公認心理師 2019-18

問18はフォーカシング指向心理療法に関する問題です(でも答えはフォーカシングじゃない)。
心理療法に関する問題もときどき出題されますね。
ブループリントに各心理療法の明記はありませんが、必ず押さえておく必要がある領域でしょう。

問18 E.T.Gendlinは、問題や状況についての、まだはっきりしない意味を含む、「からだ」で体験される感じに注目し、それを象徴化することが心理療法における変化の中核的プロセスだとした。この「からだ」で体験される感じを表す用語を1つ選べ。
①コンテーナー
②ドリームボディ
③フェルトセンス
④フォーカシング
⑤センサリー・アウェアネス

当然ですがフォーカシング以外の概念も出題されているので、やはり幅広く学んでおきたいところですね。
本問ではフォーカシングとフェルトセンスの繋がりの把握および弁別が要求されています。

解答のポイント

フォーカシング技法のステップの一つとしてフェルトセンスがあることを理解している。
フェルトセンスの定義を把握している。

選択肢の解説

①コンテーナー

こちらは精神分析学のクライン学派であるBionが提出した概念です
そもそもは乳児(クライエント)と母親(カウンセラー)との関係において、乳児の情緒や思考やパーソナリティ全体を育てるために、母親が担っている情緒的、認知的役割や機能を指す用語です

人生最早期の乳児は、自らの未熟な自我では耐えることのできない生の情緒的体験や感覚印象を分裂排除(split off:スプリットというのはよく使われる表現ですね)し、母親の中に投影します。
そして母親は、自分の中に投げ入れられた乳児の不安や苦痛を包み込み(コンテイン)、その不安の意味を理解し、乳児に耐えられるような形に修正して、それを子どもに戻していきます。
その結果、乳児は不安に耐えられる情緒的能力を高めるとともに、不安を和らげることのできる母親の機能自体も取り入れ、健康なパーソナリティを発達させていきます。
このように、コンテーナーとは母親側の機能を指すのが基本です。

しかし、乳児に過度な増悪や羨望などの生来的な素因が強かったり、母親にコンテインする力が弱かったりすると、正常なコンテインメントが成り立ちにくくなります。
そのため、乳児は言い知れぬ恐怖を抱え込むことになり、これが重篤な精神医学的問題に繋がるという理屈です。

もう少しわかりやすく説明していきましょう。
かつて離乳食がまだ今ほど出ていなかった時代、また、口移しで虫歯菌がうつるということが今ほどは恐れられていなかった時代には、母親が食べ物を咀嚼して乳児に与えるということがありました(虫歯菌は怖いですけど、母親が咀嚼して食べさせるということをしなくなることによって失われるものの方が大きいと個人的には思います)。
要するにコンテインとは、この「まだ能力的に食べられないものを、こちら側が咀嚼して食べられるようにして返すこと」の精神的バージョンを指します。

乳幼児期には、意味が分からない、強い欲求は抱えきれず外に投影されます。
例えば、乳児が怒りを感じているのに、母親が怒りを感じているように受け取ります。
それで泣き叫ぶのですが、母親が「○○がびっくりしたんだよね」「怖かったねー」などと言いながらあやすことで、乳児はその怒りを自分のものとして受け容れていくということです。
その繰り返しによって、自分の内に不快な感情を持っておく器が育ち、外に投影することなく自分のものとして引き受けていくようになるということです。

ですから乳児が泣いているのをスマホの動画を見せて落ち着かせようとすることは、この論理から言えばマイナスしかありません(この論理を使わなくてもマイナスしかないんですけどね、子どもにとっては)。
支援全般で言えることですが、人生早期に手を掛けることで、その後の人生の「しなくて済むはずの手間」をかなり軽減することができます。
といっても、苦労を先送りさせるのもその人の権利ですから(たとえ先送りには利子が伴うことになろうとも。そしてその権利は大人の権利であって子どもの権利ではないけれども)、我々は出会ったその時に全力を尽くすのみです。

さて、このコンテーナーは、カウンセリングで生じる様々なコミュニケーションを理解する説明概念として用いられます。
つまり、不安や苦痛を投影同一視によって伝えてくるクライエントと、逆転移を通して投影同一視の中身を理解しようとするカウンセラーという、治療関係における原始的コミュニケーションの理解に役立つということです。

