職場における心の健康づくりに関する設問ですね。
厚生労働省は、労働安全衛生法第70条の2第1項の規定に基づき、同法第69条第1項の措置の適切かつ有効な実施を図るための指針として「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を出しています。
これは、事業場において事業者が講ずるように努めるべき労働者の心の健康の保持増進のための措置が適切かつ有効に実施されるよう、メンタルヘルスケアの原則的な実施方法について定めるものです。
本設問は、これを参考にしつつ解いていくのが適切だと思われます。
解答のポイント
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の内容を把握していること。
選択肢の解説
『①労働者の心の健康は、家庭や個人の問題とは切り離して考える』
おそらく誤りの内容とわかりやすい選択肢だと思いますが、きちんとした根拠をもって除外することが重要です。
上記指針においてメンタルヘルスケアを推進するに当たっては、次の事項に留意することが定められています。
- 心の健康問題の特性:
心の健康については、その評価には、本人から心身の状況の情報を取得する必要があり、さらに、心の健康問題の発生過程には個人差が大きいため、そのプロセスの把握が困難です。
また、すべての労働者が心の問題を抱える可能性があるにもかかわらず、心の健康問題を抱える労働者に対して、健康問題以外の観点から評価が行われる傾向が強いという問題があります。 - 労働者の個人情報の保護への配慮:
メンタルヘルスケアを進めるに当たっては、健康情報を含む労働者の個人情報の保護及び労働者の意思の尊重に留意することが重要です。
心の健康に関する情報の収集及び利用に当たっての、労働者の個人情報の保護への配慮は、労働者が安心してメンタルヘルスケアに参加できること、ひいてはメンタルヘルスケアがより効果的に推進されるための条件です。 - 人事労務管理との関係:
労働者の心の健康は、職場配置、人事異動、職場の組織等の人事労務管理と密接に関係する要因によって、より大きな影響を受けます。
メンタルヘルスケアは、人事労務管理と連携しなければ、適切に進まない場合が多くあります。 - 家庭・個人生活等の職場以外の問題:
心の健康問題は、職場のストレス要因のみならず家庭・個人生活等の職場外のストレス要因の影響を受けている場合も多くあります。
また、個人の要因等も心の健康問題に影響を与え、これらは複雑に関係し、相互に影響し合う場合が多くあります。
以上のように、労働者の心の健康の対応では家庭や個人要因も含めて捉えていくことが示されています。
よって選択肢①の内容は不適切と言えます。
『②メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援を行う活動は含まれない』
事業者は、自らがストレスチェック制度を含めた事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」やストレスチェック制度の実施方法等に関する規程を策定する必要があります。
また、その実施に当たっては以下が円滑に行えるようにする必要があります。
- 一次予防:ストレスチェック制度の活用や職場環境等の改善を通じて、メンタルヘルス不調を未然に防止する。
- 二次予防:メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う。
- 三次予防:メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援等を行う。
この職場復帰に関する支援は、上記指針の6-4に該当します。
「職場復帰における支援:メンタルヘルス不調により休業した労働者が円滑に職場復帰し、就業を継続できるようにするため、衛生委員会等において調査審議し、職場復帰支援プログラムを策定するとともに、その実施に関する体制整備やプログラムの組織的かつ継続的な実施により、労働者に対する支援を実施しましょう」
職場復帰支援については、下記の「4つのケア」の中でより具体的に示されています。
これらより、選択肢②の内容は不適切であると言えます。
『③ストレスへの気づきや対処法などに関する教育研修と情報提供とが継続的かつ計画的に実施される』
労働安全衛生法第10条において、事業者が総括安全衛生管理者を選任し、次の業務の統括管理をさせるなければならないとし、第10条の2に以下の記載があります。
「労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること」
上記指針においても、メンタルヘルスケアを具体的に実施するために、事業者が以下の5つを行っていくことが定められています。
- 心の健康計画の策定
- 関係者への事業場の方針の明示
