公認心理師 2024-53

遺伝と環境及びそれらの交絡による影響を調べる研究法を選択する問題です。

有名どころの方法が入っているので、比較的解きやすいだろうと思います。

問53 生涯発達における、遺伝と環境及びそれらの交絡による影響を検討する上で用いられる研究手法として、適切なものを2つ選べ。
① 環境評価
② 双生児法
③ 脳機能測定
④ 養子研究法
⑤ DNA型鑑定法

選択肢の解説

① 環境評価

まず、この「環境評価」という言葉が、ある心理学研究領域における研究法として一つの地位をもらっている概念なのか、ただ単に「環境を評価する」という捉え方で良いのかがわからないでいます。

前者の方については、私が不勉強なためか把握できていません。

類似することとして、心理学からは離れますが、開発事業の内容を決めるに当たって、それが環境にどのような影響を及ぼすかについて、あらかじめ事業者自らが調査、予測、評価を行い、その結果を公表して一般の方々、地方公共団体などから意見を聴き、それらを踏まえて環境の保全の観点からよりよい事業計画を作り上げていこうという制度のことを「環境アセスメント」と呼ぶそうです(多分、これは違いますよね…。正確には環境影響評価という言葉になりますし)。

また、「環境心理学」という領域において、環境評価という用語は使われ得るような感じがしますが、その場合でも「環境の性能評価する」ということを環境査定と表現しています。

ただこちらもしっくりこないので、ここでは単に「環境を評価する」という意味で環境評価という言葉を捉えて進めていくことにしましょう。

本問では「生涯発達における、遺伝と環境及びそれらの交絡による影響を検討する上で用いられる研究手法」が求められているわけですが、単なる「環境評価」だけだと、当然ながら「遺伝と環境およびそれらの交絡による影響」を評価検討することは困難ですよね。

遺伝に関する情報が全く皆無になるわけですから。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 双生児法
④ 養子研究法

生物の形質は、遺伝によって決まるのか、それとも環境が左右するのかは、あらゆる生物系科学の基本問題の一つです。

遺伝機制の究明には、従来の生物学では、交配実験の手法が有力であったが、人間の場合には人道上の理由により不可能です。

また、知能や性格などは、身体的形質と異なり直接の計測はできないから、なんらかの媒介測定手段に依存しなければなりません。

知能については、知能検査によるIQという一元化された数値によって関係が算定されているのでまだしも簡単ですが、性格は、全体を一元化された数値で表すのは不可能に近く、局部的特性の数値化かその他の質的データに頼ることになります。

こうした事情があり、研究法も推測的、間接的なものとならざるを得ません。

代表的方法として、一卵性と二卵性双生児の対の間の差を比較して、一卵性のほうがより類似度が高ければ(二卵性双生児は環境要因は同一であるが、遺伝的には兄弟姉妹と同等で一卵性より類似性は低いから)この形質は遺伝因子の寄与が高いと推論する「双生児法」、これを拡張して血縁関係が近いほど形質類似度も高くなるか否かをみる「血縁法」、血縁法の変形として、養子に出された子の特性が実父母、養父母のいずれに似るかをみる「養子研究法」、ある特質がある家系に繰り返し出現するかをみる「家系分析」などがあります。

本問で示されているのは、双生児法と養子研究法になりますね。

そもそも双生児とは、同一時期に胎内で2個体として発生した2人を指し、1つの受精卵が2つに分かれて等しい遺伝情報をもつ一卵性双生児と、別々の2つの受精卵が同時に発生し受精した二卵性双生児があります。

いずれも生育環境に大きな違いはなく、両者の差は遺伝情報の共有度のみ(一卵性は100%、二卵性は50%)であることから、ある形質に関して、一卵性の方が二卵性より類似度が高ければ、その形質は遺伝要因の影響が大きいと判断されます。

また、一卵性でも差異が見られる形質は、きょうだいで共有しない環境(非共有環境)やエピジェネティクス(DNA上の後生的な化学的変容)の差の影響が、さらに一卵性の類似度から遺伝的に予測できる以上の類似度が二卵性に見られる場合には、共有環境の影響があることがわかります。

この性質を利用して個人差に及ぼす遺伝要因と環境要因の影響を明らかにする「双生児法」は行動遺伝学の方法論として広く用いられています。

対して、養子研究は、養子になった子と生家の兄弟(遺伝情報を平均50%共有するが環境は共有しない)、養子になった子と養子先の兄弟(遺伝情報は共有しないが環境を共有する)を比較し、それぞれの兄弟とどれだけ似ているかを計測・比較していきます。

このように、養子研究は遺伝と環境の違いを利用し、双子研究は遺伝情報共有の差を利用しているというわけですね。

以上より、選択肢②および選択肢④は適切と判断できます。

③ 脳機能測定

脳機能測定法(一応、非侵襲的脳機能測定法とする)はいくつか存在します。

代表的なのが機能的磁気共鳴画像を用いた以下の手法です。

  • 機能的磁気共鳴画像 (functional Magnetic Resonance Imaging : fMRI)
  • fMRI以外のMRIによる脳計測(拡散強調画像、Voxel Based Morphometry, Magnetic Resonance Spectroscopy)
  • 陽電子断層画像 (Positron Emission Tomography : PET)
  • 近赤外分光法 (Near Infra-Red Spectroscopy : NIRS)
  • 脳波(Electroencephalography : EEG)及び脳磁波(Magnetoencephalography : MEG)

これらについては「公認心理師 2024-8」で詳しく述べているものもありますので参照にしてください。

上記以外にも、脳機能については、心理学的検査法で臨床的に調べる方法も多く開発されてきています。

標準化された知能検査法であるWISCやK-ABCからも有用な情報が得られ、神経心理学的な検査法としては、大脳の前頭葉機能を調べるウィスコンシン・カード・ソティング・テスト(WCST)やストループ・テストがあり、臨床的な分野で利用されています。

ただ、これらの手法については、その時々の脳機能の状態を一面的に捉えているに過ぎず、本問で求められている「生涯発達における、遺伝と環境及びそれらの交絡による影響を検討する上で用いられる研究手法」には該当しません。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

⑤ DNA型鑑定法

DNA型鑑定法とは、DNAの存在する部位を検査し、それが誰のDNAのものであるのかを特定することによって個人識別を行うことです。

ヒトの細胞内に存在するDNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列を分析することによって個人を高い精度で識別する鑑定法です。

警察では、たとえば、犯行現場に残された犯人のものと思われる毛髪、血痕等から抽出したDNAを用いてDNA型を検査し、犯人のDNAと比較する等、犯罪捜査に用いられる場面は多くの方が知っていると思います。

また、親・子のDNAをそれぞれ抽出し判定することで親子関係の有無を調べるということも耳にしますね。

DNA型鑑定法の歴史や経緯などは、こうした論文などを参考にしておくと良いでしょう。

さて、こうしたDNA型鑑定法も2者のDNA型が一致している、類似しているという判断が得られたとしても、本問で求められている「生涯発達における、遺伝と環境及びそれらの交絡による影響を検討する」というのは難しいと言えます。

環境の要因が全く考慮されていませんし、環境でDNAが変わるわけでもありませんからね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です