公認心理師 2021-69

保護観察官の初回面接における対応方針に関する問題です。

いくつかの法律や規則にまたがる問題でしたね。

問69 16歳の男子A、高校1年生。万引きにより逮捕され、少年鑑別所に収容された後、家庭裁判所の審判により保護観察処分となった。Aは、審判終了後すぐに母親Bと共に保護観察所に来た。Aの居住する地域を担当している保護観察官Cが、初回の面接を行うことになった。審判直後であり、家庭裁判所からは、氏名、年齢、非行名、遵守事項に関する意見など、最小限の情報が届いている。
 Cの初回面接における対応方針として、最も適切なものを1つ選べ。
① 特別遵守事項を設定する。
② 担当する保護司が同席できるよう手配する。
③ 保護処分の決定に対する抗告について説明する。
④ 関係構築を優先し、家族関係や成育歴についての質問は控える。
⑤ 家庭裁判所において既に確認されているため、事件内容についての質問は控える。

解答のポイント

更生保護法や少年に規定されている保護観察に係る事項について把握している。

「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」を把握している。

選択肢の解説

① 特別遵守事項を設定する。
④ 関係構築を優先し、家族関係や成育歴についての質問は控える。
⑤ 家庭裁判所において既に確認されているため、事件内容についての質問は控える。

更生保護法第49条には「保護観察は、保護観察対象者の改善更生を図ることを目的として、第五十七条及び第六十五条の三第一項に規定する指導監督並びに第五十八条に規定する補導援護を行うことにより実施するものとする」とあります。

この示されている条項に、保護観察官が行うべきことが挙げられています。


第五十七条(指導監督の方法) 保護観察における指導監督は、次に掲げる方法によって行うものとする。
一 面接その他の適当な方法により保護観察対象者と接触を保ち、その行状を把握すること。
二 保護観察対象者が一般遵守事項及び特別遵守事項(以下「遵守事項」という)を遵守し、並びに生活行動指針に即して生活し、及び行動するよう、必要な指示その他の措置をとること。
三 特定の犯罪的傾向を改善するための専門的処遇を実施すること。

2 保護観察所の長は、前項の指導監督を適切に行うため特に必要があると認めるときは、保護観察対象者に対し、当該指導監督に適した宿泊場所を供与することができる。


ちなみに65条の3は規制薬物への依存がある場合ですから、万引きによって逮捕された本事例は該当しませんから省きますね。

実際上、保護観察官は、保護司との協働体制の下で保護観察処分の実行機関としての役割を果たすことになります。

協働体制の下では保護司が「担当者」と呼ばれるのに対し、保護観察官は「主任官」と呼ばれ、保護観察官が主任官として行わねばならないのが上記になるわけです。

さて、特別遵守事項については、上記の通り、その遵守のための措置を取ることとされています。

本問で重要なのは、その設定のタイミングを理解しているかです。

こちらについては、更生保護法第52条を見てみましょう。



第五十二条(特別遵守事項の設定及び変更) 保護観察所の長は、保護観察処分少年について、法務省令で定めるところにより、少年法第二十四条第一項第一号の保護処分をした家庭裁判所の意見を聴き、これに基づいて、特別遵守事項を定めることができる。これを変更するときも、同様とする。

2 地方委員会は、少年院仮退院者又は仮釈放者について、保護観察所の長の申出により、法務省令で定めるところにより、決定をもって、特別遵守事項を定めることができる。保護観察所の長の申出により、これを変更するときも、同様とする。

3 前項の場合において、少年院からの仮退院又は仮釈放を許す旨の決定による釈放の時までに特別遵守事項を定め、又は変更するときは、保護観察所の長の申出を要しないものとする。

4 地方委員会は、保護観察付一部猶予者について、刑法第二十七条の二の規定による猶予の期間の開始の時までに、法務省令で定めるところにより、決定をもって、特別遵守事項(猶予期間中の保護観察における特別遵守事項に限る。以下この項及び次条第四項において同じ。)を定め、又は変更することができる。この場合において、仮釈放中の保護観察付一部猶予者について、特別遵守事項を定め、又は変更するときは、保護観察所の長の申出によらなければならない。

5 保護観察所の長は、刑法第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付されている保護観察付執行猶予者について、その保護観察の開始に際し、法務省令で定めるところにより、同項の規定により保護観察に付する旨の言渡しをした裁判所の意見を聴き、これに基づいて、特別遵守事項を定めることができる。

