検査者と被検査者の面接形式での実施が必須でない心理検査を選択する問題です。
検査概要を覚える際に、実施方式(対面が必須か否か)も把握しておくことが求められているということですね。
問94 検査者と被検査者の面接形式での実施が必須でない心理検査を1つ選べ。
① CAPS
② HDS-R
③ WMS-R
④ AQ-J成人版
⑤ ロールシャッハ・テスト
選択肢の解説
① CAPS
CAPS (Clinician-Administered PTSD Scale) は、優れた精度のPTSD構造化診断面接尺度として各国の臨床研究や治験で広く使用されています。
DSM-5の診断基準に基づいて、トラウマ体験に関する質問1個、PTSD症状(再体験、回避、否定的認知、覚醒亢進)に関する質問20個、持続期間に関する質問2個、機能障害に関する質問3個、全般状態に関する質問3個、その他の質問2個の合計30個の質問からなり、それぞれの質問項目について最近1か月の症状の重症度を元に面接者が評定を行います。
所要時間は、面接で90分前後、分析で30分ほどとされています。
CAPSは、PTSDの構造化診断面接尺度ですから、検査者と被検査者の面接形式での実施を前提としています。
以上より、選択肢①は検査者と被検査者の面接形式での実施が必須であると判断できます。
② HDS-R
HDS-Rとは改訂長谷川式認知症スケールのことを指しますね。
日本で最も多く用いられている簡易認知機能検査で、9つの下位テストから構成されているが動作性検査を含んでおらず運動障害の影響を排除するように作成されています。
改訂長谷川式の検査項目は以下の通りです。
- 年齢
・年齢はいくつですか - 日付の見当識
・今日は何年ですか
・何月ですか
・何日ですか
・何曜日ですか - 場所の見当識
・私たちが今いるところはどこですか - 即時記憶
・これから言う3つの言葉を言ってみてください
1)桜、猫、電車 または
2)梅、犬、自動車
・後でまた聞きますのでよく覚えておいてください - 計算
・100から7を順番に引いてください
・それからまた7を引くと - 逆唱
・私がこれから言う数字を逆から行ってください
「6-8-2」
「3-5-2-9」 - 遅延再生
・先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください
※回答がない場合のヒント:植物、動物、乗り物 - 視覚記憶
・これから5つの品物を見せます、それを隠しますので何があったか言ってください
※時計、鍵、ペン、硬貨、くしなど必ず相互に無関係なもの - 語想起・流暢性
・知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください
得点範囲は0~30点であり、認知症群と非認知症群のcut off値は20/21点が妥当とされており、重症度の判定基準としては「非認知症:24.27±3.91」「軽度:19.10±5.04」「中等度:15.43±3.68」「やや高度:10.73±5.40」「非常に高度:4.04±2.62」となっております(平均値±標準偏差です)。
検査項目からもわかる通り、被検査者が目の前にいることを前提とした項目が存在していたり、教示についても「私たちが」などを主語とする者がある等、対面での検査実施を想定していることがわかると思います。
ちなみに、現行の長谷川式は「改訂版」ですが、それ以前の長谷川式では「誰と一緒に来院したか」などのように、介護者からの情報が必要な項目がありました(私はそのことを知っていたので、そのこととごっちゃになりそうでした)。
そういう流れも知っておくと、色々役立つかもしれませんね。
以上より、選択肢②は検査者と被検査者の面接形式での実施が必須であると判断できます。
③ WMS-R
ウェクスラーにより開発され翻訳されたウェクスラー記憶検査(WMS-R)は、記憶の総合検査として代表的なものです。
以下のような下位検査で構成されています。
- 情報と見当識:
長期記憶や見当識から引き出される一般的な知識についての質問で、スクリーニング用の項目を含んでいる。 - 精神統制:
健常者には難なく回答することができる学習された材料を検索する。 - 図形の記憶:
受験者に、1組の抽象的な模様を提示し記憶してもらう。それを取り除いた後に、もっと数の多い模様の中から同じものを選択させる。 - 論理的記憶I:
検査者が受験者に物語を読んで聞かせた後に、記憶を頼りにその物語を話すことが求められる。 - 視覚性対連合I:
6つの抽象的な線画と連合する色とを、学習することが受験者に求められる。正しく回答するまで提示される。 - 言語性対連合I:
容易な対語4つと困難な対語4つを、1回で完全に反復できるまで実施する。 - 視覚性再生I:
受験者は、10秒間提示された簡単な幾何学図形を記憶を頼りに再生する。 - 数唱:
数字の順唱と逆唱をする。 - 視覚性記憶範囲:
受験者は提示されたのと同じ順序で、一連の色のついた四角形に触れる。次第に数が増加する。次に、触れた順序とは、逆の順序で四角形に触れていく。 - 論理的記憶II
- 視覚性対連合II
- 言語性対連合II
- 視覚性再生II
上記の10以降の課題は、いずれも4〜7の課題の遅延再生となります。
WMS-Rでは、記憶の要素を「言語性記憶」「視覚性記憶」「一般的記憶(言語性と視覚性を統合したもの)」「注意/集中力」「遅延再生」の5つの指標で表現できる点が特徴です。
上記からわかる通り、被検査者が目の前にいる前提の項目(検査者が受験者に物語を読んで聞かせるなど)がありますし、それらに対する「遅延再生」も求めるなど、明らかに被検査者との対面を前提とした検査構成になっていますね。
よって、選択肢③は検査者と被検査者の面接形式での実施が必須であると判断できます。
④ AQ-J成人版
AQとは、Autism(自閉症)-Spectrum Quotient(指数)の略で、ASDのスクリーニングテストとして使われています。
