公認心理師 2022-43

質的研究と関わりが深い研究法・分析法を選択する問題です。

「これは質的研究ですか? それとも量的研究?」という問いは、統計・研究法領域の問題としてはポピュラーなものですから、答えられるようにしておきたいところです。

最低でも、過去問で出題された分析法に関してはさっと答えられるようにしておきたいですね。

問43 質的研究と関わりが深い研究方法や分析方法として、不適切なものを1つ選べ。
① PAC分析
② 主成分分析
③ エスノグラフィー
④ 複線経路・等至性アプローチ
⑤ グラウンデッド・セオリー・アプローチ

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解答のポイント

各研究法・分析法が質的か量的かを把握している。

選択肢の解説

① PAC分析

PAC(Personal Attitude Construct:個人別態度構造=あるテーマについて個人がもつイメージや態度)分析法は内藤哲雄が1991年に開発した手法で、社会心理学と臨床心理学の両方の知見を活かして開発された質的研究であり、「当該テーマに関する自由連想(アクセス)、連想項目間の類似度評定、類似度距離行列によるクラスター分析、被検者によるクラスター構造のイメージや解釈の報告、研究実施者による総合的解釈を通じて、個人ごとに態度やイメージの構造を分析する方法」(内藤 2002)とされています。

個人に着目した質的研究でありながら、デンドログラム(樹形図)に基づき、調査協力者自身の枠組みで分析するという、再現性・信頼性の高い質的研究とされています。

一般的に、論理構造があいまいであったり、ふだん意識していない潜在的な部分を浮かび上がらせようとしたりすると、被験者自身の論理的思考では困難であることがありますが、このような場合に、非論理的な自由連想からはじめて、類似度を考えさせ、それを用いたクラスター分析を現象学的立場から被験者と実験者が共に問題を共有するというPAC分析が有効な場合があります。

現象学的立場から徐々に意識の階層構造を推定していくという手法は実験的心理学の中ではあまり見られず、PAC分析は、利用の仕方によっては、認知やイメージの構造、心理的場、アンビバレンツ、コンプレックスまで測定できることが確認されています。

