KABC-Ⅱについて、正しいものを1つ選ぶ問題です。
K-ABCの中身というよりも、その理論的背景をしっかりと押せえているかを問うた内容になっています。
単に「検査を取り慣れている」だけでは全ては解けないようになっているので、理論的な背景もきちんと把握しておきましょうというメッセージを感じますね。
問122 KABC-Ⅱについて、正しいものを1つ選べ。
① 米国版 KABC-Ⅱは習得度を測る尺度を設けている。
② 適用年齢は2歳6か月から18歳11か月までである。
③ 日本版 KABC-Ⅱは米国版の正確な翻訳版になっている。
④ 流動性推理と結晶性能力からなる認知尺度と、習得尺度との2尺度から構成される。
こちらの問題については「エッセンシャルズ KABC-Ⅱによる心理アセスメントの要点」に詳しく記載されていました。
これを参考にしつつ解説していきます。
解答のポイント
KABC-Ⅱの理論的背景を把握していること。
選択肢の解説
②適用年齢は2歳6か月から18歳11か月までである
③日本版KABC-Ⅱは米国版の正確な翻訳版になっている
米国版KABC-Ⅱと日本版KABC-Ⅱの比較は以下の表のとおりです。
上記の表に基づき、共通点と異同点について説明していきます。
共通点としては、「依拠する理論」と「認知尺度」が挙げられます。
KABCの「依拠する理論」は、ルリアの神経心理学モデルと、特定の認知能力を分類できるCHC(Cattell-Horn-Carroll theory)理論になります。
KABC-Ⅱでは、ルリアの神経心理学理論における脳の処理機能としての認知能力と習得度(認知能力を活用して環境から獲得した知識および読み・書き・算数といった基礎的学力)を別に位置づけます。
両者を合わせて子どもの知能と位置づけた場合、認知能力(認知尺度)に比べて習得度(習得尺度)の低い子どもは総合的に知能が低いと判断されます。
認知能力のレベルに合う習得度に到達させうる指導や支援を講じる必要があるとの観点から別の位置づけとしている。 CHC理論の大まかな説明はこちらでどうぞ(WISCに沿った説明になっていますが…)。 こちらは一般能力・広範的能力・限定的能力の3階層からなる心理測定学に基づく理論であり、日本版KABC-ⅡはCHCモデルの広範的能力10のうち7つの能力を測定しています。
そして、こうした理論を基に、学習能力、継時処理、同時処理、計算能力という「認知尺度」が示されています。
異同点については、「適用年齢」「習得尺度」「非言語尺度」「CHC尺度」「下位検査」などです(習得尺度については選択肢①の解説で詳しく述べますので、ここでは割愛)。
- 適用年齢:
日本版の下限が2歳6か月で、米国版に比べて半年早くから実施可能になっています。
ちなみに、1993年に刊行された日本版KABCは、適用年齢が2歳6ヶ月~12歳11ヶ月でした。2013年に大幅に改良され、日本版KABC-Ⅱとして、適用年齢が2歳6ヶ月~18歳11ヶ月に変更されました。 - 非言語尺度:
日本版のほうが1検査(仲間さがし)少なくなっています。 - CHC尺度:
10の広範的能力からなるCHCモデルへの適合性という点からみると、日本版は7つの広範的能力を測定しており、米国版に比べて適合度が高いといえます(米国版は5つになっている)。 - 下位検査:
日本版では米国版に含まれている4つの下位検査(文の学習、文の学習遅延、仲間さがし、積木さがし)が除外されています。また、米国版では基本検査と補助検査に分類されているが、日本版では基本検査のみとなっています。
その主な理由は、日本版では習得尺度の充実・拡大を図るために下位検査を増やす必要があり、実施時間を考慮すると、米国版から上記の4下位検査を削除せざるを得なかったことにあります。削除の対象となった下位検査は、統計的特性、検査内容の特性、適用年齢範囲から総合的に判断されたということです。
こうした点が日本版と米国版の違いとなります。
