公認心理師 2023-120

RNRモデルの犯罪誘発要因(セントラルエイト)に関する問題です。

RNRモデル自体は過去問で何度か出題がありますね。

問120 D. A. Andrewsと J. Bontaが提唱した、犯罪リスク・ニーズ要因のセントラルエイトに含まれないものを1つ選べ。
① 家族・夫婦
② 個人的苦悩
③ 犯罪指向的交友
④ レジャー・レクリエーション
⑤ 反社会的パーソナリティ・パターン

解答のポイント

RNRモデルで示されているセントラルエイトを把握している。

選択肢の解説

① 家族・夫婦
② 個人的苦悩
③ 犯罪指向的交友
④ レジャー・レクリエーション
⑤ 反社会的パーソナリティ・パターン

D.A.AndrewsとJ.Bontaが主張するRNRモデル〈Risk-Need-Responsivity model〉に関する理解が問われている問題ですね。

RNRモデルは、再犯防止や社奇異復帰支援に資する諸原則のうち、リスク・ニード・反応性のRNR原則を中核原則(以下で説明します)とするアセスメント及び処遇の方法論的な枠組みで、カナダの犯罪心理学者Andrewsたちの研究グループが提唱・発展させてきました。

RNRモデルは、1970年代の不適切な評価研究分析手法と厳罰化などの時代思潮に乗った矯正無効論への実証的反証作業過程で生まれました。

Andrewsらは1980年代から伝統的犯罪学諸理論(緊張、下位文化、ラベリング、統制、分化接触などの理論)を、個人・対人・社会的場面における認知、学習、意思決定などの心理学的観点から整理しなおしました。

そして、多様な犯罪行動を説明する一般的パーソナリティ・認知的社会的学習理論を理論的支柱として樹立するとともに、犯罪・非行のリスク要因や処遇効果に関する評価研究などの実証的根拠を同理論の土台に据え、後に述べる諸原則を導き出しました。

RNRモデルの骨子である中核的原則は1990年に発表された2論文で示され、これにより犯罪者処遇の有効性に関連付けられる一連の要因の枠組みと、処遇の有効性を裏付ける実証的根拠が示されました。

現在では北米や西欧等各国法域の犯罪者処遇の主要な実務標準となっており、日本においても、カナダ連邦矯正保護庁の性犯罪者処遇にならい、認知行動療法に基づく性犯罪再犯防止指導の特別改善指導プログラムが2006年度から始まり、リスク・ニードアセスメントや介入密度などに応じた処遇が全国展開しています。

RNRモデルでは、中核となる3つの原則があり、R:Risk(リスク)・N:Need(ニーズ)・R:Responsivity(応答)になります。

リスク原則とは、対象者の再犯リスク水準に対応した介入密度(時間・頻度・内容)の処遇を実施すると最も再犯防止効果が上がるという、リスク水準と処遇水準とのマッチング最適化の原則です。

再犯リスクが高いと思われる対象者には広範で厳密な処遇が必要で、再犯リスクが低いと思われる対象者には必要最低限の介入が適切とする考え方で、つまり「処遇の密度は再犯リスクの高い者に集中させなければならない」ということです。

応答性原則は、処遇は学習者の特性に最も響く指導法を勘案して実施すると最も効果が上がるという「適性処遇交互作用」の考え方に基づく原則です。

つまり、対象者の特性や学習スタイルに合わせた処遇課題を与えることが重要ということです。

この処遇では認知行動療法が重視されているため「処遇は認知行動療法を中心にその者の応答性を高めるようになされなければならない」ということになっています。

もう一つのRNRモデルの中核原則として「ニード原則」があり、これは、対象者の有する各種ニーズのうち、非行・犯罪誘発に関連性の高いニーズに優先づけた処遇計画の策定・実施が、再犯抑止効果を高めるという原則であり、重点的処遇目標選択の原則と言えます。

実際のアプローチでは、上記の「非行・犯罪誘発に関連性の高いニーズ」(=犯罪誘発要因)についてアプローチしていくことが重要であるということであり、「処遇は犯罪誘発要因に限定して行われなければならない」ということを指して「ニード原則」と呼びます。

犯罪者は多くの再犯危険要因を持っていますが、それは「犯罪誘発要因」と「非犯罪誘発要因」に分けることができます。

Andrewsたちは「犯罪誘発要因」として以下のものを挙げています。

  1. 犯罪歴
  2. 犯罪許容的(促進的)態度:反社会的な価値観
  3. 犯罪許容的仲間関係:不良交友
  4. 反社会的パーソナリティパターン(自己管理の不足、敵意、他者の軽視、冷淡)
  5. 家庭・婚姻上の問題(不安定、葛藤あり):家族・夫婦の問題
  6. 学業・就労上の問題(失業・学業不振)
  7. 物質乱用:薬物やアルコールの使用
  8. 余暇・娯楽活動の問題:不健全な余暇活動

これらの要因の布置や重みを最低限把握し、対象者固有の問題行動の機能分析を行い、処遇により変容可能な動的リスク要因削減や変容に向けた計画的な働きかけに反映させることが重要であるとAndrewsたちは主張しました。

上記の8つの要因が犯罪行為と関連があることが明らかにされ、これを「セントラルエイト(Central eight)」と呼び、特に1〜4は犯罪行為との相関性が高いため「ビッグフォー(Big four)」とも呼ばれます。

本問の選択肢で挙げられている、「家族・夫婦」「犯罪指向的交友」「レジャー・レクリエーション」「反社会的パーソナリティ・パターン」はセントラルエイトに含まれていることがわかりますね。

こうしたセントラルエイト(犯罪誘発要因)に対して、ほとんど犯罪行動と関連性がないとされている「非犯罪誘発要因」も以下の通り定められています。

  1. 自尊心の低さ
  2. 漠然とした精神的不快感(不安、抑うつ感、疎外感)
  3. 重い精神疾患
  4. 目的意識の不足
  5. 被害経験
  6. 公的処罰に対する恐れ
  7. 身体活動の不足

このような「非犯罪誘発要因」に対する処遇によって、特定の個人の将来の犯罪行動に変化がもたらされることはないとされています。

処遇プログラムにおいて、この要因に関する評価は最優先事項ではなく、しっかりと「犯罪誘発要因」に対する処遇を行わなければ、将来の犯罪行動に変化はないとされています。

本問で設定されている選択肢②の「個人的苦悩」は上記を指しているものかもしれません(何となく個人的なものが多く含まれていますからね)。

このように、個人的苦悩はセントラルエイトに含まれていないことがわかります。

以上より、選択肢①、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤はセントラルエイトに含まれており、除外することになります。

また、選択肢②がセントラルエイトに含まれていないと判断でき、こちらを選択することになります。

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