問題文の内容に合致する用語を選択する問題です。
ちょっと迷う選択肢もあると思いますが、2択ぐらいまでは絞れそうな内容になっていますね。
問95 クライエントの問題の成り立ち、変化、継続及び介入方法についての仮説生成を行うことを表す用語として、最も適切なものを1つ選べ。
① 機能分析
② テストバッテリー
③ コンサルテーション
④ ケース・フォーミュレーション
⑤ エビデンスベイスト・アプローチ
選択肢の解説
① 機能分析
オペラント条件づけの研究において、この三項強化随伴性は、最も基本的な分析の枠組みであり、三項強化随伴性を明らかにすることを、先行事象(Antecedent)‐オペラント行動(Behavior)‐後続事象(Consequence)の頭文字を取って「ABC分析」とも呼びます。
特に、応用行動分析では、対象となる行動と前後の環境事象である弁別刺激や強化子との機能的な関係を明らかにすることを「機能分析」と呼び、何が問題行動の弁別刺激や強化子として機能しているのかを環境事象を実験的に操作して明らかにしていきます。
まず「機能分析」について学ぶ前に「行動分析」について述べていきます。
「行動分析」についてですが、有斐閣の辞典によると定義が2つ示されています。
- 個体がなぜそのように行動するかを明らかにしようとする行動の客観科学。…⑤研究対象としてのヒトを含めた動物のオペラント行動などにその特徴がある。主要な研究領域に実験的行動分析と応用行動分析がある。
- スキナーの徹底的行動主義のパラダイムを用いた分析すべてを指す用語であるが、行動変容(応用行動分析)を行う際の対象児・者のアセスメントを指す場合もある。後者の場合、行動分析は弁別刺激-反応-結果の三項による随伴性が分析される。
2つ目の定義にある「三項による随伴性」とは、いわゆる三項随伴性のことであり、徹底的行動主義の主要な概念の一つです。
三項随伴性では、「問題を引き起こす先行刺激」「刺激に対するClの反応(標的となる問題行動)」「その反応から引き起こされる後続刺激(=結果)」という枠組みで、標的行動と環境との関連性のアセスメントをしていきます。
そして有斐閣の「臨床心理学」には、機能分析について「行動を生じさせる刺激、それによって生じる行動、行動の結果という3つの要素の結びつき(随伴性)によって、行動が生じるというとらえ方である。そして行動と結果との随伴性を明らかにすることを機能分析と呼ぶ」と記されています。
すなわち、行動分析の2つ目の定義が「機能分析」とイコールとなっているわけです。
そう考えると、「行動分析」は「機能分析」までを含んだより広い概念だと捉えることができます。
いくつかの教科書等には、機能分析は「クライエントの問題行動を標的として、それを引き起こす変数を特定するとともに、その問題行動が維持されている環境との相互作用のメカニズムを把握する技術を指す」と心理療法の枠組みでは説明されているものも多いです。
しかし、上記の定義を考えれば、別に心理療法の枠組みに限るものではなく、動物を対象とした場合でも当てはまることがわかると思います。
さて、「対象となる行動と前後の環境事象である弁別刺激や強化子との機能的な関係を明らかにすること」という機能分析の説明は「クライエントの問題の成り立ち、変化、継続及び介入方法についての仮説生成を行うことを表す用語」とは異なることがわかります。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。
② テストバッテリー
テストバッテリーとは、クライエントを多面的・重層的に捉えて、全体的な理解を促進するために、複数の心理検査・知能検査等を組み合わせて実施することを指します。
クライエントのどういった側面を見ていきたいか、どういう状態像かによってバッテリーの内容は変わってきます。
よく言われるのが、投影法検査は「無意識領域」の査定を行うことができ、言語を用いた検査(質問紙検査など)は「意識領域」の査定を行うことができる、という考え方です(その間に「前意識」があり、投影法だけど言語を用いるSCTなどが該当しやすい)。
例えば、ロールシャッハテスト(無意識)+SCT(前意識~意識)という組み合わせでバッテリーを組んでいくというやり方があります。
こうすることで、クライエントの無意識領域で示される傾向と、意識領域での傾向の差異を見ることができ、非常に単純な言い方をすれば「これらのバッテリー間で大きな矛盾があれば、クライエントの無意識‐意識間で矛盾(無意識に存在する欲求を意識的には認めていない)がある可能性を示唆する」などがあり得るわけです。
また、子どもだと描画法を導入に使った方が入りやすい、知的・発達側面の査定が必要であれば各種知能検査・発達検査をどう組み合わせるかを考える等、視点はさまざまです。
