公認心理師 2023-50

心理的支援に関わる概念化や理論化に関する問題です。

あまり難しいことを考えずに述べていきましょう。

問50 心理的支援に関わる概念化や理論化について、最も適切なものを1つ選べ。
① 事例研究は、心理的支援の理論化には寄与しない。
② 心理的支援のランダム化比較試験は、理論の構築を直接の目的としている。
③ 心理的支援の理論は、理論化がなされた文化の文脈を考慮して適用する必要がある。
④ 実践的研究においては、研究者は現場において支援に直接関わる実践者である必要がある。

解答のポイント

心理的支援に関わる概念化や理論化に関する方法論等を把握している。

選択肢の解説

① 事例研究は、心理的支援の理論化には寄与しない。

事例研究は、1人の事例もしくは同様の心理療法を行った複数事例についてまとめた治療の報告です。

事例研究の意義としては、河合隼雄先生が以下の5つを挙げています。

  1. 新しい技法の提示
  2. 新しい理論や見解の提示
  3. 治療困難とされるものの治療記録
  4. 現行仮説への挑戦
  5. 特異例の分析

こうした事例研究ですが、治療効果の研究という側面で言えば限界があります。

そもそも改善が見られたとしても、それが本当にその心理療法によって生じたのか、などの疑問があります。

ただし、事例を丁寧に記述し、振り返るという行為自体は臨床実践において基本であり、不可欠なものです。

そういう視点で言えば、効果の判定以外の面での事例研究の価値は非常に大きいと言えます。

このように事例研究は、援助的介入の実践モデルや理論を構築したり実証したりするために、実際に起きている事例を分析する研究法です。

選択肢③でも述べますが、人間には社会や文化から影響を受ける面が大いにあり、そういう意味では心理的な問題の在り様は時代によって刻々と変化し得るものです。

そういう状況において、統計解析が可能なレベルまでサンプル数が集まらないなどの問題が生じるわけですが、事例研究であれば「数は少ないけど、今まさに起こっている問題」などにリアルタイムでアプローチし、その内容を報告することが可能です。

また、そうした事例研究の知見を踏まえ、その背景にある心理傾向、文化的特徴などを量的研究を含めたさまざまな手法で検証していくことも可能になるなど、更なる研究の拡大のきっかけになることもあり得るでしょう。

いずれにせよ、事例研究は心理的支援の理論化に寄与すると言えますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 心理的支援のランダム化比較試験は、理論の構築を直接の目的としている。

臨床研究では、治療群(治療を行う群、新しいアプローチを実施する群)と対照群(治療をせず観察のみの群 もしくは 従来の介入法を実施する群)の2つに分けて比較するが、2つの群に分ける際に無作為(=random)に分けている研究を指します。

ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)という名の通り、対象者をランダムに2グループに分け(だから「ランダム化」と呼ぶ)、ある特定の手段の介入法を実施するグループ(介入群)と介入しないグループ(比較対照群)間の比較を行い、効果の分析・推論を行います。

その手法特性から、治療などの介入効果を科学的に分析・推論する手法として知られています。

他の条件の介在を排除するため、グループ分けをランダムに行うこと以外にも、対象者自身にもどちらのグループかわからないようにするなど、厳密性の確保のための条件設定が必要とされています(つまり、研究者自身にもどっちのグループが介入群かわからない。期待の効果などによる影響を排除できる)。

なお、ランダム化を行う際にはコンピュータで乱数を発生させて割り付け表を使用する方法が適切だとされています(くじ引きやサイコロの使用、受付番号などでの割り付けは準ランダム化となってしまい真の意味でのランダム化とは言えない)。

その他、コスト面、倫理面の問題もあるが、RCTが実施できれば介入による効果をわかりやすく示せるメリットは大きいです。

このように、心理支援におけるランダム化比較試験は「心理療法における効果検証に用いられる方法」であり、「理論の構築を直接の目的としている」わけではないことがわかりますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 心理的支援の理論は、理論化がなされた文化の文脈を考慮して適用する必要がある。

こちらについては具体的な例を挙げつつ解説していきましょう。

心理的支援の理論の一つに森田療法がありますが、こちらは「自己内省的・完全主義的な傾向に加え、よりよく生きたいという生の欲望を有する、生得的・先天的な素質としてのヒポコンドリー性基調(神経質で心気的な素質)に、環境要因が加わり、心身の感覚や情緒的反応に注意が集まる傾向」を対象にしています。

これを「森田神経質」と呼びますが、こうした状態像自体が当時の日本でよく見られた不適応の特徴と一致していたわけです。

もちろん、現在もこうした「森田神経質」がいないわけではありませんが、やはり、現代の文化の文脈では数が減ってきています。

つまり、森田療法が理論化された当時の文化の文脈では適用できる事例が多かったと言えますが、現代では少なくなりますし、更に言えば、他国の文化になると適用できる事例は、もちろん国にもよるのでしょうが、一般的には少なくなると考えられます。

