WISC-Ⅳのまとめ:CHC理論と併せて

代表的な知能検査であるウェクスラー式についてまとめていきます。
ここではまずWISCをやっつけていきましょう。
臨床心理士資格試験で出たポイント、公認心理師で問われるかも…と感じるところを中心にしつつ、プラスで臨床実践でのポイントも書いていきます(ここについては読み物と思ってください)。

【ウェクスラー式検査の概要】

Wechslerは、知能構造の質的な差異を知ることが重要と考えました。

知能指数には、偏差知能指数=DIQ(Deviation IQ)を用いています。
偏差知能指数とは、一般的な知能指数(平均)からどの程度異なるかを示した値。

偏差知能指数(偏差IQ)={(各個人の点数-当該年齢段階の平均点)÷当該年齢段階の標準偏差×15 }+100

言語性・動作性の枠組み(α、βの名残:WAISには残っていて、WISCはなくなった)。

ウェクスラー式には、WPPSI、WISC、WAISや、記憶検査のWMSなどもあります。

【検査概要】

5歳~16歳11ヶ月対象。
ただし、知的障害が疑われる場合、5~7歳への適用は適切でない可能性あり。
知的発達のいくつかの領域における個人内差を明らかにできる。
検査の開始問題は年齢により定まっており(「○歳ならここから始める」というのが、記録用紙にもわかりやすく記載してある)、易しい問題から順番に取り組むようにできている。
(Binet式に関しては、基準年齢から下がっていって全問正解する年齢の問題群が出たら、今度は基準年齢から上がっていって全問不正解になる年齢の問題群までやりますね)
全検査IQ(FIQ)と、4つの指標得点(群指数)の5つの合成得点を算出する。
指標得点(群指数)は、言語記憶、知覚処理、ワーキングメモリ、処理速度の4つから成っている。

【群指数の捉え方】

特に以下の項目が弱い場合を中心に示していきます。

◎言語理解

  1. 養育不全、教育不備、長期の不登校があるとここが落ち込みやすい。
  2. 早口で長い説明は苦手。
  3. 作文や発表が苦手になりがち。
  4. 語彙があれば音読は大丈夫。

◎知覚推理

  1. 眼の動きに問題があると板書が苦手になる。
  2. 図形の認知に問題があると、グラフ認知が難しくなる。
  3. 美術系の授業で特徴が見えることも多い。
  4. 知識の活用、すなわち応用問題が苦手になる。

◎ワーキングメモリ

  1. 会話の聞き忘れ、脱線が多くなる。聞き間違い、聞き漏らしも多くなる。
  2. 同時に複数の処理、並行作業が苦手になる。
  3. メモが有効だけど、メモを取ること自体が苦手というパラドックス。
  4. 騒音、雑音に弱い。
  5. 聴覚的な丸暗記が苦手(百人一首など)
  6. 暗算苦手。

◎処理速度

  1. 他者と同じスピードで作業ができない(課題、給食、着替えなど)。
  2. 急がせるとミスが多くなる。
  3. 同じことでも手順が変わったり、効率が悪いやり方だったり、やり方にこだわりが強いなど。

【検査項目】

WISC-Ⅳは、10の基本検査と5つの補助検査よりなっています。
検査項目を群指数ごとに示すと以下の通りです。
数字は検査実施順序を示します。

◎言語理解(VCI)