- 労働者の相談に応ずる体制の整備
- 関係者に対する教育研修の機会の提供等
- 事業場外資源とのネットワーク形成
- 労働安全衛生法第69条:
事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるように努めなければならない。 - 上記指針の4:
「メンタルヘルスケアは、中長期的視野に立って、継続的かつ計画的に行われるようにすることが重要であり、また、その推進に当たっては、事業者が労働者の意見を聞きつつ事業場の実態に則した取組みを行うことが必要です」
※これ以外にも、数多く「継続的かつ計画的」という表現が見受けられます。
以上より、選択肢③の内容は適切であると言えます。
『④メンタルヘルスに関する情報は、適切な対応に必要な情報が的確に伝達されるように加工せずに提供する』
個人情報に関する規定は指針の中で多く示されています。
- 指針2-②:労働者の個人情報の保護への配慮
心の健康に関する情報の収集及び利用に当たっての、労働者の個人情報の保護への配慮は、労働者が安心してメンタルヘルスケアに参加できること、ひいてはメンタルヘルスケアがより効果的に推進されるための条件です。 - 指針3:衛生委員会等における調査審議
「心の健康づくり計画」の策定はもとより、その実施体制の整備等の具体的な実施方法や個人情報の保護に関する規程の策定等に当たっては、衛生委員会等において十分調査審議を行うことが重要です。 - 指針6-(3):メンタルヘルス不調への気付きと対応
メンタルヘルスケアにおいては、ストレス要因の除去又は軽減などの予防策が重要ですが、万一、メンタルヘルス不調に陥る労働者が発生した場合に、その早期発見と適切な対応を図ることが必要です。…その際には、労働者の個人情報の保護に十分留意しましょう。 - 指針7:メンタルヘルスに関する個人情報の保護への配慮
メンタルヘルスケアを進めるに当たっては、健康情報を含む労働者の個人情報の保護に配慮することが極めて重要です。
事業者は、健康情報を含む労働者の個人情報やストレスチェック制度における健康情報の取扱いについて、個人情報の保護に関する法律及び関連する指針等を遵守し、労働者の健康情報の適切な取扱いを図ることが重要です。
- 産業医等が、相談窓口や面接指導等により知り得た健康情報を含む労働者の個人情報を事業者に提供する場合には、提供する情報の範囲と提供先を健康管理や就業上の措置に必要な最小限のものとすること。
- 産業医等は、当該労働者の健康を確保するための就業上の措置を実施するために必要な情報が的確に伝達されるように、集約・整理・解釈するなど適切に加工した上で提供するものとし、診断名、検査値、具体的な愁訴の内容等の加工前の情報又は詳細な医学的情報は提供してはならないこと。
『⑤「セルフケア」、「ラインによるケア」及び「事業場外資源によるケア」の3つが継続的かつ計画的に行われる』
上記指針においては、「4つのケア」を効果的に推進し、職場環境等の改善、メンタルヘルス不調への対応、休業者の職場復帰のための支援等が円滑に行われるようにする必要性を指摘しています。
- セルフケア:
事業者は労働者に対して、次に示すセルフケアが行えるように教育研修、情報提供を行うなどの支援をすることが重要となります。
また、事業者はセルフケアの対象として管理監督者も含めることになっています。
✔ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
✔ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き
✔ストレスへの対処 - ラインによるケア:
管理監督者による部下との接し方(いつもと違う部下の様子の把握、部下からの相談への対応、メンタルヘルス不調の部下の職場復帰への支援)、職場環境等の改善を通じたストレスの軽減等が定められています。
✔職場環境等の把握と改善
✔労働者からの相談対応
✔職場復帰における支援 - 事業場内産業保健スタッフ等によるケア:
事業場内産業保健スタッフ等は、セルフケア及びラインによるケアが効果的に実施されるよう、労働者及び管理監督者に対する支援を行います。
次に示す心の健康づくり計画の実施に当たり、中心的な役割を担うことになります。
✔具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案
✔個人の健康情報の取扱い
✔事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口
✔職場復帰における支援 - 事業場外資源によるケア:
✔情報提供や助言を受けるなど、サービスの活用
✔ネットワークの形成
✔職場復帰における支援
以上のように、上記4つのケアが行われていきます。
選択肢⑤の内容は不十分であり、他により適切な内容が示されているので除外できます。