公認心理師 2024-139

事例の病態評価のために行う心理検査を選択する問題です。

オーソドックスな「見立て→合致する検査を選択」という問題ですね。

問139 21歳の女性A、両親と同居中。アルバイトが長続きせず、家に閉じこもっていることを心配した親に連れられて、精神科クリニックを受診した。Aによると、小学生の頃から人前で話すのが苦手で、中学、高校でも、人から見られていると思うと強い不安を感じ、学校を休みがちであった。アルバイトでは、他の従業員が集まっているスタッフルームに後から入るときや、昼休みの雑談のときなどに特に緊張が高まって、欠勤してしまうことが増え、アルバイトを辞めてしまうことを繰り返していたという。
 Aの病態評価のために行う心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。
① CARS
② LSAS-J
③ PDSS
④ POMS
⑤ SDS

選択肢の解説

② LSAS-J

まずは本事例の特徴について挙げておきましょう。

  • 21歳の女性A。
  • アルバイトが長続きせず、家に閉じこもっていることを心配した親に連れられて、精神科クリニックを受診した。
  • 小学生の頃から人前で話すのが苦手で、中学、高校でも、人から見られていると思うと強い不安を感じ、学校を休みがちであった。
  • アルバイトでは、他の従業員が集まっているスタッフルームに後から入るときや、昼休みの雑談のときなどに特に緊張が高まって、欠勤してしまうことが増え、アルバイトを辞めてしまうことを繰り返していたという。

これらの状況を踏まえれば、本事例は社交不安障害の可能性を考える必要があります。

DSM-5の診断基準を示しましょう。


A.他者の注目を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。例として、社交的なやりとり(例:雑談すること、よく知らない人と会うこと)、見られること(例:食べたり、飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる。 注:子どもの場合、その不安は成人との交流だけでなく、仲間達との状況でも起きるものでなければならない。

B.その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている(すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう)。

C.その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する。
注:子どもの場合、泣く、かんしゃく、凍りつく、まといつく、縮みあがる、または、社交的状況で話せないという形で、その恐怖または不安が表現されることがある。

D.その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら堪え忍ばれている。

E.その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない。

F.その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヵ月以上続く。


事例の状況では、基準Aを満たしている可能性が高いですし、それ以外の基準も満たす可能性がかなり高いと考えられます。

ですから、本事例は「社交不安障害の可能性を探る」という目的をもって検査を実施することになるという前提に立ち、各選択肢を見ていきましょう。

Llebowitz Social Anxiety Scale(LSAS-J)=リーボヴィッツ社交不安尺度は、社交不安障害を測定する目的で開発された尺度であり、国際的にも広く用いられている社交不安障害の標準的な尺度とされています。

LSAS-Jは社交不安障害の臨床症状や薬物療法、精神療法の治療反応性を評価することを目的に欧米ではもちろんのこと、日本でも用いられています。

質問は24項目で、対人場面や人前で何かをするときの恐怖感、あるいはそういった場面の回避の程度など、両方を分けて測ることができます。

24の状況は行為状況と社交状況の2種類に分かれており、ランダムに混ざっています。

24項目の質問について、0~3の4段階評価した後、合算した得点によって、以下の4段階で重症度の評価を行います(総得点0~144点)。

  • 約30点:境界域
  • 50~70点:中等度
  • 80~90点:さらに症状が顕著;苦痛を感じるだけでなく、実際に社交面や仕事などの日常生活に障害が認められる
  • 95~100点以上:重度;働くことができない、会社に行けないなど社会的機能を果たすことができなくなり、活動能力がきわめて低下した状態に陥っている

こうした重症度の評価を行うことができるという点から、臨床効果の尺度としても用いられています。

なお、LSAS-Jに年齢制限はありませんが、設問は明らかに成人向けとなっています。

上記の通り、LSAS-Jは社交不安障害の評価に用いられるものですから、本事例に適用するのは妥当であると言えますね。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

① CARS

CARSとは、Childhood Autism Rating Scaleの略であり、その名の通り自閉症スペクトラム症(ASD)の診断評価とその重症度が測定できる検査になります。

行動観察と保護者からの情報を総合して判断するタイプの検査です。

特別な用具等を必要とせず、ほかの心理検査を実施しているときの対象者の様子などから評定するため、短時間で簡便に実施できます。

ASDの重症度が測定でき、軽度~中度のASDと、中度~重度のASDとの鑑別に有効であることが実証されています。

また、標準版ではASDと知的障害の鑑別に有効であることが実証されています。

評定用紙には「標準版」と「高機能版」があり、幅広い対象者に実施できるようになっています。

上記のような弁別になりますね。

本事例では、ASDを疑うような特徴が皆無とは言えませんが(コミュニケーションの問題が明確に存在する)、対人関係上の不安の強さが中核的に見える事例ですから、ASDよりも優先的に社交不安障害の可能性を見ていくことが重要になるでしょう。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

③ PDSS

PDSS(Panic Disorder Severity Scale:パニック障害重症度評価尺度)は、パニック障害の中核的特徴を評価する、7項目からなる臨床面接評価尺度です。

7 項目には、パニック発作と症状限定エピソード(Limited symptom episode:LSE)の頻度、パニック発作とLSEによる苦痛、予期不安、広場恐怖と回避、パニックに関連した感覚への恐怖と回避、職業上の機能障害、および社会機能障害が含まれます。

この検査ではパニック発作を「動悸、息ぎれ、窒息感、ふらつき、発汗、振戦といった不快な身体感覚を伴っている。しばしば、コントロールを失うのではないかとか、心臓発作が起こるのではないかとか、死んでしまうのではないかといった破局的な考えも生じる」と説明されます。

そして、上記の「症状限定エピソード」とは、完全なパニック発作に似ているが上記の症状の内3つ以下の随伴症状しかないものを指しており、これに対して完全なパニック発作は少なくとも4つの症状を伴うとされています。

尺度の施行には 10~15分を要します。

詳しくはこちらのサイトを見てみるとわかりやすいでしょう。

上記の通り、PDSSはパニック障害の評価で用いる尺度になりますから、本事例において優先的に実施するものとは言えないですね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ POMS

POMS(Profile of Mood States)はアメリカで開発された気分状態を評価する質問紙検査で、日本語版は1994年に作成されています。

65項目の質問から過去1週間の気分を評価し、緊張‐不安、抑うつ‐落ち込み、怒り‐敵意、活気、疲労、混乱の6尺度によるプロフィールを産出します。

2015年には改訂版のPOMS2日本語版が発表され、質問項目の変更がなされました。

活気、疲労、混乱はそれぞれ、活気‐活力、疲労‐無気力、混乱‐当惑へ変更され、友好尺度が追加されています(つまり、POMS2は7尺度)。

ネガティブな気分状態を総合的に表す「TMD得点」から所定の時間枠における気分状態を評価する検査になります。

なお、成人用(18歳以上)に加え、青少年用(13~17歳)があります。

上記の通り、POMSは気分状態を評価する尺度であり、本事例に優先的に実施するものとは言えません。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ SDS

SDSの目的は、抑うつ傾向の度合いを数値化することによって客観的に判断することです。

自己評価式の抑うつ尺度であり、適用年齢は15歳以上とされています。

40点未満で抑うつ性は乏しい、40点台で軽度抑うつ性、50点台で中度以上の抑うつ性とされています(このcut off関係の情報は不要になりましたね)。

本事例では「家に閉じこもっている」など気がかりな特徴はありますが、明確な抑うつを想定する記述がないことや、社交不安を優先的に評価していくのが妥当であると考えられますね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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