PAC 分析の手順としては、以下の通りです(この論文を参考にしています)。

  1. 自由連想(アクセス):
    近年、認知科学の分野を中心にして、フロイトの自由連想は「アクセス」として再概念化されて、長期記憶から検索される情報の構造や機能が検討されてきている。自由連想(アクセス)は、個人内のコンプレックス等の潜在的構造、認知的枠組み(スキーマ等)、社会集団のカテゴリー認知といったものの、構造と機能を探るための素材を得る重要な技法と見なすことができる。多くの研究者は、研究者自身のスキーマに基づいて変数を決定していたが、PAC分析では被験者自身のスキーマを通して得られた変数を採用することになる。変数が被験者自身のスキーマで決定されるとき、本質的な意味での被験者自身のスキーマ構造が解明されることになる。
    やり方としては、被験者にカードを渡し、自由に語句や文を書いてもらう。
  2. 連想項目間の類似度評定:
    類似度評定には様々なやり方があるが、状況変化や体験の繰り返しに応じて時々刻々と変化するという特徴を持つ自由連想等では、いきなり項目聞の類似度を評定させる手続きが適している。またこの方法では、例えば、初めての就職や初めての性体験のように、ただ一度しか体験せず、繰り返すことが不可能な事象にも適用できる。連想項目間の類似度は、①辞書的意味だけなく、またそれよりも、②個人的経験の内容、③感情(コンプレックス)等によって、またそれらの複合によって決定されている。
    やり方としては、カードに書かれた語句や文のイメージを「ペア」にして、イメージ同士の距離(正確には「非類似度」)を被験者に評定してもらう(したがって項目数が増えると、距離評定の回数は指数的に増えていく。項目数は20以下が現実的)。
  3. 類似度距離行列とクラスター分析:
    全項目間の類似度得点を一覧表にすると、類似度距離行列が完成する。ただ一人の、しかも繰り返しのない、平均値も分散もないデータでありながらも、この距離行列によって多次元解析(MDS)やクラスター分析が可能である。多次元解析ではなくクラスター分析を用いているのは、項目群のまとまり (すなわちクラスター)を決定しやすく、項目群から喚起されるイメージやまとまった理由を検索しやすい(なお、他の統計手法の利用や併用は否定されていない)。
    やり方としては、実験者は2で得られた各ペア間の類似度にもとづいて階層的クラスタリングを行い、デンドログラムを作成する。
  4. 被験者による解釈・イメージの報告:
    それぞれの被験者において、各連想項目、各クラスターがどのような個人的経験に由来しているのか、どのような感情や連想的意味を持つのかの全貌を、推測だけで得ることは不可能である。よってここでは、当該被験者から、各クラスターによって喚起されるイメージ、項目群がそれぞれにまとまった理由の解釈、 さらに補足的に項目単独で喚起されるイメージの報告を得る。臨床心理学的方法を援用した現象学的データ解釈技法を採用することで、 PAC分析は単一個人の内面世界にかかわる認知 ・イメージ構造の解明のための道具を揃えたことになる 。技法としてのPAC分析の最大の特徴は、下位技法として「自由連想」「多変量解析(クラスター分析)」「現象学的データ解釈技法」の3つを組み合わせたことである。
  5. 実験者による総合的な解釈:
    自由連想や対話、そしてクラスター構造についての解釈報告などを総合して、被験者のもつイメージや態度の構造を推定していく。
    最新の標準的技法では、総合的解釈の材料として、①連想順位、②連想内容、③連想項目数、④重要度順位、⑤クラスター分析によるデンドログラム (樹状図)、⑥クラスターのイメージと解釈、⑦クラスター間関係についてのイメージと解釈、⑧実験者が解釈しにくい、あるいは独自のニュアンスを持つと推測した項目の単独でのイメージ、⑨項目単独での+-0の(感情的・情緒的)イメージ、⑩被験者による解釈の際の非言語的行動(抑揚、言いよどみ、ため息、沈黙、身体動作、身振り ・しぐさ等)及び周辺的言語報告(「他にはない」等の繰り返し、感嘆等)がある。

PAC分析では、こうした手順を踏んでいくことになります。

以上より、PAC分析では「自由連想」「多変量解析(クラスター分析)」「現象学的データ解釈技法」の3つを組み合わせているという点で、量的・質的の両方が活用されていると言えますが、大枠としては質的な研究法と関わりが深いことが上記からも読み取れると思います(ここで問題文の「関わりが深い」という表現が生きてくるわけですね)。

よって、選択肢①は質的研究と関わりが深いので適切と判断でき、除外することになります。

② 主成分分析

主成分分析を理解するにあたって、まずは因子分析から理解しておきましょう。

心理学では通常、観測されたデータから目に見えない要因(因子)について議論することが多く、それを検討するためによく用いられるものとして因子分析が広く用いられています。

つまり、因子分析とは「きっと世の中に存在するに違いない「データの背後に潜む説明変数(独立変数)」を見つけ出す分析手法」と言えます。

例えば、国語、数学、理科、社会、英語の5教科があるとして、この5教科の背景にある共通因子を見つけるのが「因子分析」になります。

観測された変数である5教科の得点は、共通(潜在)因子(文系能力・理系能力)から影響を受けていることになり、上記の矢印の太さが影響の度合いである「因子負荷量」の大小を表現していると考えてください。

これに対して、主成分分析では「情報を集約すること」が目的になります。

主成分分析では、もともとのデータ(観測された変数)に存在する情報を、新たな軸(成分)で記述するための数学的手法です。

上記のように、潜在因子からの影響を考える「因子分析」とは異なり、「主成分分析」では観測された変数が共有する情報を合成変数として集約するので、図の矢印の向きが逆になっていることがわかりますね。

こうした「主成分分析」の特性上、手元にある多次元のデータから何らかのパターンを見つけ出したいとき、つまりデータ駆動で研究を進めたい場合などに、軸の解釈に注意しながら活用すると有効な方法となります。