どんな組み合わせでバッテリーを組んでいくにせよ、クライエントにかかる負担を考慮し、必要最低限の組み合わせで、最大の情報を得るよう努力することが求められます(例えば、ロールシャッハ+MMPI+WAISなどは、クライエントのへの負担がものすごく大きくなる組み合わせである)。
以上のように、テストバッテリーとは「クライエントを多面的・重層的に捉えて、全体的な理解を促進するために、複数の心理検査・知能検査等を組み合わせて実施すること」ですから、本問の「クライエントの問題の成り立ち、変化、継続及び介入方法についての仮説生成を行うことを表す用語」には合致しません。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
③ コンサルテーション
コンサルテーションは、コミュニティ心理学で用いられだした概念ですから、その視点からの解説を行っていきましょう。
コミュニティ心理学に特有の介入方法の一つとして「コンサルテーション」があります。
心理学において「コンサルテーション」という用語はさまざまな意味で用いられていますが、ここではCaplanが「予防精神医学(1964)」の中で規定している狭義を採用していきます。
Caplanによれば、コンサルテーションとは、コンサルタントとコンサルティという2名の専門家間で行われる相互活動です。
コンサルテーションの特徴としては以下の通りです。
- コンサルタントとコンサルティは平等な関係:SVでは上下関係がある
- コンサルタントは助言の段階に留まり、その助言をどのように活用するかはコンサルティ次第となる。すなわち、事例の状態への管理的責任を負うのはあくまでもコンサルティとなる:SVではバイザーが負うこともある(これは現在ではかなり限定的ではあり、基本としてSVでバイザーが責任を負うことはない。この点については公認心理師 2019-121でも述べています)
- コンサルテーションの時間や回数は、一般にその度毎に頼まれてという形態が多く、何回か継続する場合もその期間が決まっているのが普通:SVはそこまで明確ではない
コンサルタントはコンサルティが効果的に働きかけることができるよう、専門的立場からアドバイスして援助するという形を取ります(だから、常にコンサルテーションは「間接的援助」になるわけです)。
どのようなタイプのコンサルテーションであっても、コンサルタントはコンサルティ(コンサルテーションを受ける人)の所属する組織の部外者であり、コンサルテーション活動はコンサルティの所属する現場に出向いて行われるのが一般的です。
また、何かしらの問題についてコンサルタントがコンサルティが所属する現場に出向くわけですから、当然、コンサルティには「何とかしたい懸念事項」があり、そこへのアドバイスなどがなされることになる場合が多くなります(つまり、課題中心になりやすい)。
ただし、コンサルテーションの目的は、コンサルティの担当しているクライエントの改善に限るわけではなく、コンサルティ自身が抱えている問題点の克服、ときにはコンサルティが企画しているプログラムの改善という場合もあり一様ではないことも知っておきましょう。
上記をまとめると、コンサルテーションとは「異なる専門性をもつ複数の者が(これらは平等な関係性にある)、援助対象である問題状況について検討し、よりよい援助の在り方について話し合うプロセス(話し合った結果、どのような対応をするか、その対応の結果どうなるかは、あくまでもコンサルテーションを受ける側の責任になる)」を指すわけですね。
これは本問の「クライエントの問題の成り立ち、変化、継続及び介入方法についての仮説生成を行うことを表す用語」には合致しません。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
④ ケース・フォーミュレーション
ケースフォーミュレーションとは、事例定式化のことで、病気の診断のみではなく、生物・心理・社会モデルのような多元的な視点からクライエントの問題を把握し、その問題が、①いつ生じたのか、②問題はどのように変化していっているのか、③なぜ現在も続いているのかを明らかにする手段であり、これに基づいて治療プランが決定されます。
様々な種類はありますが、なかでもNezuらは、個々のクライエントが抱える問題の形成・維持を発達変数(生育歴、発達要因、過去の学習経験など)、先行変数(先行する事象など)、有機体変数(思考、感情、身体反応など)、反応変数(行動など)、結果変数(強化子など)によって明らかにすることを提案しています。
臨床に携わる実践家や研究者のコアスキルと考えられており、質の高い、多角的な問題理解が可能となります。
