20歳男性A、大学生の事例です。
最近、気分が落ち込むことがあり、学生相談室を訪れた。
以下にAと公認心理師Bとの対話の一部を示す。
B:一番気持ちが動揺するのは、どんなときですか。
A:成績が悪かったときや女の子にふられたときですね。
B:例えば、成績が悪かったとき、頭に浮かぶのはどんな考えですか。
A:みんなが僕を軽蔑していると考えます。僕は負け組だって。
B:女の子にふられたとき、頭に浮かぶのはどんな考えですか。
A:大した奴じゃないということ。男としての価値がないんですよ。
B:今のいくつかの考えに、何か繋がりが見えますか。
A:僕の気分は他の人が僕をどう見ているかに左右されてるんじゃないでしょうか。
この対話でBが用いている技法として、正しいものを1つ選ぶ問題です。
実践的な感じのする問題ですが、こうした問題形式を取ることができる技法は限られています。
つまり試験問題のような、少ない紙面で表現できる技法は限られてくるということです。
行動療法学派および家族療法学派の中に、試験問題にし易そうな技法は複数見受けられます。
(家族療法では、例えば、マイム、などは例示しやすいかもしれないですね)
本問では行動療法学派の技法が集められていますね。
解答のポイント
心理療法の技法、特に行動療法系の技法について把握していること。
選択肢の解説
『①構造化面接』
認知行動療法でも「構造化」という表現を用いますが、本選択肢は「構造化面接」と明確に表記されていますので、面接法の「構造化面接」と断定して考えてみます。
構造化面接とは、あらかじめ設定された仮説に沿って、事前に質問すべき項目を決めておき、仮説の妥当性を検証するためのデータを統計的に収集することを目的とした面接法です。
標準化されたデータを聴取することができるという利点があります。
多くの心理検査では質問項目が定められており、誰にでも同じように実施します。
心理検査は構造化面接の最たる例と言えるでしょう。
上記のように「構造化面接」とは、面接方法を指す言葉であると言えるのでカウンセリングの「技法」と呼んでよいかは疑問です。
調査面接法などで用いられる場合は「技法」という意味合いが濃くなるのかもしれません。
いずれにせよ、AとBの会話の内容は、あらかじめ決められた内容を問うているものではないことは明白です。
Aの答えに応じてBが質問を繰り出しているのが見て取れるので、そういった形態の面接は「構造化面接」とは呼びません。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。
『②問題解決技法』
認知行動療法には「問題解決療法」というアプローチがあります。
問題解決療法では、日常生活の中で体験するさまざまな問題に対して、問題解決志向性、問題の明確化と目標設定、問題解決策の算出、問題解決策の選択と決定、問題解決策の実行と評価の5ステップを通じて、その解決法を効果的に生成するための方法を習得していくことを目指します。
具体的には以下の通りです。
- 問題解決志向性:
問題解決への積極的な姿勢を指します。自分や周囲の問題を積極的に気づくことが重要で、「自分だけの思い込み」といった認知の歪みに気を付ける必要があります。 - 問題の明確化と目標設定:
現実的で対処可能な問題を同定し、達成可能な目標を設定します。情報を集める、問題の本質を明らかにする、目標を設定する、問題を解決する意義を再評価する、ことなどです。 - 問題解決策の算出:
可能な限り多数の解決策を模索します。それには「拡散的思考」(Guilford)や、「ブレイン・ストーミング」(Osborn)を用います。 - 問題解決策の選択と決定:
有効性と実行可能性の高い解決策を設定します。改善策のメリット・デメリットを十分に検討します。基準は、問題を解決できる見込み、期待される心理的安定、要する時間や労力、自分や周囲への影響、などです。 - 問題解決策の実行と評価:
有効性の高い解決策を実行し、結果を適切に評価することです。結果を客観的・具体的に観察・記録することが重要です。
ここで言う「効果的な解決策」とは、ポジティブな結果を最大にし、ネガティブな結果を最小にするように、問題に対処する(目標を達成する)ための取り組みのことです。
こちらの療法は、問題解決過程と呼ばれる心理プロセスに基づいて治療的技法をパッケージしたものであり、広くは問題解決技法とも呼ばれます。
おそらく、本選択肢はこの療法・技法のことを指していると思われます。
