公認心理師 2022-25

少年院における処遇に関する問題です。

単に法律を把握しているだけでは解くことができない、やや突っ込んだ内容になっていました。

問25 少年院における処遇について、適切なものを1つ選べ。
① 公共職業安定所と連携し、出院後の就労先の確保のため就労支援を行う。
② 矯正教育課程のうち医療措置課程の実施が指定されているのは、第2種少年院である。
③ 在院中の少年に対して、高等学校卒業程度認定試験を受験する機会を与えることはできない。
④ 仮退院中の少年の相談に応じることはできるが、退院した少年の相談に応じることはできない。
⑤ 障害を有する在院者には、適当な帰省先の有無にかかわらず、出院後速やかに福祉サービスを受けられるよう特別調整を行う。

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解答のポイント

少年院法に定められている処遇について詳しく理解している。

選択肢の解説

① 公共職業安定所と連携し、出院後の就労先の確保のため就労支援を行う。
⑤ 障害を有する在院者には、適当な帰省先の有無にかかわらず、出院後速やかに福祉サービスを受けられるよう特別調整を行う。

こちらについては少年院法の「社会復帰支援」に関する条項を見ていきましょう。


第四十四条 少年院の長は、在院者の円滑な社会復帰を図るため、出院後に自立した生活を営む上での困難を有する在院者に対しては、その意向を尊重しつつ、次に掲げる支援を行うものとする。
一 適切な住居その他の宿泊場所を得ること及び当該宿泊場所に帰住することを助けること。
二 医療及び療養を受けることを助けること。
三 修学又は就業を助けること。
四 前三号に掲げるもののほか、在院者が健全な社会生活を営むために必要な援助を行うこと。
2 前項の支援は、その効果的な実施を図るため必要な限度において、少年院の外の適当な場所で行うことができる。
3 少年院の長は、第一項の支援を行うに当たっては、保護観察所の長と連携を図るように努めなければならない。


このように、出院後には帰住を助けること、就業のための支援を行うことが明記されていますね。

ただ、これだけではここで挙げた選択肢の解説には不十分なので、それぞれの選択肢についてもう少し詳しく見ていきましょう。

まずは選択肢①について詳しく見ていきましょう。

令和2年版 犯罪白書」の「就労支援」の項目には、以下の通り記載があります。


法務省は、受刑者等の出所時の就労の確保に向けて、刑事施設及び少年院に就労支援スタッフを配置するとともに、厚生労働省と連携し、刑務所出所者等総合的就労支援対策を実施している。この施策は、刑事施設、少年院、保護観察所及びハローワークが連携する仕組みを構築した上で、支援対象者の希望や適性等に応じ、計画的に就労支援を行うものであるが、その一環として、刑事施設では、支援対象者に対し、ハローワークの職員による職業相談、職業紹介、職業講話等を実施している

また、刑務所出所者等の採用を希望する事業者が、矯正施設を指定した上でハローワークに求人票を提出することができる「受刑者等専用求人」が運用されており、事業者と就職を希望する受刑者とのマッチングの促進に努めている。

さらに、受刑者等の就労先を在所中に確保し、出所後速やかに就労に結び付けるため、平成28年11月から、東京矯正管区及び大阪矯正管区にそれぞれ設置された矯正就労支援情報センター室(通称「コレワーク」)が、受刑者等の帰住地や取得資格等の情報を一括管理し、出所者等の雇用を希望する企業の相談に対応して、企業のニーズに適合する者を収容する施設の情報を提供する(雇用情報提供サービス)などして、広域的な就労支援等に取り組んできたところ、令和2年7月1日からは、6矯正管区(札幌、仙台、名古屋、広島、高松及び福岡)にもコレワークを新設して、その運用を開始した。また、刑務所出所者等の雇用経験が豊富な事業主等を刑務所出所者等雇用支援アドバイザーとして招へいし、刑務所出所者等の雇用前後における事業主の不安や疑問等の相談に応じられる体制を整備するとともに、同アドバイザーによる事業主への相談会を実施(元年度は43回実施し、延べ155人参加)したほか、事業主等に対する就労支援セミナーを開催(同年度は15回開催し、延べ344人参加)した。

このほか、日本財団及び関西の企業7社が発足させた日本財団職親プロジェクトは、少年院出院者や刑務所出所者に就労先・住まいを提供することで、円滑な社会復帰を支援するとともに、再犯者率の低下の実現を目指しており、令和2年5月末現在で、170社が参加している(日本財団の資料による)。