成人用と児童用があり、成人用は16歳以上、児童用は6歳~15歳が適用となります。
ASDでは、社会的なコミュニケーションの取り方の困難さ、こだわりの強さを大きな特徴とされており、このような特徴や傾向をスクリーニングするため、Simon Baron-Cohen&Sally Wheelwrightたちによって考案されたのがAQです(語尾のJはJapanを意味します)。
AQ-Jでは、「社会的スキル」「注意の切り替え」「細部への注意」「コミュニケーション」「想像力」の5つの項目があり、50問4択で解答していきます。
これらはすべてASD傾向を知るために重要な項目となります。
成人用は自己評価、児童用は保護者などによる他者評価で、回答は「あてはまる」から「あてはまらない」までの4段階で行っていくことになっています。
このように、AQ-J成人版は「自己評価」で行う検査ですから、必ずしも面接者との対面を必要としません。
よって、選択肢④が検査者と被検査者の面接形式での実施が必須でないと判断できます。
⑤ ロールシャッハ・テスト
ロールシャッハは、ヘルマン・ロールシャッハが創案した投影法検査であり、インクの染みのような図版を見せ、被検査者が何に見えるかを答えていきます。
ロールシャッハの解釈において重要なポイントとして、反応領域(どこを見たのか?:全体を見たのか、部分を見たのか、あまり注目されないような部分を見たのか…など)・反応決定因(如何に見たのか?:動きを見ているか(蝶が飛んでいます)、色を使った反応をしているか、濃淡を使った反応をしているか、立体的に見ているか(大きい人です。手前が大きくて、先が小さいなど)…など)・反応内容(何を見たのか?:人間(全体か部分か)、動物、爆発や火、内臓、X写真(白黒の図版も多いので)などなど)の3つがあります。
こうした解釈に重要なポイントを聞き逃さないようにするため、ロールシャッハテストでは、以下のような段階を設けて実施されます。
- 自由反応段階(performance proper)
その名の通り、被検査者が自由に反応する段階です。自由で自発的な応答を得られるように努め、暗示的・誘導的な質問はしないこと、言語的・行動的な全ての表現を抑制しないことが大切になります。
クライエントの独特な言い回しを、カウンセラーが言い換えて記録しないことが求められます。言語だけでなく動作なども記録します。ちなみにロールシャッハ・テストにおける言語的表現を「ロールシャッハ反応」と呼び、動作や態度のことを「ロールシャッハ行動」と呼びます。
自由反応段階では、特に第Ⅰ図版でのカウンセラーの関わりが重要とされます。それは、人は慣れない場面では「直近の類似した体験をもとに行動する」という傾向があるためです。すなわち、第Ⅰ図版での対応が許容されると、それ以降もそれと同じ構えで応答することが考えられます。 - 質問段階(inquiry)
自由反応段階で得られた反応について、いろんな角度から「非指示的に」質問を行う段階です。例えば、「いろいろと答えてもらいましたが、これからそれが図版のどこに見えたか、どんなふうに見えたか、ということについてお尋ねします。それでは、もう一度図版をはじめから1枚ずつお見せしますから、私の質問に答えてください」と言った教示になります。
反応一つひとつに関しては、図版を見せつつ…「○○とおっしゃいましたが」などのように自由反応段階での反応を伝えるのが一般的手法となります。
この段階での目的は、何と言っても「コーディングの完成」になります。具体的には以下を完成させることが求められます。
・図版のどこに対してなされたのか(反応領域)
・いかにして決定づけられたのか(反応決定因)
・何を見たのか(反応内容)
これらが確定されないと、その後聞くことができるタイミングはありません。ここで終わらせておくことが鉄則です。ロールシャッハ・テストを教えるときに、必ず勧めているのが「同時コーディング」です。つまりテストを取りながらコーディングをするよう勧めています。初心者にこれを言うと「できません」という反応が多いのですが、これは「慣れ」によってずいぶん可能になります。 - 限界吟味段階(testing-the-limits)
限界吟味段階とは、自由反応段階・質問段階で生じた疑問を受検者にたずねていく段階です。片口法では重要視されている段階ですが、エクスナー法では行うことが前提となっていません。Klopferら(1942)が提唱した段階です。
ここでは前2段階に比べ、誘導的・暗示的・強制的になりますね。要は「こういう反応は出せていないけど、その辺はどうなのよ?」ということを明確にしていく段階と言えます。一般的によく示される反応だけど、その反応が見られないということは、被検査者の個人的・内的な要因に依っている場合が多いのです。例えば、人間を見る頻度が極端に低い、よく見られるはずの第Ⅲ図版で見られないとなると、限界吟味の対象となります。その限界吟味を行うことで、被検査者の性向を明らかにしていくわけですね。当然、この段階は検査者の熟練度が向上したうえでどうしても精度が求められる場合に限ったほうが無難とされています。それは被検査者の内面に踏み込む割合が高く、侵襲的な段階であるためです。
こうした段階を経て、検査に必要な情報を集めていくわけですが、限界吟味段階は方式によって省くので除外するとしても、ロールシャッハ検査において「自由反応段階」および「質問段階」は方式によらず必ず実施するものになっています。
そして、特に質問段階では被検査者が、どこを見たのか、如何に見たのか、何を見たのか、を明確にコーディングしていくことが求められ、検査者から被検査者に直接問いが向けられることもあります。
ですから、ロールシャッハテストは、検査者と被検査者の対面が前提となっていると言えますね。
以上より、選択肢⑤は検査者と被検査者の面接形式での実施が必須であると判断できます。