アセスメント・フィードバックを行う際の留意点に関する問題です。
アセスメントに関する基本的な姿勢を問われている内容になっていますね。
問61 8歳の男児A、小学2年生。Aは、「先生の話が分からない」、「学校が嫌い」と話し、授業中に他児に話しかけることや、立ち歩きも多かった。心配した保護者と担任教師はスクールカウンセラーBに相談し、Bの紹介で、Aは教育相談センターで心理検査を受けることになった。教育相談センターに勤務する公認心理師Cは、Bから、「検査の結果は、今後の学校におけるAの支援に役立てたい」という申し送りを受け、AにWISC-Ⅴを実施した。
Cが実施するアセスメント・フィードバックとして,最も適切なものを1つ選べ。
① アセスメントの結果は、まず紹介元であるBに送付する。
② 年齢を考慮し、A自身へのアセスメント・フィードバックは避ける。
③ アセスメント・フィードバックの内容は、伝える相手によって変えずに、同一にする。
④ 下位検査得点や行動観察も含めた結果を基に、アセスメント・フィードバックを行う。
⑤ 保護者にアセスメント・フィードバックを行う際は、Aの検査記録用紙の複写を資料として付ける。
選択肢の解説
① アセスメントの結果は、まず紹介元であるBに送付する。
② 年齢を考慮し、A自身へのアセスメント・フィードバックは避ける。
③ アセスメント・フィードバックの内容は、伝える相手によって変えずに、同一にする。
④ 下位検査得点や行動観察も含めた結果を基に、アセスメント・フィードバックを行う。
⑤ 保護者にアセスメント・フィードバックを行う際は、Aの検査記録用紙の複写を資料として付ける。
本問ではWISC-Ⅴという検査名は出てきていますが、検査そのものに関する問題ではなく、検査をしてフィードバックを行うにあたっての倫理やマナーに関する問題になっています。
状況としては、以下の通りですね。
- 8歳の男児A、小学2年生が「先生の話が分からない」、「学校が嫌い」と話し、授業中に他児に話しかけることや、立ち歩きも多いという状況。
- 心配した保護者と担任教師はスクールカウンセラーBに相談。
- Bからの紹介で、Aは教育相談センターで心理検査を受けることになった。
- 教育相談センターに勤務する公認心理師Cは、Bから、「検査の結果は、今後の学校におけるAの支援に役立てたい」という申し送りを受け、AにWISC-Ⅴを実施した
話は逸れますが、ちょっと気になるのが「Bからの紹介で」という部分です。
スクールカウンセラーとして勤務している場合、ときにはスクールカウンセラーとしての個人的なつながりや情報網の中で他機関を紹介することは確かにあり得るのですが、公的には「学校長の指示のもとに」実施されることになっているはずです。
ですから、スクールカウンセラー個人が紹介したと読み取れるような書き方には、やや問題を感じます。
さて、事例の状況ですと、学校→教育相談センター→学校という流れで検査結果が流れてくることが想定されています。
ですが、選択肢①にある「アセスメントの結果は、まず紹介元であるBに送付する」というのは間違った対応であり、教育相談センターで行った検査結果は、そこに守秘義務が生じますから、学校に送付するとすればまずはAおよびその保護者に了承を得る必要があります。
事前に送付許可をもらっていたとしても、紹介元である学校に送る前にAおよび保護者にフィードバックを行った後にするべきであるのは間違いありません。
一般的な手続きとしては、Aや保護者にフィードバックを行い、その内容を伝えた上で学校にも伝えてよいかの了承を得て、①保護者に検査結果を学校に持参してもらう、②センターから学校に検査結果を送る、のいずれかになるでしょう。
ちなみに、選択肢①の内容では「紹介元であるBに送付する」というところも変です。
先の話にもなりますが、あくまでも公的には「学校からの紹介」のはずですから、まるでB個人から紹介を受けたかのような書き方をしてある選択肢①は良くないと言えます。
