公認心理師 2024-151

社内の心理相談室での対応に関する問題です。

ハラスメントの対応に関する問題ですね。

問151 30歳の女性A、会社員。Aは、社内の心理相談室に自発的に来談した。心理相談室に勤務する公認心理師Bが話を聴いたところ、Aは、「1年前から上司Cに無視され、会社の役に立たないから退職したほうがいいんじゃないか、などと言われる。勤務中に急に涙が出て、夜も眠れない。心身ともに不安定になっていてつらい」と述べている。
 Bの対応として、不適切なものを1つ選べ。
① ハラスメント相談窓口の利用方法をAに説明して、相談を勧める。
② Aに職場に対する今の心境や就労についての思いを話してもらう。
③ Aの心身の不安定な状態への対応として、社内の産業医と連携する。
④ Aの意向を聞いて人事部門等と連携する必要があるかどうか検討する。
⑤ 事実関係を聞き取り、Cの言動がパワーハラスメントであることをAに伝える。

選択肢の解説

⑤ 事実関係を聞き取り、Cの言動がパワーハラスメントであることをAに伝える。

もしかすると、本選択肢の対応を適切と感じた人も多いのではないでしょうか。

Aの話だけを考慮すると、上司から行われていることはパワーハラスメントに該当すると考えられます。

そもそも、職場のパワーハラスメントは、①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること、②業務の適正な範囲を超えて行われること、③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること、を満たすことが求められています。

職場のパワーハラスメントの典型的な例として「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」において「職場のパワーハラスメントに当たりうる行為」として挙げられた6つの行為類型が考えられるが、行為の態様が、6つの行為類型に該当しそうな行為であっても、上記①~③の要素いずれかを欠く場合であれば、職場のパワーハラスメントには当たらない場合があることに留意する必要があります(以下に6類型と該当しない状況を※で示す)。

  1. 身体的な攻撃:
    上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする
    ※業務上関係のない単に同じ企業の同僚間の喧嘩(①、②に該当しないため)
  2. 精神的な攻撃:
    上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする
    ※遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない部下に対して上司が強く注意をする(②、③に該当しないため)
  3. 人間関係からの切り離し:
    自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする。
    ※新入社員を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施する(②に該当しないため)
  4. 過大な要求:
    上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
    ※社員を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる(②に該当しないため)
  5. 過小な要求:
    上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な受付業務を行わせる
    ※経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせる(②に該当しないため)
  6. 個の侵害:
    思想・信条を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内外で継続的に監視したり、他の従業員に接触しないよう働きかけたり、私物の写真撮影をしたりする
    ※社員への配慮を目的として、社員の家族の状況等についてヒアリングを行う(②、③に該当しないため)

このように、パワーハラスメントにはさまざまなものがあり、それぞれにパワーハラスメントに該当しない場合があり得るわけです。

事例で行われているのは「1年前から上司Cに無視され、会社の役に立たないから退職したほうがいいんじゃないか、などと言われる」ということですから、精神的な攻撃に該当するものと考えられますが、A自身がどういった過ごし方をしているかもパワーハラスメントに該当するか否かを考えるときに重要です。

単に一方からの話を聞いて、それを事実と考えて動くことは、どのような状況においてもあってはならないことです(なぜかカウンセラーの中には、目の前の人の話に基づいて動いてしまう人が多い気がします)。

それは単に「事実であるか否かがわからない」からではなく、そういったことをしてしまえば、巡り巡って目の前のクライエントの不利益になってしまう可能性が高いからです。

現状で求められているのは、パワーハラスメントに該当するか否かを判断するための「事実関係の調査」になります。

以下のようなアプローチが推奨されます。

  • 相談者の了解を得た上で、行為者や第三者に事実確認を行いましょう。
  • 行為者に対して事実確認を行う際には、中立的な立場で行為者の話を聴きましょう。また、相談者の認識に誤解があった場合にも、報復などは厳禁であることを伝えましょう。
  • 相談者と相手の意見が一致しない場合には、同席者や目撃者は、同様のパワーハラスメントを受けている者に事実関係の調査を行います。
  • 第三者に話を聞くことで、当該問題が外部に漏れやすくなるので、第三者にも守秘義務について十分理解してもらい、事実確認を行う人数は、できる限り絞りましょう。
  • 相談者、行為者、第三者の意見が一致するとは限りません。それぞれの主張を合理的に判断する情報と考えるようにしましょう。