このように、ハローワークなどの公共職業安定所と連携し、出院後の就労先の確保のため就労支援を行っていることがわかりますね。

続いて、選択肢⑤について詳しく見ていきましょう。

平成30年版 犯罪白書」によると、法務省は、厚生労働省と連携して、高齢又は障害を有し、かつ、適当な帰住先がない受刑者及び少年院在院者について、釈放後速やかに、適切な介護、医療、年金等の福祉サービスを受けることができるようにするための取組として、矯正施設と保護観察所において特別調整を実施しています。

すなわち、特別調整とは「矯正施設及び保護観察所においては、厚生労働省の地域生活定着促進事業により設置された地域生活定着支援センターを始めとする多くの機関と連携し、平成21年4月から、高齢者又は障害を有する者で、かつ、適当な帰住先がない受刑者等について、釈放後速やかに、必要な介護、医療、年金等の福祉サービスを受けることができるようにするための取組」であり、具体的には、福祉サービス等を受ける必要があると認められる、その者が支援を希望しているなどの特別調整の要件を全て満たす矯正施設の被収容者を矯正施設及び保護観察所が選定し、各都道府県が設置する地域生活定着支援センターに依頼して、適当な帰住先の確保を含め、出所後の福祉サービス等について調整を行うものであり、生活環境の調整等について特別の取組を行うことから「特別調整」と呼称されています。

なお、地域生活定着支援センターは、①保護観察所からの依頼に基づき、矯正施設の被収容者を対象として、福祉サービス等に係るニーズの確認等を行い、受入先となる社会福祉施設等のあっせんや福祉サービスの申請支援等を行うコーディネート業務、②そのあっせんにより特別調整対象者を受け入れた社会福祉施設等に対して、福祉サービスの利用等について助言等を行うフォローアップ業務、③刑務所出所者等の福祉サービスの利用等に関して、本人又はその他の関係者からの相談に応じて、助言や必要な支援を行う相談支援業務等を実施しています。

このように、特別調整は「(出院後)障害を有する者で、かつ、適当な帰住先がない受刑者等について、釈放後速やかに、必要な介護、医療、年金等の福祉サービスを受けることができるようにするための取組」ですから、適当な帰住先を確保を含めた取り組みを指しているわけですね。

ですから、選択肢⑤の「適当な帰住先の有無にかかわらず…特別調整を行う」というのは、矛盾のある文章であると言えるでしょう。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢①が適切と判断できます。

② 矯正教育課程のうち医療措置課程の実施が指定されているのは、第2種少年院である。

こちらについては、まず少年院法における少年院の種類について把握しておきましょう。


第四条 少年院の種類は、次の各号に掲げるとおりとし、それぞれ当該各号に定める者を収容するものとする。
一 第一種 保護処分の執行を受ける者(第五号に定める者を除く。次号及び第三号において同じ)であって、心身に著しい障害がないおおむね十二歳以上二十三歳未満のもの(次号に定める者を除く)
二 第二種 保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がない犯罪的傾向が進んだおおむね十六歳以上二十三歳未満のもの
三 第三種 保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害があるおおむね十二歳以上二十六歳未満のもの
四 第四種 少年院において刑の執行を受ける者
五 第五種 少年法第六十四条第一項第二号の保護処分の執行を受け、かつ、同法第六十六条第一項の規定による決定を受けた者
2 法務大臣は、各少年院について、一又は二以上の前項各号に掲げる少年院の種類を指定する。


この中で「医療措置課程の実施が指定されている」少年院の種類に関する理解が問われているのが、本選択肢になります。

そして、少年院法第30条には、矯正教育課程について「法務大臣は、在院者の年齢、心身の障害の状況及び犯罪的傾向の程度、在院者が社会生活に適応するために必要な能力その他の事情に照らして一定の共通する特性を有する在院者の類型ごとに、その類型に該当する在院者に対して行う矯正教育の重点的な内容及び標準的な期間(以下「矯正教育課程」という)を定めるものとする」と定められています。

一般短期処遇及び長期処遇については処遇課程が設けられていて、少年院の在院者には、処遇課程にかかわらず、生活指導、職業補導、教科教育、保健・体育及び特別活動の5つの領域の指導が行われるが、処遇課程は、在院者を、犯罪的傾向、学力の程度、将来の進路希望、心身の状況等に応じて分類し、在院者の特性に応じた最も効果的な処遇を行うために、矯正教育を行う領域に軽重を設定するとともに矯正教育実施上の留意事項を定めたものです。

