幼児又は児童への司法面接に関する問題です。
基本的な内容が問われているので、過去問をしておけば大丈夫だと思います。
問16 幼児又は児童への司法面接について、最も適切なものを1つ選べ。
① 開かれた質問を主体にする。
② 面接の録画や録音は控える。
③ 性別や年齢の異なる複数の面接者で行う。
④ 1回の面接時間を短くし、面接回数を増やす。
⑤ 面接者が言葉を補いながら児童の話を引き出す。
解答のポイント
司法面接の概要を把握している。
選択肢の解説
② 面接の録画や録音は控える。
③ 性別や年齢の異なる複数の面接者で行う。
④ 1回の面接時間を短くし、面接回数を増やす。
⑤ 面接者が言葉を補いながら児童の話を引き出す。
司法面接にはさまざまな種類がありますが、①正確な情報をより多く引き出すこと、②子どもへの精神的負担を最小限にすることは共通の目的であり、それが最大限生かされるように工夫されています。
その特徴は以下のようなものになります。
- 記憶の変容や汚染が起きないように、また供述が変遷しないように、できるだけ早い時期に、原則として1度だけ面接を行う。
- 面接を繰り返さないで済むように、録画・録音という客観的な方法で記録する。
- 面接は、子どもに圧力をかけたり、誘導・暗示を与えたりすることが無いように、自由報告を主とする構造化された方法を用いる。
- これも子どもが何度も面接を受けることを防ぐためであるが、複数の機関が連携して、1度で面接を行うか、面接の録画を共有できるようにする。
このような前提を踏まえ、各選択肢の内容について詳しく解説していきましょう。
まず、選択肢②の「面接の録画や録音は控える」についてですが、上記にもあるように録画・録音という客観的な方法で記録することを前提としています。
そもそも供述のすべてを書きとることは難しく、複数の研究が、供述の4~5割程度しか筆記できないことを示しています。
特に、発話に伴う非言語的な情報、すなわち声音、抑揚、間、表情、動作等は筆記で残すことは困難です。
被面接者から得られる情報をすべて確実に記録しておくには録音・録画は不可欠ということになります。
カメラの存在が子どもの圧力にならないかという点については、まったくならないとは言えませんが、昨今の録音・録画機器は小型化され、レンズがむき出しにならない工夫も可能であり、圧迫感を低減することができます。
また、圧迫感があったとしても、正確に記録するための道具であると説明することで、被面接者の不安を軽減することもできるはずです。
実際に、面接では、最初は気にかかっていても(カメラの方をちらちら見るなど)、やがては気にならなくなる(カメラを見なくなる)ようです。
また、録画されている方が良く話せるという被害者・被疑者もいます。
被面接者が「撮影は嫌だ」という場合には、どうしてそう思うのか理由を尋ね、負担感を減らす方策があれば、それを実行すると良いでしょう。
同じく構造に関するものとして選択肢③の「性別や年齢の異なる複数の面接者で行う」や選択肢④の「1回の面接時間を短くし、面接回数を増やす」があります。
まず選択肢③は一対多数という構造が問題になるでしょう。
子どもに圧力をかけないような構造を心掛けることが重要であり、複数の面接者が面接を行うことは子どもによっては圧力を感じる恐れがあり、それが供述の内容を歪めるリスクがあります。
性別については、その事案によって、例えば、加害したとされる人が男性の場合は、女性の面接者が面接を行うことが多いのが一般的ですが、年長の女児においては加害者が男性でも、男性の面接者がオープン質問を行ったときにより多くの情報が得られたという知見もあります。
子どもの意向や機関のリソースを踏まえ、ケースバイケースで対応するのが良いですし、いずれにせよ事前に子どもの意向を尋ね、それに沿うことが重要になります。
選択肢④は上記の「記憶の変容や汚染が起きないように、また供述が変遷しないように、できるだけ早い時期に、原則として1度だけ面接を行う」という原則から外れています。
人の記憶は1度書き込んだら2度と変化しないというものではなく、詳細で字義的な情報はすぐに失われ、意味だけが残ったり、複数の情報が混じり合ったり、一般的な知識に沿って記憶が再構成されることもあります。