6 保護観察所の長は、前項の場合のほか、保護観察付執行猶予者について、法務省令で定めるところにより、当該保護観察所の所在地を管轄する地方裁判所、家庭裁判所又は簡易裁判所に対し、定めようとする又は変更しようとする特別遵守事項の内容を示すとともに、必要な資料を提示して、その意見を聴いた上、特別遵守事項を定め、又は変更することができる。ただし、当該裁判所が不相当とする旨の意見を述べたものについては、この限りでない。


ポイントとなるのは、第5号の「その保護観察の開始に際し」という箇所になります。

本問の状況は「保護観察官Cが、初回の面接を行うことになった」とありますから、上記の「その保護観察の開始に際し」に合致する状況であると言えます。

ですから、このタイミングで特別遵守事項の設定を行うことが定められていると言えますね。

特別遵守事項と一般遵守事項を併せて書面にて渡されることになります。

特別遵守事項は犯罪に応じてオーダーメイドで作成されますが(更生保護法第51条に規定あり)、一般遵守事項は更生保護法第50条に示されていますね。

また、この時に生活行動指針の設定(第56条)も行うことになります。

また、それに先立って行うだろう事柄もあります。

本問では「家庭裁判所からは、氏名、年齢、非行名、遵守事項に関する意見など、最小限の情報が届いている」わけですが、これらの手元にある情報が、実際のそれと合致しているかを確認することが求められます。

選択肢⑤の「家庭裁判所において既に確認されているため、事件内容についての質問は控える」というのはむしろ逆であり、立場が違う者がこれから対応していくわけですから、改めて「事件内容について正しく共通理解をしておくこと」が大切になります。

また、選択肢④についてですが、更生保護法第59条には保護者に対する措置が定められており「保護観察所の長は、必要があると認めるときは、保護観察に付されている少年の保護者に対し、その少年の監護に関する責任を自覚させ、その改善更生に資するため、指導、助言その他の適当な措置をとることができる」とされています。

このような点を踏まえれば、むしろ「家族関係や成育歴について」は正しく理解しておくことが求められ、その上で必要な措置を採ることも考えねばなりません。

これらの内容に関しては「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」に規定されていますから、こちらを見てみましょう。


第四十一条(処遇の方針) 法第五十七条、法第六十五条の三及び法第六十五条の四に規定する指導監督は、保護観察対象者の犯罪又は非行の内容、悔悟の情、改善更生の意欲、性格、年齢、経歴、心身の状況、生活態度、家庭環境、交友関係、住居、就業又は通学に係る生活環境等を考慮し、犯罪又は非行に結び付くおそれのある行動をする可能性及び保護観察対象者の改善更生に係る状態の変化を的確に把握し、これに基づき、改善更生のために必要かつ相当な限度において行うものとする。

2 法第五十八条に規定する補導援護は、保護観察対象者の性格、年齢、経歴、心身の状況、家庭環境、交友関係、住居、就業又は通学に係る生活環境等を考慮し、保護観察対象者が自立した生活を営むことができるようにする上での困難の程度を的確に把握し、これに基づき、その自助の責任を踏まえつつ、法第五十八条各号に掲げる方法のうち適当と認められるものによって、必要かつ相当な限度において行うものとする。

3 保護観察所の長は、指導監督及び補導援護を行うに当たり、これらを一体的かつ有機的に行うことによりその効果が十分に発揮されるよう努めなければならない。

第四十二条(保護観察の実施計画) 保護観察所の長は、保護観察対象者について、その保護観察の開始に際し、犯罪又は非行の要因及び改善更生に資する事項について分析し、指導監督及び補導援護の方法、保護観察を実施する上での留意事項等を定めた保護観察の実施計画を作成しなければならない。ただし、保護観察の期間等により必要がないと認めるときは、その作成を省略することができる。

2 保護観察所の長は、保護観察の実施状況等を考慮し、前項本文の実施計画について必要な見直しを行わなければならない。


このように「その保護観察の開始に際し、犯罪又は非行の要因及び改善更生に資する事項について分析」することや、「保護観察対象者の性格、年齢、経歴、心身の状況、家庭環境、交友関係、住居、就業又は通学に係る生活環境等を考慮し」とありますから、非行の内容や家族状況を聞くことは、その保護観察を開始する際にすべきことであると言えます。

以上のように、特別遵守事項(一般遵守事項も)は保護観察が開始されるタイミングで、書面にて通知されることが求められています。

また、併せて、家庭裁判所からの情報が合致するか確認する、保護者に対する素地も考えるために必要な情報をやり取りしておくことが重要です。

よって、選択肢①が適切と判断でき、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。

② 担当する保護司が同席できるよう手配する。

保護司は更生保護法第32条によると「保護司は、保護観察官で十分でないところを補い、地方委員会又は保護観察所の長の指揮監督を受けて、保護司法の定めるところに従い、それぞれ地方委員会又は保護観察所の所掌事務に従事するものとする」とあります。