さて、続いて選択肢②の「年齢を考慮し、A自身へのアセスメント・フィードバックは避ける」および選択肢③の「アセスメント・フィードバックの内容は、伝える相手によって変えずに、同一にする」ですが、これらはフィードバックを行う際の技術・マナーに関する内容になっています。
年齢が何歳であろうと、被検査者はこの一連のアセスメント行為の主体になります。
子どもの人権を持ち出すまでもなく、Aは自身の状態像や特性・能力について知る権利があり、周囲はきちんと伝えていくことが求められます。
当然、年齢を理由にフィードバックを行わないというのはあり得ない話であり、幼いのであれば相手に伝わるような表現を駆使して、伝える努力をする必要があります。
これが、選択肢③の内容にも絡んでくることになりますが、きちんと相手の理解能力を査定し、それに基づいた伝え方をしていくことが必須になりますね。
「アセスメント・フィードバックの内容は、伝える相手によって変えずに、同一にする」という対応で得られる利益は、伝えたい内容を常に一定にすることができるということが挙げられ、確かに相手によって表現を変えてしまうと、違った意味で伝わってしまう箇所が出てくるなどのリスクがあります。
しかし、そもそも「そういうリスクが起きないように、相手に伝える技術を高めていく」こと自体がカウンセラーとしての専門性なわけです。
そして、そういう努力をきちんとしているからこそ、カウンセラーの仕事はAIに奪われることがないものであり続けることができるわけです(相手によって説明を変えなくていいのであれば、子どもの問題を入力し、検査結果を入力すれば、それに適したフィードバック内容を出す程度はAIで十分です)。
さて、こうしたフィードバックに関する技術やマナーと一線を画すのが、選択肢⑤の「保護者にアセスメント・フィードバックを行う際は、Aの検査記録用紙の複写を資料として付ける」になります。
知能検査によっては著作権によって、コピーして専門家以外に渡すことが禁じられているものがあります。
専門家間で受検者の記録を伝達する場合に限り、記入済み記録用紙の複写が認められる場合が多いですね。
要するに、心理検査用具、マニュアル、検査用紙、記録用紙を、例え内容の一部であっても、無断で複製・複写して使用することは、著作権侵害にあたり、処罰の対象となり得ますから(そして、WISCに関してはその辺はとても厳しいです)、選択肢⑤の内容は単なるマナーの範囲を超えて「やったら著作権法違反になる」という可能性がある行為であると理解しておきましょう。
ちなみに、複写についてですが、こちらは電子ファイル化することも含まれていますから気をつけるようにしましょうね。
そもそも「なぜ出版元が複写を禁止しているのか?」ですが、あまり検査内容が一般に広がりすぎてしまうと、その検査結果の信頼性が揺らいできますからね(困った人になると、こういう検査をするから事前に練習させよう、などとする場合もあり得る)。
そして、最後に選択肢④の「下位検査得点や行動観察も含めた結果を基に、アセスメント・フィードバックを行う」ですが、当然こちらが正しい内容になります。
WISC-Ⅴでは、特定の認知領域の知的機能を表す5つの主要指標得点(VCI、VSI、FRI、WMI、PSI)と全般的な知能を表す合成得点(FSIQ)、子どもの認知能力やWISC-Vの成績について付加的な情報を提供する5つの補助指標得点(QRI、AWMI、NVI、GAI、CPI)を算出します。
こうした主要な指標得点・合成得点・補助指標得点だけでなく、下位検査の分析やそうした分析を実際の行動とも関連させながらフィードバックを行うことになります。
得られた検査結果をクライエントの利益として還元できるよう、あらゆる情報を用いてフィードバック内容を検討していくわけです。
魚の身だけでなく、皮や骨も使って料理をするように、検査結果についても「捨てるところがない」という状態にしておくことが大切なわけです。
以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。