もう少しかみ砕いて述べると、主成分分析を用いるのは主として「合成得点を算出したいとき」になります。

例えば、5教科のテスト結果が分かっているとき、5教科の得点を合計して総合得点を算出しますね。

ですが、国語の平均点が20点、数学の平均点が70点だった場合、数学が得意な生徒が総合得点で上位を占めることになってしまい、不公平な結果となります。

このようなときには主成分分析を用いて、各教科の点数に「重みづけをして」をすることで合成得点を算出すると、より実力に応じた結果が見えやすくなります。

つまり、主成分を算出する(主成分=重みつき合計得点)ことで、それぞれの個体の持っている力や特性を識別しやすくすることができるということになりますね。

このように、主成分分析は「相関のある多数の変数から相関のない少数で全体のばらつきを最もよく表す主成分と呼ばれる変数を合成する手法」「たくさんの量的な説明変数を、より少ない指標や合成変数(複数の変数が合体したもの)に要約する手法」であると言えます。

上記をわかりやすく(わかりにくく?)言い換えてみると、一揃いの複数の量的変数 x1…xjがあるとき、これらの量的変数がもつ情報をより少数の合成変数 y=w1x1+w2x2+…+wjxjで表すための多変量解析法が主成分分析であり、それによって求められる合成変数を主成分と呼ぶわけです(こうして書いてみると、主成分分析が量的変数を扱っているのがわかりますよね)。

このように、主成分分析はより多くの量的変数を少ない合成変数に要約しようとする手法になります。

よって、選択肢②が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

③ エスノグラフィー

エスノグラフィー(ethnography)という言葉は、ギリシャ語の「(異なった)民族」を意味する「ethnos」と「描く・書く」を意味する「graphein」という2つ言葉が合わさった造語です。

エスノグラフィーとは、もともと文化人類学や社会学において使用される調査手法のことを指しており、自分とは違った生活世界に住む人たちの文化やコミュニティを、アンケートなどを使った量的変数ではなく、観察やインタビューといった質的変数を用いて理解するための方法論です。

エスノグラフィでは、あるコミュニティを研究対象とするときに、研究者は同時に「そのコミュニティの一員になる」ということになり、「コミュニティの一員」になることで、その中で何かしら役割を与えられますし、仮に役割がなかったとしてもコミュニティの人々との関わりが生じます。

すなわち、「コミュニティの一員」になった瞬間から、客観的にコミュニティを観察することは不可能であり、「自身を含めたコミュニティ」を「コミュニティの内側から」見ていかざるを得ないことになるわけです。

つまり「研究者としての自分」と「研究対象としてのコミュニティ」の間にリフレクシヴィティ(再帰的・反省的)な関係が生じるということになるわけですね(この辺に関しては「公認心理師 2021-50」で出題がありましたね)。

エスノグラフィの目的は、人々がふだん生きている現場を理解し、伝えることであり、その実践では「普段の方法を用いるからこそ、普段の現実に近い研究ができる」という観点から、日常にありふれた手法を用いて研究をしていきます。