こうしたことに配慮しつつ、まずはパワーハラスメントであると断定することなく、双方の話を聞いて、パワーハラスメントの有無を検証していくことが現時点では重要になってきます。

本選択肢では「事実関係を聞き取り」とありますが、これはあくまでも「目の前にいるAから聞き取る」と受け取ることができますから、きちんと「行為者や第三者に事実確認を行う」ことが重要になりますね。

行為者や第三者への調査については、こちらの資料に詳しいので読んでおくようにしましょう。

こうした手順を経て、①パワーハラスメントであると確認できた、②相談者がパワーハラスメントであることを自覚しておらず、③そのことによって心身の不調が起こっているに留まらず、相談者自身が「自分が悪い」などの考えに陥っている、というパターンが生じていれば、本選択肢のように「Cの言動がパワーハラスメントであることをAに伝える」ということもあり得ます。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断でき、こちらを選択する必要があります。

① ハラスメント相談窓口の利用方法をAに説明して、相談を勧める。
② Aに職場に対する今の心境や就労についての思いを話してもらう。
③ Aの心身の不安定な状態への対応として、社内の産業医と連携する。
④ Aの意向を聞いて人事部門等と連携する必要があるかどうか検討する。

さて、そうなると正答以外の選択肢は「本事案がパワーハラスメントであると断定できていない状況でも行うことができる対応」になるはずです。

まずは、「Aへの心理的ケア」に関する動きをしていく必要がありますね。

本事案がパワーハラスメントであるか否かに関わらず、Aは「勤務中に急に涙が出て、夜も眠れない。心身ともに不安定になっていてつらい」という事実があるわけですから、カウンセラーが「Aに職場に対する今の心境や就労についての思いを話してもらう」ことで心理的サポートを行っていくことが重要になります。

まず目の前にいるクライエントを支える、というスタンスで接するわけですね(ハラスメントが事実であるか否かに関わらず、場合によっては、クライエントの考えすぎや、クライエント自身に問題があったとしても同じく重要な姿勢になりますね)。

それだけでなく、社内のシステムを活用することも重要であり、「Aの心身の不安定な状態への対応として、社内の産業医と連携する」ということも取り得る手段の一つになるでしょう。

事業者には、従業員が相談しやすい相談窓口を設置し、できるだけ初期の段階で気軽に相談できるしくみを作ることが求められており、内部相談窓口として産業医が挙げられますから、こちらへの相談を勧めるのは適切な対応ですね。

また、上記のようにクライエントを支えるだけでなく、ハラスメントに関する必要な対応を取っていくことも求められます。

前述の通り、事業者には相談窓口の仕組みを作ることが求められています。

相談窓口の例としては以下のようなものがあります。

  • 管理職や従業員をパワーハラスメント相談員として選任して相談対応
  • 人事労務担当部門
  • コンプライアンス担当部門/監査部門/人権(啓発)部門/法務部門
  • 社内の診察機関、産業医、カウンセラー
  • 労働組合

特にハラスメント相談員が対応できるのであれば望ましく、当然「ハラスメント相談窓口の利用方法をAに説明して、相談を勧める」というのは取るべき対応の一つと言えますね。

また、上記の中に「人事労務担当部門」とあるように、こちらも相談対応が可能になります。

相談担当者の役割には、相談の受付(一次対応)という役割に限る場合と、相談の受付(一次対応)だけでなく、事実確認なども行う役割がある場合があります。

相談の受付(一次対応)という役割に限る場合は、その後の事実関係の調査等は、人事担当部署などに引き継ぐ仕組みである場合が多いです。

具体的に調査をしていくせよ、その後の適切な対応を行っていくにせよ、やはり会社の人事部門との連携は重要になっていきます。

ですが、やはり面接の外に話を持っていくということであれば、クライエント自身の意向なども重要になってきますから「Aの意向を聞いて人事部門等と連携する必要があるかどうか検討する」ということになりますね。

クライエントが拒否する場合もあるでしょうが、そのときも「なぜ拒否をするのか」を検証していくことで、クライエントの心理的課題が浮き彫りになることもあれば、カウンセラー側から相談を強く勧めねばならない状況まで、さまざまなことがあり得ます。

以上を踏まえると、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

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