公認心理師 2018追加-61

34歳の男性、会社員の事例です。

事例の内容は以下の通りです。

  • 1年前、バイク事故により頭部を打撲し意識障害が見られたが、3日後に回復した。
  • 後遺症として身体的障害はみられなかった。
  • 受傷から9か月後に復職したが、仕事の能率が悪く、再度休職になった。
  • 現在の検査所見は、以下の通りである。
  • 順唱6桁、逆唱5桁
  • リバーミード行動記憶検査標準プロフィール点9点
  • WAIS-Ⅲ:FIQ82、VIQ86、PIQ78
  • 遂行機能障害症候群の行動評価〈BADS〉総プロフィール得点20点
  • SDSうつ性自己評価尺度総得点30点
検査所見により示唆される主たる障害として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
こちらの問題は、各検査で何を測れるのか、それぞれの検査のカットオフポイント、を把握しておくことが求められている問題ですね。
それぞれの問題を評価する代表的な検査が列挙されています。

解答のポイント


各検査が測っている問題と、カットオフポイントを把握していること。

選択肢の解説

『①記憶障害』

ここはリバーミード行動記憶検査の値が重要になります
この検査は高次脳機能障害でも特に記憶障害を見ることができます
名称は、オックスフォード大学のリバーミードリハビリテーションセンターで開発されたことによります。
より日常生活に近い状況をシミュレートして日常記憶の診断を行う点に特徴があります。

質問項目は以下の通りです。

  1. 姓名の記憶:
    顔写真を2枚見せ、それぞれ姓名を記憶させる。時間を置いてから顔写真のみで姓名を答えさせる。
  2. 持ち物の記憶:
    被験者の持ち物を一つ(または二つ)預り、隠す。他の検査終了後に思い出させて返却を要求させる。
  3. 約束の記憶:
    最初に約束事と答えを決める。20分後にアラームが鳴るようにセットし、鳴ったら決められた質問をする。
  4. 絵の記憶:
    絵を見せ、時間を置いてから内容を質問する。
  5. 物語の記憶:
    短い物語を聞かせ、直後と時間経過後に2回物語の内容を再生させる。
  6. 顔写真の記憶:
    顔写真を見せ、あとからどれが正しい顔写真か答えさせる。
  7. 道順の記憶:
    部屋の中で施験者が道順をたどって見せ、時間を置いて被験者が正しい道順をたどれるかを見る。
  8. 用件の記憶:
    7.の途中で、他の用事を直後と時間を置いて2回行わせる。
  9. 見当識:
    日付、場所、知事名を質問する。

上記の結果から、スクリーニング点と標準プロフィール点を算出します。
スクリーニング点は記憶障害全般、標準プロフィール点は日常生活における障害の度合いを見ます。

本選択肢の判断で重要なのは、カットオフポイントを知っていることです。
この検査の特徴として、年齢ごとにカットオフポイントが定められています。

  • スクリーニング点
    39歳以下:7/8
    40~59歳:7/8
    60歳~:5/6
  • 標準プロフィール点
    39歳以下:19/20
    40~59歳:16/17
    60歳~:15/16

上記の通り、事例の男性が示している9点という値はかなり低いことがわかります
ちなみに低い数値が「障害あり」で、高い数値が「境界線」です。

更に、標準プロフィール点の重症度ごとの点数は以下の通りです。

  • 0~9点:
    重度記憶障害。日常生活の自立は困難で、介助が必要とされる。
  • 10~16点:
    中等度記憶障害。多少のサポートが必要な段階から、自分で外的記憶補助装置(ノートとか)を用いて対処することができる。
  • 17~21点:
    ボーダーライン/軽度記憶障害。一人で買い物が可能になるなど。仕事も可能になる可能性がある。
  • 22~24点:
    正常
上記の通り、事例の男性は重度記憶障害と判断される数値になっています
以上より、選択肢①が適切と判断できます。

