ヒューマンエラーに該当しない選択肢を選ぶ設問です。
あまり馴染みのない問題だったように思います。
ヒューマンエラーに関しては、臨床心理士資格試験ではほとんど出たことが無く、唯一「フェイルセーフ」と「フールプルーフ」がずいぶん前に出題されたくらいです。
解答のポイント
ヒューマンエラーの分類について把握していること。
労働基準法の周知義務について把握していること。
ヒューマンエラーとは
広くは人間の失敗を意味する用語ですが、事故防止の観点から、その発生メカニズムの解明およびその効果的な防止策の構築に関する概念体系と捉えられています。
人間をシステムの構成要素として捉え、外部環境の改善等からシステムの許容範囲を広げることでエラー低減を図るという人間工学的側面の定義として以下のものがあります。
「システムによって定義された許容限界を超える一連の人間行動」
人間個人内の、計画、意図、行為に至るまでの心理的プロセスに焦点を当て、その発生メカニズムの理解からエラー低減を図るという心理学的側面の定義として以下のものがあります。
「計画された心理的、物理的活動過程において、意図した結果がえられなかったときで、かつその失敗は他の出来事によるものでない場合を包含する一般的用語」
ヒューマンエラーの分類はいくつかの側面で可能です。
現われたエラーの形態
- オミッションエラー:実行すべき行為をしない
- コミッションエラー:実行したが正しく行わない
エラーを情報処理過程に位置づける分類
- 入力エラー:認知や確認のエラー。知らない場合、無理解によるものなど。
- 媒介エラー:判断や記憶のエラー。しっかり理解はしているけど、判断を間違える場合など。
- 出力エラー:動作や操作のエラー。理解もしていて判断も適切だけど、実行しようとしたときにミスをする場合を指す。能力不足の場合もこちら。
認知心理学的観点による分類
- スリップ:目標は正しいが行為の実行段階で誤るエラー。いわゆる「過失」によるミスがこれにあたる。
よくあるのが、ブレーキを踏もうとしてアクセル踏んじゃったという場合。 - ラプス:スリップと同じ枠組み(行為段階のエラー)だが、いわゆる「記憶違い」や「物忘れ」などが該当する。
いつも飲まねばならない薬を飲み忘れた、など。 - ミステイク:目標の形成段階で誤るエラー。いわゆる意図的(故意)に誤った行為をした結果としてエラーとなった場合を指す。この場合の「意図」とは事故を起こそうとする「意図」ではなく、いつも行っている手順を「意図的」に飛ばす場合などを指す。
選択肢の解説
『①Aのスイッチを押すつもりであったが、忘れて押さなかった』
こちらは上記の「出力エラー」や「ラプス」に該当します。
よってヒューマンエラーと捉えることができるので、選択肢①は除外できます。
『②Aのスイッチを押そうとして、うっかりBのスイッチを押した』
こちらは上記の「出力エラー」や「スリップ」に該当します。
よってヒューマンエラーと捉えることができるので、選択肢②は除外できます。
『③Aのスイッチを押すルールがあったが、周知されていなかったため押さなかった』
こちらは「周知されていなかったため」ということが重要です。
労働基準法第106条では「使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない」と定められています。
もちろん、すべての社内ルールを公開することを強制するものではありませんが、法的に公開義務のある就業規則や、社員が知っておくべき規定等は公開される必要があります。
今回はヒューマンエラーに関する設問ですので、「周知されていなかったためエラーが生じた」場合の「ルール」に関しては公開される必要があるものと考えてよいと思われます。
よって、選択肢③はヒューマンエラーに該当するとは言えず、こちらを選ぶことが求められます。
『④Aのスイッチを押すべき状況で、Bのスイッチを押すべきと思って、Bのスイッチを押した』
こちらは上記の「媒介エラー」に該当します。
意図的なエラーなので「ミステイク」にも該当すると思われます。
よってヒューマンエラーと捉えることができるので、選択肢④は除外できます。