労働安全衛生規則に定められている産業医の職務に関する問題です。
産業医に関する問題はこれまでもありましたが、本問のような根本的な役割に関する内容は初めてになりますね。
問110 労働安全衛生規則に定められている産業医の職務として、正しいものを1つ選べ。
① 人事評価
② 健康診断の実施
③ 従業員の採用選考
④ 従業員の傷病に対する診療
⑤ 職場におけるワクチン接種の実務
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なし
解答のポイント
法(規則)で定められている産業医の役割を理解している。
選択肢の解説
① 人事評価
② 健康診断の実施
③ 従業員の採用選考
④ 従業員の傷病に対する診療
⑤ 職場におけるワクチン接種の実務
労働安全衛生規則第14条を見てみましょう。
第十四条(産業医及び産業歯科医の職務等) 法第十三条第一項の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げる事項で医学に関する専門的知識を必要とするものとする。
- 健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
- 法第六十六条の八第一項、第六十六条の八の二第一項及び第六十六条の八の四第一項に規定する面接指導並びに法第六十六条の九に規定する必要な措置の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
- 法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査の実施並びに同条第三項に規定する面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
- 作業環境の維持管理に関すること。
- 作業の管理に関すること。
- 前各号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。
- 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
- 衛生教育に関すること。
- 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
このように、上記第1号に「健康診断の実施」が規定されていることがわかりますね。
こちらについては「産業医ができること」でも上記の規定を基に以下のようにまとめられております。
- 健康診断の実施とその結果に基づく措置
- 長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置
- ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置
- 作業環境の維持管理
- 作業管理
- 上記以外の労働者の健康管理
- 健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
- 衛生教育
- 労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置
このように、産業医の職務として選択肢②の「健康診断の実施」が正しい内容であることがわかりますね。
ちなみに、この健康診断を拒否した場合、懲戒処分が可能となっております。
選択肢①の「人事評価」や選択肢③の「採用選考」は事業者の役割となります。
例えば、「公正な採用選考をめざして」という厚生労働省の資料では、応募者の基本的人権を尊重すること、応募者の適正・能力に基づいた基準により選考を行うことが示されていますね。
また、選択肢④の「労働者の疾病の診療」に関しては、労働契約法第5条に「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」とあるように、事業者には健康配慮義務が設けられていて、これを怠った場合、民法上の損害賠償責任が問われる可能性があります。
本人が何かしらの病気の場合、そのときに本人が「大丈夫です」と述べた場合であっても、問題が起きれば会社側が安全配慮義務を怠ったとして責任を問われることになります。
受診させること(すること)が就業規則などに基づいている場合は、受診を拒否したときに懲戒処分を行うこともできるという裁判例がありますから、会社は事前に就業規則において会社の命令による医師の診察を拒否した際に懲戒処分できる旨を明記しておくことが必要です(そうすることで、診察を受けさせることが可能になり、結局のところ本人のためにもなる)。
ちなみに、この際の医師ですが、裁判例で就業規則などで規定があれば、医師を指定することが可能であり、本人はそれに従わなければならないとされています。
とは言え、この場合の医師が産業医でなければならないという規定は存在しませんね。
こちらについては選択肢⑤の「職場におけるワクチン接種の実務」でも同様であり、産業医の役割であるとの規定は存在しません。
(一応、コロナワクチンを念頭に置いて述べると)厚生労働省のQ&Aにあるように、企業側が医療従事者を手配することが必要であるとされていますが、それを産業医が行う等の具体的な内容については示されていません。
この辺を産業医に指定されてしまうと、産業医のなり手がいなくなるくらい大変になりそうですね。
以上より、労働安全衛生規則に定められている産業医の職務として、選択肢②が適切と判断できます。
また、選択肢①、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。