Finnの治療的アセスメントに関する問題です。
活動している領域によっては、自然と「治療的アセスメント」をしている人も多いでしょうね。
問42 S. E. Finnの治療的アセスメントについて、不適切なものを1つ選べ。
① 標準化された心理検査を用いる。
② アセスメントを行う者の個性の影響を取り除く。
③ 心理検査の結果についてクライエントと対話する。
④ アセスメントのプロセス自体が心理療法とみなされる。
⑤ クライエントにアセスメントで何を明らかにしたいかを尋ねる。
解答のポイント
「治療的アセスメント」について把握している。
選択肢の解説
① 標準化された心理検査を用いる。
② アセスメントを行う者の個性の影響を取り除く。
③ 心理検査の結果についてクライエントと対話する。
④ アセスメントのプロセス自体が心理療法とみなされる。
⑤ クライエントにアセスメントで何を明らかにしたいかを尋ねる。
本問の解説については、こちらの論文の内容を基盤に作成していきます(ほぼこちらの論文だけで解説されていると言ってもよいので、かなり転記していることになります。コピペができなかったので転記でも大変でした…)。
「治療的アセスメント」という用語は、1993年にStephen Finnによって生み出されました。
心理アセスメントは単に心理学的な診断や介入法の計画をするだけのものではないとし、テキサス州オースティンに治療的アセスメントセンターを設立し、彼ら独自の「治療的アセスメント」の普及に努めています。
FinnはConstance Fischer、Leonard Handlerなどの研究を引用しつつ治療的アセスメントの研究を展開していきましたので、その歴史を振り返る意味で各人のアプローチを述べていきましょう。
まずはFischerですが、1970年代に現象学的心理学に基礎を置いた心理アセスメントモデルを提唱しました。
彼女はこのモデルを「協働的心理アセスメント」という用語を用いて表現しており、クライエントと協働することで、クライエントが自分史を語ったりする過程が治療的であると見なしました。
彼女のアプローチの主要な原理は以下の5つになります。
- 協働:査定者とクライエントは、アセスメントを通して役立つ理解に到達するように協働する。クライエントはアセスメントの目的を話し合い、自分のテスト反応の意味を話し合い、そしてフィードバックの文書を書く中でも積極的に話し合う。
- 文脈:クライエントはある特性の集合体あるいは力動的なパターンがセットされたものとしては見なされない。彼らが生きている世界の文脈の中で、彼らの成長や変化が探求される。
- 介入:アセスメントのゴールは、その人の現在の状態を記述・分類することではなく、クライエントが新しい考え方や在り方を発見することであり、査定者はそれを支持するよう介入する。
- 記述:クライエントの行動を説明するために「特性」や「防衛」といった構成概念を使用することを避け、できる限りいつもクライエント自身の言葉を使い、読む側がクライエントの世界に入り込めるような記述をする。
- 複雑性、全体性、多様性を尊重する:査定者は私たちの生活は複雑な相互関係から成り立っていることを尊重すべきである。アセスメントのゴールは、説明することよりもむしろ理解することである。
こうした原理に基づくさまざまな具体的なアプローチも提唱しており、そのアプローチの中には現在では臨床実践で広く使われているものも多いです。
続いて、Handlerの子どもの治療的アセスメントについて述べていきましょう。
彼は、成人についての協働的アセスメントについても多くの業績を有しますが、子どもに対して革新的な協働的アセスメントを用いたことでよく知られています。
例えば、ロールシャッハの質問段階において、子どもに創造的な探求(キノコを見たら「そのキノコが話したら何て言う?」など)を求めるなどです。
また、子どもと協働して物語を話したり、現在はFantasy Animal Drawing Game(今まで見たことが無いような動物を描くよう子どもに求め、その物語の中で語られるメッセージを聞き、その物語の続きを話すことでメッセージを送り出す)といわれる方法を発明したりしています。
Handlerの弟子であるHilsenrothは、協働的心理アセスメントは伝統的情報収集アセスメントよりも査定者・治療者とクライエントの良好な治療契約を導き出すということを証明し、また治療契約におけるこの利点は、クライエントの治療上の助言に対するコンプライアンスを高め、その後の治療も長期に維持することができるということを証明しました。
