久々のロールシャッハ・テストです。
第4回からはロールシャッハの本丸とも言える「反応決定因」になります。
1回で全部は大変なので、今回は総論と運動反応について述べていきます。
反応決定因は、その図版を「どのように見たのか?」について記号化したものの集まりです。
ロールシャッハでは、大きく3カテゴリ+1で見ていくことになります。
以下の通りです。
- 運動因子:反応したものに運動を加えたもの
- 色彩因子:反応に色を使用しているもの
- 濃淡因子:反応に濃淡を使用しているもの
- 形態因子:主として形のみを使用して反応を示したもの
純粋形態反応 F(form response)
「運動、色彩、濃淡などの因子を含まず純粋に形態因子のみによって決定された反応」を純粋形態反応と呼び、Fとコードします。
順番としては、運動、色彩、濃淡などの因子が含まれていないかチェックし、いずれも含まれていなければ「F」とコードするということになります。
反応の例としては、「これは蝶です。そういう形をしている」「これはギターですね。ちょっといびつですけど、ギターの形をしていますから」などになります。
これが例えば「蝶が飛んでいます」などになると、「飛ぶ」という運動が含まれるので別のコードが付されることになります。
実践上の活用
ロールシャッハ・テストの実践においては、反応一つひとつのFを見ていくよりも、F%(ΣF/R)として扱われることが多いです。
F%は片口法の記号であり、エクスナー法ではL(ラムダ)がそれに近いものになっています。
ラムダの計算法はL=F/(R-F)となっていますから、片口法のF%とは微妙に異なることがわかります。
解釈について考える
- 主観的着色をせず客観的に物事を認識する、抑制的で感情に左右されない
- 想像力が乏しく平板な人、抑うつ的で控えめな人
- 自分の欲求を認知できず環境のニュアンスを捉えられない
これらに対し、F%が低い場合(特に30%以下)では以下のように解釈されます。
- 外界に対して個性のありすぎる態度をとる、現実を客観的に認知できない世間並みのありふれた形で人間関係を維持できない
- 特に形態水準が不良な場合は、混乱した精神状態を示す
急性期ではこの秘密の力、すなわち自分の内面を外に出さずに留めておく力が弱まっており、それがロールシャッハでは低いF%という形で現れるわけです。
これは当然、好ましいことではないので、然るべき治療が速やかに行われることが望まれます。
対して統合失調症の慢性期では、非常に高いF%を示すことが知られており、これは自分を守る防衛の壁ができたという見方もできるわけです。
防衛が高いことが悪いことか否かは、その病態や状況によって異なるということですね。
【H20-48C、H23-26A】
運動因子
「…実際にはブロットに客観的に存在しないもの、すなわち、運動の状態をそこに見ているのである。色彩や陰影反応を与えない被験者は、色彩や陰影を反応のうちに取り入れなかっただけであって、その場合でも、ブロットの色彩や陰影を認知していないわけではない。それらはブロットの属性として客観的に存在するからである。すなわち、図版に運動を見るためには、多かれ少なかれ想像力の存在を前提とするので、それが著しく貧困な人には見ることができない」
運動因子は以下で構成されています。
- 人間運動反応(M)
- 動物運動反応(FM)
- 無生物運動反応(m)
人間運動反応 M(human movement response)
- 知能:多く示す人は知能が高い傾向にある。
- 想像力:「そういう動きをしているところ」を創造する力がある。
- 内的安定:人間的な内面の力を示すMが多いほど、内的に安定しやすい。
- 共感性:その動きに対して共感的であるからこそ反応として示すことができる。
- 自己概念:しばしば自分を投影させることがある。
【H9-53B、H12-28B、H17-36B、H17-36D、H17-49AB、H18-50A】
動物運動反応 FM(animal movement response)
なぜ「animal movement」なのに「FM」なのか?
という疑問を感じられた方もおられるでしょう。
動物運動反応は、ヘルマン・ロールシャッハは、その存在を確認していたものの解釈の中にそれほど含めた様子が無いのです。
コードは「F→M」としておりましたが、その後、Klopferによって「Mほどには知的な分化を必要とせず、共感性を反映しない反応」として、初めて提案されました。
この際、元々ロールシャッハさんが使っていた「F→M」という表記を活用し、「FM」を動物運動反応としたわけです。
平均は2~6とされています。
「FM」は、先述の「M」に比べてより未熟な内的な力を示すとされており、直接的な満足を得ようとする衝動、人格の原始的な欲求、食欲や睡眠欲などの基本的欲求などを反映するとされています。
そのためFM≦1の場合は、自発性や活動性の欠如、生理的なエネルギーの低下(こちらはピオトロフスキーが提唱した解釈)などを示すとしています。
無生物運動反応 m(inanimate movement response)
運動反応の種類
片口法の分類
- 積極的に自己を主張し、自分の能力に自信を持ち、他者に頼らず目標を追求する
- 葛藤や欲求不満に直面して不安を感じたとき、自分の知能や経験によって問題を処理する方法を考え、改善しようとする
- 他人を考慮しない傾向とみられることも
- 本来、従順であり、自分よりも心理的に強い人に頼ることで責任を回避したり、その人の保護や配慮のもと、主導性や創造性や活動性を充分に発揮できる人
- 心理療法でも治療者を優しい保護者とみなす。
エクスナー法の分類
- 可能な所見1:両辺の合計値が4で、一方の値が0のとき
その人の思考や価値観はたいていの人より柔軟性がなく変わりにくい。 - 可能な所見2:両辺の合計値が5以上で、一方の値が他方の2~3倍の範囲
思考の構えや価値観はかなり凝り固まっていて変わりにくい。
- MpがMaより1大きい:ストレス下では防衛的に空想を使う
- MpがMaより2以上大きい:白雪姫シンドローム