病理の出現の仕方も文化圏によってかなり異なります。

例えば、日本の統合失調症では幻視はかなり少なめとされていますが、インドではかなりの割合で幻視が見られるとされています。

こういう違いがあると、当然統合失調症へのアプローチも変わってきますし、そのアプローチを別の文化圏に持ってきたからといって即座に効果があるとは言えないのは当然ですね。

上記の書籍では、統合失調症の起源を人類の文化史にさかのぼって解き明かすとともに、執着気質の歴史的背景と西欧精神医学背景史に迫っています。

こちらに限らず、その時代時代の歴史的背景によって生み出される問題、人のこころに影響を与えるものが変わってくるわけです。

このように、その支援法や理論が設定されたのは、それなりの文化的背景があってですから、当然、それらを適用するには文化的背景を考慮した上でなされることが重要になるわけです。

以上より、選択肢③が適切と判断できます。

④ 実践的研究においては、研究者は現場において支援に直接関わる実践者である必要がある。

通常、心理学研究は、心理的機能に関する見解の正しさや有効性を、データに基づいて論理的に示すことを目的とする。そして、そのための方法論が示されており、また、研究の質を評価する基準も提案されています。

当然のことながら、臨床心理学のように実践活動を重視する分野であっても心理学である限り、研究を行う場合には、他の心理学研究と同様の方法論に従うことになりますが、実践活動を重視する分野の研究には、他の心理学研究とは異なる特徴があります。

それは、研究と実践とが密接な関連を有していることであり、実践をしながら研究をする場合には、実験と研究が直接的に重なり合うことになります。

また、実践と研究が直接重なり合っていなくても、研究が何らかのかたちで実践活動に寄与することを目的としたものであれば、実践と研究は、間接的に関連するということになります。

いずれにしろ、臨床心理学のように実践活動を重視する分野の研究は、実践と研究が何らかのかたちで関連しているという特徴をもち、そのような研究を実践的研究と呼びます。

実践型研究の第1の特徴は研究の目的です。

その目的は現実に介入することによって、現実を適切に変化・発展させることです。

「適切に」というのは、研究者が実践型研究を行う際には、実現上の目的があり、それと照らし合わせて、実的状況に対する研究者の価値判断が行われるということを反映しています。

特に、臨床心理学研究においては、研究者は援助者という役割をもち、心理的問題という現実を抱えたクライエント(個人やコミュニティなど)の、その現実を変化させたいというニーズに基づいて実践型研究の過程が始まります。

このため、研究者は、心理的問題の解消あるいは改善といった実上の目的を目指して、変化をもたらすために積極的に現実に介入しながら研究を進めていくことになります。

実践型研究の第2の特徴は、現象理解のしかた、すなわち、現象理解のためのデータ収集のあり方にあります。

実践型研究では、研究者が現場に参加し、体験を通してデータを収集し、現象を理解しようとします。

下山(1997、2000)は、この点を特に重視し、実践型研究を「研究対象の現実に適切な影響を与えるため、現実生活に積極的に関与するようデータ収集の場を設定する」ような研究であると定義しています。

実践型研究は、現実に積極的に関与する、つまり介入するという点で、現実生活の複雑な要因の影響を受けないようにデータ収集の場の条件を統制する「実験」や、現実生活の側面について調べるために、その特徴を適切に抽出するようデータ収集の場を設定する「調査」と区別されます。

この、現実に介入しながらデータを収集するというデータ収集のあり方こそが、実践型研究の最も根本的な特徴であると考えられます。

ただし、実践に関わって研究を行う際に、2種類のあり方があることに留意する必要があります。

下山(2000)は、臨床心理学研究が実践活動と密接な関係があることを指摘した上で、臨床心理学研究のあり方を、研究者が実践を行いつつ研究する「実践を通しての研究」と、研究者が実践活動から離れ、実践活動を客観的対象として研究する「実践に関する研究」の2種に分類しています。

「実践を通しての研究」には実践を通してモデルを構成するという役割が、「実践に関する研究」にはモデルを検討するという役割がそれぞれに存在し、両者を循環的に組み合わせることで新たなモデルを生成・検証することが可能になるとしています。

「実践者」と「研究者」が異なっていても、両者が協同することによって実践現場からの発見を形にしていくことは可能になります。

例えば、「専門相談」について研究を行うにあたり、カウンセリングの相談と、それ以外の領域の相談との共通点を見出そうとする場合、どうしてもカウンセリング領域の「研究者」が、その他の領域の「実践者」と協働して研究を行うことになりますよね。

そういう形での実践的研究もあり得るのは、いわば自然なこととなります。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

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