『②知能障害』

まずは「知的障害」ではなく「知能障害」であることをきちんと理解しましょう。
知的障害の場合は発達期に出現するという条件があるため、本選択肢では「知的障害」ではなく高次脳機能障害としての「知能障害」ということになります。
交通事故など、外傷性の脳損傷を原因とする高次脳機能障害で知能障害が認められることはよくあります。
知能の障害を判断するためには、IQの数字と適応行動に制約があるか否か、などを見ていきます
WAISのFIQ82より、知能の障害については否定されます
適応行動については記載がありませんが、仕事に復帰できていることを考えると大きな問題はないと推察できますね

もちろん、元々の知能よりも大幅に下がっているということがあれば、継続的に経過を見ていくことが重要になります。
しかし、現状において「知能の障害がある」と判断することは難しいでしょう。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

『③注意障害』

注意とは「外的事象や内的表象(頭に浮かぶ考えや記憶等)のなかで、最も重要なものを選択して、それに対する脳の反応を増幅させる機能」であり、「適切な事象の選択、意識の集中と持続、他の事柄への移動、ならびにそれら全体を制御していく機能」とされています。

注意機能を測るものとして数唱がよく使われます
数唱は聴覚的ワーキングメモリーを測っており、これは注意力や集中力の源と言えます
例えば、標準注意検査法(CAT)において数唱は下位検査に加えられており、ウェクスラー記憶検査にも注意/集中の指標に数唱が入っています。
注意障害があると、数唱の成績が悪くなりがちです。

順唱が5桁以下、逆唱が3桁以下の場合は、意識障害をはじめとする非特異的な要因が否定できなくなります
この数字の根拠として、順唱はMillerの「不思議な数字7±2」が重視されて5桁以上で正常と判断され、逆唱は武田(2011)より3桁以上で正常とし、それらを超えていれば聴覚的ワーキングメモリーの即時記憶と全般的注意は保たれていると判断します。

事例の成績はこれらを超えていますので、注意障害がありとはなりません
よって、選択肢③は不適切と判断できます。

『④抑うつ障害』

こちらはSDSうつ性自己評価尺度を見ることが求められています。
Zungにより考案された抑うつ尺度で、20項目の質問からなり、いずれも4段階評価を行います。

Zungはうつ病のカットオフポイントを40点として、

  • 40~47点:軽度
  • 48~55点:中等度
  • 56点~:重度
としました。
一般臨床では50点以上あるとうつ状態にあると判断するとされています

事例ではSDS30点となっているので、うつ状態と判断することはできません
よって、選択肢④は不適切と判断できます。

『⑤遂行機能障害』

こちらは遂行機能障害症候群の行動評価〈BADS〉を見ることが求められており、BADSは日常生活上の遂行機能に関する問題点を検出するための検査です
カードや道具を使った6種類の下位検査と1つの質問紙から構成されています。
各下位検査は0点~4点で評価され、全体の評価は各下位検査の評価点の合計24点満点でプロフィール得点を算出します。

ちなみに遂行機能とは、「目的のある一連の行動を有効に行うために必要な認知能力」のことを指し、「実行機能」とも言います。
あらゆる日常生活のあらゆる場面で必要となり、何かの問題を解決するために用いられる認知能力です。

遂行機能には以下のような要素が含まれる。
  • 意思や目標の設定:
    会話を始めない、感情の平板化、冷蔵庫が空でも買い物に行かない、などとなる。
  • 計画の立案:
    話をまとめにくくなり、話題が飛んで核心に迫らなかったり、買い物が行き当たりばったりになるなど。
  • 目的ある行動・計画の実行:
    衝動買いが多くなるなど。
  • 効果的に行動する:
    相手が関心がなくても話し続けるなど。
BADSでは、目標の設定、プランニング、計画の実行、効果的な行動という遂行機能の4つの要素を、カードや道具を使った6種類の下位検査と1つの質問紙で検査します
BADSの総プロフィール得点のカットオフポイントは11/12となっておりますから、事例の20点というのは問題がない値と言えます
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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