もちろん、調査方法として色々な工夫はあるが、やはりベースにあるのは私たちが当たり前に使っている方法だということになるわけですね。

ここでは現場調査の方法として以下の8項目を挙げる。

  1. よく観る
     フィールドでは、まずよく観ることが大切。そして気づいたことがあれば書き留めたり、写真に撮ったりして残しておく。なにを観るのか?細部を観る。現場の人でも見落としがちなディテールをよく観察して、その意味を問う。「神は細部に宿り給う」。
  2. 書き留める
     情報はメモや写真などに残し、できるだけ早くそれを見やすい形に清書することが重要となる。遅くなるほど、その性格性は失われていく。
  3. よく聴く
     その現場に特有の音風景は何か。現場の人たちがどんな言い回しをしているかに気づくことが、エスノグラフィの場合とても大切となる。
  4. 関わりながら観る(参与観察)
     フィールドではよく歩こう。よく出かけて、何か行事があったらくわらせてもらう。エスノグラフィは足で稼ぐ。現場で発見を重ね、そこの人々と出会い、交流し、だんだんと馴染みになっていく。それは現場と身をもってかかわるということになる。社会は人々の関わりの総体であり、社会を明らかにするには関わることが必要である。
     現場調査では、単に関わるだけではなく、その関わりを意識的に観る、その関わりの中で問いを発見するということをする。「関わりながら観る」のである。現場の生活や活動に、調査者自身が加わるということである。現場の一員となりながら、そこで起こっていることを観る。これは参与観察と呼ばれてきたもので、エスノグラフィ調査のもっとも独自な方法だといってよい。そこの人々と共に生活し、共に活動する中で、次第にそこでの「あたりまえ」がどのようなものか身についていく。
     参与観察とはただ視覚的に見るだけにとどまらない、総合感覚的な実践である。観る・聴く以外の感覚も活かす。そのやり取りを記録するときの注意点として、できるだけ、その発話者の言葉づかいをそのまま書きとることである。エスノグラフィが言い換えをしたりすると、元々の言い回し・表現に含まれていたニュアンスが消えてしまう。自分が考察したことを書くときには、現場の人の考えと混ざってしまわないように区別して書くことが必要となる。
  5. 尋ねる・会話する(インタビュー)
     インタビューは万能ではないが、大変有効な調査方法である。しかしフィールドワークすなわちインタビューではない。現場の世界を内在的に理解し、伝えることがエスノグラフィの目的で、極端な話、インタビューなしでもエスノグラフィが可能な場合もある。また、インタビューをしても文脈理解が伴わなければエスノグラフィではなくなる。
     インタビューによって、その人がある物事を言葉でどう捉えているかが引き出せる。質問を向けてみると、思いもよらない捉え方をしていることがわかって、貴重なデータとなることが多い。さらにインタビューへの答えは、すでに答えとしてまとまっているので、データとしての利便性が高い。
     では、インタビューで明らかにできないことなにか。その人にとって、あまりに当たり前なことは意識しておらず、言葉にしたこともない。こうした言葉にしていないことを引き出すのが難しい。日常的実践を理解するには、インタビューよりは参与観察が有効な方法となる。
     また、その人が言葉にしたくないこともインタビューでは明らかにできない。トラウマ的な体験は「沈黙」のうちに秘められる。こうした言葉にされないことへの想像力はエスノグラフィにとって大切な資質の一つである。なお、インタビューの種類は後述する。
  6. 撮影する
     現場とは五感すべてで体験されるものであるので、言葉と文字だけで捉え、伝えるには限界がある。こうした場合、さまざまなマルチメディアを利用するのが役立つ。
  7. 文書を集める
     現場でしか手に入らない文書、現場以外では手に入れにくい文書がある。ここでいう文書とは「チラシ、リーフレット、パンフレット、ポスター、書籍、雑誌、新聞、原稿」など文字が記載された紙媒体を想定している。これをできるだけ多く集める。もちかえることが可能なものはいただいたり、購入したりする。そうでないものはコピーしたり、筆写したりする。もちろん、必要ならば持主の許可を得てからである。
  8. 問い・考える
     ここでは、「問いを発見し」、「その焦点を絞り、関係づけ、文脈化する」、「問いを理論化し、研究設問へと練り上げる」ということを行っていく。

こうした方法を用いて、エスノグラフィーのデータを取っていくことになります。

量的なデータは普段の生活の中にあるものとは見なされないことがわかりますね。

以上より、エスノグラフィーは質的な研究方法であることが示されています。

よって、選択肢③は質的研究と関わりが深いので適切と判断でき、除外することになります。

④ 複線経路・等至性アプローチ

複線径路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach: TEA)は、2000年代後半に、文化心理学および質的研究を用いる心理学者(サトウタツヤ、Valsinerら)により考案され、現在、国内外において心理学および隣接領域で用いられています。

TEAとは、人は社会文化的および歴史的文脈を生きており、「異なる人生や発達の径路を歩みながらも、類似の結果にたどり着く」ことを示す等至性(Equifinality)の概念に基づいた研究方法のことです。

この方法論を用いることで、「最終的には同じ到達点に達した」者の経験の特徴、すなわち、同じ到達点に至るまでの複数の径路の途上で個々人が、歴史的、文化的、社会的な側面や自
身の内面から何が起こってくることを経験したかを導き出だすことができます。

