらより、マインドフルネスはアウトリーチでの家族ケア、初期対応などには不向きであると考えられます。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

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