言語表現力が十分でない被検査者へのWAIS-Ⅳの実施の留意点に関する問題です。
α検査、β検査という歴史も踏まえて理解しておくとより深みが出るでしょうね、たぶん。
問95 手話をコミュニケーション手段とする被検査者にWAIS-Ⅳを実施する。回答場面におけるやりとりに際して、結果に影響が出ないように注意を必要とする下位検査として、最も適切なものを1つ選べ。
① 符号
② 類似
③ パズル
④ 行列推理
⑤ バランス
解答のポイント
WAIS-Ⅳにおける各下位検査の分類及び具体的な実施方法を理解している。
選択肢の解説
① 符号
② 類似
③ パズル
④ 行列推理
⑤ バランス
まずはWAIS-ⅢとWAIS-Ⅳの変更点についてさらっておきましょう。
- 動作性IQと言語性IQの廃止:下位検査での得点にばらつきがあると、意味を持たず有用ではなくなってしまうため、WISC-Ⅲまでは動作性IQと言語性IQが算出されていましたが、WISC-Ⅳからは算出されなくなりました。
- 試験時間の短縮、下位検査の変更・削減:WISC-Ⅲでは下位検査が12あったのに対し、WISC-Ⅳでは下位検査が10になりました。そのため試験時間も短くなり受験生の負担は減少しました。また下位検査の中にも変更されたものもあります。下位検査は新たに3つの下位検査「パズル」「バランス」「絵の抹消」が追加され、「数唱」に数整列の課題が加わっています。WAIS-IIIにあった「絵画配列」「組合せ」は廃止され、「符号」の補助問題が削除されています。
- 細かい用語の変更:群指標(WISC-Ⅲ)→指標得点(WISC-Ⅳ)、言語理解(VC)→ 言語理解指標(VCI)、知覚統合(PO)→ 知覚推理指標(PRI)、注意記憶(FD)→ ワーキングメモリー(WMI)、処理速度(PS)→ 処理速度指標(PSI)などのように改められました。
こうした変更点をまずは押さえておきましょうね。
続いて、各下位検査の分類について記述していきましょう。
言語理解指標 (VCI) | 知覚推理指標 (PRI) | ワーキングメモリ指標 (WMI) | 処理速度指標 (PSI) | |
基本検査 | 類似 単語 知識 | 積木模様 行列推理 パズル | 数唱 算数 | 記号探し 符号 |
補助検査 | 理解 | バランス:16~69歳のみ 絵の完成 | 語音整列:16~69歳のみ | 絵の末梢:16~69歳のみ |
WAIS-Ⅳでは、全体的な認知能力を表す全検査IQ(FSIQ)と、4つの指標得点を算出します。
基本検査のみですべての合成得点が求められますが、本問では補助検査の内容も問われていますね。
上記のうち、特に言語理解指標は語彙やことばで説明する力などを測る指標ですから、ここに含まれる選択肢②の「類似」が一番あやしい(言語を使えないと結果に影響するんじゃないの?)とアタリをつけることができますよね。
以下では、各項目の内容を解説していきましょう。
群指数の概要と、下位検査の簡単な実施方法および検出する能力を記載していきます(こちらのサイトがわかりやすかったので、こちらから引用しつつ)。
【言語理解:言語的なことに対する理解や把握の能力】
- 類似:2つの言葉の共通点や類似点を答える;概念を理解し、推理する能力
- 単語:単語の意味を答える;単語の知識や言語概念の形成について
- 知識:一般的な知識に関する質問に答える;一般的な事実に関する知識の量や学習について
- 理解:一般原則や社会的状況についての質問に答える;社会性や一般常識を理解する能力
【知覚推理:目で見て物事を理解したり操作したりする能力】
- 積木模様:モデルと同じ模様を積木を使って作成する;抽象的な視覚刺激を分析して統合する能力
- 行列推理:不完全な行列を完成させるのにもっとも適切なものを選ぶ;流動性知能や視覚性知能、空間に関する能力
- パズル:組み合わせると見本と同じになるものを選ぶ;視覚刺激の分析に関する能力
- バランス:天秤が釣り合うために適切な重りを選ぶ;量的な推理、類比的な推理の能力
- 絵の完成:提示された絵の中で欠けているものを答える;重要なところとそうではないところの見分けの能力
【ワーキングメモリー:記憶や注意集中に関する能力】
- 数唱:耳で聞いた数字を復唱する;特に聴覚的な記憶力や注意力に関する能力
- 算数:算数の文章題を暗算で答える;計算能力や記憶力に関する能力
- 語音整列:かなと数字を順番に並べる;記憶力、継次処理、注意力に関する能力
【処理速度:手先の器用さやスピードに関する能力】
- 記号探し:刺激となる記号があるかどうかを探す;作業効率や集中力に関する能力
- 符号:見本となる記号を書き写す;視覚的な認知やスピードに関する能力
- 絵の抹消:さまざまな図形の中から特定の図形を探す;選択的な注意や運動に関する能力
さて、上記を踏まえて、各選択肢の実施内容から正誤判断をしていきましょう。
ちなみに画像で示せるとわかりやすいものも多いのですが、WAISに関しては版権の都合等により、そういったものを示すことが困難です。
ちょっと大変ですが、言葉で説明していくとしましょう。
まず選択肢①の「符号」ですが、これは見本を手掛かりに、数字とペアになった記号を制限時間内に書き写させる検査です。