その中でも「医療措置課程」は医療が優先的に実施されることになっており、少年院であるとともに、身体疾患者・身体障害者・精神病などの心身に欠陥や病気のある少年を治療するための病院でもあるのです。

こちらの資料には「少年院の矯正教育課程区分表」が以下の通り示されております。


【第1種少年院】

  • SE (短期義務教育課程) 原則として14歳以上で義務教育を終了しない者のうち、その者の持つ問題性が単純又は比較的軽く、早期改善の可能性が大きいもの
  • SA (短期社会適応課程) 義務教育を終了した者のうち、その者の持つ問題性が単純又は比較的軽く、早期改善の可能性が大きいもの
  • E1 (義務教育課程Ⅰ) 義務教育を終了しない者のうち、12歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるもの
  • E2 (義務教育課程Ⅱ) 義務教育を終了しない者のうち、12歳に達する日以後の最初の3月31日が終了したもの
  • A1(社会適応課程Ⅰ) 義務教育を終了した者のうち、就労上、修学上、生活環境の調整上等、社会適応上の問題がある者であって、他の課程の類型には該当しないもの
  • A2(社会適応課程Ⅱ) 義務教育を終了した者のうち、反社会的な価値観・行動傾向、自己統制力の低さ、認知の偏り等、資質上特に問題となる事情を改善する必要があるもの
  • A3(社会適応課程Ⅲ) 外国人等で、日本人と異なる処遇上の配慮を要する者
  • N1(支援教育課程Ⅰ) 知的障害又はその疑いのある者及びこれに準じた者で処遇上の配慮を要するもの
  • N2(支援教育課程Ⅱ) 情緒障害若しくは発達障害又はこれらの疑いのある者及びこれに準じた者で処遇上の配慮を要するもの
  • N3(支援教育課程Ⅲ) 義務教育を終了した者のうち、知的能力の制約、対人関係の持ち方の稚拙さ、非社会的行動傾向等に応じた配慮を要するもの

【第2種少年院】

  • A4(社会適応課程Ⅳ) 特に再非行防止に焦点を当てた指導及び心身の訓練を必要とする者
  • A5(社会適応課程Ⅴ) 外国人等で、日本人と異なる処遇上の配慮を要する者
  • N4(支援教育課程Ⅳ) 知的障害又はその疑いのある者及びこれに準じた者で処遇上の配慮を要するもの
  • N5(支援教育課程Ⅴ) 情緒障害若しくは発達障害又はこれらの疑いのある者及びこれに準じた者で処遇上の配慮を要するもの

【第3種少年院】

  • D(医療措置課程) 身体疾患、身体障害、精神疾患又は精神障害を有する者

上記の通り、医療措置課程が設けられているのは第三種少年院であることがわかりますね。

「第三種少年院=保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害があるおおむね十二歳以上二十六歳未満のもの」ですから、医療措置が取られるとすれば第三種になるだろうことが想定しやすかっただろうと思います。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 在院中の少年に対して、高等学校卒業程度認定試験を受験する機会を与えることはできない。

こちらに関する少年院法の条項を見てみましょう。


第二十六条 少年院の長は、学校教育法に定める義務教育を終了しない在院者その他の社会生活の基礎となる学力を欠くことにより改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる在院者に対しては、教科指導を行うものとする。
2 少年院の長は、前項に規定するもののほか、学力の向上を図ることが円滑な社会復帰に特に資すると認められる在院者に対し、その学力の状況に応じた教科指導を行うことができる。


これだけでは高等学校卒業認定試験の機会の有無についてはわからないですから、他の資料等を見ていきましょう。

まず法務省の少年院のページには、以下のように記載があります。

少年院では、少年の必要性や施設の立地条件等に応じた特色のあるさまざまな教育活動が行われています。 矯正教育の内容は、生活指導、職業指導、教科指導、体育指導及び特別活動指導から成り立っています。

  • 生活指導:善良な社会人として自立した生活を営むための知識・生活態度の習得
  • 職業指導:勤労意欲の喚起、職業上有用な知識・技能の習得
  • 教科指導:基礎学力の向上、義務教育、高校卒業程度認定試験受験指導
  • 体育指導:基礎体力の向上
  • 特別活動指導:社会貢献活動、野外活動、音楽の実施

