裁判員裁判に関する問題です。
この制度の根拠法である「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」に基づいて解説していきましょう(この法律名を知っておくだけで、選択肢を一つ削れますね)。
問115 裁判員裁判について、正しいものを1つ選べ。
① 評議は公開で行われる。
② 民事事件及び刑事事件に適用される。
③ 量刑は、構成裁判官の専権事項である。
④ 被告人の有罪・無罪は、全員一致で決しなければならない。
⑤ 裁判員は証人に対し、判断に必要な事項について質問することができる。
解答のポイント
裁判員制度について把握している。
選択肢の解説
② 民事事件及び刑事事件に適用される。
そもそも裁判員制度に関する根拠法は「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」となっており、はじめから刑事裁判に限定されています。
その第1条の「趣旨」においても、「この法律は、国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することにかんがみ、裁判員の参加する刑事裁判に関し、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)及び刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の特則その他の必要な事項を定めるものとする」とされており、刑事訴訟手続に係わる制度であることが明示されていますね。
その対象となる刑事事件は第二条に規定されています。
第二条 地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条又は第三条の二の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第二十六条の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う。
一 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
二 裁判所法第二十六条第二項第二号に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)
刑事事件なら何でもアリではなく、特定の事件になります。
わかりやすく挙げていくと以下の通りです。
- 人を殺した場合(殺人)
- 強盗が、人にけがをさせ、あるいは、死亡させてしまった場合(強盗致死傷)
- 人にけがをさせ、死亡させてしまった場合(傷害致死)
- 泥酔した状態で、自動車を運転して人をひき、死亡させてしまった場合(危険運転致死)
- 人の住む家に放火した場合(現住建造物等放火)
- 身の代金を取る目的で、人を誘拐した場合(身の代金目的誘拐)
- 子供に食事を与えず、放置したため死亡してしまった場合(保護責任者遺棄致死)
- 財産上の利益を得る目的で覚せい剤を密輸入した場合(覚せい剤取締法違反)
こうした事件では裁判員裁判になる可能性があるということですね。
民事が該当しないのは当たり前と言えば当たり前で、例えば、離婚裁判などで裁判員制度を用いると言われても困っちゃいますよね。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。
① 評議は公開で行われる。
こちらについては法第70条に規定がありますね。
(評議の秘密)
第七十条 構成裁判官及び裁判員が行う評議並びに構成裁判官のみが行う評議であって裁判員の傍聴が許されたものの経過並びにそれぞれの裁判官及び裁判員の意見並びにその多少の数(以下「評議の秘密」という。)については、これを漏らしてはならない。
2 前項の場合を除き、構成裁判官のみが行う評議については、裁判所法第七十五条第二項後段の規定に従う。
上記の通り、評議は非公開で行われることになります。
対して、公判は公開されるということですね。
そもそも裁判員制度は、日本に約1億人いる衆議院議員選挙の有権者(市民)から無作為に選ばれた裁判員が裁判官とともに裁判を行う制度で、国民の司法参加により市民が持つ日常感覚や常識といったものを裁判に反映するとともに、司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上を図ることが目的とされています。
ですから、当然、公判は公開で行われることになるのです(公開しないと、ちゃんと市民の感覚が裁判に反映されているのか見えなくなるでしょう)。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。
③ 量刑は、構成裁判官の専権事項である。
④ 被告人の有罪・無罪は、全員一致で決しなければならない。
⑤ 裁判員は証人に対し、判断に必要な事項について質問することができる。
まずは裁判員制度に関するホームページの内容を見てみましょう。
こちらには「裁判員の仕事や役割」が簡単にまとめられていますから、こちらを抜粋します。
- 公判に立ち会う:
裁判員に選ばれたら、裁判官と一緒に、刑事事件の法廷(公判といいます)に立ち会い、判決まで関与することになります。
公判では、証拠書類を取り調べるほか、証人や被告人に対する質問が行われます。裁判員から証人等に質問することもできます。 - 評議、評決:
証拠をすべて調べたら、今度は、事実を認定し、被告人が有罪か無罪か、有罪だとしたらどんな刑にするべきかを、裁判官と一緒に議論し(評議)、決定する(評決)ことになります。
評議を尽くしても意見の全員一致が得られなかったとき、評決は多数決により行われます。
ただし、裁判員だけによる意見では被告人に不利な判断(被告人が有罪か無罪かの評決の場面では、有罪の判断)をすることはできず、裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要です。
有罪か無罪か、有罪の場合の刑に関する裁判員の意見は裁判官と同じ重みを持ちます。 - 判決宣告・裁判員の任務終了:
評決内容が決まると、法廷で裁判長が判決を宣告することになります。裁判員としての役割は、判決の宣告により終了します。
上記の通り、選択肢⑤にあるように「裁判員は証人に対し、判断に必要な事項について質問することができる」とされていますね。
また、評決については「評議を尽くしても意見の全員一致が得られなかったとき、評決は多数決により行われます」とされていますから、選択肢④の「被告人の有罪・無罪は、全員一致で決しなければならない」は正しい内容ではないことがわかります。
量刑についても「有罪の場合の刑に関する裁判員の意見は裁判官と同じ重みを持ちます」とされていますから、選択肢③の「量刑は、構成裁判官の専権事項である」は正しい内容ではないことがわかりますね。
また、上記に関連する条項は以下の通りです。
(裁判官及び裁判員の権限)
第六条 第二条第一項の合議体で事件を取り扱う場合において、刑事訴訟法第三百三十三条の規定による刑の言渡しの判決、同法第三百三十四条の規定による刑の免除の判決若しくは同法第三百三十六条の規定による無罪の判決又は少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第五十五条の規定による家庭裁判所への移送の決定に係る裁判所の判断(次項第一号及び第二号に掲げるものを除く。)のうち次に掲げるもの(以下「裁判員の関与する判断」という。)は、第二条第一項の合議体の構成員である裁判官(以下「構成裁判官」という。)及び裁判員の合議による。
一 事実の認定
二 法令の適用
三 刑の量定
2 前項に規定する場合において、次に掲げる裁判所の判断は、構成裁判官の合議による。
一 法令の解釈に係る判断
二 訴訟手続に関する判断(少年法第五十五条の決定を除く。)
三 その他裁判員の関与する判断以外の判断
3 裁判員の関与する判断をするための審理は構成裁判官及び裁判員で行い、それ以外の審理は構成裁判官のみで行う。
(被害者等に対する質問)
第五十八条 刑事訴訟法第二百九十二条の二第一項の規定により被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。)又は当該被害者の法定代理人が意見を陳述したときは、裁判員は、その陳述の後に、その趣旨を明確にするため、これらの者に質問することができる。
(被告人に対する質問)
第五十九条 刑事訴訟法第三百十一条の規定により被告人が任意に供述をする場合には、裁判員は、裁判長に告げて、いつでも、裁判員の関与する判断に必要な事項について被告人の供述を求めることができる。
(評決)
第六十七条 前条第一項の評議における裁判員の関与する判断は、裁判所法第七十七条の規定にかかわらず、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見による。
2 刑の量定について意見が分かれ、その説が各々、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見にならないときは、その合議体の判断は、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見になるまで、被告人に最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加え、その中で最も利益な意見による。
これらのことから、刑の量定については裁判官と裁判員の合議による、証人等への質問が可能であること、「構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見による」と明記されています。
以上より、選択肢③および選択肢④は誤りと判断でき、選択肢⑤が正しいと判断できます。