少年事件の調査における家庭裁判所調査官の業務に関する問題です。
少年事件では、いろんな施設や役割が絡んでくるので、まとめて覚えておくようにしておきたいですね。
問55 少年事件の調査における家庭裁判所調査官の業務に該当するものを2つ選べ。
① 心身鑑別
② 処分の決定
③ 非行原因の把握
④ 非行事実の認定
⑤ 保護者に対する措置
選択肢の解説
② 処分の決定
③ 非行原因の把握
④ 非行事実の認定
⑤ 保護者に対する措置
家庭裁判所調査官は、家庭裁判所で取り扱っている家事事件、少年事件などについて、調査を行うのが主な仕事です(裁判所法第61条の2)。
第六十一条の二(家庭裁判所調査官) 各家庭裁判所及び各高等裁判所に家庭裁判所調査官を置く。
② 家庭裁判所調査官は、各家庭裁判所においては、第三十一条の三第一項第一号の審判及び調停、同項第二号の裁判(人事訴訟法第三十二条第一項の附帯処分についての裁判及び同条第三項の親権者の指定についての裁判(以下この項において「附帯処分等の裁判」という。)に限る。)並びに第三十一条の三第一項第三号の審判に必要な調査その他他の法律において定める事務を掌り、各高等裁判所においては、同項第一号の審判に係る抗告審の審理及び附帯処分等の裁判に係る控訴審の審理に必要な調査その他他の法律において定める事務を掌る。
③ 最高裁判所は、家庭裁判所調査官の中から、首席家庭裁判所調査官を命じ、調査事務の監督、関係行政機関その他の機関との連絡調整等の事務を掌らせることができる。
④ 家庭裁判所調査官は、その職務を行うについては、裁判官の命令に従う。
このように、家庭裁判所調査官とは、各家庭裁判所においては、家事事件手続法で定める家庭に関する事件の審判及び調停、人事訴訟法で定める人事訴訟の第一審の裁判及び少年法で定める少年の保護事件の審判(裁判所法61条の2、同法31条の3第1項、同法61条の3)に必要な調査その他他の法律において事務を掌る者になります。
特に少年法で定める事務としては、①家庭裁判所の審判に付すべき少年を発見した場合の裁判官に対する報告(少年法7条1項)、②家庭裁判所が審判に付すべき少年があると思料する場合の事件についての調査(同法8条1項)、③被害者等から被害に関する心情その他の事件に関する意見の陳述の申出があった場合の聴取(同法9条の2)などがあげられます。
このうち、少年審判において、少年やその保護者に対して行われる調査は、②の調査となります。
少年審判に関する家庭裁判所の行う調査には、法的調査と社会調査がありますが、家庭裁判所調査官が行う調査は社会調査になります。
社会調査とは、少年に対してどのような処遇が最も有効適切であるかを明らかにするために行われるもので、家庭裁判所の命令に基づいて行われる調査です(少年法8条2項)。
調査の対象としては、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等が対象となります(少年法9条)。
具体的な調査については、①事件記録や少年調査記録に基づく記録調査、②本籍照会、学校照会(少年の出身学校又は所属学校等に対する照会)、保護者照会(保護者照会書)、被害者等に対する照会などの照会調査、③少年、保護者、被害者等への面接調査(家庭裁判所調査官による調査官面談等)、④少年の行動観察、家庭、学校、地域環境等の観察調査、⑤心理学的、医学的検査(知能検査等)などがあげられます(少年審判規則11条1項2項)。
このように家庭裁判所調査官は、少年事件では、非行を犯したとされる少年とその保護者に会って事情を聴くなどして、少年が非行に至った動機、原因、生育歴、性格、生活環境などの調査を行います。
この調査は、少年や保護者、その他の関係者を家庭裁判所に呼んで面接をしたり、心理テストを行うなどの方法により行われます。また、家庭裁判所調査官の方から、少年の家や学校などに出向いて調査をすることもあります。
このほか、家庭裁判所の医師の診断を受けさせたりして調査を行うこともあります。
調査に当たっては、少年に対して反省を促し、再非行を防止するための面接指導を行うほか、少年を地域美化活動等に参加させたり、被害を受けた方の声を聞かせたりする措置を行うこともあります。
