公認心理師 2018-135

労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について、正しいものを2つ選ぶ問題です。
以前の記事でもストレスチェック制度については軽くまとめています。

ストレスチェック制度とは、平成27年12月1日に公布された「労働安全衛生法の一部を改正する法律」により新たに設けられた制度です。
この制度により、雇用主である事業者や団体等に対し、労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)と、ストレスの程度が高いと認められ、労働者本人が希望する場合の面接指導の実施等が義務づけられました。

労働安全衛生法第66条の10に「心理的な負担の程度を把握するための検査等」が以下のように記されております。
「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない」

本問では以下を押さえておく必要があります。

  1. 労働安全衛生法:第66条の10
  2. 労働安全衛生規則:第52条の9~第52条の21
  3. 心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針:全部

特に3はストレスチェックに特化した指針となっておりますので重要です。

解答のポイント

ストレスチェック制度に絡む法律、規則、指針の内容を把握していること。

選択肢の解説

『①労働者はストレスチェックの受検義務がある』

労働安全衛生法には、事業者がストレスチェックを行う旨の義務(50人未満の事業場は努力義務)は明記されておりますが、労働者側に受検義務があることは示されておりません。

労働者側の受検については、「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」で詳しく述べられております。

上記指針におけるストレスチェック制度の実施に当たっての留意事項として、以下のような記載があります。
「ストレスチェックに関して、労働者に対して受検を義務付ける規定が置かれていないのは、メンタルヘルス不調で治療中のため受検の負担が大きい等の特別の理由がある労働者にまで受検を強要する必要はないためであり、本制度を効果的なものとするためにも、全ての労働者がストレスチェックを受検することが望ましい」

上記以外の箇所にも「労働者にストレスチェックを受検する義務はない」という記載があり、更に「労働者が受検しないこと等を理由とした不利益な取扱い」を禁じております。
例えば「就業規則においてストレスチェックの受検を義務付け、受検しない労働者に対して懲戒処分を行うことは、労働者に受検を義務付けていない法の趣旨に照らして行ってはならない」などです。

以上より、「メンタルヘルス不調で治療中のため受検の負担が大きい等の特別の理由がある労働者にまで受検を強要する」ことを避けるという意味もあり、労働者側に受検の義務がないことが明示されております。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

『②精神保健福祉士はストレスチェックの実施者になれる』

上記にもあります通り、労働安全衛生法第66条の10に「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という)による」という文言が、いわゆる実施者となります。

そして労働安全衛生規則第52条の10「検査の実施者等」では、「法第六十六条の十第一項の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者(以下この節において「医師等」という)とする」として、ストレスチェックの実施者を挙げております。

  1. 医師
  2. 保健師
  3. 検査を行うために必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了した看護師又は精神保健福祉士

なお、同条第2項には「検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない」ともされております。

上記より、ストレスチェックの実施者は、ストレスチェックを実施し、その結果を踏まえ、面接指導の必要性を判断する者で、産業保健や精神保健に関する知識を持つ医師、保健師、必要な研修を修了した看護師や精神保健福祉士となっています。

また「労働安全衛生規則の一部を改正する省令」では、実施者として、「ストレスチェックの実施者に、検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師及び公認心理師を追加する」とされました。
この点も併せて押さえておきましょう。

以上より、選択肢②は正しいと判断できます。

『③全ての事業場でストレスチェックを実施する義務がある』

こちらについては、労働安全衛生規則第52条の9「心理的な負担の程度を把握するための検査の実施方法」において「事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次に掲げる事項について法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査(以下この節において「検査」という。)を行わなければならない」としており、検査に含める項目も併せて定めております。

更に細かな点については「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」にて以下のように示されております。

  • 常時使用する労働者数が 50 人未満の小規模事業場においては、当分の間、ストレスチェックの実施は努力義務とされている
  • これらの小規模事業場では、産業医及び衛生管理者の選任並びに衛生委員会等の設置が義務付けられていないため、ストレスチェック及び面接指導を実施する場合は、産業保健スタッフが事業場内で確保できないことも考えられることから、産業保健総合支援センターの地域窓口(地域産業保健センター)等を活用して取り組むことができる。
上記のように、50人未満の事業場については「努力義務」であることが明示されております。