TEAには3つの基礎概念、すなわち、複線径路等至性モデリング(Trajectory Equifinality Modeling: TEM)、歴史的構造化ご招待(Historically Structured Inviting: HSI)、発生の三層モデル(Three Layers of Genesis: TLMG)があります。

関連する用語を解説しつつ、TEAの解説を行っていきましょう(こちらの論文を参考にしつつ)。

等至点(Equifainality Point: EFP)とは「異なる径路を通ったとしても、同じ到達点に達する」という等至性の概念の行き着くポイントのことで、研究者は研究したいポイントをまずは等至点として定めることになります。

そして、等至点を経験した人を招いて話を聞く手続きを「歴史的構造化ご招待」と呼びます。

この等至点の正反対のポイントを含めて両極化した等至点(Polarized EFP: P-EFP)といい、図を描くときの一方の軸が決まります。

研究したいテーマは等至点に関することであるが、そのテーマと正反対の位置にいる人もいることを常に意識することで、研究者自身の関心を相対化することが可能です。

もう一方の軸は時間軸であり、TEAでは「非可逆的時間(計時可能な物理的な時間ではなく、決して後戻りできない生きた時間のこと。時間の流れの方向性を意味する)」という言葉と矢印を必ず図に描くことが定められています。

研究参加者が同じような経験を繰り返したとしても、またその時に同じような思いを抱いたとしても、日時も場所も環境も全く同じではないため、それぞれの時点で改めて何が起こっているのかを見ていくことが研究上は求められます。

研究参加者の経験を時系列で並べて見たときに、何人かは同じ経験をしている場合もあり(これを必須通過点(Obligatory Passage Point:OPP)と呼び「通常はほとんどの人が通過している」という意味である)、これには制度的必須通過点(制度によるもの)、慣習的必須通過点(慣習によるもの)、結果的必須通過点(いずれでもないが結果として通常ほとんどの人が経験したもの)があります。

このようにTEAでは、ある点に辿り着くには社会的力が働いていることに着目しており、この力を社会的助勢と呼び、そしてある点に背くように働く力を社会的方向づけと表現しています。

そしてこれらがせめぎ合う様子から「分岐点(複数の経路が発生・分岐する有様を表す概念:等至点と対概念)」が見えてくる場合があり、この分岐点から経路が分岐して等至点に辿り着きます(この分岐点が必須通過点であり、等至点である可能性もある)。

こうして表されるものが「線形経路等至性モデリング」であり、個人ないし集団の経時的な経過が矢印でつながり、その矢印を追うことで個人の変遷を可視化することができるわけです。

「線形経路等至性モデリング」を描くことができると、それぞれの点では何が起こっているのかが研究上重要になってきます。

個人または集団の内的な変容を捉えるには「発生の三層モデル」を用いることになり、このモデルでは、①第一層の個人活動レベル、②第二層の記号レベル、③第三層の信念・価値観レベルからその変容の様相をレベル別に捉えることが可能です。

日常生活において環境との相互作用から信念・価値観が変容するに至った事柄を、選択的に取り入れ、特に影響の大きかった事柄を記号として次のレベルに取り入れていきます(この外界からの事柄の取入れを「内化」と呼ぶ)。

そして信念・価値観が変容した後、再び環境と相互作用し外界に発信し、この変容が社会的にどうなのか探りを入れる場合(この内から外への流れを外化と呼ぶ)があり、この内化と外化を繰り返し、信念・価値観の変容が確固たるものになっていきます。

このように各時点で何が起こっているのか詳しく見ていくには発生の三層モデルが有効であり、新たな発見を生む可能性があります。

なお、更に研究を進めるうちに最初に決めた等至点に違和感を覚えることが出てきます。

研究参加者にとって意味のある等至点が、研究者の決めた等至点と異なるということであり、この研究参加者にとって意味のある等至点をセカンド等至点(Second Equifinality Point:2nd EFP)と呼び、これを発見できればTEA的な飽和(深く掘り下げたというイメージで良いと思います。これ以上広がらないという感じ)と言えます。

セカンド等至点は、等至点と全く異なる場合もあるが、同じような意味でも研究者側からと研究参加者側からで表現が異なる場合もあり、いずれにしても、先入観を持たずに研究参加者を理解することで見えてくるこの等至点の変容はむしろ歓迎すべきことであると言われています。