上記の「教科指導」の中に「高校卒業程度認定試験受験指導」があることがわかりますね。

また、教科指導に関しては、文部科学省の「矯正教育の概要」にも詳しく記載されています。

  • 義務教育指導:義務教育未終了者に対する、小学校又は中学校の学習指導要領に準拠した教科に関する指導
  • 補習教育指導:義務教育終了者に対する、社会生活に必要な基礎学力を身に付けさせることを目的とした教科に関する指導
  • 高等学校教育指導:高等学校への編入若しくは復学又は大学等への進学のため、高度な学力を身に付けることが必要な者に対する、高等学校の学習指導要領に準拠した教科に関する指導
    ※高等学校を中退しているなどのために大学や専門学校等の受験資格がない在院者は、高等学校卒業程度認定試験を受験することができます。

このように在院中の少年に対して、高等学校卒業認定試験を受験する機会が与えられることがわかりますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 仮退院中の少年の相談に応じることはできるが、退院した少年の相談に応じることはできない。

こちらは少年院法で定められている「退院者等からの相談」に関する条項ですね(併せて少年院法施行規則の関連がある箇所も抜き出しておきましょう)。


【少年院法】第百四十六条 少年院の長は、退院し、若しくは仮退院した者又はその保護者その他相当と認める者から、退院し、又は仮退院した者の交友関係、進路選択その他健全な社会生活を営む上での各般の問題について相談を求められた場合において、相当と認めるときは、少年院の職員にその相談に応じさせることができる。

【少年院法施行規則】第六条 少年院の長は、毎年度、その年度における最初の委員会の会議において、少年院に関する次に掲げる事項について、少年院の運営の状況を把握するのに必要な情報を記載した書面を提出するものとする。
一 敷地及び建物の概況
二 収容定員及び収容人員の推移
三 職員定員及びその充足の状況
四 参観の許否の状況
五 法第十七条に基づく保護者に対する協力の求め等の状況
六 法第十八条第一項に掲げる者による在院者の処遇に関する協力の状況
七 矯正教育の実施の状況
八 法第四十四条第一項の規定による支援の実施の状況
九 在院者に対して講じた保健衛生上及び医療上の措置の状況
十 法第六十条の規定による物品の貸与及び支給並びに法第六十一条の規定による自弁の物品の使用又は摂取の許否の状況
十一 少年院の書籍等(書籍、雑誌その他の文書図画(信書及び新聞紙を除く。)をいう。以下この号及び第四十五条において同じ。)の整備及び自弁の書籍等の閲覧の許否の状況
十二 宗教家による宗教上の儀式行事及び教誨かいの実施の状況
十三 規律及び秩序を維持するために執った措置の状況
十四 在院者による面会、信書の発受及び法第百六条第一項に規定する通信の許否、禁止、差止め又は制限の状況
十五 賞罰の実施の状況
十六 法第百二十条又は第百二十一条第一項の規定による申出及び苦情の申出の状況並びにそれらの処理の結果
十七 仮退院、退院及び仮釈放を許すべき旨の申出の状況
十八 法第百三十七条第一項ただし書の規定による収容の継続及び法第百三十八条第一項又は第百三十九条第一項の規定による申請の状況
十九 法第百四十六条の規定による相談の実施の状況


上記の通り、少年院を退院した少年の相談に関しても、相当と認められるときには応じることが可能であるとされていますね(そして、長は毎年度、その年度における最初の委員会の会議で書類の提出が義務付けられているわけです)。

また、令和元年度の犯罪白書には以下のように記載があります。


少年院においては、出院者又はその保護者等から、出院者の交友関係、進路選択等について相談を求められた場合において、相当と認めるときは、少年院の職員がその相談に応じているまた、他の機関が対応をすることが適当である場合には、他の適切な機関を紹介するとともに、仮退院した者に係る相談を求められた場合には、保護観察所と連携して対応に当たっている。こうした対応も、再犯・再非行防止に資するという観点から、新たな少年院法により法定化されたものである。平成30年における出院者又はその保護者等からの相談件数は618件であり、そのうち主な相談内容の件数(重複計上)は、進路選択が150件、交友関係が114件、家族関係が111件であった。


このように、退院後の相談は、再犯・再非行防止という観点から少年院法により法定化されたものであることがわかりますね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

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