心理相談の事例研究における個人情報の記載に関する問題です。
こういうマナー(倫理?ルール?)は、大学院のケースカンファレンスで学んだような記憶がありますね。
問98 心理相談の事例研究における個人情報の記載について、最も適切なものを1つ選べ。
① 氏名はイニシャルで記載する。
② 地名は都道府県名を記載する。
③ 職業は一般的な名称を記載する。
④ 相談開始時の日付は実際の年を記載する。
⑤ 相談が行われた機関は実際の名称を記載する。
解答のポイント
事例研究における個人情報の記載の仕方を把握している。
選択肢の解説
① 氏名はイニシャルで記載する。
② 地名は都道府県名を記載する。
④ 相談開始時の日付は実際の年を記載する。
⑤ 相談が行われた機関は実際の名称を記載する。
これらについてはまとめて解説していきましょう。
まずイニシャルについてですが、イニシャルは「特定の個人」を識別できない情報として扱われるので個人情報保護法上は保護対象にはなりません。
しかし、「心理相談の事例研究」という枠組みで語られるイニシャルになると、「その研究者が関わった人」ということになることが多いので、かなり限定されるという事情があります。
事実、心理臨床学会の「論文執筆ガイド」としても以下のようなことが示されています。
- 同意を得た場合であっても、臨床の現場に関する詳細な地域名や固有名詞を記載しない。
- 人名・地名等を示す場合は固有名詞を伏せるためのイニシャルの付け方に注意すること。例えば、「佐藤」という人名の論文中でのイニシャルを「S」とするのは望ましくない。地名や施設名に関しても、A市、B施設、C校など、アルファベットで記載するなど工夫する。
- 面接経過における年号の記載は、X 年、X+1 年のようにする。
イニシャルと同じような事情で、地名も具体的にわかってしまったり、相談開始日がわかってしまえば、かなり対象が限定されることが理解できると思います。
ですから、上記にもあるようにX年といった表記をし、具体的に示す必要がある場合でも「X年4月第2週目」などのような表記にして曜日等を特定できないようにする必要があります。
また、上記の論文執筆ガイドには示されていませんが、「相談が行われた機関」についても実際の名称を示さないことになっています(これも地名と関わる話ですね)。
論文には「著者の所属」も示されていますが、「相談が行われた機関」を明らかにしないことで、そして、それ以外の情報も伏せられていることで(面接開始日など)、その著者がいつ頃担当した事例なのかがわからないので、端的に「その著者の所属で受け持ったクライエントだろう」とはならないわけです。
そもそも「その著者が担当したクライエント」というだけで、かなりクライエントを限定することができますから、それ以外の情報は可能な限り伏せて、それ以上の限定を防ぐということが求められるわけですね(もちろん、そうした事情を理解してもらった上で論文掲載をしていくことが重要です)。
以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。
③ 職業は一般的な名称を記載する。
職業名は提示する事例に不可欠な情報であっても「会社員、公務員、運送業、事務職、農業」などのような一般的な名称を用いることになります。
クライエントやその家族の職業が、事例論文を読む人たちと近い職業(心理職、教育職、医療職など)である可能性を考慮し、例えば、教師や医師である場合は「公務員」「医療従事者」などとすることが求められます。
職業は、クライエントの人となりを示す上で重要な情報ですから、完全に隠すということは不可能です(特にそのクライエントの問題が職業と関連して生じているのであれば、隠すこと自体が不自然になってしまいます)。
ですが、事例の展開に必要がない情報は可能な限り伏せるということが重要になりますから、一般的な名称を用いることが求められるわけです。
以上より、選択肢③が適切と判断できます。