なお、労働安全衛生規則第52条の21「検査及び面接指導結果の報告」において「常時五十人以上の労働者を使用する事業者は、一年以内ごとに一回、定期に、心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書(様式第六号の二)を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない」とされています。
こちらにも「常時50人」という枠組みが示されておりますね。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

『④労働者のメンタルヘルス不調の未然防止を目的としている』

心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」にてストレスチェック制度の基本的な考え方の詳細が述べられております。

  • 新たに創設されたストレスチェック制度は、これらの取組のうち、特にメンタルヘルス不調の未然防止の段階である一次予防を強化するため、定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個々の労働者のストレスを低減させるとともに、検査結果を集団ごとに集計・分析し、職場におけるストレス要因を評価し、職場環境の改善につなげることで、ストレスの要因そのものを低減するよう努めることを事業者に求めるものである。
  • さらにその中で、ストレスの高い者を早期に発見し、医師による面接指導につなげることで、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的としている。
  • 事業者は、メンタルヘルス指針に基づき各事業場の実態に即して実施される二次予防及び三次予防も含めた労働者のメンタルヘルスケアの総合的な取組の中に本制度を位置付け、メンタルヘルスケアに関する取組方針の決定、計画の作成、計画に基づく取組の実施、取組結果の評価及び評価結果に基づく改善の一連の取組を継続的かつ計画的に進めることが望ましい。
  • また、事業者は、ストレスチェック制度が、メンタルヘルス不調の未然防止だけでなく、従業員のストレス状況の改善及び働きやすい職場の実現を通じて生産性の向上にもつながるものであることに留意し、事業経営の一環として、積極的に本制度の活用を進めていくことが望ましい。

上記より、ストレスチェック制度がメンタルヘルス不調の未然防止の段階である、一次予防を強化するための取り組みであることが明示されております。
よって、選択肢④は正しいと判断できます。

『⑤面接指導は、事業者に高ストレス者であることを知らせずに実施することができる』

労働安全衛生法第66条の10第2項には以下のように記されております。
「事業者は、前項の規定により行う検査を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該検査を行つた医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない

上記は、ストレスチェックの結果を、実施者は事業者に勝手に提供してはならないという内容になっております。
面接指導については、以下のような記述がみられます。

心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」にて以下の事柄が示されております。

  • ストレスチェック制度の実施に当たっての留意事項:
    面接指導は、ストレスチェックの結果、高ストレス者として選定され、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた労働者に対して、医師が面接を行い、ストレスその他の心身及び勤務の状況等を確認することにより、当該労働者のメンタルヘルス不調のリスクを評価し、本人に指導を行うとともに、必要に応じて、事業者による適切な措置につなげるためのものである。
    このため、面接指導を受ける必要があると認められた労働者は、できるだけ申出を行い、医師による面接指導を受けることが望ましい。
  • ストレスチェック制度の手順:
    ストレスチェック結果の通知を受けた労働者のうち、高ストレス者として選定され、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた労働者から申出があった場合は、事業者は、当該労働者に対して、医師による面接指導を実施する。
  • ストレスチェック結果の通知後の対応;面接指導の申出の勧奨:
    ストレスチェックの結果、高ストレス者として選定され、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた労働者のうち、面接指導の申出を行わない労働者に対しては、規則第 52 条の 16 第3項の規定に基づき、実施者が、申出の勧奨を行うことが望ましい。
上記より、面接指導はストレスチェックの実施者が「高ストレス者」として選定し、面接指導を受ける必要があると認めた労働者に勧奨を行うことになっています。
更に、上記の指針には「ストレスチェックを受けた労働者が、事業者に対して面接指導の申出を行った場合には、その申出をもってストレスチェック結果の事業者への提供に同意がなされたものとみなして差し支えないものとする」とされております。
以上より、面接指導の申し出が行われた時点で、ストレスチェックの結果を事業者へ提供することに同意したと見なされます
よって、選択肢⑤は誤りと言えます。

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