事例の要因計画を選択する問題です。
過去にほぼ同じ問題が出ているので解きやすい内容だったと思います。
問136 ある大学において、オンライン授業の評価について検討するために、学生に質問紙調査を行うことにした。1つの質問紙の中で、対面形態と非対面形態での授業について、望ましさに関する評価の回答をそれぞれ得た。また、大学までの通学時間の影響をみるために、通学時間が長い学生と短い学生の2群に分けて、授業評価を検討することにした。
このような検討を行うときの要因計画として、最も適切なものを1つ選べ。
① 2要因混合計画
② 1要因4水準計画
③ 参加者間1要因計画
④ 参加者間2要因計画
⑤ 参加者内2要因計画
解答のポイント
研究計画の要因数、被験者間・内、混合計画などの特徴を理解している。
選択肢の解説
① 2要因混合計画
② 1要因4水準計画
③ 参加者間1要因計画
④ 参加者間2要因計画
⑤ 参加者内2要因計画
本問では「1つの質問紙の中で、対面形態と非対面形態での授業について、望ましさに関する評価の回答をそれぞれ得た。また、大学までの通学時間の影響をみるために、通学時間が長い学生と短い学生の2群に分けて、授業評価を検討することにした」がどういう要因計画であるかを答えていく必要があります。
まず、ここで挙げた選択肢を理解する上で大切なのは「被験者間・被験者内」の違いを理解しておくことです。
被験者内計画とは、同じ被験者が独立変数の異なった値をすべて体験することになります。
例えば、記憶実験で「暗記条件」と「イメージ条件」があるとしたら、両方で単語を記憶し、記憶テストを受けることになります。
同じ被験者を両方の条件に配分することになるので、2つの条件の間で被験者の記憶力に差はないことになります。
この実験によって記憶テストの成績に差が見られたとすれば、それは「記憶力のような個体差変数によるものではなく、暗記条件かイメージ条件かという独立変数によるものである」と確信をもって推定できるわけです。
しかし、残念ながら、多くの実験では、この理想的な被験者内計画を使うことができません。
被験者内計画の欠点として「残留効果に弱い」ということが挙げられます。
被験者内計画では同じ被験者が異なる条件を試行することになりますが、この際、前の試行から後の試行への影響が生じ、このことを「残留効果」と呼びます。
先の記憶実験でも、どちらかの条件を先に行うことで、後の条件の試行に影響を与えることを懸念せねばなりません(記憶実験の場合、試行順を変えたとしても、練習効果が生じる等の問題が大きい)。
このように、心理学の実験では、残留効果が否定できない場合が多いので、被験者内計画が使えない場合も多くなり、そうなると被験者間計画という「独立変数の値それぞれに、異なる被験者を割り当てる」という計画を選択することになります。
以上のように、被験者内計画は「同じ被験者が独立変数の異なった値をすべて体験する計画」であり、被験者間計画は「独立変数の値それぞれに、異なる被験者を割り当てる計画」ということになります。
これを踏まえて、改めて本問の「1つの質問紙の中で、対面形態と非対面形態での授業について、望ましさに関する評価の回答をそれぞれ得た。また、大学までの通学時間の影響をみるために、通学時間が長い学生と短い学生の2群に分けて、授業評価を検討することにした」がどういう要因計画であるかを考えていきましょう。
まず前半部分の「対面形態と非対面形態での授業について、望ましさに関する評価の回答をそれぞれ得た」ですが、これは同じ被験者が「対面形態」と「非対面形態」の両方を体験して評価していますから「被験者内計画」になります。
そして後半部分の「大学までの通学時間の影響をみるために、通学時間が長い学生と短い学生の2群に分けて、授業評価を検討することにした」ですが、当然のことながらこの内容は同じ人が両方を経験することは基本的に無理ですね。
ですから、「通学時間が長い」と「通学時間が短い」という2つの群に対して、別の学生が授業評価(これは従属変数)を行うことになるので「被験者間計画」になるわけです。
上記のように、2つの要因があって、要因Aではそれぞれ参加者が異なりますが、要因Bでは同一参加者が両方の条件を行うことがわかりますね。
こういう計画のことを「混合計画」と呼びますから、本問の計画は「混合計画」であると言えます(混合計画は本来、設定された要因を「被験者自身が備えている」という場合に用いられやすいです。例えば性別や年齢みたいな)。
また、上記からもわかる通り、本事例の研究計画は「授業形態:対面‐非対面」と「通学時間:長い‐短い」という2要因(2×2水準)になっていますから、選択肢②の「1要因4水準計画」および選択肢③の「参加者間1要因計画」も違うことがわかりますね。
本問は「公認心理師 2021-82」とほぼ同じ内容の問題であったと言えるでしょう。
以上より、選択肢②、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢①が適切と判断できます。