身近な例で説明しましょう。
うちの子どもが小さい頃DVDを観たがりましたが既に1枚観た後だったので、「もうダメだよ」と穏やかに伝えました(たぶん)。
すると子どもは泣いて「お父さん、怒っちゃダメでしょ!」と言いながら叩いてきました。
私は怒っていないわけですから、これは子どもが自分の怒りを私に投影した(私が怒りをもっていると思った)わけです。
そして「叩く」という行為をもって、私を「本当に怒らせようとした」わけです。

これが投影性同一視のひな型です。
ここでのコンテーナー概念を通した理解と対応は、叩かれたことによって生じた私の怒り(これが逆転移感情)は、実は子どもが感じている怒りであり、私は自分の内に生じた怒りを咀嚼し返すこと(「嫌やったんやなぁ」みたいな感じ)で、子どもは自分の内に生じた怒りを外に投影することなく(実際に上記のように言うことで「うん」と頷き抱きついてきた)自分のものとして引き受けるようになるという考え方です。
カウンセリングにおいては、カウンセラーの内に生じた逆転移感情をきっかけにして、クライエントの内情を推察するという技術が重要になってくるよ、ということですね。

ちょっと長くなりましたが、以上がコンテーナーという概念の説明になります。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

②ドリームボディ

こちらはプロセス指向心理学の概念になります
当初ユング派心理療法家であったA.Mindellは、人間の背後に「ドリーミング」と呼ばれる広大な無意識体が存在し、その働きかけが「ドリームボディ」となり、身体に夢や病気を引き起こすと考えました。

ミンデルはとあるクライエントとのワークを通じて、夢(ドリーム)と身体(ボディ)には共時的関係性があるのではないかと思いつきました(共時性はユング心理学における重要な概念ですね)
十数年間かけて臨床例に当たりつつこの仮説を暖め、検証していった結果、単なる思い付き以上のものであることを確信し「ドリームボディ」dreambody(夢=身体)という概念を生み出しました。

プロセス指向心理学では、身体に夢と同じ象徴的なパターンをもった「プロセス」が起こることそしてその「プロセス」を扱う方法を発表、またその「プロセス」の意味に「気づく」ことが大事であると考えます。
また、その夢や身体症状といった「プロセス」を作り出している根源を「ドリームボディ」と呼びました。

ドリームボディとは、夢が本質で身体がそれを表象するとか、またはその逆であるとかいったものではなく、夢と身体的現象の両方を共時的に包括するプロセス、言い換えればまだ夢や身体的現象に分岐化、表現される以前の全体的、根源的プロセスのことを指します
この考え方に沿えば、夢や身体的兆候は、ドリームボディが表出され得る可能性をもった様式の一つということになるわけです。

例えば、ドリームボディは、ある場合には慢性的な痛みという身体を通じて、またあるときにはイメージや夢といった形で資格を通じて表現されるということです。
プロセス指向心理学の仕事とは、このドリームボディに付き添い、それが治療的なプロセスを展開するのをサポートすることになります。
既存の多くの心理学体系のように、病をただ治療すべき対象と見なすのではなく、「病や夢はそれ自身に目的を持つ」ものとして目的論立場に立って扱うわけですね。

その他、「チャンネル」「1次プロセスと2次プロセス」「エッジ」などの概念がありますが、ここではそこまでは控えておきましょう。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

③フェルトセンス
④フォーカシング

フォーカシングは、ユージン・ジェンドリンにより明らかにされた心理療法の過程を指します。
ロジャーズのウィスコンシンプロジェクト(CCTによる統合失調症者への治療研究)での体験が礎となっています(ジェンドリンはロジャーズの弟子)。

ジェンドリンはカウンセリングの成功要因を探る研究を行い、当初は精神分析的な視点による仮説として「過去の重要な体験を話す人ほど予後が良いだろう」と考えていました。
ですが、実際には「話す内容」による予後の好悪に有意差はなく、むしろ重要だったのは「話し方」であることが示されました
すなわち、クライエントが自分の心の実感に触れながら話しているかどうかが重要であることを見いだしたのです
このように、ロジャーズはセラピストの条件を、ジェンドリンはクライエントの条件を明らかにしたということになりますね。

