公認心理師 2023-40

労働安全衛生法が定まる事業場の規模に応じた事業者の義務に関する問題です。

あちこちの法令・通知に話が飛ぶので難しい問題でした。

問40 労働安全衛生法が定める、事業場の規模に応じた事業者の義務として、正しいものを1つ選べ。
① 衛生委員会の設置
② 従業員支援プログラムの導入
③ ハラスメント相談窓口の設置
④ 事業場内の心理相談体制の確立
⑤ 事業場外の精神科医療機関との提携

解答のポイント

労働安全衛生法で定められている事業者の義務を把握している。

選択肢の解説

① 衛生委員会の設置

まずは労働安全衛生法に定められている事業者の義務を列挙していきましょう。

まずは「管理者や責任者の選任」です。

労働安全衛生法の第3章 安全衛生管理体制にある通り、事業者は安全衛生管理や推進の中心となる人を選定しなければなりません。

事業規模や業種に応じて「安全管理者」「衛生管理者」「安全衛生推進者」「産業医」を配置します。

  • 安全管理者:常時所定の数の労働者を使用する事業場
  • 衛生管理者:常時50人以上の労働者を使用する事業場
  • 安全衛生推進者:常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場
  • 産業医:常時50人以上の労働者を使用する事業場

このように、事業場の規模に応じて配置が必要な役割があることが示されています。

また、同じく労働安全衛生法の第3章 安全衛生管理体制では、常時使用する労働者を50人以上有する事業場に「安全衛生委員会」を設置することが義務付けられています(より詳しくは以下で述べます)。

安全衛生委員会は、衛生委員会と安全委員会を統合したものであり、設置目的は労働者の健康被害を防止するための対策を講じることとされています。

この辺の条項を書き出しておきましょう。


(安全委員会)
第十七条 事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、安全委員会を設けなければならない。
一 労働者の危険を防止するための基本となるべき対策に関すること。
二 労働災害の原因及び再発防止対策で、安全に係るものに関すること。
三 前二号に掲げるもののほか、労働者の危険の防止に関する重要事項
2 安全委員会の委員は、次の者をもつて構成する。ただし、第一号の者である委員(以下「第一号の委員」という。)は、一人とする。
一 総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者
二 安全管理者のうちから事業者が指名した者
三 当該事業場の労働者で、安全に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者
3 安全委員会の議長は、第一号の委員がなるものとする。
4 事業者は、第一号の委員以外の委員の半数については、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときにおいてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときにおいては労働者の過半数を代表する者の推薦に基づき指名しなければならない。
5 前二項の規定は、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合との間における労働協約に別段の定めがあるときは、その限度において適用しない。

(衛生委員会)
第十八条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。
一 労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。
二 労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。
三 労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること。
四 前三号に掲げるもののほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項
2 衛生委員会の委員は、次の者をもつて構成する。ただし、第一号の者である委員は、一人とする。
一 総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者
二 衛生管理者のうちから事業者が指名した者
三 産業医のうちから事業者が指名した者
四 当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者
3 事業者は、当該事業場の労働者で、作業環境測定を実施している作業環境測定士であるものを衛生委員会の委員として指名することができる。
4 前条第三項から第五項までの規定は、衛生委員会について準用する。この場合において、同条第三項及び第四項中「第一号の委員」とあるのは、「第十八条第二項第一号の者である委員」と読み替えるものとする。

(安全衛生委員会)
第十九条 事業者は、第十七条及び前条の規定により安全委員会及び衛生委員会を設けなければならないときは、それぞれの委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置することができる。
2 安全衛生委員会の委員は、次の者をもつて構成する。ただし、第一号の者である委員は、一人とする。
一 総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者
二 安全管理者及び衛生管理者のうちから事業者が指名した者
三 産業医のうちから事業者が指名した者
四 当該事業場の労働者で、安全に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者
五 当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者
3 事業者は、当該事業場の労働者で、作業環境測定を実施している作業環境測定士であるものを安全衛生委員会の委員として指名することができる。
4 第十七条第三項から第五項までの規定は、安全衛生委員会について準用する。この場合において、同条第三項及び第四項中「第一号の委員」とあるのは、「第十九条第二項第一号の者である委員」と読み替えるものとする。


ここで安全委員会、衛生委員会、安全衛生委員会の3つが挙げられているので、細かく見ていきましょう。

衛生委員会の設置目的は、事業場側と労働者側が協働して労働者の健康障害や労働災害を防ぎ、健康に業務に従事できる職場環境を目指すことであり、設置義務が生じる基準は、業種を問わず常時50人以上が勤務する事業場となります(パート・アルバイトや派遣社員も含まれることに注意が必要)。

