問61は適切な検査を選定する問題です。
問60と同様に、過去に出題されている検査ばかりですので、間違えないようにしたいところです。
やはり対象年齢を押さえておくことが大切です。
問61 2歳2か月の男児A。Aの保護者は、Aの言葉の遅れと、視線の合いにくさが気になり、市の相談室に来室した。現時点では、特に家庭での対応に困ることはないが、同年代の他の子どもと比べると、Aの発達が遅れているのではないかと心配している。また、どこに行っても母親から離れようとしないことも、気にかかるという。
Aの保護者からの情報とAの行動観察に加え、公認心理師である相談員がAに実施するテストバッテリーに含める心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。
①WPPSI-Ⅲ
②CAARS日本語版
③新版K式発達検査
④日本語版KABC-Ⅱ
⑤S-M社会生活能力検査
まず本事例で示されているのは「2歳2か月の男児」「Aの言葉の遅れと、視線の合いにくさ」を有していること、現時点では困っていないが「同年代の他の子どもと比べると、Aの発達が遅れている」という心配があることですね。
加えて「どこに行っても母親から離れようとしないこと」も示されております。
ただし、「Aの保護者からの情報とAの行動観察に加え」とありますから、「どこに行っても母親から離れようとしないこと」に関してのアセスメントはそちらで実施可能と見なして良いだろうと考えることができます。
なぜなら「どこに行っても母親から離れようとしないこと」に関しては、2歳2か月の幼児には見られやすい反応であり、それを即発達的・心理的な問題と見なすのは早計だと思われるためです。
もちろん、だからと言って軽視することはできません(発達的な問題と絡んで、こうした分離に伴う不安も生じやすい)から、「Aの保護者からの情報とAの行動観察」でその状態を細やかに判定していくことが大切になります。
以上より、「2歳2か月の男児」「Aの言葉の遅れと、視線の合いにくさ」「同年代の他の子どもと比べると、Aの発達が遅れている」という点に重きを置いた検査の選定が重要になってくると考えられ、その観点から採用される検査を決定していきます。
解答のポイント
各検査の目的、構成尺度、適用年齢を把握していること。
選択肢の解説
①WPPSI-Ⅲ
WPPSIは、ウェクスラーによって考案された幼児用個別式知能検査です。
成人用のWAIS、児童用のWISC同様、ウェクスラーの知能観を反映し、その特徴を備えています。
ウェクスラーは知能を「目的的に行動し、合理的に思考し、能率的に環境を処理するための、個人の総合的、全体的能力」と定義し、質的に異なる知的能力から構成されていると考えました。
そこで、それぞれの異なる能力をはかるための複数の下位検査からなる検査を考案しました。
当初、就学前の子どもの能力を適切に評価できる検査が欲しいという声に応えるべく、はじめはWISCの適用年齢を引き下げようとしましたが、予備実験の結果、断念したとされており、別枠でWPPSIを作成したということになります。
よって、基本的にはWISCらと同様の能力を測ろうとしています。
WPPSIの対象年齢は2歳6カ月~7歳3カ月であり、その狭さがWPPSIが使用されにくい一因となっています。
上記の通り、事例の状態にマッチする面はあるのですが、年齢が対象から外れているのでWPPSIを採用することはできません。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
②CAARS日本語版
Conners’ Adult ADHD Rating ScalesでCAARSになります。
2018追加-72の選択肢①に出題されております。
アメリカの著名なADHDの研究者であるキーズ・コナーズ博士が開発した、成人ADHDの症状の重症度を把握するための評価尺度となっております。
日本語版は18歳以上の成人を対象にしていますね。
なお、DSM-IVによるADHD診断基準と整合性のある尺度になっています。
「自己記入式」66項目と「観察者評価式」66項目から成っており、複数の回答者からの情報をもとに包括的に評価を行います。
以下の通り、構成されています。
- 注意不足/記憶の問題
- 多動性/落ち着きのなさ
- 衝動性/情緒不安定
- 自己概念の問題