ここでの発想がジェンドリンのオリジナルだと思うのですが、そこでジェンドリンが考えたのは「クライエントに心の実感に触れるための方法を教えれば、カウンセリングで良くなる可能性が高まるに違いない」ということでした
そこでジェンドリンは、心の実感に触れるための方法をクライエントに教えるための理論として体験過程理論を構築し、具体的な技法としてフォーカシングを提唱しました。
つまり「フォーカシングは技術であり、誰でも身につけることが可能である」という考え方があるのです。

心の実感に触れる技術としてフォーカシングがあるわけですが、これには6つのステップがあるとされています。
以下の通りです。

  1. クリアリング・ア・スペース:空間を作る
  2. フェルトセンス:何かよくわからないけど、意味がありそうな感じ
  3. ハンドル:名前をさずける
  4. 共鳴:フェルトセンスと共鳴させ、ぴったりかどうか確かめる
  5. 問いかける:からだにきいてみる
  6. 受けとる:何が浮かんできても受け容れる
ジェンドリンは、人間には体験があり、その中にも「まだ概念化はできないもののはっきりと感じられる体験過程」が存在すると考えます。
これをジェンドリンは「感じられた意味」とか「照合体」と呼んでいますが、こちらが後に「フェルトセンス」と呼ばれることになります。
フォーカシングでは、まずはクリアリング・ア・スペースで間を置き体験全体を眺め、そこから「まだ概念化はできないもののはっきりと感じられる体験過程」(=フェルトセンス)に注目していき、それを概念化し納めていくという手順を採ります
ジェンドリンの著書に「フォーカシング」がありますが、フォーカシングをやりたい人はまずはこちらを読むことが求められますね。

この著書では、身体的な感覚を重視し、フェルトセンスを「まだ概念化はできないがはっきりと感じられる「身体の感じ」」としています
この著書で初めて「フェルトセンス」という表現が使われるようになったのですが、身体感覚的な意味としてsenseという表現を使っているわけですね。

ジェンドリンは、師であるロジャーズのCCTの効果を高めるためにフォーカシングの技法を開発したわけですが、ロジャーズ自身はもともと特定の技法を用いることを嫌っていたので、ジェンドリンはロジャーズから独立した道を歩み、独自の体験過程療法を提案しました。
現在、このジェンドリンのフォーカシング技法の背景にある理論まで含んだものを「体験過程療法」や「フォーカシング指向心理療法」と呼んだりします。
ちなみに、訳語として「体験過程」という表現を当てたのは村瀬孝雄先生です(村瀬嘉代子先生の旦那さんですね)。

以上より、選択肢④は誤りと判断でき、選択肢③が正しいと判断できます。

⑤センサリー・アウェアネス

人間性心理学の発祥の地としてエサレン研究所があります。
エサレン研究所は、1962年に心理学者のMurphyとPriceによって、宿泊型の研修施設として作られました。
エサレン研究所が世に広めたものとして、「ゲシュタルト療法」「エンカウンター・グループ」「センサリー・アウェアネス」があります。

センサリー・アウェアネスはC.Selverによって開発された体験的実習法を指します
近年、東洋的な思想に基づく概念が西洋で関心が向けられております(行動療法にもその流れが見られますね)。
センサリー・アウェアネスも、東洋の方法が西洋に入り、それが逆輸入されております。

センサリー・アウェアネスは、頭で理解するのではなく、身体で理解することを主眼とするボディワークやマッサージ法です
もともとはGindlerが考え出した呼吸法による健康増進法であり、それをセルヴァーがアメリカに広めました。
1963年にセルヴァーは、エサレン研究所に呼ばれてセミナーを行い、それ以来、そこを活動の本拠地にするようになりました。

このようにセンサリー・アウェアネスには人間性心理学の文脈があったり、ボディワークであるという点で、若干迷いを生じさせる選択肢だったかもしれません。
しかし、やはり問題文の内容とは異なるものです。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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