安全委員会は、従業員数と指定の業種に当てはまる場合に設置が必要です。

なお、常時使用する従業員が50人未満の場合は、両委員会の設置義務はありません。

そして、安全委員会及び衛生委員会の両方を設けなければならないときは、それぞれの委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置することができるということになります。

また、労働安全衛生法第66条では、労働者の安全と健康確保に向けた対策として、事業者に健康診断・ストレスチェックの実施を義務付けています(ストレスチェックは労働者50人未満の事業場においては努力義務)。

事業者には、労働者の心理的な負担の程度を把握し、新たな病気発症の予防に努めることが求められます。

ストレスチェックは、50人未満であれば努力義務、それ以上であれば法的義務となり、「事業場の規模に応じた事業者の義務」に該当すると言えなくもありませんね。

ただ、今回は選択肢の中に「ストレスチェックの実施」が含まれていないので、本問では考えなくて良い事項になります。

労働安全衛生法第4章では、事業者は設備や作業などにより労働者が危険に晒されたり、怪我や病気をしたりすることがないよう、事前に防止措置を講じるよう定められています(労働災害(危険・有害物・健康被害)の防止措置)。

労働災害とは、具体的に爆発性や発火性のあるものによる危険やガス・粉じん・放射線等による健康障害などを指します。

事業者にとって、労働者の健康・安全を図るために必要な防止措置といえるでしょう。

こちらは事業場の規模に応じているのではなく、業種に応じてというものになっていますね。

労働安全衛生法第6章では、業種・職種・雇用形態にかかわらず、事業者は労働者を新たに雇い、その作業内容を変更したときに遅滞なく、「安全衛生教育の実施」が義務付けられています。

総括安全衛生管理者や衛生管理者、安全管理者、業務に精通した労働者などが主体となり、安全衛生教育を実施し、労働者それぞれがいかなる危険に対しても、意識して安全な行動を取り、労働災害を防止することが目的です。

こちらは事業場の規模に関わらず行わなければならないことになっていますね。

平成18年の法改正により、労働安全衛生法第28条に「危険又は有害性の調査及び調査の結果に基づく講ずべき措置」が事業者の努力義務として導入されました(要するに「リスクアセスメントの実施」になる)。

事業者が業務における危険性や有害性を調査し、労働者の危険や健康障害を防止するための措置に努めることで、労働災害につながる危険性や有害性のあるリスクの抽出、危機に対する感受性向上といったリスクアセスメントの実施が期待されます。

こちらについては「努力義務」ですから、本問を考える際には除外して良いのかもしれませんが、念のため。

同じく「努力義務」として、労働安全衛生法第7章において「快適な職場環境の整備」が明記されています。

職場環境の現状把握、労働者の意見や希望の聴取など、労働者の健康保持増進のための措置として、労働者が不快と感じないような作業環境の維持管理が求められています。

職場環境を整備することで、健康障害の防止や労働災害防止につながり、労働者の士気向上も期待できます。

ここで事業場の規模に応じて義務が変わるものを列挙すると以下の通りになります。

  • 管理者や責任者の選任
    安全管理者:常時所定の数の労働者を使用する事業場
    衛生管理者:常時50人以上の労働者を使用する事業場
    安全衛生推進者:常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場
    産業医:常時50人以上の労働者を使用する事業場
  • 安全衛生委員会の設置
    ※安全委員会:業種によって設置義務が異なる(50人以上・100人以上など)。
    ※衛生委員会:常時50人以上の労働者を使用する事業場
  • ストレスチェックの実施
    ※50人未満であれば努力義務、それ以上であれば法的義務

このようになりますから、本問で設定されている選択肢の中では「衛生委員会の設置」になりますね。

よって、選択肢①が正しいと判断できます。

② 従業員支援プログラムの導入

厚生労働省が定める「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の中では、メンタルヘルス対策推進のために「4つのケア」が重要とされています。

「4つのケア」とは、労働者自身が自らのストレスを予防・軽減する「セルフケア」、管理監督者の行う「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、事業場外の専門機関の支援を受ける「事業場外資源によるケア」です。

従業員支援プログラム(EAP)は、4つ目の「事業場外資源によるケア」に当てはまり、社外の機関によって行われます。

従業員は自分の悩みを社内の人に知られることなく、専門家に相談することができます。

もともとEAPは、アルコール依存、薬物依存が深刻化したアメリカで、これらによって業務に支障をきたす社員が増加したことに対応するために1960年代に発展したもので、日本においても1980年代後半から少しずつ浸透してきています。

社員の抱える問題、職場の抱える人間関係などの問題を個人的問題として処理して来た日本の企業でも、これらの問題が出現したときの対応コストをリスクマネジメントとして考え、あるいは、さらに一歩進んでCSR(企業の社会的責任)の一貫と考え、EAPを導入する企業が増えてきています。

