公認心理師 2019-148

問148はストレスチェックを踏まえた「補足的な面接」で把握すべき事項の判断をする問題です。
実践では本問の答えのようにパッキリといかないと思うのですが、あくまでも本問の状況設定を踏まえての解答・解説ということになりますね。

問148 30歳の女性A、会社員。ストレスチェックの結果、高ストレス者に該当するかどうかを補足的な面接で決定することになり、公認心理師がAの面接を行った。Aのストレスプロフィールは以下のとおりであった。「心理的な仕事の負担」は低い。「技能の活用度」、「仕事の適性度」及び「働きがい」が低い。「職場の対人関係のストレス」が高い。「上司からのサポート」と「同僚からのサポート」が低い。ストレス反応では、活気に乏しく疲労感と抑うつ感が高い。「仕事や生活の満足度」と「家族や友人からのサポート」が低い。
ストレスプロフィールを踏まえ、面接で把握すべき事項として、最も優先度の低いものを1つ選べ。
①労働時間を尋ねる。
②休日の過ごし方を尋ねる。
③キャリアの問題を抱えていないか尋ねる。
④上司や同僚との人間関係について尋ねる。
⑤疲労感と抑うつ感は、いつ頃から自覚し始め、どの程度持続しているのかを尋ねる。

本問では、状況設定をきちんと理解しながら解いていくことが大切です。
その状況設定とは、「高ストレス者に該当するかどうかを補足的な面接」であることと、「ストレスプロフィールを踏まえ、面接で把握すべき事項」という点です。
これがあるからこそ正答を導くことが可能になります。

解答のポイント

示された状況設定を理解し、その上で必要な対応を選択することができる。

選択肢の解説

①労働時間を尋ねる。

チャートの一つである「ストレスの原因因子」では、労働者の仕事に関連するストレス要因が9項目にわたって示されています。
この中に「心理的な仕事の負担」という項目があります。
事例内では、この項目のストレスは低いという結果が出ていましたね

ストレスの原因因子のうち、「心理的な仕事の負担(量)」「心理的な仕事の負担(質)」「自覚的な身体的負担度」「仕事のコントロール度」は、仕事の内容そのものに関わるストレス因子を評価しています。

「心理的な仕事の負担(量)」は、当然ながら「自分のキャパシティーを超えている量」「就労時間内に終えられない量」「休憩する間もないほど必死に働かねばならない量(密度)」になればなるほど大きなストレスとなります
また「心理的な仕事の負担(質)」においては、「ミスが許されない」「高度な判断力が必要」「緊張度が高い」「責任が重い」といった質的な部分に関わる高負荷が常態化していると、たとえ定時内で仕事を終えていたとしてもストレス度が高くなります。
残業がそれほど多くなくても責任が重く緊張度が高い仕事をしている人は、夜になっても仕事のことが頭から離れず寝つけないといった「過緊張状態」に陥ることも少なくありません。

本問では量や質に関しての細かな記載はありませんが、少なくともAは「心理的な仕事の負担」は低いとされており、量・質共に高かったわけではないことがわかります
本選択肢の「労働時間」に関しては、まず問いたくなるものであると考えられます。
しかし、本問は問題文に「ストレスプロフィールを踏まえ、面接で把握すべき事項」ですから、あくまでもストレスプロフィールに基づいて面接で問う内容を判断するということであれば、本選択肢の内容は優先度が低いものになると言えるでしょう

なお、高ストレス者に該当するか否かを判断する面接に臨む前には、対象者に関する情報を、事前に実施事務従事者または人事労務担当者から可能な限り入手しておくだろうと考えられます。
特に、勤務年数、最近の異動の有無、勤怠の状況、残業や休日出勤などの状況、現在までの仕事ぶり、周りの評価などが重要になるだろうと思います。

一般的に本事例のような場合には、実施事務従事者などから労働時間に関する情報は得ているという前提の上で、ストレスチェックの分析結果から把握する内容が選定されることになるでしょう

もちろんストレスチェックで「心理的な仕事の負担(量)」が高い場合には、この時点でも労働時間等について尋ねることはあるでしょうが、本事例はそういったことはなかったですね

以上より、選択肢①が最も優先度が低いと判断でき、こちらを選択することが求められます。

②休日の過ごし方を尋ねる。

本選択肢は「「仕事や生活の満足度」と「家族や友人からのサポート」が低い」という点から導かれたものであると考えられます。
これらはチャートの一つである「ストレス反応に影響を与える他の因子」に該当するものです。

「家族や友人からのサポート」は、「次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか」「あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか」「あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか」に関する家族や友人に対する評価から算出されるものです。
また「仕事や生活の満足度」は、「仕事に満足だ」「家庭生活に満足だ」という項目から算出されています(直球ですね)