また、保護者その他の関係者に対しても、少年の更生のために必要な助言や指導を行っており、例えば、保護者に対して養育態度の問題点を指摘したり、監護責任の自覚を促すなどしています。
家庭裁判所調査官は、少年の非行の内容や生活状況、家庭の状況などを調査していく中で、少年の抱える問題や非行の原因を明らかにし、関係機関に照会した結果などを踏まえて調査の結果を取りまとめ、報告書を作成して裁判官に提出します。
この報告に基づいて、裁判官は少年の更生にとって最も適切な解決に向けて審判を行います。
審判を下すにあたり、実際に非行事実の認定をしたり、処分の内容を決定したりするのは裁判官の役割になりますね。
こちらのサイトからの引用ですが、裁判官の役割として「少年審判では、捜査機関から送られた記録などを調査した上で、少年、保護者、付添人の言い分を聴いたり、家庭裁判所調査官の調査結果の報告と意見を聴いたりして、少年が非行を犯したかどうか、今後の更生のためにはどのような処分が適当かを裁判官が判断します」とありますね。
ただし、少年審判において、一定の重大事件で、非行事実を認定するため必要があるときは、家庭裁判所の決定により、検察官も審判に関与します。
法務省が「少年審判における事実認定手続の一層の適正化を図るための少年法の整備等に関する要綱骨子(案)」を出していますが、こちらによると少年法による審判・裁判は基本的に一人の裁判官で行うこととしていますが、特定の事件によっては検察官が事実認定にかかわる旨が示されていますね。
これらを踏まえれば、少年事件の調査における家庭裁判所調査官の業務として、非行原因の把握および保護者に対する措置が該当すると言えますね。
よって、選択肢②および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢③および選択肢⑤が適切と判断できます。
① 心身鑑別
少年が観護措置をとられると、少年鑑別所へ送致されます。
少年鑑別所とは、①家庭裁判所等の求めに応じ、鑑別を行うこと、②観護の措置がとられて収容している者等に対して、観護処遇を行うこと、③地域社会における非行及び犯罪の防止に関する援助を行うことを目的とする法務省所管の施設で、少年の処分を適切に決めるために、面接や様々な心理検査等を行います。
上記の①では、審判において少年に対する処分を決定するために、少年の資質や性格について鑑別を行う(これを「心身鑑別」といいます)ことを目的としています。
なお、少年鑑別所で少年の心身の状況等の鑑別をする必要がある場合のほか、一般的には、少年が調査、審判などに出頭しないおそれのある場合や暴走族等の悪影響から保護する必要がある場合などに観護措置がとられることが多いようです(上記の②ですね)。
心身鑑別とは、医学、心理学、教育学、社会学などの専門的知識や技術に基づき、鑑別対象者について、その非行等に影響を及ぼした資質上及び環境上問題となる事情を明らかにした上、その事情の改善に寄与するため、適切な指針を示すことです。
鑑別は、家庭裁判所、地方更生保護委員会、保護観察所の長、児童自立支援施設の長、児童養護施設の長、少年院の長又は刑事施設の長の求めに応じて行います。
上記が鑑別の流れになります。
本問で問われているのは、この心身鑑別を誰が行うのか、ということですね。
こちらは「少年鑑別所」が行うわけですが、そこで働くのは法務技官や法務教官になりますね。
法務技官は、少年に対して、面接や各種心理検査を行い、知能や性格等の資質上の特徴、非行に至った原因、今後の処遇上の指針を明らかにしていきます。
また、審判決定により、少年院に送致された少年や保護観察処分になった少年にも、専門的なアセスメント機能をもって継続的に関与します。
法務教官は、少年に対して、心情の安定を図りつつ、面接や行動観察を実施し、法務技官(心理)と協力して、少年の問題性やその改善の可能性を科学的に探り、家庭裁判所の審判や少年院・保護観察所等における指導に活用される資料を提供します。
これらより、心身鑑別については家庭裁判所調査官の業務には該当しませんね。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。