以上より、適用年齢は2歳6か月~18歳11カ月で相違ありません(ただし、米国版は異なりますが)。 よって、選択肢②は正しいと判断できます。
更に、上記のような違いがあることが示されており、日本版KABC-Ⅱは米国版の翻訳版ではないことがわかります。 よって、選択肢③は誤りと判断できます。
①米国版KABC-Ⅱは習得度を測る尺度を設けている
KABC-Ⅱの米国版と日本版の最も大きな違いが習得尺度の位置づけ方になります。
米国版では習得度を測定する検査はKABC-Ⅱから除外され、KTEA-Ⅱ(カウフマン式アチーブメント尺度改訂版)に吸収される方向になり、日本版KABC-ⅡではK-ABC習得度尺度の充実・発展という形になっています。
その最大の理由は、日米間における心理教育アセスメントの状況の大きな隔たりです。
米国では優れた個別式学力検査が複数標準化されている一方、日本の学力検査は集団指揮のみで個別式尺度は開発されておらず、これらが待たれている状況です。
米国版KABC-Ⅱとは異なる方向にあえて梶を切り、日本版KABC-Ⅱに習得尺度を加えて標準化したのは、こういった事情によっています。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。
④流動性知能と結晶性知能からなる認知尺度と、習得尺度との2尺度から構成されている
上記の表でもわかるとおり、日本版KABC-Ⅱで示されている尺度は以下のものになります。
- 認知尺度:
全般的な認知処理能力を示しています。ここでは、知識や技能の量ではなく、新しい知識や技能を獲得していく時に必要となる基礎的な力を示しています。
継時処理、同時処理、学習能力、計画能力の4尺度。 - 習得尺度:
語彙、読み、書き、算数の4尺度。
この尺度は必ずしも学力と一致するものではありませんが、基礎的学力の一部を示していると言えます。 - 非言語尺度:
顔さがし、物語の完成、模様の構成、パターン推理、手の動作の5つから構成。
聴力障害や言語障害などで不利にならないよう評価可能です。 - CHC尺度:
知的発達の総合的な力を示しています。KABC-Ⅱの「絵の統合」を除くすべての検査を合わせた総合的な力を示しています。
短期記憶、視覚処理、長期記憶と検索、流動性推理、結晶性能力、読み書き、算数の7つの広範的能力。
ちなみに、認知尺度と習得尺度は「ルリア理論に基づくカウフマンモデル」に関するものであり、CHC尺度についてはCHCモデルに関するものになります。
ただKABC-Ⅱについて述べられる際、認知尺度と習得尺度がよく示されているように感じます。
これらは対象によっていずれかを選択するので、どちらかが優れているという考えではありませんが。
選択肢の内容は、認知尺度の構成が「流動性知能と結晶性知能」のみしか示されていないなど、不適切なことがわかります。
また、尺度数も認知尺度と習得尺度の2つのみとしているのも、適切ではないと考えてよいでしょう(非言語性尺度をどう捉えるかは微妙ですが…)。
よって、選択肢④は誤りと判断できます。
この問題ですが、とても混乱しています。テキストによっては「習得度」(指導者の力量)と「習熟度」(学習者の意欲)の違いなども書いてありますし。
私自身がカウフマンモデルの「認知」と「習得」については「流動性知能」と「結晶性知能」と捉えているからだと思うのです。
CHCモデルも流動性・結晶性の項目がありますが、7区分全体を二つに分けることができませんか?
流動性・・「長期記憶と検索」「短期記憶」「視覚処理」「流動性知能」
結晶性・・「結晶性能力」「量的知識(算数)」「読み書き」
「認知」の4項目「継次」「同時」+「学習」「計画?計算?」を「流動性知能」と捉えると
「習得度」の4項目「語彙」「読み」「書き」「算数」を「結晶性能力」と捉えることができる。
私はこの問題の意味を、日本では、生まれついての持つ地頭より「習得度」つまり「読み書き計算」などの努力すれば向上する積み上げを重視した、というイメージで捉えました。