心理療法の効果を判定する方法に関する問題です。
珍しく「最も適切か否か」で正答と弁別する問題だったと感じています。
2018-116の問題で、本問の概説になるような解説を書いています。
やはり過去問は大切ですね。
問45 心理療法やカウンセリングの効果研究の方法について、最も適切なものを1つ選べ。
① 要因統制に基づく実験的な研究であることが必須である。
② 一事例実験にみられる介入効果を評価する場合には、因子分析が用いられることが多い。
③ 特定の心理療法を行う実験群と未治療の統制群を設定して、効果の比較を行う必要がある。
④ メタ分析では、ある介入法に基づく複数の効果研究について、効果サイズを算出することができる。
解答のポイント
心理療法の効果研究の方法について概説することができる。
実験の基本的な考え方を把握していると解きやすい。
選択肢の解説
① 要因統制に基づく実験的な研究であることが必須である。
心理療法の治療効果研究では、治療法がどれだけの効果があるかを知ることを目的に行われます。
「Aという心理療法を行ったことによって、Bという改善の結果が生じた」といった因果関係を調べるわけですが、このための方法として事例研究(量的・質的)、一事例実験、対照試験、無作為割付対照試験、などがあります。
このうち、一事例実験、対照試験、無作為対照試験などについては他選択肢の解説に譲るとして、ここではこれらの方法の手続きについて述べていこうと思います。
そもそも実験の基本的な考え方としては、①操作的定義、②実験者による独立変数の操作、③統制群(対照群)の設置、④各条件への被験者の無作為割当、⑤従属変数の測定、⑥統計的検定、があります。
実験者はこうした手続きを踏むことによって、「因果関係に基づく説明」と「対立仮説の排除」が可能になるのです。
上記で挙げた事例研究(量的・質的)、一事例実験、対照試験、無作為割付対照試験について、これら①~⑥についての関係性は以下の表の通りです。
少しわかりにくそうなところを説明すると、例えば「操作的定義」とは、直接には測定できないが、それが反映されて生じる間接的な現象として観測できるように、間接的な測定のため必要な一連の手続き(操作)として定義していく方法論のことを指します。
具体的に言えば、「うつ病」を定義する場合、さまざまな知見(人間学的知見、現象学的知見、科学的知見など)が多くあるため、単一の本質的な定義を示すことは困難です。
DSMなどでは、「うつ病」の人が多く示すような症状を示し(診断基準)、それに当てはまる人を「うつ病」とするわけですが、このときの「診断基準」が「手続き(操作)」ということになります。
なお、事例研究や単一事例実験、対照試験は、上記の①~⑥のいずれかが欠いているので、実験法と呼ぶことはせずに「準実験法」と呼びます。
さて、先に心理療法の効果研究として、事例研究~無作為割付対照試験などの方法を示しました。
本選択肢はこれらの方法が「要因統制に基づく実験的な研究であることが必須」であるか否かを問うていますが、上記の表の通り、必ずしも要因統制が可能な方法だけが心理療法の効果研究の方法として定められているわけではないことがわかると思います。
特に事例研究は、独立変数の操作や従属変数の測定ができない手法であると言えますね。
事例研究は、1人の事例もしくは同様の心理療法を行った複数事例についてまとめた治療の報告です。
事例研究の意義としては、河合隼雄先生が以下の5つを挙げています。
- 新しい技法の提示
- 新しい理論や見解の提示
- 治療困難とされるものの治療記録
- 現行仮説への挑戦
- 特異例の分析
そもそも改善が見られたとしても、それが本当にその心理療法によって生じたのか、などの疑問があります。
ただし、事例を丁寧に記述し、振り返るという行為自体は臨床実践において基本であり、不可欠なものです。
そういう視点で言えば、効果の判定以外の面での事例研究の価値は非常に大きいと言えます。
以上のように、心理療法の効果研究の方法は、必ずしも要因統制が可能な研究法ばかりではないことがわかりますね。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② 一事例実験にみられる介入効果を評価する場合には、因子分析が用いられることが多い。
一事例実験とは、おおむね以下のような手順を踏んで行われます(ちょっと行動論に即した説明になっています)。
- A段階でオペラント水準、つまり、何も操作を加えていない時の対象行動の頻度を見ます。
- B段階で、対象行動を増やすもしくは減らすような要因(関わり)を導入します。
- B段階において、対象行動に変化が見られるかをチェックして、変化が出れば次の段階に進みます。
- 続くA段階では、B段階で導入した要因を取り除きます。
ABAデザインによる介入は自然状況で行うことが多いので、こちら側が入れた要因以外にも様々な要因が飛び交っています。
要は、自分たちが導入した要因の有意性を検証するために、自分たちが導入した要因をいったん抜くわけです。 - その結果、B段階での変化が元どおりになれば、B段階で入れた要因が変化に関係したと捉えることが帰納的に言えるわけです。
こうした手順によって、治療の効果を調べるものであり、1人の事例について、縦断的に反復測定して統計処理を行うスタイルであることが多いです。
実際に統計処理にかけるとすると、従属変数は、例えば、子どもが離席する(しない)頻度とすると離席回数や座っている時間になるでしょう。
このことを踏まえて、本選択肢にある「因子分析」について理解しておきましょう。
硬い言い方をすれば、因子分析とは、観察される変量の変動をより少ない数の仮想的変数(これが因子を指す)を用いて説明することです。