符号に限らず、すべての下位検査に教示はあるわけですが、数字とペアになった記号を書き写すということに関しては、比較的言語が通じなくても共通理解しやすいと考えられますね。
選択肢②の「類似」は、問題の例としては「ネコとキリンは、どのように似ていますか?」と問い、その上位概念発見の能力を見る検査で、結晶性知能、抽象的思考、聴覚理解、記憶、推論的および分類的思考、重要な特徴とそうでない特徴の区別、および言語表現の程度も反映すると考えられています。
こうした形式の検査を「手話をコミュニケーション手段とする被検査者」に実施する場合、例えば、「どうやって、こちらから2つの概念を伝えるのか」「それをどのように回答するのか」などの問題が出てくることがわかるはずです。
各検査項目には、細かく採点基準が設けられており(例えば、上記の例なら、哺乳類、四つ足動物など)ますが、「正しく認識している感じがするけど、手話や筆談での回答だと基準を完全には満たさない」という場合が、複雑な問題ほど生じてくる可能性が高いわけです。
手話や筆談で回答するにしても、それでは不十分と感じてQ(question)を入れると、ヒントになってしまったり、健常の被検査者ならしないであろう聞き方になってしまう恐れもあります。
このように、類似という言語理解に属する下位検査だと、どうしても言語的なやり取りに依存した回答を求めてしまうという点が見受けられ、結果が実際よりも良いor悪いという形で出てしまうことが懸念されます。
選択肢③の「パズル」ですが、これは選択肢の中から組み合わせると見本図版と同じになるものを3つ、制限時間内に選ぶ課題です。
このような出題形式であれば、被検査者が一旦理解を示せば、それほど言語的な説明なしにスムーズな実施が可能であることがわかりますね。
原版では26問で構成されており、文化や言語の差異を検討した結果、これらを考慮する必要は認められなかったため、原版のまま26問で構成されています。
こうした背景も踏まえれば、被検査者の言語能力に結果が大きく左右されない下位検査であると言えるでしょう。
選択肢④び「行列推理」は、一部が空欄になった図版を示し、その空欄に当てはまるものを選択肢の中から選ばせる課題です。
主に流動性知能、視覚性知能、分類および空間能力、部分と全体の関係の理解、同時処理、知覚体制化を反映すると考えられています。
行列推理の検査内容から見ても、被検査者が一旦理解を示せば、それほど言語的な説明なしにスムーズな実施が可能であることがわかりますね。
選択肢⑤の「バランス」ですが、知覚推理指標の補助検査で、重りの一部が隠されている天秤を見て、その隠されている重りとして適切なものを選択肢の中から、制限時間内に選ぶ課題です。
原版は27問で構成され、問題を検討した結果、言語や文化の差を考慮する必要性が認められなかったので、原版の27問のままで日本版も用いられています。
日本版にする過程で言語や文化の差を考慮する必要がなかったことや、検査内容が、被検査者が一旦理解を示せば、それほど言語的な説明なしにスムーズな実施が可能であることがわかりますね。
こうした言語能力の有無によって検査内容を考慮せねばならないという事態は、そもそも知能検査の歴史の初期からありました。
というのは、知能検査が活発に使用された最も初期の例は、戦争において兵士の能力を見極め、その能力に応じた場所に配置するために知能検査を用いたということだからです。
多様な民族が混ざり合う国であるほど、言語が共通しないという事態があり、民族が混ざり合う国であるほど、言語が共通しないという事態があり、これらの人たちに、集団的に知能検査を実施したという歴史があります。
これが集団式知能検査の起源であり、オーティスは1918年にターマン(ビネー式検査の有名な改定を行った人)と協力して軍人徴兵用の集団式の「α式検査」「β式検査」を開発しました。
有名なアメリカ軍部の集団知能検査としては、R・M・ヤーキーズらが1918年に開発した「USアーミー・テスト(米国陸軍式知能検査)」があります。
ヤーキーズは、英語を母国語とする兵士たちの知能水準を言語機能(語彙・文法・論理・記憶など)で測定する「α式検査」と、英語の読解能力が十分でない移民・外国人の知能水準を図形・記号・数字・絵画などの問題で計測する「β式検査」を作成しました。
本問の下位検査を分類するなら、類似はα検査に近く、それ以外はβ検査に類するものと考えてよいでしょうね。
以上より、手話をコミュニケーション手段とする被検査者にWAIS-Ⅳを実施するにあたって、結果に影響が出ないように注意を必要とする下位検査としては、選択肢②の類似が最も適切と判断できます。
よって、選択肢①、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は、不適切と判断できます。
いつもお世話になっております。
wais-Ⅳが難しくてご教示頂きたいのです。
①聴覚は、「類似:口頭で提示された言葉がどのような点で似ているかを答える」でも「数唱:読み上げられた数字を決められた順に答える」や算数、語音整列でも影響を受ける。
②しかし、出題には「類似」はあるが、他の項目は聴覚の影響がない。
③言語理解では、口頭でというのは「類似」のみ。ワーキングメモリーでは、数唱、算数、語音整列とも読み上げや口頭だが、今回の主題にはない。
➃よって、「類似」が正解という理解で宜しいでしょうか。