公認心理師 2024-132

特定生活指導に該当するものを選択する問題です。

生活指導‐特定生活指導の弁別をできることが大切ですね。

問132 少年院において、特定の事情を有する在院者に対し、その有する事情の改善を図るために実施される特定生活指導に該当するものを2つ選べ。
① 治療的指導
② 家族関係指導
③ 問題行動指導
④ 暴力団離脱指導
⑤ 薬物非行防止指導

選択肢の解説

① 治療的指導
③ 問題行動指導

本問は「特定生活指導」についての内容ですが、一般的な「生活指導(少年院法第24条)」では、善良な社会の一員として自立した生活を営むための基礎となる知識及び生活態度を習得させる指導を行っています。


(生活指導)
第二十四条 少年院の長は、在院者に対し、善良な社会の一員として自立した生活を営むための基礎となる知識及び生活態度を習得させるため必要な生活指導を行うものとする。
2 将来の進路を定めていない在院者に対し前項の生活指導を行うに当たっては、その特性に応じた将来の進路を選択する能力の習得に資するよう特に配慮しなければならない。
3 次に掲げる事情を有する在院者に対し第一項の生活指導を行うに当たっては、その事情の改善に資するよう特に配慮しなければならない。
一 犯罪又は刑罰法令に触れる行為により害を被った者及びその家族又は遺族の心情を理解しようとする意識が低いこと。
二 麻薬、覚醒剤その他の薬物に対する依存があること。
三 その他法務省令で定める事情
4 少年院の長は、第一項の生活指導を行うに当たっては、被害者等の被害に関する心情、被害者等の置かれている状況及び前条第二項の規定により聴取した心情等を考慮するものとする。
5 少年院の長は、法務省令で定めるところにより、被害者等から、前条第二項の規定により聴取した心情等を在院者に伝達することを希望する旨の申出があったときは、第一項の生活指導を行うに当たり、当該心情等を在院者に伝達するものとする。ただし、その伝達をすることが当該在院者の改善更生を妨げるおそれがあるときその他当該被害に係る事件の性質、矯正教育の実施状況その他の処遇に関する事情を考慮して相当でないと認めるときは、この限りでない。


生活指導の内容としては以下の通りになります。

  • 基本的生活訓練:基本的生活習慣、遵法的・自律的生活態度、適切な対人関係の持ち方及び保健衛生に関する正しい知識を身に付けることを目的とした指導
  • 問題行動指導:非行に関わる意識,態度及び行動面の問題を改善することを目的とした指導
  • 治療的指導:資質、情緒等の問題の変容を支援することを目的とした指導
  • 被害者心情理解指導:犯罪被害者等の心情等を理解し:罪障感及び慰謝の気持ちをかん養することを目的とした指導
  • 保護関係調整指導:保護者その他相当と認める者との関係を改善し、適切に維持し、又は調整することを目的とした指導
  • 進路指導:進路選択、生活設計を明確にし、社会復帰に対する心構えを身に付けることを目的とした指導

上記からもわかる通り、ここで挙げた選択肢は一般的な「生活指導」の内容になります。

よって、選択肢①および選択肢③は特定生活指導に該当しないと判断できます。

② 家族関係指導
⑤ 薬物非行防止指導

少年院における処遇の中核となるのは矯正教育であり、在院者には、生活指導、職業指導、教科指導、体育指導及び特別活動指導の五つの分野にわたって以下の指導が行われます。

本問の特定生活指導は、上記のうちの「生活指導」に含まれるものであり、在院者の抱える特定の事情の改善に資するために行われるものになります。

少年院法第24条に「その他法務省令で定める事情」という記述があったと思いますが、こちらに該当する条項が少年院法施行規則に定められています。


(法第二十四条第三項第三号に規定する法務省令で定める事情)
第十六条の三 法第二十四条第三項第三号に規定する法務省令で定める事情は、次に掲げる事情とする。
一 自己の性的欲求を満たすことを目的とする犯罪又は非行に結び付くおそれのある認知の偏り又は自己統制力の不足があること。
二 身体に対する有形力の行使により人の生命又は身体を害する犯罪又は非行に結び付くおそれのある認知の偏り又は自己統制力の不足があること。
三 保護者その他家族に対する適切な関わり方が身に付いていないこと。
四 犯罪性のある者との交際をやめ、又は暴走族等の非行集団から離脱するための知識及び能力を有しないこと。
五 成年に達した者について、自らの責任に基づき自律的に社会生活を営むために必要な自覚が欠如し、又は必要な知識及び行動様式が身に付いていないこと。


このように法第24条で定められている「被害者の視点を取り入れた教育」および「薬物非行防止指導」だけでなく、上記の一~五の項目も特定生活指導に含まれることが示されていますね。