2 類似:
  • 共通点、共通概念をもつ2つを提示し、それを答えさせる。
  • 練習で要領を掴むことができたか、簡潔に回答したか、難易度によって反応が違わないか(易しい問題にだけ反応が早いと、対連合学習が過剰にされた可能性:記憶能力の高いということを示しています)。
  • ASDの能力としては、得意分野であることが多い。
6 単語:
  • 単語を口頭or文字で提示し、その意味を答えさせる。
  • 喚語や迂遠表現など、特異的言語発達障害との関連をチェック。
  • 言葉を発するまでの時間の長さ:長いと言語表現の困難さが考えられる。
  • 冗長な説明は、①自信の無さ、②強迫的傾向、③言語能力の未熟さ、などの可能性。
9 理解:
  • 日常的な問題解決、社会ルール等について口頭で答えさせる。
  • 説明力不足or社会的知識欠如の見極め。
  • 言語表現の苦手さを有している可能性(時間がかかる場合)。
13 知識(補助検査):
  • 日常的な事柄や歴史上の人物など、一般的な知識に関して口頭で答えさせる。
  • 誤答の共通点を模索する:子どもの苦手分野を反映している可能性。
  • 心理的要因(不安、動機づけ、記憶)により、正答にムラが出る。
  • 学校や家庭での学習の定着度を知りたい等の時に実施することを検討する。養育不全、不登校、学習障害の放置など。
15 語の推理(補助検査):
  • いくつかヒントを与えて、それを満たす概念を答えさせる。
  • 言語表現力の弱い子どもで、文の理解力を調べたい場合などに実施を検討。
  • 不注意な子ども、不安が高いなどで聞き返しが多くなる。
  • よく考えているか否かが別れやすい。
  • 思考の切り替え(ロールシャッハのPSVに近い):第一ヒントで間違って、第二ヒントで修正できているか否か。

◎知覚推理(PRI)

1 積木模様:
  • 積木orカードで示されたモデル通りに、制限時間内に組み立てる。
  • 試行錯誤能力(ソーンダイク!)、当てずっぽうor方略をもって動かしているか。
  • 回転させ続ける場合、視覚的認知が苦手な可能性あり。
4 絵の概念:
  • 2-3行からなら複数の絵を提示し、共通特徴のある絵を一つずつ選ばせる。
  • 防衛的な人は「わかりません」が多い(考えて・答えて・間違う、ということが他よりも明確になりやすい課題だから?)。
  • ちょっとルールが複雑なので、何度も同じ注意が必要な子どもは、学校でもルールがわからず同じ現象が生じている可能性あり。
8 行列推理:
  • 一部分が空欄になっている図を見せ、その空欄に当てはまるものを5択から選ぶ。
  • 思考のタイプ(熟慮型・衝動型)の検証。
  • ちょっと頑張らないと分からない問題も多いので、すぐにDKになるなら内的不穏への耐性不足。
11 絵の完成(補助検査):
  • 絵を見せて、その絵の中で足りない部分を、指差しor言葉で答えさせる。
  • 直観的思考を調べたい等で実施を検討。例えば、ADHDやASDの多動性・衝動性が目立つ子ども。ADHDは絵の完成は高い場合が多い。
  • 思考が、熟慮型か衝動型か。

◎ワーキングメモリ(WMI)

3 数唱:
  • 読み上げられた数字と同じ順序or逆の順序で言わせる。
  • 問題は繰り返し読んじゃダメ!聞き返してくる場合は、不注意、不安の高さなどを見立てる。
  • 思考の方略。4個程度をまとめて覚えるなど。
7 語音整列:
  • 数字と仮名を聞かせて、数字を昇順に、仮名を五十音順に並べ替えて言わせる。
  • 思考の方略を使っているか否か。
  • 数字と仮名が逆になっていても正答:7歳未満や8歳以上のLDに多く見られる傾向。
14 算数(補助検査):
  • 算数の問題を口頭で示し、暗算で制限時間内に答えさせる。
  • 算数に対する不安、自身の無さが見えやすい(「頭の中じゃできない(そうじゃなきゃできる的ニュアンス)」など)。
  • 指は使って構わない。

◎処理速度(PSI)