事例を見てみると、上記のようなステップを踏んでいるやり取りは見られません。
よって、選択肢②は誤りと判断できます。
『③誘導による発見』
認知行動療法ではソクラテス的質問法を用います。
これは、カウンセラーがクライエントに行う質問の仕方を指し、同時にクライエントに対するセラピストの関わり方の基本姿勢を表しています。
この質問方法の目的は、クライエント自らが自身の認知や感情などに気づいたり、見落としていた視点に気づくことができるようになることです。
クライエントが自分の思考を論理的に分析するように促すものであり、クライエントの探究心や治療への意欲を高めるために、質問によってクライエントを刺激し、自分の思考についてもっとよく知りたいと思わせることが重要です。
具体的には以下のようなやり方が取られます。
- 誘導による発見:
当事者が自問し、自ら発見できるように問いかける質問を繰り返すことで相手に気づいてもらう。議論でも、単なる傾聴だけでもない。
基本モデル(思考が情動と行動に影響を与える)を指針として質問するように心がけることで、どのように思考を修正すれば、クライエントは苦痛を軽減したり、対処能力を高めたりできるかが理解できる。 - 非適応的な思考パターンの打破:
クライエントが自問し、硬直した非適応的思考パターンを打破するために、新たな洞察を深め、思考の変化を肯定的な情動の変化と関連付けるように促す。 - 思考について考えるスキルの学習:
質問によってクライエントの好奇心を刺激し、クライエントが自分を見つめ、新しいものの見方に目を向けることができるようにする。 - 自由に回答できる余地を残す:
多肢選択式の質問を用いる場合でも、様々な回答ができる余地を残しておく。 - クライエントの症状の程度や認知能力を考慮し適切な質問を選ぶ:
クライエントを混乱させたり圧倒させたりしないように、適切なレベルの質問を投げかける。
「誘導による発見」の背景にあるのは「クライエントが体験から気づいたものが最も強力」という信念です。
確かに教えられたものよりも、自分で気づいたものの方が、その真偽の如何に関係なく、その人のものとして機能しやすいです。
事例では、こうした「誘導による発見」が用いられていることがわかります。
「誘導」という表現ですが、カウンセラーが思った方にクライエントを動かしているというニュアンスがあるので、「質問による発見」と訳す方もおられるようですね。
確かに「誘導による発見」だと誤解が生じやすいかもしれません。
いずれにせよ、選択肢③が正しいと判断できます。
『④モデリングの実践』
モデリングは観察学習のことで、バンデューラの示したモデリング理論が有名です。
モデリング理論は、攻撃行動は他人の攻撃行動を観察することによって促進されるとし、社会的モデルの示範的効果を強調した理論です。
モデリング自体は、何かしらの対象物を見本(モデル)に、そのものの動作や行動を見て、同じような動作や行動をすることを指します。
心理療法的に行う場合、何かの場面を観察されることになります。
観察学習を用いて特定の行動を増やしたり減らしたりすることをモデリング技法といいます。
親戚のおじさんを怖がっている子どもに対し、そのおじさんとお母さんが仲良く話しているところを見せる、などもモデリング技法と呼べるでしょう。
また、スポーツの技能訓練では多くがモデリング技法を用いています。
一方で、事例ではモデリングの実践を行っている形跡は見られません。
よって、選択肢④は誤りと判断できます。
『⑤マインドフルネスの導入』
マインドフルネスは仏教や禅などの東洋文化の流れを取り込んでおり、その起源は2600年前のブッダが提唱した「サティ」のことと言われています。
「気づき」と訳されますが、臨床心理学の各学派で用いられる気づきとは若干異なります。
マインドフルネスの特徴としては、以下が挙げられます。
- 一瞬一瞬の体験に意図的に注意を向け続けること
- いまの瞬間の体験に対して心を開き、好奇心をもってアクセプトする(そのままにする)こと
- 結果的に思考や感情に対して脱中心化した視点を獲得し、主観的で一過性という「心」の性質を見極めること
あるがまま、を重視する森田療法とも共通する視点ですね。
事例では、こうした注意を向けて、そのままにするというアプローチは取られていません。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。