これらの内容は以下の通りです。

事情名称内容
犯罪又は刑罰法令に触れる行為により害を被った者及びその家族又は遺族の心情を理解しようとする意識が低いこと。被害者の視点を取り入れた教育非行の重大性や被害者等の現状を認識するとともに、被害者やその家族等に対する謝罪の気持ちを持ち、誠意を持って対応していくことを目的とした指導
麻薬、覚醒剤その他の薬物に対する依存があること。薬物非行防止指導薬物の害と依存性を認識するとともに、薬物依存に至った自己の問題性を理解し、再び薬物を乱用しないことを目的とした指導
自己の性的欲求を満たすことを目的とする犯罪又は非行に結び付くおそれのある認知の偏り又は自己統制力の不足があること。性非行防止指導性に対する正しい知識を身に付けるとともに、自己の性非行に関する認識を深め、性非行をせずに適応的な生活をする方法を身に付けることを目的とした指導
身体に対する有形力の行使により人の生命又は身体を害する犯罪又は非行に結び付くおそれのある認知の偏り又は自己統制力の不足があること。暴力防止指導暴力又は暴力的な言動により問題解決を図ろうとする認知の偏りや自己統制力の不足を理解し、暴力的な言動に頼らずに生活する方法を身に付けることを目的とした指導
保護者その他家族に対する適切な関わり方が身に付いていないこと。家族関係指導非行の要因となった家族の問題を正しく認識し、保護者その他家族に対する適切な関わり方を身に付けることを目的とした指導
犯罪性のある者との交際をやめ、又は暴走族等の非行集団から離脱するための知識及び能力を有しないこと。交友関係指導交友関係の問題や影響を振り返るとともに、健全な生活に適応し、向社会的な交友関係を築くことを目的とした指導

特定生活指導の特色としては、①全施設共通の標準化されたプログラムを用いて行う、②中核プログラムに加え、その指導効果を高めるために実施する対人トレーニングやアンガーマネージメント等のプログラム(これを周辺プログラムと呼ぶ)及び終了後のフォローアップ指導を組み合わせ、全在院期間を通じて指導していく、などが挙げられます。

上記の通り、「少年院において、特定の事情を有する在院者に対し、その有する事情の改善を図るために実施される特定生活指導に該当するもの」は、家族関係指導と薬物非行防止指導になるとわかりますね。

以上より、選択肢②および選択肢⑤が適切と判断できます。

④ 暴力団離脱指導

暴力団離脱指導は、刑事施設における特別改善指導になります。

こちらについては刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(刑事収容施設法)の103条に規定があります。


(改善指導)
第百三条 刑事施設の長は、受刑者に対し、犯罪の責任を自覚させ、健康な心身を培わせ、並びに社会生活に適応するのに必要な知識及び生活態度を習得させるため必要な指導を行うものとする。
2 次に掲げる事情を有することにより改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる受刑者に対し前項の指導を行うに当たっては、その事情の改善に資するよう特に配慮しなければならない。
一 麻薬、覚せい剤その他の薬物に対する依存があること。
二 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員であること。
三 その他法務省令で定める事情


上記の第1項は「一般改善指導」と言われるものであり、原則として全受刑者を対象に、①被害者の置かれている状況と心情を理解させ罪障感を養うこと、②規則正しい生活習慣や健全なものの見方や考え方を身に付けさせ心身の健康を増進させること、③釈放後の生活設計に必要な情報を理解させ社会生活において求められる協調性、規則遵守の精神、行動様式等を身に付けさせることなどを目的として行われます。

上記の第2項が「特別改善指導」とされるものであり(「その事情の改善に資するよう特に配慮しなければならない」とあるから「特別」なんですね)、薬物依存や暴⼒団への加⼊などの事情により、改善更⽣及び円滑な社会復帰に⽀障があると認められる受刑者に対し、その事情の改善に資するよう特に配慮して⾏われるものになります。

特別改善指導の種類と対象者は以下の通りになります。

  1. 薬物依存離脱指導(R1):⿇薬、覚せい剤その他の薬物に対する依存がある者
  2. 暴⼒団離脱指導(R2):暴⼒団員である者
  3. 性犯罪再犯防⽌指導(R3):性犯罪の要因となる認知の偏り、⾃⼰統制⼒の不⾜等がある者
  4. 被害者の視点を取り⼊れた教育(R4):⽣命を奪い、⼜は⾝体に重⼤な被害をもたらす犯罪を犯し、被害者及びその遺族等に対する謝罪や賠償等について特に考えさせる必要がある者
  5. 交通安全指導(R5):被害者の⽣命や⾝体に重⼤な影響を与える交通事故を起こした者や重⼤な交通違反を反復した者
  6. 就労⽀援指導(R6):刑事施設において職業訓練を受け、釈放後の就労を予定している者等

これらの特別改善指導は、矯正局から提示されている標準プログラムに基づき、各施設において実践プログラムを策定、実施しています。

各施設では収容している受刑者の特性や施設の置かれている状況等に応じて、「医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識及び技術を活用」(同法第84条第5項)しながら、科学的根拠に基づく効果的な指導を行うべく努力を重ねていると考えられます。

以上より、暴力団離脱指導は刑事施設における特別改善指導に含まれるものになります。

よって、選択肢④は特定生活指導に該当しないと判断できます。

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