心理学研究における観察法について、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
観察法については、「心理学検定 基本キーワード」に記載がありました。
まずは観察法について概説を述べて、その後に選択肢の解説に入っていきます。
類似問題は公認心理師2018-83になります。
きちんと押さえておきましょう。
解答のポイント
観察法、特に組織的観察法・非組織的観察法や、参与的観察法・非参与的観察法などの細分類とその異同について把握できていること。
観察法について
観察法は対象の行動を注意深く観察することによって、その行動を理解しようとする方法です。
観察法は、その状況にどれほど人為的な操作を加えるかによって「自然的観察法」と「実験的観察法」に大別されますが、後者は実験法に該当するため、一般に「観察法」といえば「自然的観察法」を指すと考えてよいでしょう。
観察法は組織的観察法と非組織的観察法に分けられ、後者は日常生活の中で偶発的に起こった出来事などの観察に該当します。
多くの場合、非組織的観察法は、より組織的な観察のための準備段階として用いられます。
その観察から対象行動の前後の文脈を掴み、それを対象行動が生じやすい状況にもっていく、すなわち組織的観察法につなげていくという感じですね。
組織的観察法は、偶然による観察を改良したもので、観察の目標を定め、何を、どのように観察するのかをあらかじめ検討し、それにふさわしい場面を選ぶというように、一定の計画をたてたうえで観察を行います。
生起したことをすべて記録するのではなく、研究者の関心のある行動や反応をデータとして抽出します。
その中でも一定時間の間に起こった行動をある時間単位ごとに抽出するのが「時間見本法」と言います。
それに対して研究者が関心を持っている場面や事象に焦点を当ててデータを抽出しようとする方法が「場面見本法」や「事象見本法」になります。
組織的観察法は観察者自身がその観察対象に加わるかどうかによって、「参与観察法」と「非参与観察法」に分けられます。
参与観察法は、ある現場に身を置いて参与観察法を用いた調査を行う研究全般を指して、特にフィールドワークと呼びます。
参与観察法と言っても、その観察対象者と何かやりとりをしながら観察を行う交流的観察もあれば、対象者から少し距離を置いて観察する非交流的観察もあります。
非参与観察法では、観察者がその場で観察をする直接的観察と、ビデオなどの観察危機を通して観察するような間接的観察が挙げられます。
選択肢の解説
『①生態学的妥当性が低い』
生態学的妥当性とは、実験に用いる刺激や実験状況そのものが、その生物が通常生活する環境に照らし合わせたときに意味のあるものになっているか、ということです。
要は、その生物の「いつも通りの姿」を生じさせているかどうか、ということですね。
観察法といえば、上記の通り「自然的観察法」を指すと考えられますから、日常的場面での観察が中心になります。
もちろん、組織的観察法では、偶然による観察を改良して観察の目標を定め、何を、どのように観察するのかをあらかじめ検討し、それにふさわしい場面を選ぶというように、一定の計画をたてたうえで観察を行います。
ただそれでも実験室等の状況とは異なり、日常場面での様子を観察できることから、観察法は生態学的妥当性が高いと言えますね。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。
『②因果関係を見い出すのに適している』
これは自然的観察法と実験的観察法の違いを理解していることが大切です。
因果関係を見出すためには、原因と結果以外の要因が排除されていることが重要になります。
なぜなら、それ以外の要因が入っていれば、それがどんな要因であろうと影響を与えなかったということを言い切ることは不可能だからです。
自然的観察法では、日常場面での観察になるので、無数の要因が入り込んでいます。
よって、そこで起こったことの因果関係を見出すことは困難と言えます。
それに対して、実験的観察法では、それ以外の要因となり得るものは一定にする統制条件を整えた上で、独立変数を操作することで従属変数となる被験者の行動や状態を観察・測定しますから、因果関係を見出しやすいと言えます。
ちなみにこのように剰余変数を除いたり操作することを「統制」と呼びます(独立変数を操作することを「統制」と思い込んでいる人がいるので要注意です)。
上述した通り、両方ともに「観察法」という表現が入っていますが、実験的観察法は実験法の一つになるので、本問における「観察法」は自然的観察法を指していると見て間違いないでしょう。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
『③観察者のバイアスが入り込みやすい』
観察法の中でも非組織的観察法であれば、確かに観察者のバイアスは入りにくいと思います。
一方で、観察法の一つである参与観察法においては、その状況自体に観察者が入ることになります。
有名なバイアス概念として観察者効果があり、観察するという行為が観察される現象に与える変化を指します。
観察者効果は社会心理学の領域において、観察者が見出すことを期待している行動を強調しすぎて、それ以外の行動に気づかないという測定における誤差を指します。
観察法、その中でも参与的観察法では、そのデータの収集だけでなく、状況自体に観察者が入り込むことがあることなどから、観察者のバイアスが入り込みやすいと思われます。
以上より、選択肢③が適切と判断できます。
『④目的に関連する言動だけを効率的に取り出し定量化できる』
自然的観察法は、組織的観察法と非組織的観察法に大別できます。
組織的観察法は生起したことをすべて記録するのではなく、研究者の関心のある行動や反応をデータとして抽出しますから、本選択肢の内容に合致します。
しかし、同じく自然的観察法である非組織的観察法では、観察対象についてできるだけ主観を加えず、正確に記述・分析するものです。
そのため、主に仮説設定の準備段階に行うことが多いとされています。
そうすることで、対象行動の生起にまつわる前後関係を把握でき、そこから剰余変数を除いた状況を作って実験的観察法につなげることなどができます。
このように選択肢前半の「目的に関連する言動だけを」という点については、自然的観察法全般で当てはまるわけではないことがわかります。
また選択肢後半の「定量化できる」という点も、やはり不適切だと思われます。
選択肢②にも示した通り、自然的観察法では様々な要因が含まれる状況で観察を行うことになります。
そうなると、対象行動が生起していたとしても、それが「定量化できる」と言えるほど安定したものと見なすには無理があると思われます。
以上より、選択肢④は適切とは言えないと判断できます。
『⑤現象をあるがままに見ることを基本とし、状況に手を加えない』
まず観察法の中の非組織的観察法については、この選択肢の内容が当てはまるようにも思えます。
一方で、同じく観察法の一つである組織的観察法は、偶然による観察を改良したもので、観察の目標を定め、何を、どのように観察するのかをあらかじめ検討し、それにふさわしい場面を選ぶというように、一定の計画をたてたうえで観察を行います。
この「ふさわしい場面を選ぶ」という点が、選択肢にある「あるがままに見ること」「状況に手を加えない」という表現にそぐわないと思われます。
また、組織的観察法では、観察者自身がその観察対象に加わるかどうかによって、「参与観察法」と「非参与観察法」に分けられます。
参与観察となれば、観察者がその状況に入っていくわけですから「状況に手を加えない」ということ自体が成り立たないと思われます。
参与観察では、観察者がその状況に入っていることも加味した情報の収集が重要となります。
こうした視点については、臨床と別のものと捉えない方が良いと思います。
サリヴァンの「関与しながらの観察」を引くまでもなく、臨床場面でもクライエントの変化を捉えていくのにカウンセラー自身の要因を考慮することは当然です。
常に関わりながらクライエントの課題・問題の構造を捉えていくことが求められるわけですから、状況にあるさまざまな因子の影響を同時に考えておくこと、その中にある自分自身という要因も過大評価・過小評価せずに認識しておくことが重要です。
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。