保護司は、保護司法第2条第1項において、保護区に置くこととされており、同法第8条において、原則、その置かれた保護区の区域内において職務を行うこととされています。

そして、保護司は、更生保護法第61条第1項、第82条第1項(収容中の者に対する生活環境の調整)、第83条及び第84条(保護観察付執行猶予の裁判確定前の生活環境の調整と準用)において、保護観察(指導監督・補導援護)及び生活環境調整を行うこととされています。

本選択肢で問われている、保護司の指名のタイミングについては「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」に規定があります。


第四十三条(保護観察官及び保護司の指名) 保護観察所の長は、保護観察を実施するときは、当該保護観察を担当する保護観察官を指名し、その者に前条第一項本文及び第二項の規定による分析並びに実施計画の作成及び見直し並びに指導監督及び補導援護を行わせるものとする。

2 保護観察所の長は、前項の場合において、必要があると認めるときは、保護観察官と協働して指導監督及び補導援護を行う保護司を指名するものとする。

3 保護観察所の長は、前二項の場合において、特に必要があると認めるときは、複数の保護観察官又は保護司を指名することができる。

4 保護観察所の長は、前二項の規定により保護司を指名したときは、指導監督及び補導援護を行うことに関し、保護司に過重な負担とならないよう、保護司に対して十分に指導及び助言を行うとともに、第一項の保護観察官をして保護司との緊密な連絡を保たせるものとする。


この内容から明らかなのは、選択肢①、選択肢④および選択肢⑤の解説で示したような初回面接で行うべき内容は「保護観察官」が実施することになっているということです。

ですから、担当する保護司の同席はこの段階において「最も適切」とされるほどのものではないと考えられます。

そもそも「指導監督」や「補導援護」を協働して行うのが保護司の役割とすれば、初回面接での実施内容は保護司の役割から外れていると見なすのが妥当ですね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 保護処分の決定に対する抗告について説明する。

保護処分(保護観察、少年院送致、児童自立支援施設等送致)決定に対して不服がある場合は、少年、その法定代理人(親権者や後見人)又は付添人から高等裁判所に不服の申立てをすることができ、これを「抗告」といいます。

これは少年法第32条に「保護処分の決定に対しては、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とするときに限り、少年、その法定代理人又は付添人から、二週間以内に、抗告をすることができる。ただし、付添人は、選任者である保護者の明示した意思に反して、抗告をすることができない」と規定されています。

抗告をすることができる人間は、少年本人、少年の法定代理人(一般的には少年の両親)、そして付添人(主に弁護士)に限られており、抗告をする際には、抗告理由を記載した高等裁判所宛の抗告理由書を作成し、審判を下した家庭裁判所に提出しなければなりません。

抗告申立てができる期間は、家庭裁判所の保護処分決定が告知された日の翌日から2週間以内と定められていますので(少年法第32条)、抗告をする場合には早急に対応する必要があります。

なお、家庭裁判所の審判から抗告審の裁判が出るまでの流れは以下の通りです。

  1. 保護処分決定:家庭裁判所の審判で保護処分決定が出た場合に、不服があれば抗告をすることになります。
  2. 抗告申立て:保護処分決定告知の日の翌日から2週間以内に行います。抗告理由としては、①決定に影響を及ぼす法令の違反、②重大な事実誤認、③処分の著しい不当があった場合になります。
  3. 抗告審の審理:抗告審の審理は、原則として書面審理になります。新たに事実を取り調べる必要が生じた場合にのみ、書面審査だけでなく事実取調べが行われます。
  4. 抗告審の裁判:抗告の手続が規定に違反した場合、抗告に理由がない場合には、抗告が棄却されます。抗告に理由があると認められた場合には、家庭裁判所の決定が取り消されます。

事例では、「Aは、審判終了後すぐに母親Bと共に保護観察所に来た」とありますね。

抗告をするのであれば、本来は「審判終了後2週間以内」となるわけですから、本来は保護観察所に訪れる前に抗告をすることになるはずです。

ですから、抗告をするのであれば保護観察官の前に訪れる行っているはずですから、当然、保護観察所での初回面接で「保護処分の決定に対する抗告について説明する」ということは方針として設定されるはずがないと考えられます。

もちろん、向こうから説明を求められれば、情報提供という意味で行うことに問題はないでしょうけど、保護観察官側の「初回面接における対応方針」にはならないと言えますね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

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