保護観察において保護司が担う役割を選択する問題です。
保護司の法律上の立場を理解しておくと解きやすいのではないかなと思います。
問135 保護観察において、対象者に対して指導や支援を行う際、保護司が担う役割として、適切なものを2つ選べ。
① 保護観察の実施計画を策定する。
② 専門的処遇プログラムを実施する。
③ 就労援助のため、就労先に関する情報提供を行う。
④ 日常的な面接により、生活上の助言や指導を行う。
⑤ 遵守事項違反に対する措置を検討し、必要に応じて手続をとる。
解答のポイント
保護司の役割を把握している。
選択肢の解説
① 保護観察の実施計画を策定する。
② 専門的処遇プログラムを実施する。
⑤ 遵守事項違反に対する措置を検討し、必要に応じて手続をとる。
これらは主に保護観察官の活動になりますね。
保護観察官は、保護観察開始当初において、保護観察対象者との面接や関係記録等に基づき、処遇の目標や指導監督及び補導援護の方法等を定めた保護観察の実施計画を作成します。
保護司は、この実施計画に沿って、面接、訪問等を通じて保護観察対象者やその家族と接触し、指導・援助を行うことになります。
その経過は、毎月、保護司から保護観察所の長に報告され、保護観察官は、これを受けて、保護司との連携を保ちながら、必要に応じて保護観察対象者や関係者と面接するなどして、状況の変化に応じた処遇上の措置を講じることになります。
ですから、選択肢①の「保護観察の実施計画を策定する」は適切と言えますね。
更生保護法では、その第51条において「保護観察対象者は、一般遵守事項のほか、遵守すべき特別の事項(以下「特別遵守事項」という)が定められたときは、これを遵守しなければならない」と規定されております。
そして、同条第2項第4号に「医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識に基づく特定の犯罪的傾向を改善するための体系化された手順による処遇として法務大臣が定めるものを受けること」と定められています。
これが「専門的処遇プログラム」と呼ばれているものになります。
この専門的処遇プログラムは、具体的には、性犯罪者処遇プログラム、覚せい剤事犯者処遇プログラム、暴力防止プログラム、飲酒運転防止プログラムの4種類があります(平成20年法務省告示第219号)。
犯罪白書によると、これらのプログラムは「いずれも認知行動療法等の専門的な知見に基づくものであり、保護観察対象者に犯罪に結び付くおそれのある認知の偏りや自己統制力の不足等の自己の問題性を理解させた上で、再犯に及ばないようにするための具体的な方法を習得させることにより、その改善更生を図ろうとするもの」となっています。
上記からもわかる通り、専門的処遇プログラムは、指導監督の一環として行われるものなので、 処遇を受けることを特別遵守事項として義務づけて実施しています。
こちらは保護観察所長が、保護観察対象者ごとに保護観察決定をした家庭裁判所の意見を聴いて定めるものとされており、実際に実施するのは保護観察官になりますね。
そして、こうした遵守事項に違反した場合に、保護観察所所長は、保護警告を発することになり(更生保護法67条1項)、警告を発した日から起算して3か月間を「特別観察期間」として指導監督を強化することになっています。
そして、この警告が発せられたにもかかわらず、さらに遵守事項に違反して、その程度が重い時には、保護観察所所長は少年院等に送致する申請を行います。
申請を受けた家庭裁判所は、申請の理由が認められること、さらに、保護観察に付する処分では少年の改善及び更生を図ることができないと認めるときには、少年を少年院等に送致する保護処分をしなければならないとされています。
申請があれば当然に少年院等に送致される決定が下されるわけではなく、保護観察に付する処分では少年の改善及び更生を図ることができないと認められるときに、少年院送致の決定が下されます。
ですから、選択肢②の「専門的処遇プログラムを実施する」は保護観察官が実施し、選択肢⑤の「遵守事項違反に対する措置を検討し、必要に応じて手続をとる」は法律上は保護観察所所長になると言えます。
ただ、遵守事項違反の場合でも、実際に対応するのは保護観察官になるのではないかと思うので、こちらも保護観察官の担う役割と言えるかもしれません。
以上より、選択肢①、選択肢②および選択肢⑤は不適切と判断できます。
③ 就労援助のため、就労先に関する情報提供を行う。
④ 日常的な面接により、生活上の助言や指導を行う。
これらの選択肢については、法務省のこちらのサイトを参考にしながら解説していきましょう。
更生保護は、地域の中で行われるものであることから、犯罪や非行をした人を取り巻く地域社会の事情をよく理解した上で行われなければ効果がありません。
そこで、地域の事情に詳しい民間の人々の力が必要となるわけですが、保護司は、保護司法に基づき、法務大臣から委嘱を受けた非常勤の国家公務員(実質的に民間のボランティア。保護司には給与は支給されませんが、活動内容に応じて実費弁償金が支給されます)です。
保護観察官(更生保護に関する専門的な知識に基づいて保護観察の実施などに当たる国家公務員)と協力して、主に次のような活動を行います。
- 保護観察:
保護観察は、犯罪をした人又は非行のある少年が、実社会の中でその健全な一員として更生するように、国の責任において指導監督及び補導援護を行うもので、保護観察処分少年、少年院仮退院者、仮釈放者、保護観察付執行猶予者及び婦人補導院仮退院者の計5種の人がその対象となります(以下の図を参照)。
更生保護の中心となる活動で、犯罪や非行をした人に対して、更生を図るための約束ごと(遵守事項)を守るよう指導するとともに、生活上の助言や就労の援助などを行い、その立ち直りを助けるものです。 - 生活環境調整:
生活環境の調整は、刑事施設や少年院などの矯正施設に収容されている人の釈放後の住居や就業先などの帰住環境を調査し、改善更生と社会復帰にふさわしい生活環境を整えることによって、仮釈放等の審理の資料等にするとともに円滑な社会復帰を目指すものです。 - 犯罪予防活動:
犯罪や非行をした人の改善更生について地域社会の理解を求めるとともに、犯罪や非行を未然に防ぐために、毎年7月の「社会を明るくする運動」強調月間などの機会を通じて「講演会」「住民集会」「学校との連携事業」などの犯罪予防活動を促進しています。
こうした保護司の活動を踏まえると、選択肢③の「就労援助のため、就労先に関する情報提供を行う」や選択肢④の「日常的な面接により、生活上の助言や指導を行う」などが保護司の担う役割として適切であることがわかりますね。
「保護司=民間のボランティア」ということがわかっていれば、他の選択肢の内容が「ボランティアの立場の人がやるには負荷が大きすぎる」ということがイメージできると思います。
以上より、選択肢③および選択肢④が適切と判断できます。