例えば、ある知能に関する課題を子どもに与えたときに、複数の結果のうちいくつか似たような動きをする「まとまり」を因子として抽出するための手法です。
つまり、観測された変数に影響を与えていると考えられる「まだ見ぬ要因」を見つけ出そうとする分析手法が「因子分析」ということであり、「きっと世の中に存在するに違いない「データの背後に潜む説明変数」を見つけ出す」分析手法とも言えます。
この「因子」は、分析後に分析者が「後知恵」で「主観的」に解釈するのです(例えば、昔の分析者が「数学」と「理科」の力をまとめて「理数系能力」と表現した等ですね)。
このように比べてみたときに、一事例実験で因子分析を使うことはないことがわかりますね。
一事例実験では「まだ見ぬ要因」を見つけるのではなく、目の前で起こった行動の変動が有意であるかどうかを調べることになります。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 特定の心理療法を行う実験群と未治療の統制群を設定して、効果の比較を行う必要がある。
本選択肢は「対照試験」に関する記述になっています。
対照試験では、治療しない「統制群(対照群)」を別に設けて、それと治療群を比べる方法です。
先述の事例研究では、こうした統制群が無いので、クライエントの変化が心理療法によって起こったのか、それ以外の要因(例えば、時間、友人の関わり、家族の態度等)によって行ったのか判別不可能です。
そこで対照試験では、その治療法が実施するのに値するものなのかどうかを、統制群を設けることで客観的に判定するわけです。
ここまで読むと本選択肢は適切なように感じますが、実際はそううまくいきません。
実際の臨床場面では、そもそも未治療対照群を設けることが難しい場合が多いため(研究のために治療を行わないというわけにはいかない)、対照試験に準じた方法を採られることになります。
「待機リスト対照法」では、治療が始まるまでに待機時間がある場合、その待機時間を未治療の対照群とする方法です。
また、近年では、臨床場面で普通に行われている治療法を実施し、それを対照群とする「プラセボ治療対照法」がよく用いられます。
最も厳密な方法としては「無作為割付対照試験」があり、これは、対象者を治療群と対照群に割り付ける際に無作為(ランダム)に行う方法です。
治療群と対照群への振り分け(=割付)が作為的に行われてしまうと、研究する側の都合で治療効果が過大に評価される恐れがあるので、割付を無作為に行うということです。
このような技法を用いて、2つの治療技法を比べたり(技法比較研究)、1つの治療体系のうちどの要素が効くのか調べたり(治療要素の分解研究)、治療がどんなプロセスで進むのかを調べたり(プロセス研究)、どのクライエントにはどのような治療が効果があるのか調べたり(治療の個人差研究)などを行っていくわけですね。
以上のように、本選択肢の内容は「対照試験」の基準となる考え方ではありますが、実際に用いられる心理療法の効果研究の方法として適切とは言えません。
よって、選択肢③は適切とは言えないので除外することになります(選択肢④と比較して「最も適切とは言えない」と表現しても良いかもしれませんね)。
④ メタ分析では、ある介入法に基づく複数の効果研究について、効果サイズを算出することができる。
対照試験が複数報告されると、それらの文献をレビューし、治療効果を評価することが可能になりますが、印象批評的なレビューだと研究者によって解釈が恣意的になってしまいます。
そこでSmith&Glass(1977)によって示されたのが「メタ分析」になります。
メタ分析とは、同一の研究課題に関して、独立に行われた研究の結果を統計的手法によって統合する方法のことです。
メタ分析では、任意の尺度を用いて、治療群と非治療群の差を求め、それを非治療群の標準偏差で割り、効果量(効果サイズ)を算出します。
計算式で示すと以下の通りです。
効果サイズがゼロならば治療の効果は全くないことを示し、マイナスならば悪化したことを示し、プラスであれば効果があったことを示し数字が高いほど効果が高いと判断します。
この方法を用いて、Smith&Glassは375個の研究レビューを行い、心理療法全体の効果量の平均を「0.68」と算出し、心理療法は十分に効果があると結論付けました。
最近でこの方法を用いた最も有名な研究が、Assay&Lambert(1999)の治療における変化の要因の研究です(ミック・クーパーの「エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究」に載っています)。
この研究によると、クライエントが治療によって変化する要因とその割合は、相談者の変数と治療外の出来事が40%、治療における人間関係が30%、期待感とプラシーボが15%、技法・モデル要因が15%であると報告していますね。
さて、こうしたメタ分析ですが、批判も当然ながらあります。
まず、範囲が広すぎて、異なる治療法の分析を同じにしてしまう可能性があるということです。
そしてもう一つは、一般公開されているものばかり(うまくいっている研究ばかり)相手にすることになってしまっているということが指摘されています。
逆に「質の悪い心理療法の結果も入れ込んでしまうのではないか」という批判もあり、こちらに対しては「質の良い結果」を選出した結果、効果サイズは「0.93」になったということでした。
各研究法に関しては、その特徴だけでなく、こうした批判についても押さえておくようにしましょう。
以上を踏まえると、本選択肢の内容はメタ分析に関する適切な表現であることがわかりますね。
よって、選択肢④が最も適切と判断できます。