以上が複線経路・等至性アプローチの概要になりますが、質的な手法を用いていることがわかると思います。

よって、選択肢④は質的研究と関わりが深いので適切と判断でき、除外することになります。

⑤ グラウンデッド・セオリー・アプローチ

グラウンデッド・セオリー・アプローチは、アメリカの社会学者グレイザーとストラウスによって提唱された、データに根差した理論を算出する質的研究法の一つです。

研究者により様々な方法があるが、標準的な手法は以下の通りです。

  1. 質的データを区切ってラベルを付ける:コード化
  2. 似たラベルをまとめてカテゴリーを作る:オープン・コーディング
  3. カテゴリー同士の関連性を説明して組織化する:アクシャル・コーディング
  4. アクシャル・コーディングでつくった現象を集め、カテゴリー同士を関係づける。これが、社会現象を説明する理論となる:セレクティブ・コーディング

非常に簡単に書いていますが、特に「修正版」ではない方のグラウンデッド・セオリー・アプローチでは、上記の1が大変でした。

1の内情としては「分析したいものをよく読み十分に理解し、観察結果やインタビュー結果などを文字にして文章(テキスト、データ)を作る」「データへの個人的な思い入れなどは排除し、できるだけ客観的に、文章を細かく分断する(切片化)」「分断した後の文章の、各部分のみを読み、内容を適切に表現する簡潔なラベル(あるいは数字、コード)をつける(このラベルは、抽象度が低い、なるべく具体的な概念名とする)」といったことを行います。

文字起こしをして、それをざっと印刷して切って貼って、これ似てる・同じ感じがする、という感じで集めて…などをしていくわけですね。

こうしてカテゴリーができ、カテゴリー同士の関連性を説明し、その現象を集めることで、起こっていることを「理論」として提出することになります。

ここまでをまとめ、グラウンデッド・セオリー・アプローチの特徴を以下に示します。

  1. データに密着した分析から独自の説明概念を作って、それらによって統合的に構成された説明力に優れた理論である
  2. 継続的比較分析法による質的データを用いた研究で生成された理論である。
  3. 人間と人間の直接的なやり取り、すなわち社会的相互作用に関係し、人間行動の説明と予測に有効であって、同時に、研究者によってその意義が明確に確認されている研究テーマによって限定された範囲内における説明力の優れた理論である。
  4. 人間の行動、なかんずく他者との相互作用の変化を説明できる、言わば動態的説明理論である。
  5. 実践的活用を促す理論である。

このようにグラウンデッド・セオリー・アプローチとは、目の前にある現象を「理論」として仕上げていくための研究法であり、生き生きとした「動き」のある現象を表現するものであると言えます。

さて、こうしたグラウンデッド・セオリー・アプローチですが、日本で生まれた木下康仁による修正版があり、理論化の考え方や方法が異なります。

木下は、①データに密着した分析から独自の理論を生成する質的研究法、②コーディング方法としてオープン・コーディングと選択的コーディング、③基軸となる継続的比較分析、④その機能面である理論的サンプリング、⑤分析終了の判断基準としての理論的飽和化、をグラウンデッド・セオリー・アプローチ全体に不可欠なものとして修正版でも採用しています。

修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチでは、データの切片化(データを文脈から一旦切り離して、バイアスを軽減するための方法。実際にやるとこれがとても大変な作業になる)を明確に否定しています。

他にも「データに密着した分析をするためのコーディング法を独自に開発(概念を分析の最小単位とするなど)」「研究する人間の視点を重視」「面接型調査に有効に活用できる」「分析作業を段階分けせずに、解釈の多重的同時並行性を特徴とする」などの修正点があります。

上記の通り、グラウンデッド・セオリー・アプローチは質的研究法になり、例えば、何かの研究目的に関するインタビューの録音データを分析していくことになります。

その研究法の特徴から、何かの「過程」を描き出すのに優れた方法であると感じることが多いですね(例えば、障害受容や何かの問題の変化過程など)。

以上より、選択肢⑤は質的研究と関わりが深いので適切と判断でき、除外することになります。

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