5 符号:
  • 幾何学模様or数字と対になっている記号を、制限時間内に書き写させる。
  • 何度も見る:視覚記憶の弱さ、慎重さなど。
  • 見本を見つけるのに時間がかかる:眼球運動がスムーズじゃない可能性。
  • 記号をしっかり書けない:視覚-運動協応の弱さ、筆記の苦手さ。
10 記号探し:
  • 見本の記号が、問題の記号グループにあるか否かを判断させる。
  • 目で探さず、首を動かして探す場合、眼球の動きが悪い可能性。
  • 疲労が出やすい:後半落ちる。
  • 頻繁な見比べ:視覚記憶の弱さ。
12 絵の抹消(補助検査):
  • 多くの絵が配置された中から、動物の絵に線を引かせる。規則配置・不規則配置、制限時間有り。
  • 疲労や低い動機づけだと、後からやる規則配置の成績が落ちがち。
  • 符号、記号探しの得点が低いと行うことも。符号や記号探しと比べて順番が自由など、制約が少ないので。

【補助検査について】

通常、補助検査は、IQや指標得点(群指数)といった「合成得点」の算出には使用しません。
基本検査の一部が合成得点の算出に使用できなかったり、補助検査を実施してその基本検査の代わりとして用いることができます。

◎代替が必要な場合

  1. 基本検査が何らかの理由で無効になった。
  2. 子どもに障害があるので、補助検査の方が適していることが明らか。
     →手に障害がある:「積木模様」を「語の理解」へなど
  3. 基本検査の素点が0点の場合。

◎代替の制限・規則

  1. 1つの指標得点につき、1つの下位検査のみでしか認められない。
  2. 全検査IQ(FIQ)を算出する際に代替が許されるのは、基本的に2つの指標まで。
  3. 補助検査を用いる場合でも、検査実施手順は変わらず、基本検査終了後に補助検査を実施すること。

【CHC理論に準拠するように】

CHC理論(Cattell-Horn-Carroll theory)とは、心理測定学理論です。
以下の3人の理論を統合した理論とされています。
 ※キャッテルは知能の一般因子を流動性知能・結晶性知能とした人
 ※ホーンはそれよりも多くの因子があると考えた人
 ※キャロルは知能の3層理論を示した人
これまでの膨大なデータを因子分析にかけて、知能がどのような因子によって構成されているかを研究し、明らかとなった理論です。
CHC理論では「一般知能」(第三層)を設けており、これを以下のように細分化(第二層)しています(本来は更に細分化した第一層がありますが、ここでは割愛)。
(「一般知能」はWISC-Ⅳで言う「全検査IQ」にほぼ該当すると言ってよいでしょう)
  • 結晶性能力/知識 … 言語理解(VCI)と関連が深い。
  • 流動性能力/推理 … 知覚推理(PRI)と関連が深い。
  • 視覚処理     … 知覚推理(PRI)と関連が深い。
  • 聴覚処理
  • 短期記憶     … ワーキングメモリ(WMI)と関連が深い。
  • 長期記憶と検索
  • 読み書き
  • 数量の知識
  • 処理速度     … 処理速度(PSI)と関連が深い。
  • 反応・判断速度
CHC理論の中で、WISC(WAIS)では測定できないものは以下の通り。
基本的に「読み書き」に関するものを捉えづらくなっています
  • 聴覚処理:読み書きの基本過程
  • 長期記憶と検索:読み書きの基本過程;WISC-Ⅴには有り?
  • 読み書き
そもそもが、CHC理論の範囲外である項目は以下の通り。
これらの項目を知りたい場合は、WISC以外の検査を求めましょう。
  • 創造性:これはいわゆる拡散的思考だが、知能は「収束的思考」になる。
  • 感情:知能を運用する際に必要になる自己調整機能
  • 社会性、対人能力
  • 運動能力
  • 情報処理能力:継時処理や同時処理など;K-ABCⅡへ!
  • メタ認知

【その他】

WISC-Ⅲから引き継いだのは以下の項目。
類似・単語・理解・知識・数唱・算数・積み木模様・絵の完成・符号・記号探し
WISC-Ⅳから新しく以下の項目が示された。
絵の概念・語音整列・行列推理・絵の抹消・語の推理

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