その起源は、FinnやFischerのアプローチにありますが、以下の点において多少の相違があります。
- クライエントへの共感的接触
- クライエントと協働して作業し、個別にアセスメントのゴールを設定する。
- クライエントと共にアセスメント結果を分かち合い探求する。
つまり、Hilsenrothの最大の強調点は、関係性の確立、アセスメント終わりのフィードバック、そして、臨床家はクライエントにはっきりした感情のこもった言葉を使い、クライエントと他者との間で周期性に生じている問題についてクライエントが気づくように援助するために臨床家は逆転移を用いるということです。
Finnは同僚と共に治療的アセスメントセンターで発展させた半構造化を用いた協働的アセスメントを、「治療的アセスメント(Therapeutic Assessment:TA)」として定義づけました。
彼らの提唱する治療的アセスメントは半構造化された協働的な治療的アセスメントであり、こうした考え方に至る前に、クライエントの情報や見立ての決定目的とする「情報収集モデル」とクライエントの肯定的な変化を目的とする「治療的モデル」に二分し、①査定のゴール、②査定のプロセス、③テストの観点、④着眼点、⑤査定者の役割、⑥査定の失敗の定義という6つの次元からアセスメントを検討しています(上記の引用文献を参照)。
その上で、最近のアセスメントの危機は「情報収集モデル」を強調しすぎたために起こっていると指摘しています。
しかし、彼らは、従来のアセスメントを否定しているわけではなく、両モデルは補完的であるとし、半構造化されたシステムの中でいかに「治療的な」用い方をするべきかを提唱しました。
実際の手続としては、FischerやHandlerの技法を取り入れながら、以下のようなステップで構成されています。
- 初回セッション:カウンセリングでの治療契約とでも言うべき課題を遂行する。今どんなことで困り、その背景にどのようなことがあるのか、結果をどのように使うか等について話し合う。費用、期間などの取り決めなども行う。
- 標準化されたテストセッション:標準化されたテストをいくつか選択し、実施する段階である。いわゆるテストバッテリーが組まれて実施される。
- アセスメント介入:標準化されたテスト結果から得られた仮説を、クライエントともに更に探求する段階である。例えば、TATから何枚かの絵を選び、物語を作ってもらうとか、時には標準化されたテストを独創的な方法で用いたり、ロールプレイや心理劇、描画法が実施されたりする。
- まとめと話し合いのセッション:今までの結果を振り返り、クライエントの問題がどのように解消したかを話し合う。できれば、1で語られたクライエントの疑問に答えを提供できるように。
- 書式によるフィードバックが準備されるセッション:今までのステップで話し合われ、検証されてきたことが文書の形でクライエントに渡される。
- フォローアップセッション:5の数か月後にフォローアップのセッションが設けられる。
協働的アセスメントでも言えることですが、Finnの治療的アセスメントは、それ自体が短期的なカウンセリングになるように設えられていると考えることができますね。
もともと短期力動的精神療法というアプローチでも、類似したアプローチが行われているように思えますが、こちらの場合は「精神分析への適応を見る」という意味合いも強いため、それ自体を治療として扱う治療的アセスメントとは似て非なるものという印象です。
上記を踏まえ、各選択肢を見ていきましょう。
まず、選択肢①の「標準化された心理検査を用いる」や、選択肢③の「心理検査の結果についてクライエントと対話する」、選択肢⑤の「クライエントにアセスメントで何を明らかにしたいかを尋ねる」などは、Finnの示したステップの中で明示されている内容となり、治療的アセスメントの記述として適切なものと言えます。
また、選択肢④の「アセスメントのプロセス自体が心理療法とみなされる」というのも、治療的アセスメント(歴史的に見れば協働的アセスメントという表現でも可でしょう)の基本的な考え方を明示したものになっていますね。
一方、選択肢②の「アセスメントを行う者の個性の影響を取り除く」というのは、治療的アセスメントが治療的側面を含む以上それ自体がむしろ困難であり、査定者の人格・個性というものを「前提」として扱っていくことが重要になります。
以上より、選択肢①、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤が適切と判断でき、選択肢②が不適切と判断できます。