注意欠如多動症/注意欠如多動性障害〈AD/HD〉のアセスメントを行うための心理検査を選択する問題です。
こちらは過去問をしっかり把握しておくことで解ける内容になっていますね。
問92 注意欠如多動症/注意欠如多動性障害〈AD/HD〉のアセスメントを行うための心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。
① ADOS
② Conners3
③ M-CHAT
④ PARS
⑤ WISC-Ⅴ
選択肢の解説
① ADOS
Autism Diagnostic Observation Schedule Second EditionでADOS-2(エイドスツー)となっています(本問は単に「ADOS」となっていますが、せっかくセカンドバージョンが出ているんですから、こちらについての解説でいきます)。
こちらは自閉症スペクトラム評価のための半構造化観察検査になります。
ASDの包括的な臨床診断の一助、効果的な支援・介入の模索、重症度の判定に役立つとされています。
ADOS-2は本人の直接観察による検査であり、対象は1歳の幼児から成人までで所要時間は40~90分程度です。
年齢と言語水準によって5つのモジュールに分けられ、標準化された検査用具や質問項目を用いて半構造化された場面を設定し、ASDの診断に役立つ対人的スキル、コミュニケーションスキルを最大限に引き出すように意図されており、行動観察の結果を数量的に段階評定できる点に特徴があります。
最終的にアルゴリズムを使って「自閉症」「ASD」「非ASD」の3つの分類判定が可能です。
ちなみにスクリーニングには以下のような段階があります。
- 第1スクリーニング:
発達障害の特徴があると判断されたケースや療育・医療・福祉機関などにすでにかかっているリスクの高いケースを対象に、ASD、ADHD、LDなどの弁別をするためのアセスメント。
代表的な検査が、M-CHATでありASDの早期発見においては非常に有用なツール。 - 第2スクリーニング:
ハイリスク群に対して弁別的診断の方向性を得ることを目的に行われる。
代表的なのが、AQ、AQ児童用、PARS、SCQ、CARSなど。 - 診断・評価:
代表的なのが、ADOS、ADI-R、CARS2など。
組合せとしては、ADI-Rが効果的とされています。
ADI-Rは過去の特性を主として診断の判定をし、ADOSは現在の特性で判定を行い、診断においては相補的な関係にあると言えます。
また、支援を考えるうえでは、ADI-RによってASD児者に対して周囲の人が感じている困難や課題の情報を得ることができ、ADOSによって専門家からみたASD児者の対人コミュニケーションの特徴に関する情報を得ることができます。
これらを総合して、日常で役立つ支援を構築できるとされています。
以上のように、ADOSは本問の「注意欠如多動症/注意欠如多動性障害〈AD/HD〉のアセスメントを行うための心理検査」には合致しないことがわかります。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② Conners3
こちらはADHDの症状の特定、行為障害、反抗挑戦性障害、不安、抑うつなどの鑑別診断または共存診断、影響のある機能領域の説明、介入の方針の提案といったADHD評価で主要な局面にてその有用性を発揮するとされています。
6つの主要因スケール(不注意、多動性/衝動性、学習の問題、実行機能、攻撃性、友人/家族関係)によって構成されています。
上記のスケールにある通り、ADHDを中心としつつ、それと関連が深い問題(行為障害など)についての評価を行うことも可能です。
適用年齢も6歳~18歳とされております。
上記の通り、Conners3はADHDに関する評価スケールですから、本問の「注意欠如多動症/注意欠如多動性障害〈AD/HD〉のアセスメントを行うための心理検査」と合致することがわかりますね。
よって、選択肢②が適切と判断できます。
③ M-CHAT
M-CHATは、自閉症スペクトラムのスクリーニング尺度です。
一部の項目が全国の1歳6ヶ月乳幼児健診で必須チェック項目となっているほか、一部の自治体の健診では悉皆スクリーニングとして活用されています。
18~24ヵ月の幼児が対象なので、保護者が記入し評価者が採点を行うという方式を採用しています。
こちらのページに、実際の物があるのでご参照ください。
ただ、M-CHATについては、これのみで評価するのではなく、M-CHATを第一段階として、これに陽性であれば第二段階の面接が必要とされています。
あくまでも一次スクリーニングであり、それのみで診断をしていくわけではないということです。
M-CHAT陽性と判断された子どものうち二人に一人は自閉症スペクトラム障害ではない(=陽性的中率は50%程度)であり、あくまでも第二段階(スクリーニングとその後の精査)のステップにつなげ、これを丁寧に行うことによって自閉症スペクトラム障害になる子どもの早期診断につながることが期待されており、実際に成果が上がっています。
上記の通り、M-CHATは自閉症スペクトラムの一次スクリーニング尺度であり、本問の「注意欠如多動症/注意欠如多動性障害〈AD/HD〉のアセスメントを行うための心理検査」ではありません。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
④ PARS
PARS-TR:Parent-interview ASD Rating Scale-Text Revision(親面接式自閉スペクトラム症評定尺度 テキスト改訂版)という表記からもわかるとおり、ASDの特性と支援ニーズを評価する面接ツールです(選択肢では単に「PARS」となっていますが、改訂版で解説しています)。
ASDの発達・行動症状について母親(母親から情報が得がたい場合は他の主養育者)に面接し、その存否と程度を評定する57項目からなる検査です。
この得点から、対象児者の適応困難の背景にASDの特性が存在している可能性を把握することができます。
対象年齢が3歳以上(3歳以上の子どものいる母親に実施するということ)ですから、幼児期および現在の行動特徴をASDの発達・行動症状と症状に影響する環境要因の観点から把握します。
半構造化面接により発達・行動症状を把握することを通じて養育者の対象児者に対する理解を深めることが狙えます。
このように、PARS-TRはASDの特性と支援ニーズを評価する面接ツールですから、本問の「注意欠如多動症/注意欠如多動性障害〈AD/HD〉のアセスメントを行うための心理検査」には合致しないことがわかります。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。
⑤ WISC-Ⅴ
Wechslerは、知能構造の質的な差異を知ることが重要と考えました。
知能指数には、偏差知能指数=DIQ(Deviation IQ)を用いています(偏差知能指数とは、一般的な知能指数(平均)からどの程度異なるかを示した値)。
計算式は「偏差知能指数(偏差IQ)={(各個人の点数-当該年齢段階の平均点)÷当該年齢段階の標準偏差×15 }+100」になります。
子どもの知能が何歳程度のレベルかを表す従来型IQは田中ビネー知能検査で求めることができ、この辺がウェクスラー式との違いになります。
WISC-Ⅴでは、特定の認知領域の知的機能を表す5つの主要指標得点(VCI、VSI、FRI、WMI、PSI)と全般的な知能を表す合成得点(FSIQ)、子どもの認知能力やWISC-Vの成績について付加的な情報を提供する5つの補助指標得点(QRI、AWMI、NVI、GAI、CPI)を算出します。
こうした主要な指標得点・合成得点・補助指標得点だけでなく、下位検査の分析やそうした分析を実際の行動とも関連させながらフィードバックを行うことになります。
このようにWISC-Ⅴ(に限らず、ウェクスラー式知能検査の多く)は知的機能を多面的に、そして、いくつかの指標得点に分けて、その得点を算出していくものになります。
本問にあるような「注意欠如多動症/注意欠如多動性障害〈AD/HD〉のアセスメントを行うための心理検査」に限定せず、さまざまなクライエントの認知知的機能を評価するのに採用されることが多い検査と言えます。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。