なお、「数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法」が厚生労働省から示されておりますが、素点換算表には「仕事や生活の満足度」の項目があっても高ストレス者の選定に当たっては使用しないことになっています。
ですが、本問の状況はあくまでも「高ストレス者に該当するかどうかを補足的な面接で決定する」となっております。
高ストレス者と認定された場合には、曖昧な「満足度」という指標よりも、より具体的なストレスの原因やストレス反応を把握することが重要になるというのは頷けるのですが、事例は高ストレス者と認定されたという状況ではありませんね。
ですから「仕事や生活の満足度」や「家族や友人からのサポート」が低いという結果が出ているのであれば、その点も含めて総合的に把握するためにも、Aのストレスを修飾する因子として家庭生活について問うことは合理的な判断だろうと思います
むしろ、高ストレス者と認定される前だからこそ、細やかに聞き取りを行っておきたい項目であると言えるかもしれません。

本選択肢の「休日の過ごし方を尋ねる」というアプローチは、「仕事や生活の満足度」と「家族や友人からのサポート」の両方を踏まえた質問であると考えることができます
ストレスチェックの段階では、特に満足度に関しては「満足しているか否か」という非常に曖昧な形でしか判断を求めていません。
そこで、休日というプライベートな状況での具体的な過ごし方を問うことで、家族や友人との関わりの度合い、どう過ごし、その中でどのように感じているのか、などを把握し、プライベートな時間がAにとってどのような意味を持っているのか理解することは、Aの心身の負担やそれを軽減する因子を把握する上で大切なことと言えます
まさに「高ストレス者に該当するかどうかを補足的な面接で決定する」の「補足的」の部分に係ってくる事柄と言えるでしょうね

以上より、選択肢②は優先度が高いものと判断でき、除外することが求められます。

③キャリアの問題を抱えていないか尋ねる。

本選択肢は「「技能の活用度」、「仕事の適性度」及び「働きがい」が低い」という点から導かれたものであると考えられます。

「技能の活用度」「仕事の適性度」「働きがい」などは、仕事に対する「向き・不向き」や「やりがい」に関するストレスが評価されています
質問項目としては、「自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない」「仕事の内容は自分にあっている」「働きがいのある仕事だ」などで判断される箇所になります。
若年者ほど「自分に向いている仕事かどうか」「今の仕事がキャリア成長につながっているかどうか」で悩む傾向がありますね。

事例では、これらの項目が低いことが示されておりますから、選択肢のように「キャリアの問題を抱えていないか尋ねる」というアプローチは、ストレスチェックの結果を踏まえれば合理的なものであると言えるでしょう
よって、選択肢③は優先度が高いものと判断でき、除外することが求められます。

④上司や同僚との人間関係について尋ねる。

本選択肢は「「職場の対人関係のストレス」が高い。「上司からのサポート」と「同僚からのサポート」が低い」という点から導かれたものであると考えられます。

「職場の対人関係でのストレス」は、上司や同僚、クライアントとの人間関係のストレスです。
「私の部署内で意見のくい違いがある」「私の部署と他の部署とはうまが合わない」「私の職場の雰囲気は友好的である」などの質問から算出されるものです
パワハラやセクハラ、職場のいじめなどに悩む人が少なくありません。
こうした人間関係ストレスは継続すると高確率でメンタル不調の原因となります。

上司や同僚からのサポートに関しては「次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか」「あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか」「あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか」に関する上司や同僚に対する評価から算出されるものです
こうしたサポートがあれば、ある程度の負担であれば軽減され得ることが多いと思います。

事例では、職場の対人関係のストレスが高く、上司や同僚からのサポートが低いという結果が出ており、選択肢にある「上司や同僚との人間関係について尋ねる」というアプローチは、ストレスチェックの結果を踏まえれば合理的なものであると言えるでしょう
よって、選択肢④は優先度が高いものと判断でき、除外することが求められます。

⑤疲労感と抑うつ感は、いつ頃から自覚し始め、どの程度持続しているのかを尋ねる。

本選択肢は「ストレス反応では、活気に乏しく疲労感と抑うつ感が高い」という点から導かれたものであると考えられます。
チャートの一つである「ストレスによっておこる心身の反応」の結果が示されており、大きく「活気」「イライラ感」「疲労感」「不安感」「抑うつ感」「身体愁訴」などで構成されています。
「活気」については「活気がわいてくる・元気がいっぱいだ・生き生きする」という項目で、「疲労感」については「ひどく疲れた・へとへとだ・だるい」という項目で、「抑うつ感」については「ゆううつだ・何をするのも面倒だ・物事に集中できない・気分が晴れない・仕事が手につかない・ 悲しいと感じる」という項目から算出されます

事例では「活気」が乏しく、「疲労感」「抑うつ感」が高いという結果が出ていますから、これらについて問うていくのはストレスチェックの結果を踏まえれば合理的なことだろうと思われます
そして、こうした活気、疲労感や抑うつ感などのような感覚について把握する時には、本選択肢のように「いつ頃から自覚し始め、どの程度持続しているのか」と問うことは大切です。
そうした感覚の有無に留まらず、例えば、そうした感覚が仕事の前後でどう変化するのか、夜寝る前にも存在するか否か、朝起きたときの変化はどうか、自覚し始めた前後での仕事の変化、どの程度持続していて強度の変化はどうか、などを細やかに把握することで、その人のストレスになっている事柄について同定しやすくなるだけでなく、効果的な対処法も考えやすくなります

以上より、選択肢⑤は優先度が高いものと判断でき、除外することが求められます。

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