- DSM-IV不注意型症状
- DSM-IV多動性-衝動性型症状
- DSM-IV総合ADHD症状
- ADHD指標
回答に一貫性があるか判別する指標(矛盾指標)も設けられております。
事例の状況では「2歳2か月の男児」「Aの言葉の遅れと、視線の合いにくさ」「同年代の他の子どもと比べると、Aの発達が遅れている」というADHDというよりもASDのニュアンスが強いこと、年齢が対象外であるなどの理由から、本検査は適用できないことがわかります。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
③新版K式発達検査
2018追加-129などで何度も出題のある検査になりますね。
新版K式発達検査については、こちらでも過去にまとめています。
Gesell,A.の発達理論に基づいた検査であり1951年に嶋津峯眞、生澤雅夫らによって、京都市児童院(1931年設立、現・京都市児童福祉センター)で開発されました。
彼らはこの検査の目的を「子どもの精神発達の状態を、精神活動の諸側面に渡って観察し、心身両面にわたる発達障害などについて適切な診断を下すための資料を提供する」ところにあるとしています。
この検査は328項目で構成されています(実施項目は20~50項目ほど)。
改訂前は0歳3か月~14歳0か月までだったが、これを拡大して0歳3か月未満児に対する尺度を整備するとともに成人まで適用可能になっています。
同一の被検者に対して、数回の検査を実施することが可能であるため、結果を並べて分析できる(=発達の変化を捉えやすくなる)という利点があります。
聴取による判定をできるだけ避けて、検査場面の子どもの行動から判断する検査です。
※保護者からの聴取による判定は、「禁止」という強い文言ではなく「薦められていない」というニュアンス。やむを得ない場合は聴取による判定も有り得る。
新版K式発達検査において、結果として算出するのは以下の項目になります。
- 全領域
- 姿勢・運動領域:
粗大運動(全身を使った運動:走る、歩くなどのこと)を中心とする運動に要する身体発達の度合い。3歳6か月以降は課題が設定されていない。 - 認知・適応領域:
手先の巧緻性や視知覚の力などの視覚的な処理と操作の力 - 言語・社会領域:
言葉のほかに大小や長短などの抽象的な概念や数概念を含む対人交流の力
④日本語版KABC-Ⅱ
まずK-ABC(Ⅱじゃない方)は、2歳6か月~12歳までの子どものための個別式知能検査です。
その特徴としては…
- 認知処理能力と習得度を分けて測定すること
- 認知能力をルリア理論(継時処理と同時処理)から測定すること
…などが挙げられます。
すなわち、認知処理過程尺度に継時処理尺度(3つの下位検査)と同時処理尺度(6つの下位検査)があり、それとは別に習得度尺度(5つの下位検査)が加わる形で構成されています。
算数や読み(習得度)などで困難さを示す発達障害等のある子どもにとっては、情報を処理する認知処理能力を習得度(語彙や算数など)と分けて測定することが望ましいというのがカウフマン夫妻の考え方です。
2004年に、K-ABCが改訂されてKABC-Ⅱが刊行されました。
日本版KABC-Ⅱでは、「認知-習得度」というカウフマンモデルを継承しながら、大幅な改良が加えられています。
主な点としては、以下が挙げられます。
- 適応年齢の上限が12歳11か月から18歳11か月になった(下は2歳6か月)。
- 認知処理の焦点が「継時、同時、計画、学習」と拡大された。
- 習得度で測定されるものが「語彙、読み、書き、算数」と拡大した。
⑤S-M社会生活能力検査
S-M社会生活能力検査は、1歳から13歳までの子どもの社会生活能力の発達を測定するために考案された質問紙で、日常生活の中で観察できる各発達段階の社会生活能力を代表する130の生活行動項目で構成されています。
各々の項目は以下の6つの領域に分けられます。
- 身辺自立:衣服の着脱、食事、排せつなどの身辺自立に関する生活能力
- 移動:自分の行きたいところへ移動するための生活行動能力
- 作業:道具の扱いなど作業遂行に関する生活能力
- 意思交換:言葉や文字によるコミュニケーション能力
- 集団参加:社会生活への参加の具合を示す生活行動能力
- 自己統制:わがままを抑え、自己の行動に責任をもって目的へと方向づける能力