「公認心理師必携 精神医療・臨床心理の知識と技法」に「臨床過程におけるケース・フォーミュレーション(以下、CF)の活用」が示されていました。
- アセスメントによって問題に関連するデータを収集する。
- 得られたデータを分析し、介入のターゲットとなる具体的問題を同定する。
- その問題を維持させている悪循環に関する仮説としてCFを生成する。
- クライエント(患者や関係者)にCFを提示し、問題理解について説明(心理教育)する。
- クライエントからCFに関する意見をもらい、CFを修正する。
- CFの修正作業を通してクライエントとの間で問題理解を共有し、問題解決に向けての協働関係を深める。
- 共有したCFを作業仮説として介入方針を定める。
- 介入方針をクライエントに説明(心理教育)し、合意を得る。
- 介入方針に関する合意を得る過程でクライエントの動機づけを高める。
- 介入した結果、効果が見られない場合にはCFを修正する。
- 修正されたCFに基づき介入方法を変更して介入を進める。
- 介入効果が見られたならば、CFに基づき再発防止のための留意点を確認し終結とする。
ケース・フォーミュレーションの考え方で強調されるのは「個別化」と「仮説の生成・検証」です。
先述の通り、ケースフォーミュレーションは、クライエントの問題が、①いつ生じたのか、②問題はどのように変化していっているのか、③なぜ現在も続いているのかを明らかにする手段であり、これはクライエントの問題に対して仮説を生成し検証していくということになります。
仮説の生成・検証では、問題に関する組み立て、その仮説の妥当性(つまり、クライエントの問題や状態の改善がみられるかを検証すること)を援助の過程で確かめながら進める仮説検証を重視します。
仮にケースフォーミュレーションに基づいた介入を行った結果、問題状況に改善がみられない場合、即座に更なるケースフォーミュレーションを行い、より適切な仮説に作り直す必要があります。
援助のプロセスを通じて、クライエントの変化を観察したり測定したり、常に仮説の正しさを検証しつつ援助が進められます。
また、個別化とは、クライエント一人ひとりの問題や状態を個別に捉えることを指します。
ケースフォーミュレーションで生成されるアプローチは、オーダーメイドの介入計画であり、個々のケースの情報を丹念に収集するアセスメントが重要となります。
先述の通り、個々のクライエントが抱える問題の形成・維持は、発達変数(生育歴、発達要因、過去の学習経験など)、先行変数(先行する事象など)、有機体変数(思考、感情、身体反応など)、反応変数(行動など)、結果変数(強化子など)などのように様々です。
当然、ケースフォーミュレーションの在り様や導き出される仮説等はクライエントによって異なると考えるのが妥当ですね。
こうしたケース・フォーミュレーションの捉え方は、本問の「クライエントの問題の成り立ち、変化、継続及び介入方法についての仮説生成を行うことを表す用語」と合致することがわかりますね。
よって、選択肢④が適切と判断できます。
⑤ エビデンスベイスト・アプローチ
1990年代に医療現場においてエビデンスにもとづく医療という運動が起こりました。
これまでの医師個人の経験と勘に頼っていたことを反省し、エビデンスに基づいて医療を行っていこうという運動です。
この動きは臨床心理学にも大きな影響を与えており、ここから「エビデンスにもとづく臨床心理学」といった考えが出てきています。
ちなみに、医療政策研究機構(現在の医療研究・品質調査機構)設立から10年後の1997年に医学者Sackettによって「Evidence-Based MEDICINE」が出版されました。
定義は「心理学におけるエビデンスに基づく実践は、患者の特性・文化・選択に即して、入手可能な最善のリサーチを臨床技能と統合する」とされています。
EBMの3要素は以下のとおりです。
- 科学的根拠:メタアナリシスなどがここに含まれる
- 臨床上の経験・技能
- 患者の価値感:事例の個別性に関しては2や3に含まれている。
エビデンスベイスト・アプローチは、科学的根拠を重視した方法と捉えられることが多いと思われますが、実際はこうした「科学的根拠」のみならず、「臨床上の経験・技能」および「患者の価値感」なども含まれます。
上記の通り、エビデンスベイスト・アプローチとは「エビデンス(科学的根拠)に基づいた方法のこと(これは科学的根拠+臨床上の経験や技能+患者の価値観という3つが組み合わさったものである)」を指しますが、これは本問の「クライエントの問題の成り立ち、変化、継続及び介入方法についての仮説生成を行うことを表す用語」には合致しません。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。