ただし、こちらは現時点で事業者の法的な義務として設けられているというわけではありません。

よって、選択肢②は誤りと判断できます。

③ ハラスメント相談窓口の設置

ハラスメント窓口は義務化されています。

中小企業については2022年3月31日までは努力義務となっていますが、2022年4月1日には大企業と同様に義務化が適用されます。

ただし、こちらは労働安全衛生法に基づく義務ではなく、パワハラ防止法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律:労働施策総合推進法)によるものです。


(国、事業主及び労働者の責務)
第三十条の三 国は、労働者の就業環境を害する前条第一項に規定する言動を行つてはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「優越的言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。
2 事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
3 事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
4 労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。


これだけだとざっくりしすぎていますが、細かいところは「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を参照にすることとなっています。

事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容としては以下の通りになっています。

  1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発:
    事業主は、職場におけるパワーハラスメントに関する方針の明確化、労働者に対するその方針の周知・啓発として、次の措置を講じなければならない。なお、周知・啓発をするに当たっては、職場におけるパワーハラスメントの防止の効果を高めるため、その発生の原因や背景について労働者の理解を深めることが重要である。その際、職場におけるパワーハラスメントの発生の原因や背景には、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題もあると考えられる。そのため、これらを幅広く解消していくことが職場におけるパワーハラスメントの防止の効果を高める上で重要であることに留意することが必要である。
  2. 相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備:
    事業主は、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、次の措置を講じなければならない。
  3. 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応:
    事業主は、職場におけるパワーハラスメントに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、次の措置を講じなければならない。
  4. 1から3までの措置と併せて講ずべき措置:
    1から3までの措置を講ずるに際しては、併せて次の措置を講じなければならない。

特に、上記の2に「ハラスメント相談窓口の設置」が含まれていることになります。

以上をまとめると、2020年6月1日にパワハラ防止法(改正・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)が施行され、同法により、大企業に対しては施行された日より「パワハラ防止のための措置」を講じることが義務化されています(中小企業についても、2022年4月1日から義務化が適用)。

「パワハラ防止のための措置」の基準は厚生労働省が告示している「職場におけるハラスメント関係指針」などのガイドラインになるわけですが、この中でハラスメント相談窓口設置に関する規定が明記されているのです。

このように「ハラスメント相談窓口の設置」は事業者の義務ということになりますが、労働安全衛生法によるものではないことがわかりますね。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

④ 事業場内の心理相談体制の確立

こちらについては、労働安全衛生法の中で以下のような規定が定められています。


(健康教育等)
第六十九条 事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない。
2 労働者は、前項の事業者が講ずる措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとする。


このように、自殺を予防するなどのために健康相談体制を整備することは、労働安全衛生法第69条第1項に規定されているように、大変重要な対策ではありますが、こちらは「努力義務」となっています。

相談窓口の整備については、相談者が相談・カウンセリング・治療等が受けられることはもとより、精神疾患が作業関連疾患として取り上げられる傾向にある中で、その対応として専門的な指導・判断を必要とすることからも労働衛生の視点を持った精神科医等の専門医を確保することが必要と考えられます(こちらについては事業場の規模によって規定がありますね)。

このように「事業場内の心理相談体制の確立」については努力義務である他、特に事業場の規模に応じた規定は存在しません。

よって、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤ 事業場外の精神科医療機関との提携

こちらについては「メンタルヘルス対策における事業場外資源との連携の促進について」という通知で示されていますね。

メンタルヘルス不調の早期発見と適切な対応はメンタルヘルス対策上、重要であるため、メンタルヘルス不調を感じた労働者がいつでも相談できる相談体制の整備とともに、相談時においてメンタルヘルス不調を把握した場合には、迅速に医療機関等に取り次ぎできる仕組みの構築が必要とされています。

このようなことから、事業場に対してメンタルヘルスの相談担当者の配置や事業場外資源の有効な活用についての啓発指導を行うとともに、事業場外資源のうちメンタルヘルス相談の専門機関に関し、一定の要件を満たしたものについて登録・公表することにより、メンタルヘルスに係る優良な事業場外資源の確保を図り、その利用を促進することとしています。

労働者の心の健康の保持増進のための指針」において「4 つのメンタルヘルスケアの推進」が示されています。

この4つとは、①セルフケア、②ラインによるケア、③事業場内産業保健スタッフ等によるケア、④事業場外資源によるケアということになります。

上記の通知は、事業場外資源によるケアを受けやすくするためのものということになりますね。

ただ、提携自体が義務として定められているわけではありませんね。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です