何度も面接を行うことで、記憶の変容・汚染、供述の変遷が生じるのが「当たり前」ですから、できるだけ早い時期に1度だけの面接で済ませることが重要になります。
事案によっては、その1回の面接が短くできないことも多いでしょうが、子どもへの負担を考慮すればできる限り短くすることが重要です。
ですが、複数回「そういう場を設ける」ということ自体が負担になることも多いので、時間の短縮が困難であっても、やはり1回の面接で全ての情報を確認できるところまで持っていくことが重要です。
この辺の事情は、学校で子どもに指導するときにも同様であると思われます(特に自身に都合の悪い情報についての変容は著しいものがあります)。
上記の「記憶の変容や汚染が起きないように、また供述が変遷しないように」という原則と絡んでくるのが、選択肢⑤の「面接者が言葉を補いながら児童の話を引き出す」になります。
面接者が言葉を補いながら話を引き出すことは、語法効果を引き出すリスクがあります。
語法効果とは「激突した」「衝突した」「ぶつかった」「当たった」「接触した」などという動詞を用いて速度を尋ねることで、「割れたガラスを見た」など実際には無かった情報が追加されるなど、質問の語法によって誤りがもたらされることを指します。
これも誘導質問の一種であり、こうした質問が多くなると法的判断に役立つ正確な情報とは言えなくなります。
面接における誘導・暗示は、面接者に由来することが多いとされ、このような誘導・暗示を最小限にするには、できるだけ被面接者自身に語ってもらうことが重要になります。
自分の言葉で語ってもらうには、「はい」「いいえ」、あるいは選択肢を選ぶだけではなく、文による自由報告を最大限引き出すことが重要になってきます。
このための重要とされているのが、他選択肢で解説する「オープン質問:開かれた質問」になります。
いずれにせよ、面接者が言葉を補いながら話を引き出すのは司法面接においては良くありません。
以上より、選択肢②、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。
① 開かれた質問を主体にする。
先述の通り、司法面接においてはできるだけ子どもからの自由報告を引き出すことが求められます。
そのための工夫の第一に挙げられるのが、面接者ができるだけ「オープン質問:開かれた質問」を用いることです。
開かれた質問は「はい・いいえ」や「AかBか」といった、限定される答えを引き出す「クローズド質問:閉ざされた質問」に相対する概念です。
質問は、一般に以下のように分類されます。
- 開かれた質問:話してください、そして、それで
- WH質問:いつ、どこで、誰が
- クローズド質問:はい・いいえ、AかBかなどを答える質問
- 誘導質問:「~ですね」などの「はい」を誘発する質問。質問の最後に付けられる「~ですね」「~でしょう」が「はい」を引き出すタグ(付箋)として機能するので、タグ質問とも呼ばれる。
そして、多くの研究が「開かれた質問に対する応答は、より正確で、より多くの情報を含んでいる」「WH質問に対する応答は、その内容に限定すれば比較的正確である」「クローズド質問の応答は短いものになりがちであり、質問への黙従臥起きたり、記憶の汚染などの可能性がある」などを示しています。
これらの知見を踏まえて、開かれた質問を用いて子どもの自由報告を最大限得ようとすることが、司法面接の特徴の一つと言えます。
開かれた質問には以下のような種類があります。
- 誘いかけ質問:何があったか話してください
- 時間分割質問:Aの前/AとBの間にあったこと/Bの後にあったことを、全部話してください
- 手がかり質問:Aについてもっと話してください。
- それから質問:「それから」「それで」「その後はどうなりましたか」
これらをうまく活用しつつ子どもの自由報告を引き出していくことが重要になります。
こうした開かれた質問は司法面接の要とされていますから、選択肢①の「開かれた質問を主体にする」というのは適切な内容であると言えます。
よって、選択肢①が適切と判断できます。