32歳の女性A、会社員の事例です。
事例の内容は以下の通りです。
- Aは2か月前に部署を異動した。
- 1か月ほど前から不安で苛立ち、仕事が手につかないと訴えて社内の健康管理室に来室した。
- 最近疲れやすく体重が減少したという。
- 面接時は落ち着かず手指が細かく震えている。
必須症状は意識障害とされています。
内因とは、統合失調症とうつ病を指しており、かつては原因不明とされていましたが、現在では遺伝的要因と環境的要因の組み合わせによって生じるとされています。
心因とは、その名の通り心理的要因によって生じる症状のことを指します。
重要なのは、外因→内因→心因、の順で見ていくことです。
例えば「記憶がない」という訴えが出てきたら、まずは外因(側頭葉てんかん等)を疑い、それが排除されてから解離性障害(心因)などを見ていくことが大切です。
神田橋先生は以下のように述べておられます。
「うつ病やヒステリーとか診断していて、後になって症状精神病であることが分かった場合、誤診が起こっていたことは、誰の目にも隠れの無い事実であり、しかも、多くは、その誤診の起こってきた過程や、理由が滑稽なほど明々白々となる。それよりも何よりも、診断の誤りあるいは遅れによって、患者の被った損害の量と質が、少なくとも主治医である自分の目には、見まいとしても、はっきりと見えてしまう」
この問題については、各記述がどういった要因(外因・内因・心因)によって生じ得るかを細やかに見ていくことが重要になります。
解答のポイント
選択肢の解説
『①対人関係』
対人関係と絡みそうな部分は「部署の異動後、1か月経ってから不安で苛立ち、仕事が手につかないという状況になっている」という点でしょうか。
異動後の部署での対人関係が悪いため、不安等が強まったとみることも可能です。
1か月後という期間も、それほど矛盾を感じるものではありません。
一方で、「疲れやすく体重が減少した」「落ち着かず手指が細かく震えている」という記述を対人関係によるものと結びつけても良いものでしょうか?
これらの記述から最初に連想するのは「甲状腺機能亢進症」です。
甲状腺機能亢進症は、体内の甲状腺ホルモンが過剰になってしまうことを原因として発症し、甲状腺ホルモンが過剰に働くことと関連したさまざまな症状が現れます。
代表的な症状は以下の通りです。
- 疲れやすい
- 動悸がする
- 汗が多くなる
- 手足がふるえる
- 体重が減る
『②仕事の能率』
Aが異動後の部署で仕事が効率的にできないため、というストーリーが裏に見えますが、明らかに「不安で苛立ち、仕事が手につかない」と記載があり、仕事が手につかないのは不調後の話と読み取るのが自然です。
また、仕事の能率が悪いことで「疲れやすく体重が減少」「落ち着かず手指が震える」ということが生じるのは不自然です。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
『③不安の対象』
「不安で苛立ち、仕事が手につかない」は全般性不安障害のニュアンスが感じないわけではありませんし、不安によって体重減少などが生じることもあり得ないとは言えません。
一方で、先述した甲状腺機能亢進症をはじめとした身体疾患が除外できるような情報も見受けられません。
こうした状況では、どれかに決めずに重要度の高いものから判断していくことが大切です。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
『⑤抑うつ気分の有無』
この選択肢は、抑うつ気分によって症状が呈していると判断される場合に選択されます。
不安、仕事が手につかない、体重減少などは抑うつ症状でも生じ得るでしょう。
一方で、先述したような身体疾患の可能性を否定する記述も見受けられません。
こうした状況では、どれかに決めずに重要度の高いものから判断していくことが大切です。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。
『④身体疾患の有無』
このことは心因を否定するものではありません。
事実、異動という状況の変化に伴って起こっているようにも読み取れ、環境との絡みで考えていくことも大切です。
こうした心因および外因の両方が考えられるときに重要なのが、外因→内因→心因、の順で見立てを行うという原則です。
最初に述べている通り、外因は後々になれば誰の目から見ても明らかなくらいその原因が明白なものです。
また、明確な治療法が確立している場合も少なくないこと、速やかな対応が必要な場合が少なくないため、外因による症状の見極めは非常に重要です。
まず事例の情報から、複数の病理の可能性を浮かべられること、そしてその病理のいずれから判断していくことが求められるのか、という点を問うている問題です。
以上より、選択肢④が最も適切と判断できます。